エレカーはマナを噴射したその反発力で浮いている。ならば空が飛べたとしても可笑しくはない……っ!
バンエルティア号が空を飛ぶんだから、エレカーが飛んでも良いじゃない!
結晶云々は完全なる捏造ですので、ご注意下さい。
さて、次はどうしたものか。
氷の神殿から供をしてくれているワイバーン系ヴィーヴルのガレナの背の上で、彼は考える。
――“向こう”はもう全て終わった。覚醒していなかったモノ達もそろそろ全員動いている頃だろう。“こっち”では土と氷を回り終え、残るは闇と雷。
世界への影響力を考えるならば、優先すべきは決まっている。神殿のある大陸全てを包んでいる闇の方。あれは精霊だけの力でも“あいつ”だけの力でもない。精霊の力が歪んだところに、その歪みを調整すべき存在までもが歪みを生み出した、その相乗効果でああなっているだけだ。
どちらかを収めれば大陸を包むほどの歪みは止まる。勿論、そのあとに細かな調整はする必要があるだろうが。
ただ――――ただ。
「口うるさいからなぁ………」
いなければあの声が懐かしくなることもある。ふとしたときにあの声が誰かの声に重なって聞こえるときがある。他とのやりとりが、物足りなく感じることもある。
ある、が。
誰より忠誠心が高く、誰より頭が回って、誰よりも頼もしいあれは。その一方で誰よりも口喧しく姦しく、ひとをからかったり煙に巻く事にかけて、あれと張り合えるモノを彼は数えるほどしか知らない。
今起こしたりしたら、絶っっっ対面倒なことになる。
昼夜問わず何処からともなく耳元で延々と囁き続けられるのがありありと想像できた。あれがいれば仕事が大変楽にはなるが、代わりにこっちの精神がもたない。
「…………後にしよう」
現実逃避、なんて言葉は頭の中の辞書からはすっぱりと消えている。
視線の先に、雷が轟く塔が見えてきていた。
「エレカー楽しみだな!」
「楽しみだねー」
『ねー!』
先を行くロイドがはしゃぎ、コレットが笑う。その光景を見て、ジーニアスとマルタが声を揃える。
薄暗いグランテセアラブリッジの側で、賑やかな四人を見、リヒターが頭を押さえていた。
「緊張感のない………」
「まあ、いいじゃないリヒター。コレットさんが助かって嬉しいんだよ、きっと」
そも彼等はコレットを助けるためだけに時空まで越えてこのテセアラまでやって来たのだ。故郷シルヴァラントを半ば見捨てて、敵である筈のしいなの言葉をただ信じて。
見ていて本当に仲が良く、聞けばロイドとジーニアス、コレットは同じ村で育った幼馴染みだという。しいなやリフィルもロイド達ほどあからさまではないものの、にこやかに彼等を見守っている。
と、はしゃいで走ったジーニアスがつんのめって転び、あわててリフィルが駆け寄っていった。全く気を付けなさいと言ったでしょう、なんて声も聞こえてくる。
少し位騒がしいのは許容範囲だろう。
「それにさ、」
「?」
きょとんとするしいなとリヒターの前で、アステルはつと指を伸ばし。
「神子様がいる時点で、目立つの確定だと思うよ?」
苦笑しつつアステルが指差した先で、ゼロスが女性に囲まれて困ったような顔で笑っていた。
ゼロスの行く先では――主にメルトキオでは、よく見られる光景である。王家に次ぐ家格を持ち神子と言う立場でありながら、ゼロスは女性と仲が良い。それは貴族のみならず、平民や研究者果ては貧民街ですらも女性と見れば声をかけまくる。そうでなくとも、ゼロスの回りには人が集まる。ただでさえゼロスは有名だし広く顔を知られているのだ。
集まった女性達をフェミニストであるゼロスが無下に扱う訳もなく、ああなったゼロスはしばらく動けないだろう。無理矢理連れ出さない限り。
「………ったくあのアホ神子は………っ!」
それができる数少ない一人であるしいなが、肩を怒らせゼロスの所に行ってしまった。
近くに誰もいなくなって、リヒターは声を低めアステルに耳打ちした。
「で、本当のところどうなんだ?」
リヒターが気にしているのは、未だ彼等は教会に、ひいては国に追われる立場であり、ここが封鎖されたグランテセアラブリッジだからだ。
封鎖しているからには監視する兵が居て、追われているからには見つかれば捕まってしまう。捕まれば、ハーフエルフであるリフィルとジーニアスは死罪である。
「大丈夫。エミルが力を使ってくれてるから……その証拠に、兵も飛んでこないでしょ?」
エミルはいつもの笑顔。よくよく見れば、さりげなく全員の中央辺りに立ち、全員に気を配っているらしいのが伺えた。
それに。
(―――コレットさんは、多分)
時は昨日まで遡る。
マンホールを通じてメルトキオに侵入したロイド達一行が、アステルを探してメルトキオ精霊研究所に向かう頃。
アステルはその精霊研究所の自分の机で、大量の書類と格闘していた。
「終わらないよリヒターっ!」
「黙って手を動かせ。そこにあるのはお前の署名が必要な書類なんだからな」
「うぅー、うー、ゲシュタルト崩壊してきた……」
「だからいつも書類を溜めるなと言っているんだ」
「今回は終わらせて行ったよ。帰ってきたら増えてたんだ!」
「半分はな。もう半分は締め切り寸前まで放置していたのが溜まっているだけだろう」
自業自得だ。リヒターは冷ややかに切り捨てた。
「うわーんエミルー! リヒターが冷たい!」
「えーと………頑張って下さい」
エミルは軽く会釈し、アステルが署名した書類を抱えて何処かに走っていった。リヒターにお前も手伝えと書類運びに駆り出されたのだ。因みにリヒターは署名前の書類を整理分類し、アステルの署名が要らないものはリヒターが片付けている。それなのにアステルの書類が一向に終わらないのは、アステルが作り出した技術に関する書類と、共同研究を持ち掛けられた案件に関する書類が多いからだ。それだけアステルが優秀だという証である。
(若干七歳にして王立研究所からスカウトされた天才少年。ハーフエルフを側におく変わり者………)
リヒターはアステルの噂を思い出す。
古代大戦の時代に失われた“精石”の加工方法を復活させるなど多くの功績を残しており、アステルの研究で、テセアラの精霊とマナの研究は少なくとも十年分は前進したといわれている。
更にはかつてテセアラ王女ヒルダ姫をその類稀なる頭脳で救ったこともあり、最近では国王直々にアステルを指名しての依頼もあるほどだ。
噂を聞くばかりだった頃は一体どんな奴かと思っていたが。
出会ってみれば初対面で馴れ馴れしくこっちの名を呼ぶわ、リヒターが書いたレポートに対して数十分も話し込むわ、ハーフエルフ風情と話してなんの価値があると言い放った監視に猛然と反発して論破するわ―――全くもって想像の斜め上を行く奴だった。
それだけでも十分に変わり者なのに、功績を認められて何でも好きなものを望めば与えられた状況で、一切の迷いもなくリヒターが欲しいと言ったらしい。それ以来リヒターはアステルのモノで、アステルの助手として研究を続けている。リヒターがハーフエルフの身でサイバックを自由に出歩けるのも、サイバックから出られたのも、全てアステルのお陰である。
あるが。
「……俺を連れていく書類をやるくらいなら他の書類を片付けろ。どこかの教授に頼まれてた書類、そろそろ期限じゃなかったか」
「あー、うん、あれね。良いの良いの。ちょっと図書室からデータを引っ張ってくれば終わるから―――よし! 終わった!」
よっしゃーと両手を掲げて意気揚々と出発準備を始めるアステル。と、エミルが部屋を振り向き、こてん、と首をかしげた。
「………書類、まだ残ってますけど……?」
「ア・ス・テ・ル?」
リヒターはアステルに詰め寄る。なにもリヒターは鬼ではない。アステルが書類仕事が嫌いでフィールドワークの方を余程楽しみにしていることも分かっている。しかし仕事を溜めるとなると、それは別問題である。
何とかしてアステルに仕事をさせなければと使命感に燃えるリヒターの前で、アステルは何時ものように―――何時ものように、微笑んだ。
優しく、柔らかに、どこまでも無邪気に、そして、どこか儚げに。
「良いんだ。これでおしまい。あんなのやるだけ無駄だから。それに」
「? アステル、どうした?」
「そろそろ皆さんが来るんじゃないかなーと思って」
だからもう切り上げるんだ、と言われて、リヒターは腕を組んだ。
「確かに、フウジ山岳ならそろそろ来ても良い頃だな」
アステルは一枚の紙をひらひらさせながら笑った。
「でしょ? あとこれだけ終わらせてから行くから、リヒターは先に入り口に行っててね。あ、エミルはちょっと残って手伝ってくれる? なるべく早く行くから」
「はい」
「……分かった」
アステルと別れてフロントに向かうと、話し声が聞こえてきた。
「なあしいな、さっきコリンがここで産まれたとかなんとか言ってたけど、それってどういうことだ? コリンは精霊なんだろ?」
「あ、ああ、あんたは知らないんだったね。コリンは人工精霊なのサ。ここの連中が精霊を研究して、人工的に作り出したのがコリンなんだ」
「テセアラでは精霊も研究対象なのね」
リフィルが軽く驚いたような声を出した。シルヴァラントでは精霊は自然の一部や信仰の対象と考えられているらしい。精霊を奉った遺跡を研究する者はいても、精霊そのものを研究しようなどという者はいなかったのだろう。
「ああ。マナをエネルギーとして利用するには精霊そのものを研究したほうがいいのさ」
「興味深いわ。精霊という存在は、どう誕生して、どう世界に影響を与えているのか」
と、しいなの肩口でぼわん、と煙が上がった。
「コリンは精霊の研究には反対! 反対の反対!」
「どうして?」
「どうしてもっ!」
コリンはぷいと顔を背けると、出てきた時と同じように唐突に姿を消した。しいなは肩の辺りを見ながら苦笑した。
「コリンは、実験の段階で色々と、辛い思いもしてるからさ。―――リフィル、詳しく知りたきゃアステルに聞きな。アステルは精霊の専門家だから。あんたと話が合うと思うよ? あんたと同じことを言ってたからね」
「同じ?」
「精霊はどのように生まれたのか。精霊は世界にどんな影響を与えているのか。………アステルはそれを調べているのサ」
コレットがジーニアスの袖を引き、問いかける。
「アステルさんって、エミルに似た人だよね?」
「うん、そうだよ。にしてもボクびっくりしたよ。あんなにそっくりな人がいるんだね」
「しいなが初めてあったときに見間違えたのも分かるよ」
「だろう?」
そこは胸を張って言うな。リヒターは呆れた。仮にも王室直下の隠密だろう。
はぁ、と思わず溜め息が漏れて、それで彼等はリヒターに気がついた。
「あ、リヒター! アステルさんは?」
「書類と格闘中だ」
端的に告げればアステルをよく知る二人が遠い目をした。
「またか……」
「おいおい、大丈夫か? ぐずぐずしてたら流石に見つかっちまうぞ」
「大丈夫、だと思うが。あと一枚仕上げたら来ると―――」
言いかけたその時、奥からアステルが姿を見せた。隣にはフードを目深に被り、目元どころか顔の半分を隠した青年――エミルがいる。
「お、アステル。仕事はもういいのか?」
「はい神子様。ここでやれる事はもう済ませましたから――」
「だ、誰?」
コレットの言葉に、一瞬空気が止まる。
直後ああそう言えば、アステルにコレットが会ったのは“人形”状態だった時だったと思い出し、ジーニアスはアステルをコレットに紹介した。
「コレット、この人がアステルさん」
「えと、……そうじゃなくて」
何と言って良いものかと言い淀むコレットを見て、アステルが苦笑した。
「始めましてですね、コレットさん。僕はアステル・レイカー。こっちはリヒター・アーベント」
「隣のフードを被ってる人がエミルだよ!」
マルタの言葉に合わせ、エミルがフードを被ったままに会釈する。
コレットは何度も瞬きし、エミルとアステルとを見比べてから、ふっと微笑みこう返した。
「始めまして。コレット・ブルーネルです。よろしくね」
「本当、天使って凄いなぁ………」
先でコレットが向こう岸に雷が落ちてる、と言ったことにロイド、ジーニアス、マルタの三人がはしゃぐのを見つつ、アステルはしみじみとそう呟く。
向こう岸―――つまりはアルタミラ大陸まで見えるとは、現代テセアラの科学力を遥かに超えている。それを生身でこなしてしまうのだから、アステルは心の底から思っている。その仕組みが分かれば良いのに、と。
「そうすれば、こんなに……」
「? 何か言ったかアステル」
「ううん、何でもない。リヒター、ロイドさんたちを呼んできてくれる?」
昨日はエレカーの準備が出来ていなかった為、一日貴族街のゼロスの屋敷に泊まったのだ。そして今朝改めて研究所に寄り、エレカーの入ったウィングバックを持って橋までやって来た、という訳である。
リヒターが離れていくのと入れ違いに、ゼロスとしいな、リフィルと、一足先にジーニアスが戻ってくる。
「もう姉さん! 仕方ないでしょ? タライよりはマシだと思えば」
「おいおい、シルヴァラントじゃタライで海を渡るのか?」
「ああ……タライのことを思い出したら気分が悪くなってきたわ……」
何故かぐったりしたリフィルをジーニアスが宥めている。――後で聞いたところによると、リフィルは水が苦手らしい。お風呂も怖いのかなぁなんて言ったらリヒターに叩かれた。ちょっと痛かった。
「エレカーかぁ、早く乗りてー!」
「呑気だねぇ、ロイドくんは」
楽しそうなロイド、コレット、マルタ(とジーニアス)。
大なり小なり不安そうなリフィル、ゼロス、しいな。
プレセアとリヒターだけが相変わらずの無表情で、アステルとエミルはにこにこ笑っていた。
橋の横の細道に入り、突き当たりのフェンスをアステルの持つカギで開けて進んだその先に、人工の波止場があった。しかし船は一隻もなく人もいない。橋の上からも見えにくい場所だ。
そこまできて漸く、アステルはエミルにもういいよ、と声をかけた。エミルが大人しくフードを取る。
「えー、ここが待ち合わせ場所です。もう少ししたら―――」
「すまない、待たせた」
何処からともなくしいなに似た赤い服をまとった青年が現れる。昨日メルトキオ精霊研究所で会った、くちなわというしいなと同郷の忍だった。くちなわは両わきに抱えていた箱を、アステルの前で下ろした。すぐにアステルが中身を確認する。
「これで良いだろうか」
「……はい。ありがとうございました。――リヒター、エレカー出して!」
言われリヒターが使ったウィングバックに、ロイド達から歓声があがる。
「な、早く乗ってみようぜ!」
「あもうロイドってば!」
「楽しみですね、先生」
「え、ええ……」
箱を持ち、真っ先に乗り込んだリヒターに続き、次々と乗り込んでいく一行を見て、アステルは知らず口元がゆるむ。
昔は自分もこうだったなぁ。新しいことを知るのが楽しくて、もっと色んなことを知りたくて、研究を続けていた。一つ物事を明らかにすれば十の疑問が生まれる。それがたまらなく嬉しくて、どこまでも研究にのめり込んでいたのだ。昔は。それこそ、向けられる妬みやっかみに気が付かない程に………
「おーいアステルさーん! コレどうやって動かすのー?」
中から自分を呼ぶ声に、アステルは頭を切り替える。何はともあれ今はコレを動かすこと。それも一種の実験だ。
アステルもまたエレカーに乗り込もうとして、しいながくちなわと何か話したまま動いていないことに気付く。
「おーいしいなー? 早くー」
「あ、ああ、今行くよ!」
何かを受け取り此方に走ってくるしいなを確かめて、アステルはエレカーの中へと身を滑り込ませた。
エレカー、もといエレメンタルカーゴは、見た目に反して中は広い。蒸気機関と違い、エンジンが然程大きくないからだ。アステル含め十一人乗ってもまだ余裕がある。
エレカーが進む仕組みは単純だ。大気中のマナから取り込んだ地のマナを吹き出して反発力を産み、その推進力で進む。マナの制御にエクスフィアが使われた、テセアラでは一般的な陸上移動手段である。
「――ここで重要なのは吹き出した力で推進力を産んでるってこと。つまり、それが必ずしも地のマナである必要はない」
「だから動力に水のマナを使えば、波乗りカーゴの完成~ってか。よく思い付いたな」
エレカーを運転するアステルに、ゼロスが備え付けのソファで寛ぎながら笑う。
フウジ大陸グランテセアラブリッジ横を出発し、アルタミラ大陸を目指す航海の途中である。
「考えそのものはずっと前からあったんですよ。理論上は空だって飛べる筈なんです。ただ、テセアラでは水や風のマナの研究があまり進んでいなくて……」
テセアラにおけるマナの研究は、精霊を研究する所から始まる。正確には精霊の神殿周辺のマナを研究することから。神殿は特定のマナが強く集まる世界でも珍しい場所の一つ。しかしそれは裏を返せば神殿のない―――テセアラにいない精霊の属性のマナに関しては、他に比べて研究が遅れるということでもある。
………ちなみにこのことから伝説でしかないシルヴァラントの存在が現実のものとなったのだが、それは割愛するとして。
「エレカーを動かすなら出来るだけ純粋なマナ。だから不純物が含まれる海のマナを、そのままエレカーの動力として転用することは出来ません。マナから不純物を取り除く技術もありませんしね」
「なるほど、だからウンディーネというわけね。確かに精霊のマナなら純粋な水のマナに違いないもの」
同じくソファに腰かけて、リフィルがコーヒーに口を付ける。
「ええ。ただ精霊の召喚は術士に負担がかかる。一時的なら兎も角、エレカーに乗ってる間、ずっとウンディーネを喚び続けてもらう訳にもいかないでしょう?」
成る程、とシルヴァラントから来たエミルを除く五人は納得した。しいながあまりウンディーネを喚ばなかった理由はそれか。戦いの途中ではしいながウンディーネを喚んだことは一度もない。ちょっと疲れるからね、と笑っていたが、実はそんな苦労があったとは。
と、そこまで考えて、ジーニアスは首を捻った。
「じゃあこのエレカーは今、何で動いてるの? ウンディーネを喚んだのって、最初の一回だけだったよね?」
エレカーを動かす最初に動力部に向かってウンディーネを喚びよせ力を使っただけで、その後はなにもしていない。海のマナを動力として使えないのなら、いったい何のマナで動いていると言うのか。
アステルはあっけらかんとこう言った。
「それはほら、動力部に入れたあの結晶ですよ。あれば僕とリヒターが作った疑似結晶で、前にリヒターに水のマナを込めてもらったんです」
「何だとっ?!」
ソファから立ち上がったリフィルが、アステルに詰め寄った。がしっと肩を掴み激しく揺する。
「うわ遺跡モード」
「妙な名を付けるなロイド。……それよりアステル、あれにマナを込めたと言ったか!?」
「は、はい、そうです、けど」
リフィルはもうアステルの首を締め上げんばかりの勢いだ。ロイドとリヒターが然り気無く二人の距離を離した。
「どんな方法を使った? マナを物質に込める技術は、古代大戦の折りに失われたはずだ」
「ええとですね、ナビメタルと精石を使ったんです。ナビメタルにはマナを吸収して成長する性質がありますから―――」
ナビメタルと精石の何とかの差を利用してどうたらこうたら、なんたかの原理を元にしてうんたらかんたら。
「えーと、つまりどういうこと?」
すっかり学者としての話し合いになり専門用語が飛び交う議論についていけるのは、一緒に研究をしていたリヒターくらいのもの。すっかり置いてけぼりになっているロイド達はぽけーっとしている。
「簡単に説明するとだな」
なぜ俺がこんなことをという顔をしながらも説明してくれるあたり、リヒターも結構なお人好しだと、一行は思った。
「特定のマナを吸収するよう仕掛けをした疑似結晶に向けて魔術を使う。結晶は術を構成するマナを吸収、成長しようとするが、それを精石で防止している。よってナビメタルにマナが保管される仕組みだ」
「そっか! ナビメタルは他の物質よりもマナの浸透率がたかいから、他の物質よりも長期間マナを貯めておけるんだ」
理解が早いのはジーニアスとゼロスくらいのものだった。他はやはり、首をかしげている。
「えーとね、あの結晶にむけて術をつかうと、その分のマナがあれに貯まってくれる、てこと」
「貯まったマナは後で他の色々なことに使えるって訳だ」
「それってすごいのか?」
「すごいのか、だと? ああロイド! いいか、そもそも自然界にマナを内包した物質というのは数えるほどで、それを人工的に再現するというのはだな! 古代カーラーン大戦の頃の技術をもってしても特殊な加工が―――」
遺跡モードのリフィルは、喋りだすと長い。そしてその察知が一番早いのは、弟たるジーニアスではなく勉強の苦手なロイドだった。
「あ、あー、向こう岸はまだかなー?!」
「こら逃げるな!」
こういうときのロイドはほぼ確実に逃げ出す。今度もまたリフィルの手をすり抜けて、甲板へと走っていった。追いかけようとするリフィルは、エミルのあまり走ると揺れますよ、という言葉で肩を震わせ大人しくソファに座り直した。水の怖さが勝ったらしい。
「おーい陸地が見えたよー!」
甲板で見張りをしていたしいなの声が響き、アステルはエレカーを陸につける準備をした。
※タイトル修正