精霊の世界再生   作:柚奈

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 原作と同じところはさっさと飛ばしたので、今回いきなりトリエットの宿屋からです。
 ちゃんとボータ倒してエクスフィアは回収してきてます


2-3

「……っていう訳で、ボクたちここまでエミルと一緒に来たんだ」

 夜。トリエットの宿屋“オリーブ亭”にて。

 ジーニアスとロイドが、これまでの経緯を説明しているのだ。

 エミルのことになるとロイドが(実はジーニアスもだったりする)目を輝かせて語るものだから、長引いてしまった。

 ロイドを救出してトリエットに戻ってきたのは夕方のこと。

 全員――エミルとクラトスも戦いで疲れきってしまったので、トリエットに戻るまで会話らしい会話が無かったのである。

 ようやく話を締め括ると、エミルは照れくさそうだ。コレットは目を輝かせる。

「じゃあ、エミルさんは……」

「エミルでいいよ、えぇと、コレット」

 コレットは少しきょとんとした。イセリアにいたころ、名前で彼女を呼ぶのは家族と、ここにいる数名だけだったからだろうか。知らない人から神子様、と呼ばれているとき、コレットは何処か寂しそうだったから。ふわりと、コレットが笑む。

「うん。コレット・ブルーネル。よろしくね、エミル。えっと、それでエミルはトリエットになにか用事があって来たんだよね? 行かなくていいの?」

 今度はエミルのほうがきょとんとした。コレットからしてみれば急ぐのならと気遣っただけなので、不思議そうに首をかしげている。

 エミルは困ったなあとぼやいて頭を掻いた。

「トリエットに用があるんじゃ無いんだよ。トリエット砂漠の中の、うーん……ここから南西、かな。そっちの方に用があって」

 ジーニアスは頭の中で地図を辿ってみたが分からなかった。この辺りの地理には詳しくない。リフィルが口を開く。

「……ということは、エミルは旧トリエット跡に行きたいのかしら」

「旧トリエット、ていうんですか? えーと」

「リフィル・セイジ、ジーニアスの姉よ。――旧トリエット跡はかつてイフリートの業火で滅んだ街の跡よ。ここから南西というと、そこくらいだと思うけれど」

「じゃあ多分そこです。……実は場所は分かるんですが、肝心の名前が分からなくて。人にも聞けなくて困ってたんですよ」

 場所が分かるなら行けば良いだろうにと思ったが、砂漠に入る前にエミルに言われたことを思い出す。旅に出ると目的地の情報が大切で、情報も無しに動くのは危険なことなのだと。だから急かすロイドに砂漠の危険性をこんこんと説き、情報が大事なんだよ、と言ったのだ。

 実際エミルに言われなければ準備も無しに砂漠に入って、干からびていたかもしれない。

 リフィルとクラトスがじっとエミルを見る。

 二人の気持ちも、分からなくはない。何せエミルは、エクスフィアを持っていないのだ。

 エクスフィア――身に付けることで潜在能力を引き出す、小さな石。シルヴァラントが衰退して魔物が凶暴化し、旅に出るには必要不可欠とまで言われるその石を、持っていない。それだけでも驚くべきことなのに、エミルはロイドよりも、もしかするとクラトスよりも強いのだ。

 エミル・キャスタニエ。十六歳。旅をしている。それ以外一切不明の少年を、姉やコレットの護衛であるクラトスが信用する筈もない。

 加えて、目的地は旧トリエット跡。

 普通十六歳の少年が行くような場所ではない。更に言えばベースの中で聞いたところによるとそこは、コレット達が目指す封印の地でもある。

「あんな所に? あなた一人で?」

「あんなって……はい、一人、です。本当なら他にも居るんですけど、今はいなくって」

 そう、とリフィルが呟く。ジーニアスはエミルの仲間のほうが気になった。どんな人だろう? きっと、物凄く強いんだろうなぁ。

「エミルの仲間って、今はどうしてるの?」

「あちこちにいるよ。ちょっと前までは一緒に居たんだけど……今は少し、別行動中、かな」

「あ、じゃあ」

 ぱん、とコレットが手を打った。

「ねぇ、一緒にいこ? 砂漠で一人は危険だよ」

「お、いいなそれ。なぁ、行こうぜ! ここまで一緒なんだ、もう少しくらい良いだろ? な、ジーニアス」

「うん! ねぇ、行こうよエミル!」

「えぇえ?!」

 そこまで言われるとは思っていなかったか、エミルが反射的に半歩後ずさる。

「あの、でもコレットたちも用があるんじゃ……」

「うん、だいじょぶだよ」

「いや何が……?」

 救いを求めてコレットを見るも、エミルにとっては不幸なことに、こうなったコレットはテコでも動かない。

「でも僕、一人でへい……」

「ダメだぞー、エミル。砂漠でぶっ倒れたらどうするんだ?」

「まず倒れないからだいじ」

「どうかしたか?」

「な、なんでもありません……」

 ロイドは満面の笑みである。有無を言わせぬ口調にエミルががっくりと項垂れる。

「ジーニアス……」

 エミルが助けてとでも言わんばかりにこちらを見る。涙目に見えるのはきっと気のせいだ。

「ごめんね、エミル。ボクも二人と同意見」

「そんなぁ……!」

 次にエミルが見たのはリフィルとクラトスだった。

「二人は、どう思います?」

 ジーニアスには反対してくれますよねと言っているようにしか見えなかった。目が据わっているもの。眼光に気圧されて、リフィルがたじろぐ。

「ええ………こほん。クラトス、あなたの意見は?」

「異存はない」

「えぇ、そうね。ほらあなたたち、クラトスもこう言って――……クラトス?」

「彼が同行することに、異存はないと言っている」

 それきり、クラトスは我関せずを貫いている。エミルが恨むような、若干殺気も混ざりかけた視線を向けてもお構いなしだ。

 こうなると、子供三人は止まらない。

「なぁ先生、クラトスもこう言ってるし」

「ねえ先生」

「姉さん」

「……――ああ、もう! 分かりました。クラトスが言うのならば腕も問題ないようですし」

 ただし、とリフィルは続ける。

「彼には彼の事情があるのだから、邪魔はしないこと。よろしい?」

「はーい!」

 きゃいきゃいと騒ぐ三人に囲まれて困り果てたエミルを見て、リフィルは本当に分かっているのかしらとため息をついた。

 

 

 

 

 トリエットは、トリエット砂漠の中央にあるオアシスの畔に作られた町である。

 砂漠の中にある以上昼夜の寒暖の差は激しく、夜は上着がなければ外を歩けないほどに冷え込む。

 ロイドはその寒い夜、宿屋の外に居た。

 コレットは宿の部屋に居た。ジーニアスはもう眠っていたし、リフィルはさっきエクスフィアの制御装置“要の紋”を届けたとき、宿題と称してモンスター図鑑とやらを渡された。そしてクラトスと宿の前で話をして、エミルを見ていないことに気がついた。

 エミルはモンスターにも詳しかった。図鑑を書く前に話を聞きたい。

 探してたどり着いたのが、オアシスだった。町の入り口付近に宿はあるから、いつの間にか町の反対側にまで来てしまったらしい。

 仕方ない、戻ろう。明日も早い。戻って眠らなくては、またリフィルに小言を食らってしまう。

 踵を返したそのとき、オアシスの畔に金色の髪が見えた。道からは外れた、木の陰に。回り込んで見ると、エミルが座っていた。夜空を見上げていたのだ。

「……エミル、どうしたんだ? こんな所で」

 風邪引くぞ、と声をかければエミルはちらとだけロイドを見、また夜空に視線を戻した。

「ロイドこそ、どうしたの? もう寝たのかと思ってた」

「エミルがいないから、探しに来たんだよ」

 そう、と言っただけだった。ロイドはエミルと同じようにオアシスの方を向いて座り込んだ。

「何してるんだ?」

 改めて問えば、今度は答えが返ってくる。

「ちょっと、さ。星を見てたんだ」

「星?」

 エミルは空と、目の前のオアシスを示した。

「ほら、空が澄んでるから星が湖に写ってる。あんまり綺麗だったから見たくなって、宿を出てきちゃったんだ。ビックリさせたんなら、ごめん」

「いや良いって」

 まさか一人で旧トリエット跡に行ったんじゃないかと疑ったから探していたなんて、言えないもんな。

「ロイド、口に出てる」

「はっ!?」

 慌てて口を押さえると、堪えきれぬとばかりにエミルが噴き出す。

「……大丈夫、行かないよ。一度付いていくって言ったのは僕なんだから。もし行くときが来ても、ちゃんと一言言ってから行くよ」

「……そうしてくれ。ジーニアスもコレットも、お前といたら楽しそうだからさ」

 ジーニアスはロイドを二度までも危険な目に、と。コレットは始めての旅と、神子としての責任に。それぞれとても苦しそうで、出来ることと出来ないことがあるのだと思い知った。

 けれどエミルなら、まるで張り詰めていた糸がほぐれるように。

「あのね、ロイド」

 エミルが少し困り顔でやんわりとロイドを遮った。

「二人が楽しそうなのは、ロイドがいるからだよ。二人とも……ううん、リフィルさんもクラトスさんも、ロイドがディザイアンに拐われたって聞いたとき、本当に心配そうだった。コレットなんかノイシュの背中でずっとお祈りしてた。ロイドを連れて戻ってきたときには、皆ほっとしてたもの。

 ……きっと、皆ロイドと旅ができるのが、嬉しくて堪らないんだよ」

「そう、かな」

「きっとそうだよ。僕も、旅は楽しみだから」

 きっと楽しいよ、と笑うエミルを見て、ふと気になったことがある。

「……そう言えばさ、エミルはなんで旅に出たんだ?」

 エミルは強いから、旅に出ても大丈夫、ではなく。魔物の対処にも手慣れていたのは、それだけ経験があるということ。

 ロイドも旅に出て分かった。訓練と実戦はまるで別物だ。実戦で戦えるようにするには、実戦で、もしくはそれに近い状況で鍛えるしかない。

 こんなに若いのに、何故魔物と戦う一人旅をしているのだろうか。手慣れる程に魔物と戦いを繰り返し、それでも旅をするのは何故なのか、と。

 しばらく、答えがなかった。やがてそっとエミルが囁くように答える。

「――――見たいものが、あったから」

 大事に大事に、エミルは言葉を紡ぐ。まるで言葉が盗まれることを心配しているように。

「見たいものがあって、それを探して旅に出たんだけど。……何かが違うんだ。この空も、僕が見たかった空じゃない」

「……ああ、それ、分かるよ」

 小さい頃に誰かと見た空は、もっと大きくて、近かった。

 それこそ、手を伸ばせば届きそうな位に。

「でもね、なんとなく思うんだ。あの空は何処に行っても見られない。けど、“あの場所”に行けば――見たいものが見られる。もう一度、会えるって」

 空に手を伸ばし、伸ばした手で何かを握るようにして、エミルはその手を胸元に当てる。

「だから、僕は旅をする。見付けるために。……不思議だね、ロイドと居たら、見つかるような気がしてるんだ」

 ロイドは返答に窮した。何かを言おうかと口を開くも、魚の口のごとく開いては閉じるだけ。

「あはは、ごめんね。答えなくてもいいよ。……あれ? もうこんなに経ってたんだね。寝ないとリフィルさんに怒られちゃう。僕、もう戻るね」

 エミルはさっさと立ち上がると宿の方に引き返していった。

 残されたロイドは、空を見上げて呟いた。

「見たい、もの………か」

 自分が見たいものってなんだろう。

 考えかけて頭を振り、ロイドも宿への道をゆっくりと戻り始めた。

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