精霊の世界再生   作:柚奈

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14-1 冀望

 レネゲードの基地につき。

 何度かレネゲードと交戦し、やがてくぐった扉の先で待っていたのは。

「―――何だ、侵入者ってお前達のことか」

「で、デクス………」

 デクスは一行を見るなり構えていた大剣を下ろし、警戒を解いた。

「安心しろ、戦う気はない。アリスちゃんから話は聞いてる。再生の神子と少年を助けに行くんだろ? 通れ」

「あんた、良いのかい? 一応敵同士じゃ」

「リーダーはロイドを捕まえるのにやっきになってるみたいだけど、オレとアリスちゃんはリーダーとは少し考え方が違うんだよ。神子が天使になったらオレたちも困る。それにアリスちゃんはあのロディルとかいうやつが嫌いだからな。アリスちゃんが嫌いなやつはオレも嫌いだ」

 デクスはあからさまに顔をしかめた。相変わらずらしい。と思えば急にいつもの調子に戻り、何かをマルタに向かって放る。

「というわけで、お前らにこれをやろう」

 かなり小さいが、なんとかマルタが両手で受け止める。小さなバッジ。

「何、これ」

「『アリスちゃんファンクラブ』――略して『AFC』の会員証だ」

 どや顔だった。

「会員ならこれを見せれば、レネゲードだろうがディザイアンだろうがお前たちにも協力してくれる筈だ。あ、勿論会員じゃないやつも居るし、そいつらは普通にリーダーに従ってるから気を付けろよ」

 ―――レネゲードだけじゃなくてディザイアンにも会員がいるのか。とは、誰も突っ込めない。なんかそういう雰囲気だった。というか遺跡モードのリフィルと同じだ。関わってはいけないやつ。

 因みに、一行の勘は正しい。以前それについて突っ込んだ者は、如何にアリスが美しく可憐で強く優しく素晴らしいか、長々とデクスに語られたからだ。三時間耐久コースで。ただしそれで相手は嫌になるどころかアリスファンクラブに喜んで入ると言うのだから、呆れれば良いのか感心すれば良いのか。

 と、最後を聞いてジーニアスが待ったをかける。

「え、いや気を付けろって、どう見分ければいいのさ」

「んー、そうだな。会員は皆会員証を持ってるのと………あぁそうだ、武器とか服の何処かにピンクか白っぽい布を巻いてるな」

 なんでもアリスが使役している魔物にピンクのリボンをつけているのを見たものが始めたのだとか。白っぽいのがあるのは、アリスの服の色がピンクと白、あるいはそれに近いクリーム色だからだ。

「もし無事に再生の神子を助け出せたら、オゼットの東の森で待ってるからな。必ず来いよ」

 そんなことを最後に言い置いて、デクスは何処かに行ってしまった。

 

 

 

 レアバードがある格納庫に入るためには、パスコードが必要であるらしい。

 三人のレネゲードが持っていると言うそのパスコードを求めて、一行はレネゲードの基地を徘徊していた。

 その基地の一角にて。

「む、それは」

 襲ってくるかと思いきや、マルタの手のひらに乗っている小さなバッジを見て動きを止めるレネゲード。よく見れば剣の柄の根本に白い紐のようなものが巻き付けてある。ロイドの紐みたいな。

「お前たち、もしや」

「そっそうだよ、あたしたちも会員なの。だから協力してくれない?」

「………怪しいな。よし、お前たちが本物の会員かどうか試させてもらう」

「どうやってよ」

「ふっ、簡単なことだ。―――今から出す問題に答えられたら、お前たちを認めて協力してやろう」

「え、ちょっと待っ」

「ではいくぞ。………ズバリ、アリス様は紅茶派? それともコーヒー派?」

『………はい?』

 一行の声が揃った。いやだってそんなの知るわけがないだろう。でもファンクラブと言うからには知っていて当然? いやいやいや………。

 と、自然と一行の視線はマルタに。

「えええっ、私?!」

「お願い、マルタ!」

「パルマコスタで二人と仕事をしてたお前だけが頼りだ!」

 実際、この面子のなかで多少なりともあの二人を知っているのがマルタしかいないのだ。

「っていわれても―――あ、そういえばよくデクスが淹れた紅茶を」

「正解だ」

 ―――そう言われて思い返せば、確かにパルマコスタを出るときもデクスの紅茶を飲んでいたような。

「うむ。怪しいが、会員であれば協力せざるを得んだろう。―――お前達の望みは格納庫のパスコードだな? これがその一つめだ。持っていけ」

「あ、ありがと!」

 そんなこんなで、パスコードゲット。

 

 また別の一角にて。

「アリス様の年齢は!」

「16歳」

(ええええ嘘だろ………!!?)

 パスコード二つ目ゲット。

 

 また別の一角にて。

「アリス様に気に入られている証は!」

「男ならくんづけして貰ったら。逆に女のちゃんづけはアウト」

(………つまりマルタも嫌われてるのか?)

(あれ、デクスは?)

(あれは例外みたいよ)

「よし、お前にはアリス様検定二級を与えよう!」

「なっ!?」

「因みに最高はデクス殿の六段だ。お前は中々に見込みがある。精進しろよ」

「い、いらないわよそんなもんっ!!」

 やけに嬉しそうな会員から、とある部屋へのカードキー(と不本意ながら称号)ゲット。

 

 

「これ、どこの部屋の鍵だろう………」

「うーん、どこも同じように見えるからなぁ。よし」

 ロイドは一つ頷いて、一行がたまたまいた場所からたまたま一番近かった扉にカードキーを差し込んだ。

 すると。

「ひ、開いた?!」

「んなアホな………」

 あり得ないとゼロスが呟こうが、リフィルがロイドの浅慮に頭を抱えていようが、開いてしまったものは開いてしまったのだ。

 ロイドを先頭にして、その部屋に入る。

 そこは、実験室のような、資料室のような、倉庫のような、なんともごちゃごちゃとものが溢れた部屋だった。

 左奥の机になにやら計算式のようなものが書かれた紙が積まれているかと思えば、右手の一角は体を鍛えるのに良さそうな機械がごろごろと転がり。本がびっしりと詰まった本棚が並んでいるかと思えば、その向こうの開けた場所にはなんだか良く分からないものがきっちりと仕舞われていた。

「なんだここ………なんだここ」

 頭がいいんだか悪いんだか几帳面なんだか大雑把なんだか、わからなくなる部屋である。

 と、プレセアが何か板のようなものを拾ってきた。

「ロイドさん。これがドアの横の壁に立て掛けてありました」

「ん? どれどれ………」

 

『第二格納庫 管理者:工作班長 デクス』

 

「あいつの部屋かっ!」

「へぇ、デクスって偉かったんだねぇ」

「しいな、そこじゃない。っていうか何でここの鍵をデクスじゃない奴が持ってたんだ?」

「あ、ゼロス、裏になんか書いてあるよ?」

「どれどれ?」

 ジーニアスの言葉に従って板をひっくり返すと。

 

『第二格納庫 掃除係の心得

 一、掃除はサボらない。

 二、班長のアリス様グッズには触れてはならない。

 三、班長のトレーニンググッズは増えるものと心得るべし。

 四、資料の位置はずらさないこと。

 

 以上を踏まえ、鍵の管理者に第二格納庫の掃除係を任ずる。』

 

「………なぁ、あいつやけに嬉しそうに俺たちに鍵を渡さなかったか?」

「大方、掃除を私たちに押し付けられるとでも思ったのでしょうね」

「………確かに、この部屋の掃除は少々骨が折れそうではあるな」

 なんせ、元が倉庫だから広い。そこに本棚が並びトレーニンググッズが並び、ひとが二人並べるかどうかと言う隙間が通路代わり。その上配置をいじるなものを壊すなと言われたら、かなりの神経を使っての作業になるだろう。

 想像して遠い目になっていると、いきなりロイドの袖をマルタが引っ張った。

「ロイド、あれ! あそこ、ほら、奥の机の上!」

 言われるままに目を凝らす。物陰にあって見辛いが、ちょこちょこ首を動かしてやっとそれが何か見ることができた。

 それは、丸いカバンだった。

「んん……どっかで見たような………?」

「エミルだよ! あれ絶対エミルのカバン!」

 断言されて、ロイドは記憶を手繰る。

 エミルのカバン。腰についてるやつで、剣を納めるホルダーの代わりにもなっていて、いつもエミルがアイテムを取り出していた―――丸いカバン。

「―――えぇ?! な、なんでこんなところにエミルのカバンが」

「確かなのか、ロイド?」

「わかんねぇ。遠くてはっきり見えないんだ。それっぽくはあるんだけど」

 もしここにコレットがいたら、それが何か教えてくれるのに。

「取りに行くのは………無理そうね」

「じゃあ、ここはあたしに任せときな。―――コリン!」

「うん、任せて!」

 煙と共に現れたコリンは、本棚や数々のグッズの隙間を潜り抜け、軽やかに上を駆け抜け、あっというまにカバンの所に辿り着くと、カバンをくわえて戻ってきた。剣も鞘に納められたまま、コリンの体では引きずるような形になっているけれど、それでも下の方の隙間を掻い潜って。

 コリンが取ってきたカバンと剣を抱き締めて、マルタが膝をつく。

「………間違いない。エミルのだ………!」

 あれだけ事あるごとにエミルにくっついたりエミルが好きだと公言して憚らないマルタだ。エミルの持ち物を見間違えることもないだろうから、本当にエミルが持っていた剣とカバンなのだろう。

 ロイドはマルタの肩に手を置いた。

「助け出せたら、渡してやれよ。それまでマルタが持ってればいい」

「ロイド………ありがと」

 

 

 

 パスコードを求めてとある倉庫に入ると。

「侵入者ぁぁあ!!」

 入ると同時、叫び声がした。咄嗟にそれぞれ防御の姿勢をとるが、エミルの剣とカバンを抱えていたマルタだけが、僅かに反応が遅れ。

 レネゲードの一人が振りおろした剣は、エミルのカバンを掠めて床を砕いた。

「こいつ、白い布ないよ!」

「ってことは会員じゃないのか!?」

「兎に角倒すぞ!」

 

 

「………倒せたは、良いけど………」

「こいつ、パスコード持ってないっぽいな」

 ロイドとゼロスが男の持ち物を漁ったが、パスコードのようなものは見つからず。………というか、ここまてトントン拍子に見付かったのが凄いのだ。さてここからどうやって探したものか―――。

 ウィン、と扉が開く音。

 とっさに振り返り構えた一行だが、入ってきた相手はロイドとマルタを見て動きを止めた。

「―――む」

 正確には、ロイドの首もとの白い布と、マルタの手にあるバッジを見て。

「お前達は会員か。そうか、なるほど。会長が言っていた侵入者とはお前たちだな?」

「そっ、そう、です! ええっと私たち会員で、格納庫に行きたくて」

「聞いている。が、どうしたものか………」

「なんか問題あるのか?」

「問題、というわけではないがな。今、リーダー達がお前たちの侵入を知って格納庫で待ち構えているのだ。俺も立場上、すんなりとお前たちを通す訳に――――?!」

 腕を組み、考え込んでいたそいつが、床に落ちていたモノを見付けて驚愕した。ヘルメットでよく見えないが、恐らくは目を剥いているに違いない。

「こっ、これはまさか………!?」

 視線を辿って、見ているのが小さなアリスの絵―――にしては少し違う気もするが―――であることに気付く。

「何これ?」

 マルタがそれを拾い上げた。どこからこんなものが、と首をかしげたときに、マルタが持っているエミルのカバンからグミの詰まった袋がぽとんと落ちた。

「え、まさかこれエミルの―――」

 いきなり、レネゲードの男がマルタの手を取った。

「頼むそれを譲ってくれ! 代わりに俺に出来ることならなんでもしよう!」

『は?』

 一行の声が揃った。

「………こんなので?」

 マルタがそれをひらひらとさせると、男は凄い顔で悲鳴をあげた。

「やめ、止めろ! お前たち、それがどれだけ貴重なものか………! いいか! それは、我々『AFC』の中でも一部の古参しか持っていない限定品! しかもおそらくは会長から直接渡されでもしない限りお目にかかることの出来ない『笑っているアリス様』………っ! くっ、存在は知っていたが、まさかこの目で見る日が来ようとは………!」

 泣いてた。しかも本気で。ロイドたちはちょっと(かなり)退いた。

「くれって言われても………それ俺たちの物じゃないし」

「………エミルの事だから、デクスに押し付けられたんじゃないかい? ほら、シルヴァラント側のレネゲードの基地で、エミルはデクスと一緒だったろう」

 しいなに言われて記憶を辿る。ぁあ、言われてみればそうだったような。

 互いに目線だけを交わして、頷き合う。リフィルが代表で進み出た。

「あなた、何でもすると言ったわね? ならまずは格納庫へのコードを教えて頂戴」

「いいだろう。コードは、」

 教えられた通りにメモを取る。これで三つ揃った。

「よし、じゃあ―――」

「それからメインサーバーにアクセスするためのコードも」

 ロイドを遮って続いたリフィルの言葉に、男は明らかに躊躇った。ロイドたちも戸惑った。パスコードさえ手に入れられれば、それで良い筈なのに。

 だがリフィルのすることだ。何か意味があるのだろうと、誰も口は出さない。

「い、いやそれは………」

「何でもする、のではなくて?」

「うっ、ぐ………わ、わかった………だが、俺のコードで閲覧できるのはレベルBまでだぞ。それでもいいのなら」

 リフィルが頷いた。男はリフィルに早口でコードらしき記号を呟く。聞き取れなければ良いとでも思ったのだろうか。しかしリフィルはしっかりと一発で聞き取って、確認し、男にアリスの絵姿を渡した。

 男が部屋を立ち去ってから、リフィル。 

「ロイド、悪いのだけれど、少し寄りたいところがあるの」

「先生が言うんなら何かあるんだよな? 何処に行けば良い?」

 

 

 

 

 

「………なぁ、まだなのか?」

「姉さんに聞いてよ………」

 近くの部屋で何かの機械を見つけて数十分。リフィルはその間ずっと機械と格闘し、残りのメンバーはそれを見ていることしか出来ない。正直、暇である。

 ロイドが何度目かのあくびを噛み殺した頃、リフィルの手際を見ていたリーガルが、ほう、と息を吐いた。

「―――リフィルは随分とこう言った機械に詳しいのだな。我々テセアラの人間ですら、十分な教育を受けていなければ操作できないと言うのに」

「そりゃまぁ、先生だからな!」

「答えになってないよ、ロイド」

 マルタに突っ込まれたが、しかしそうなのだ。

 ディザイアンの基地でも機械操作をしたのはリフィルであり、ロイドたちには真似できなかった。

(ああでも、―――あいつなら)

 クラトスなら、同じことが出来たのかもしれない。あいつはクルシスの天使だったのだから。

 そういえばあいつ、やけにエミルのことを気にしていたな、と思い出した辺りで、リフィルが機械から離れた。

「もういいのか?」

「ええ。あのコードで出来ることはもう終わったから」

 もういいと言いながらも納得してはいない様子で。けれど格納庫に意識が向いているロイドが気付くことはなく。

 

 

 

 

――――――

――――――

 

 

 

 コレットは必死に逃げようとしていた。

 鎖を壊して、この陣から逃げなくちゃ。そして早く、エミルを助けないと。

 が鎖は天使の力でもびくともしない。辺りは空に浮く岩石と魔物たち。空中でも、コレットなら天使の羽で空を飛べる。逃げなくちゃ。なのに逃げられないのだ。

(早く………じゃないと………!)

 鎖だけでなく、コレットの周囲を囲む術の檻も、その足下の術式も。内部からは何も出来ないように作られたそれらは、コレットにはどうしようもないものだ。

 ………けれど間に合わず、コレットは声を聞く。

「コレット!!」

 顔を上げれば、天使の超感覚がそれを捉えた。

 何よりも会いたくて、ほっとして、大切で、嬉しくて―――だからこそ絶望の切っ掛けとなる彼らを。

 レアバードから降りて、岩石の上を駆け寄ってくるロイドに、コレットは叫ぶ。

「………ロイド、来ないで! 罠だよ!」

「え………?」

 駆け寄ってきた笑顔が戸惑いに変わり、ロイドがコレットまであと数歩、というところで足を止めた。

 そのロイドの隣にあのコレット達を拐ったハーフエルフが姿を現す。

「ロディル………っ!」

「今まで私を利用してきたこと………許せません。コレットさんを返しなさい!」

 プレセアが駆け寄り斧を振り降ろす―――が、ロディルは避けもしない。どころかプレセアの攻撃はその体をすり抜ける。

「幻………!?」

「フォッフォッフォッ。そんな出来損ないの神子などくれてやるわい! 道理でユグドラシル様が放置しておくわけじゃ」

「出来損ないだと!?」

「そうじゃ。その罪深い神子では我が魔導砲の肥やしにもならんわい。世界も救えぬ。マーテル様にも同化せぬ。挙げ句仲間を危機に陥れる。神子はまさに愚かなる罪人と言うわけですなぁ」

 皆の目に力が入っている。怒りで肩が震えている。

 ―――あぁ、わたしのせいで、こんなことになった!

「コレットさんにありもしない罪を擦り付けないで………!」

「そうよ! 悪いのはそうなるように仕組んだそっちでしょ!」

「そうだ。罪を背負うのは私だけで良い。私とそして愚劣な貴様こそが罪そのもの! 愚かなる者よ、私と共に地獄に落ちるがいい!」

 プレセア、マルタに次いでリーガルも叫んだ。何があったのか。プレセアの感情が戻っていることに気づき、ほっとして、けれどそれに笑顔になる余裕なんてない。

「わしが愚かだと? ふざけるでない、この劣悪種どもが!」

 ロディルが何かをした。その何かに真っ先に気付くのはコレットだ。足元のそれが震えたのが分かる。それと同時に、遠くでカチリと、機械の音もした。

「みんな、逃げて!!」

「わしの可愛い子供たちよ。劣悪種どもを食い散らかすが良い」

 ロディルの姿が空気に溶けて消える。入れ替わるように遠くから飛んできたのは、コレットとエミルを拐ったあの飛竜だ。それが数体。

 だがコレットには分かる。それも、罠だ。

「戦っちゃダメ! 逃げて!」

 逃げて。ここから離れて―――それが出来ないように、ロディルは周到に飛竜を差し向けたのだ。

 目の前でロイド達が武器を構えて、飛竜たちと戦い始めた。その間にもコレットの足下の術式は稼働し続け、―――残り時間はあと僅か。

 鎖を引っ張り、術の檻を叩き、けれどこれまでと同じようにその全てが無駄だ。何をやってもびくともしない。

「もうだめ………間に合わない………!」

 ロイド達が飛竜を倒したのが早いか、コレットの足下の術式が光るのが早いか。

 一気に広がった光は巨大な術式を描き出す。それはそう、あの白く何もない部屋で、コレットとエミルを包んだものと全く同じ。

「っ!!」

 抜けていく―――流れ出ていく、それがどんなものかは、エミルを見て知っているのに!

「この光は一体………!?」

「か、体が………動かないよ!」

「コレットだ! コレットの体内のマナがボクたちの方に逆流して来てるんだよ!」

 その通り。

 ヒトのマナは個個人で異なる。他人のマナが流れ込むということは異物を流し込まれているのと同じ。ましてや、天使のマナは独特なのだ。

 つまりこの術式は、彼らを。

「コレット、そこから離れろ!」

「ダメ………鎖で繋がれて動けないの………!」

 だから逃げてと叫んだ。だから来ないで欲しいと願った。でも―――同じくらい、助けて欲しかった。きてくれたことが嬉しかった。

 仲間の身よりも、世界よりも、自分の細やかな願いを優先してしまったから!

「ごめんね、皆………わたし、世界を救うことも、皆を助けることも出来ない、中途半端な神子だったよね。ロディルの言う通り、罪深い神子なのかも………」

 神子でありながら私情を挟んだ。ロイドを巻き込み、シルヴァラント世界再生の使命も果たせず、世界を見捨てて逃げ出した。そうして異世界テセアラまで来て、ここでも仲間を自分のせいで危険な目に合わせて。

 ロディルの言葉を何一つ否定できない!

「―――順序を取り違えたら、ダメです!」

 プレセアが叫ぶ。

 小さな体で、斧を支えに、盾にして。

「あなたは悪くない………悪いのは、神子に犠牲を強いる、仕組みです!」

 プレセアが振り降ろした斧が、コレットを繋いでいた鎖を断ち切った。

 

 

 

 

 コレットを助けだし、崩壊するあの場所からどうにか逃げ出して。

 気を失っていたプレセアが目覚めて、それでもコレットの顔は晴れない。

「でも、エミルが………」

「そうだ。エミルは一緒じゃないのか?」

 一緒に拐われたから一緒にいると思っていたのに、クラトスの言葉の通りに東の空を探して見付けたのはコレットのみ。

「エミルは、何処か別のところに連れていかれて―――早く助けなくちゃ! エミルが………!」

「落ち着きな、コレット」

 しいながコレットを宥めるが、コレットの体は震えが止まらない。

「しかし、探すにも手掛かりが無くてはな………」

 コレットの事だって、クラトスの言葉があったから見付けられたのだ。何もなしに探すには、テセアラはあまりに広い。

 ………と、ジーニアスが。

「そう言えばさ、デクスが『終わったらオゼット東の森まで来い』って言ってなかった?」

 正確には『もし無事に再生の神子を助け出せたら、オゼットの東の森で待ってるからな。必ず来いよ』だったか。

「今のところそれくらいしかないか。よし、行くだけ行ってみよう。レネゲードのあいつなら、ロディルのことも知ってるかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 オゼット東の森、という大雑把な言葉でも辿り着けたのは、プレセアが案内してくれたからに他ならない。

 そこに辿り着くと、デクスが一人、腕を組んで立っていた。

「デクス! エミルは」

「あっちあっち」

 デクスが示した方向を見ると、木の影に。

「―――エミル!!」

 マルタとコレットがエミルに駆け寄っていく。

「無事に再生の神子を助け出せたみたいで何よりだ。悪かったなぁ、俺とアリスちゃんは、あいつに関しては大っぴらには動けないことになってるんだ」

「どうやって見付けたんだ………?」

「そりゃ、企業秘密ってことで。かなり参ってるから、ちゃんと休ませてやれよ」

 話は終わった、とばかりに立ち去ろうとしたデクスが、少し歩いてあ、と声をあげて。

「そうそう、少年の腕についてるそれ、あんまり弄らない方がいいぞ。下手すりゃ少年ごと吹き飛ぶから」

「吹き飛………!?!」

 触りかけていたマルタは熱いものに触ったときのように手を引っ込めた。他の面々もそれぞれに驚きを顕にする。が、デクスだけはそんな空気を作り出しておきながらあっさりと。

「じゃあな」

「ああぁ、ちょっと! 待ってよデクス! 話は終わってない―――」

「こっちの話は終わりだ。俺も早く戻らないとアリスちゃんに怒られる」

 歩き出すデクスの前に、リフィルが立ちはだかる。

「いいえ、待って貰うわ。何故、ロディルに連れ去られた筈のエミルのカバンが、あなたの部屋にあったのか。何故、貴方はエミルを見付けられたのか。―――貴方は、何者?」

 デクスは即答した。

「俺はアリスちゃんの味方だ。アリスちゃんが望むのなら世界だって敵に回すし、そうじゃないなら俺は何処までもアリスちゃんについていく。レネゲードもクルシスも関係ない。言ったろ? 俺たちはレネゲードに所属してはいるが、俺とアリスちゃんの目的は、リーダーとは別にあるって」

「ならその目的は何?」

「あんたらと同じだよ。俺たちは世界が滅んでもらっちゃ困る。だからこうしてあんたたちを助けただろ?」

 リフィルの眉間に皺が寄る。デクスは答える気がないのだ。デクスは馬鹿ではない。馬鹿っぽく見えるが、あれでかなりの常識人だ。

 だからマルタはそれ以上を聞くのを早々に諦めた。

「デクス、一つだけ聞かせて。二人は、世界を救おうとしてるんだよね? シルヴァラントもテセアラも、滅ぼそうなんて考えてないんだよね?」

 それだけはあってもらっては困る未来だから。

 するとデクスは何故かヘンな顔をした。

「………ああ。もう俺もアリスちゃんも、そんなことに興味はない」

 困ったような、戸惑ったような、諦めたような、悲しそうな、そしてどことなくほっとしたような、そんな変な顔をして、それからデクスはふっと笑った。

「俺はさ、アリスちゃんが笑って生きていてくれるんならそれで良いんだ。だからアリスちゃんが生きていく世界が滅んでもらっちゃ困る。………それで答えになるか?」

 マルタは頷いた。

「十分だよ」

 デクスは、アリスが関わることでは絶対に嘘をつかない。アリスのため、が理由ならそれを疑う必要はない。

「まぁ、そういうわけだ。『AFC』会員にもお前達に協力するよう連絡しとくから、何かあればそのバッジを使えば良いさ。―――じゃあな」

 そう言って、今度こそデクスは森を後にした。

 




『AFC』
 アリスちゃんファンクラブ、の略。
 会長はデクス。レネゲードのみならず、ディザイアン、はたまたシルヴァラントテセアラ両世界の一般人の一部にさえ会員がいるというとんでもない秘密の非公式会。
 会員は体か武器の何処かに白、ピンク、クリーム色の紐や布を結んでおり、会員証代わりのバッジをしているのが特徴。会員であると証明する方法はアリスに纏わるクイズに正解すること。会員はアリスの(隠し撮り)写真を大切に隠し持っている。
 
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