精霊の世界再生   作:柚奈

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 いつものように、分割。ということで投稿二話目です


12-2

「………つまり、プレセアが起きていきなりあんたを襲ったって言うんだな?」

「ああ。誓って私は彼女になにもしていない」

 ミズホで一行に与えられた部屋に戻り、そこで聞いたリーガルの話を総合すると、次のような話だった。

 リーガルとプレセアは気絶して目覚めなかったので部屋で寝かせていた。因みに二人きりにするわけにもいかないから同じ部屋でロイドも寝ていたのだが、早朝の鍛錬に出掛けてしまったのでリーガルが目覚めたときには二人きりだったのだ。ロイドはジーニアスに脛を蹴られた。

 起きたのはリーガルの方が先で、見知らぬ場所に混乱しているとプレセアが目覚めたらしい。森で庇った記憶が最後だったリーガルは大丈夫なのか、と声をかけたが無反応で、淡々と起き上がり、枕元に置いてあった斧を掴むと―――そのまま襲ってきたと言うのだ。

「見知らぬ場所とはいえ、無闇に物を壊すのは私の望むところではない。だからなるべく周囲に物や人のいない場所に向かったのだが………あとは、お前たちの見た通りだ。教えてほしい。彼女に一体何があったのだ?」

 リーガルの質問には誰も答えなかった。ロイドも答えられなかった。その代わりにエミルを見た。そのエミルも、目を閉じて腕を組んだまま扉近くに立ったまま動かない。

 代わりに声をあげたのはアステルだった。

「彼女のエクスフィアのせいじゃないでしょうか」

 プレセアの要の紋は普通の要の紋ではない。そうして制御されているエクスフィアも、普通のエクスフィアではないらしい。

 ケイトもプレセアを助けたいならアルテスタに会えと言っていた。だからロイド達はここにいる。

「ただでさえエクスフィアが人間に寄生したときの反応は解明されていません。それが特殊なエクスフィアなら、もう専門家に頼る他ないでしょう」

「………そなたでも分からぬのか。テセアラ王立研究院が誇る天才でも」

「僕は天才じゃありませんよ。知らないこと分からないことばかりです。さっきだってエミルが先に気付いたんです」

 アステルの視線につられるように、リーガルやロイド達の視線もエミルに向く。全員に見つめられて、エミルは肩を竦めた。

「エクスフィアが原因だって分かっていた訳じゃないよ。ロイドに斧を狙えって言ったのは武器がなければ大人しくさせるのも楽になると思っただけ。プレセアを倒すつもりなんて、皆には無かったでしょう?」

 まさか斧を弾き飛ばした途端に気絶するなんて思わなかった、と。

 プレセアはまだ目覚めない。隣の部屋で寝かせている。隣と言ってもしいなの助言で壁になっている扉―――フスマを取り払ったから、少し離れたところでマルタとリフィルがプレセアの側についているのが見える。

「斧はジーニアスやリヒターさんが“視た”けど何ともなかったんでしょ?」

「特に変わったところはなかった………筈だ」

「筈、ねぇ。まあ仕方ねぇか。肝心の斧がコレじゃぁな」

 ゼロスが顎で示したのは、布袋。

 ロイドが弾き飛ばした斧はエミルが持ち帰ってきた。………正確には“斧だった欠片”だが。

 エミルが言うには、見つけたときに斧はヒビが入っていて、拾おうと触った途端に粉々になってしまったらしい。

 原型も留めていないものから正確な情報を読み取るのは至難の技だ。本当のことは分からない。

「―――とにかく! プレセアの事はアルテスタさんに会ってみてからにしませんか? エクスフィアの影響なら要の紋を直せば解決するし、現状ではどれだけ議論を重ねても前には進まないと思います」

 テセアラの天才と名高く、マナや精霊に関する専門家であるアステル。その助手を勤め、エルフの血でマナを感じとるリヒター。同じくエルフの血族であり、間違いなくシルヴァラント最高峰の知識を誇るリフィルと、マナを操る事にかけては桁違いの才能を持つジーニアス。

 彼らの知識をもってして、事実が分からないのだ。これ以上となるとロイドは二人しか思い付かない。一人はクラトス。もう一人はエミル。だがここにクラトスは居ないし、エミルも分かっていたわけではないと言っている。

 つまり、手詰まりだった。

「アステルの言う通りかもしれんな。………ロイド、と言ったか。私も同行させてくれないか。何度も言っているように、私はプレセアと話がしたいだけだ。お前達に危害を加えるつもりはない」

 リーガルが静かに姿勢を正し、ロイドをまっすぐ見詰めてそう言った。

 ロイドは一秒の半分考えて、答えた。

「………分かった」

「ロイド、本気?! こいつは教皇の命令でコレットを狙ってたんだよ!」

「でも襲ってこなかっただろ。プレセアも守ろうとしてたし」

「そうだけど、そうなんだけど!」

「それにな、ジーニアス」

 下を向いてしまった親友の前に膝を付き、顔を覗き込む。

「あいつの目は嘘つきじゃなかった。―――言ってるだろ、なんか考えてるヤツは目を見りゃ分かるって」

 悩んでいるなら悩んでいるように。辛そうなら辛そうに。完全とは言わないまでも、ある程度は分かる。少なくともロイドはそう信じている。そしてほぼ勘でありながら、それは何度も当たったことがある。

「けどロイド、コレットの隠し事には気づかなかったじゃん」

「う………そりゃそうだけどな、ドワーフの誓い第18番『騙すより騙されろ』だ。俺はプレセアを助けたリーガルを信じる」

 誰より真っ直ぐで、誰より誠実な目。

 ロイドは嘘をつかない。と言うより、人を騙す嘘は壊滅的に下手だからすぐバレる、という方が正しいか。ともかくロイドは………何というか、純粋なのだ。

「はぁ、仕方ない」

「お? ガキんちょ、良いのかよ。あれだけ反対してたくせに」

「しょうがないでしょ。こうなったらロイドは聞かないんだから。ボクはロイドを信じてる。ロイドが信じてるものを嘘だとは、あんまり言いたくない。だから言っておくけど―――妙な真似をしたら黒こげにするからな」

「よかろう。我が名とこの手の戒めにかけて、決して裏切らぬと誓う」

「よしっ、じゃあアルテスタさんの家に行こう」

「ねぇ、その前にプレセアを家に送ってあげたら? プレセアの家族も心配してるだろうし」

「あ、そっか。じゃあ先にオゼットによろう。プレセアの斧も壊れちまったし」

 よーし! と方針を決めたロイド、ジーニアスの二人は、準備のために家を飛び出していった。その後をリヒターとしいなが慌てて追いかけ、微笑ましげなアステルとエミル、コレットがそれに続く。

 

 ………後に残ったゼロスは頭を掻き小声で呟く。

「単純すぎるんじゃねーの? 大丈夫かねロイドくんは。仲間と思ってたやつが実は裏切り者でしたーとか、考えねぇんだろうなぁ………」

 なのにきっと最期の顔は恨みではないのだ。恐らくは驚きや泣きそうなそれ。怒りでもないだろう。絶望もしない。きっと最期の最期のその瞬間まで、ロイドは仲間と受け入れた相手を疑うことを知らないのだろう。

「でもあれがロイドですもの。皆お人好しなんだから」

「確かに、ロイドはすぐに人を信用するよね」

 聞かれていないと思っていた独り言に返事が返って、ゼロスは一瞬ピクッとした。が、すぐ笑顔で振り向き手を広げる。

「リフィルせんせー、マルタちゃん! お疲れ様」

 ささどーぞ、なんて大仰に振る舞ってミズホのクッション―――ザブトンを勧めた。

「プレセアちゃんは?」

「プレセアなら大丈夫よ。きっともうすぐ目を覚ますでしょう。―――所でゼロス」

「はい?」

 普段から理知的なアイスブルーの瞳が、すうっと透明度を増して。リフィルの笑顔に、背筋を氷が滑り落ちる。

 

「ロイドを裏切ったら………命は無いわよ」

 

「い、いえっさー………」

 いっそ清々しいほどに綺麗な笑顔だった。なのに目だけが笑っていない。………本気だ、これは。

 雰囲気にのまれて咄嗟に棒読み気味に返事を返せば、リフィルはよろしい、と言って、マルタと一緒にロイド達を追いかけて外に出ていった。

 ゼロスは数秒固まって。やがて張り詰めていた息を全部吐き出してから、何時ものふざけたような雰囲気を纏って、外でリフィルに叱られているロイドの所へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 ミズホから西へ、森の中を進んだ先に、オゼットはある。

 そこに着いたとき、ロイドはただただ圧倒された。

「うわぁ………! 森と村が一つになってる!」

 マルタがはしゃぐのも無理はない。

 シルヴァラントはマナを失いつつある世界だ。マナは命の源で、作物もマナが少なければ育たないから食糧難になりかけている世界だ。皮肉にもディザイアンが人々を牧場に連れていくことが口減らしになり、なんとかやっていける所もあるほどに。

 そんな世界で、これほど大きく育った植物を見られる筈がないのだから、マルタもジーニアスも、あとは好奇心を唆られると言う意味でリフィルも目を輝かせるのは、仕方がないことだった。

「テセアラでもここまで大きな植物は珍しいんだよ。オゼットは昔から自然豊かで独自の生態系があって、ここにしかない希少種も多いんだ。………ね、リヒター?」

「…………ああ、そうだな」

 様子がおかしいリヒターに対して、アステルはいつも通り………否、いつも以上にはしゃいで話し続けた。

「神木もその一つでね、オゼット周辺にしか無いんだって。神の創り給うた神秘の木とか言って教会が神事に使ってるけど、少しでいいからサイバックにも分けて欲しいなぁ。通常の数十倍の火力で燃える神木なら、上手いこと使えば普通じゃ溶かせないような物も溶かせるってことなんだから、研究が進みそうなものなのに。数が限られているとか何とか言ってるけど、教会の神事でそこまで大量に使う訳じゃないのに。どうせただの権威付け………むぐ」

「はいはい、そこまでアステルくん。お前さんが教会嫌いなのは知ってるが、『ここ』ではちょっと気を付けようか?」

 ゼロスに口を抑えられて暫くむごむご何かを訴えていたアステルだが、やがて息が苦しくなったのかぶんぶん首を振りゼロスの腕をバシバシ叩き始めた。ようやくゼロスに解放されて、アステルは大きく深呼吸する。

「あのですね、普通は口と鼻を塞がれると死ぬんですよ。止めてくれたのはお礼を言いますけど、次からはご自分の手の大きさと力加減をよくよく考えてからにしてください!」

 ………次からって、次があるのか。あっちゃ不味いだろう、普通は。

 軽く応じるゼロスは何時ものこと、のような顔をしているけれど。しいなはアステルを殺す気か! とゼロスに掴みかかり、ロイドとマルタは慌てて逆にゼロスを殺しそうな勢いのしいなを宥めた。

「………ったく、ほんとにあんたって奴は! 言っとくけど、次アステルに手を出したら殴るからね!」

「だからもう殴ってるだろ! ………って、あのおチビちゃんは何処行った?」

「本当だ、プレセアがいない?!」

「彼女なら、神子達が騒いでいる間に奥に行ったが」

「えっ」

 リーガルに言われるまで気がつかなかった。一応気を配っていたつもりだったのに。

「こうしちゃいられないよ。ロイド、急いで追いかけよう!」

「そうだね、ジーニアス。ロイド、早く早く!」

「え? あ、ああ………」

 マルタとジーニアスに引っ張られ、アステル達も早く、と声をかけようとしたその時だった。

「俺は行かないぞ」

「リヒターさん?!」

「オゼットに入るつもりはない。行くならお前たちだけで行け」

 そう言って動かないばかりかそのままくるりと向きを変えてオゼットから離れようとするリヒター。アステルが呼び止めたがその足は止まらない。慌ててエミルがその後を追い、腕を捕まえて止めさせる。

 それを見ていたアステルが、申し訳なさそうに微笑した。

「すみません、先に行ってください。プレセアの家は多分一番奥の、森に近い小屋です。そこに神木の樵が住んでいると聞いたことがあります」

「詳しいのね」

「ええまぁ、何度かオゼットには来たことがあるので………後から別の道で追いかけますから」

 戸惑って迷って答えが出ない。良いのかそれで。ああでも、無理に連れていくのも違う気が。というか別の道なんかあるのか。けどプレセアを放っておく訳にも―――。

 混乱して良くない頭で必死に考えていれば、見かねたようにゼロスがいいんじゃねーの? と声を出した。

「アステルなら迷ってはぐれることもないだろうし、アステルのそっくりくんがいれば万が一魔物が出ても大丈夫だろ」

「それはそうかもしれないけど………」

「んじゃプレセアちゃんの家の前で集合ってことで。行くぞロイドくん」

「あ、こらゼロス! 勝手に行くなよ!」

 じゃあね、とアステルとエミルに見送られ、ゼロスを追いかけマルタとジーニアスに引っ張られ、ロイドはオゼットの村を歩きだす。

 

 そうして、ふと気がついた。

 ゼロスがアステルの口を抑えた時、何時もならアステルに何かあれば真っ先に怒りだすリヒターが、どうしてか黙りこくっていたことに。

 

 

 

 エミルに腕を捕まれ止められて、不機嫌丸出しのリヒター。ロイド達が完全に行ってしまって声が聞こえなくなると、アステルが顔をしかめた。

「………リヒター」

 アステルはいつも言っている。もう少し人間とも仲良くしよう、と。ハーフエルフだろうが人間だろうが、態度が柔らかくなれば自ずと相手の対応も柔らかくなるものだ。一部例外はいたとしても、剣呑な態度を隠しもしなければ、相手の態度は少なくとも良くはならない。

 せっかくロイド達と良い雰囲気を創り始められていたのに。それをいきなりあの態度はないだろう、とアステルは言いたいのだ。

「お前の言いたいことは分かっている。だが、事実だ。俺とお前はオゼットには入れない」

 入らない、ではなく入れない。

 その言い回しに、エミルは出会ったばかりのジーニアスとロイドを思い出した。

「どういうことですか」

「それは………」

 

「オゼットはハーフエルフを受け入れない」

 

 アステルが言い淀んでいると、リヒターが吐き捨てるように言った。

「そういう村だ。テセアラ全土でハーフエルフは差別されるが、オゼットはそれが特に酷い。ハーフエルフであるというだけで、何をされても文句は言えない」

 頭に血が昇ったのが、自分でもはっきり分かった。

 必死にそれを抑え込む。ここで感情を爆発させてはならない。己の役目を思い出して、周囲のマナに影響を与えかねないほどの怒りをなんとか落ち着かせる。

 ようやく出た声は、随分掠れていた。

「だから、リヒターさんとアステルさんは………?」

「僕もリヒターも顔を知られてるから」

 リヒターがハーフエルフで、そのハーフエルフと一緒にいるアステルがハーフエルフを差別しないことは知られてしまっているのだと。人間であり王家とも関わりがあると知られているアステルを表だって非難することはなくても、良い顔はされない。

「僕たちといれば、聞ける話も聞けないでしょう。リフィルさんとジーニアスはまだハーフエルフだって知られてない」

 アステルが曖昧に笑う。それはジーニアスがディザイアン達を見て、ロイドにどうかしたのかと聞かれて何でもないと答えるときの顔だった。諦めて、誤魔化して笑う顔。

 かつて何度も見たことのある顔。

「………これだから、ヒトは」

 再び怒りがこみ上げてきて―――いきなり乱暴に着ていたマントのフードを被らされた。リヒターに。エミルの頭を上から押し付けるような事が出来るのはリヒターしかいない。

 これまで一度もエミルに触れようとしなかったのに。何事だろうと見上げれば、リヒターはふんと顔を反らした。

「俺もアステルも、ロイドや神子もヒトだ。―――そしてお前も、今は、ヒトだ」

「分かってます。………大丈夫ですから」

 ならいい、とリヒターは取り出したマントを被り、アステルにもそれを被せた。

「お前も一応ここでは顔を隠せ。アステルと間違われたらまた面倒事に巻き込まれるぞ」

「ああ………そうだね。ここ、教皇の………」

 アステルがマーテル教会、特に教皇と仲が悪いのはそこそこ有名な話らしい。理由までは知られていないが。しかしそのせいで、アステルは熱心な教会の信者にはあまりよく思われない。

 オゼットは教皇と関わりの深い、マーテル教信者が多い村なのである。

「リヒターさん、ありがとうございます。心配してくれてるんですね」

「違う! 勘違いするな、俺はお前の心配などしていない」

 お前が面倒なことに巻き込まれたらアステルにまで迷惑がかかるから、とか、お前が妙なことをしてそれがアステルだと思われても困る、だとか。

「だからお前も十分な注意を―――なぜ笑う」

「いえ、何でもないです」

 見ていて微笑ましくなってきたのだ、なんて言えるわけがない。言ったらきっと拗ねるだろうなぁ、とエミルは思う。口に出さなくても伝わってしまったらしく、やっぱり拗ねてしまったようだけど。

 アステルが隣に来て苦笑した。

「大丈夫、怒ってる訳じゃないから。意地っ張りなんですよ、リヒターは」

 あのリヒターを意地っ張りなどと表現してしまえるのはこの世でアステルだけだ。アステルほどリヒターのことが分かっている人もいるまい。

 後ろから先を行く二人を見れば、何故かとても胸が苦しくなった。………何故か。

 何となく隣を歩けなくて、足が止まる。

「分かっているんです、ちゃんと」

 ヒトの全てが愚かだとは思わない。だが。

 

 彼は心のなかで呟く。何時までもヒトが変わらないから、我らはヒトが嫌いなんだ、と。

 




※追記
設定の違い
・プレセア戦。勿論原作には存在しません。これによって、リーガルが同行する理由がちょっぴり変わってます。ちなみにプレセアが装備していた斧は魔装備ではなく普通の斧。ガオラキアの森でもバッサバッサ魔物を狩ってたやつです。
・オゼットについて。ハーフエルフ差別が厳しい、というのは原作でも語られていましたが、ハーフエルフを擁護するアステルもあまり良くは思われていません。アステルはテセアラではよくも悪くも有名なのです。
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