精霊の世界再生   作:柚奈

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 注:二話連続投稿のため、更新2話目になります


15-2

 

 リフィルを探し、一行はアルテスタの家を出た。せっかく出逢えた同族の知人を助けたいと願うミトスも連れて。

 タバサが目撃したという、南へ向かったレアバードらしきもの。その情報を手がかりに、やってきたのはアルタミラ。

 そこに降り立った瞬間、マルタは……妙な心地になった。

「ここはレザレノカンパニーの本社がある街だ。テセアラの中でもかなり栄えていて、……確か遊園地があると聞いたな」

「あとカジノもあるんだぜ」

「アルタミラなら人もいっぱい居ると思う。リフィル先生を見かけた人がいないか探してみよう」

 アステルの言葉に全員がうなづいて、

「……すまないが、私はここで待たせてもらう」

 そう言い出したリーガルを除いて、散らばってリフィルの目撃情報を探すことになった。

 

 テセアラの技術は発展しているが、そうと知っていてもマルタには驚くばかりの魔法の世界だ。しかしほとんど機械仕掛けであるという。魔法はほぼ使われていないらしい。

 人が大勢いるその街を、なんとなくマルタは歩いてみる。……その度に、よくわからないが、違和感を覚える。

 ――違う、と。

 違うも何も、そもそもここに来るのは初めてなのに。不思議な感覚だ。

 マルタの横を、幼い少女が駆けていく。

「ママ!」

 はっとして、振り向いた。すれ違った少女を、母親らしき女性が抱き上げて笑っている。

(……ママ、パパ、元気かな)

 神子コレットの旅について行くと決めたのはマルタで、そこに後悔はない。ちゃんと話して母には理解してもらった。でも父とは、……ワガママで押し切ってしまった。

 そして世界再生の旅について行くつもりが、気がつけば世界を飛び越えている。

(会いたいな)

 無事にシルヴァラントに帰れたら、いっぱい話したいことがある。何故だか無性に、とっても、両親に会いたくなってしまった。

 そうしてぶらぶらと歩いていると、ふと、とある親子の声が聞こえてきた。

「さぁ、そろそろホテルに帰りましょうね」

「やだー! まだ遊ぶの!」

「もう夜になってしまうわ。満月の夜にふらふらお外を歩いていたら、異界の扉から黄泉の国に連れ去られてしまうわよ?」

「! やだ! お部屋帰る!」

 黄泉の国。異界の扉。

 慌ててマルタはその親子を呼び止める。

「すみません、いま話してた異界の扉って、どこにあるんですか?」

「え? あなた……?」

「急にごめんなさい。異界の扉を見に行きたいんです」

「あらそうなの。異界の扉はここから東の孤島にあるわ。でも行っても何も無いわよ? 大きな岩が幾つか転がってるだけですもの。それに満月が近いときには近づいてはいけないって昔から言われているの。今は止めておきなさいな」

「そう、なんですね。ありがとうございます」

 母親に抱かれる娘が少し悲しそうにする。

「お姉ちゃん、怖いところに行っちゃうの?」

「ふふ、大丈夫だよ。お姉ちゃんは強ーいし、仲間もいっぱいいるから」

「ひとりじゃないなら、あんしんだね! でも、こわいんだよ。ばけものが出てきちゃったらどうしよう……」

 黄泉の国、つまりは死後の世界。そうなるとモンスターとして生息するゾンビなんかを思い浮かべてしまったらしい。ああ、懐かしいなあ。パルマコスタで有名な慈善家の娘であり、自らも人助けをして民衆に慕われるようになっていたマルタは、こういう子供の相手も何度もしたことがある。

「じゃあ、怖いのが出てくる前に、今日はママの言うこと聞いて、早く寝ないとね」

「うん!」

 子供の頭を撫でてやると、それは嬉しそうに目を細める。

「教えていただいて、ありがとうございます」

「これくらいなんでもないわ。では失礼しますね」

 親子を見送り、……今度は仲間たちを探してマルタはアルタミラの中を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 ロイドたちはレアバードで空を駆ける。

 アルタミラから東の孤島。そんな大雑把な場所しかわからなかったが、アステルの案内があれば迷うことは無い。

「姉さんは遺跡を見に行ったのかも。ほら、姉さん遺跡マニアだから」

「でもあそこは遺跡というほどの規模じゃないですよ? それに、リフィルさんはいくらなんでもあんな書き置きひとつで黙っていなくなるような人じゃないですよね?」

 そう、それがおかしいところだ。調べたいことがあるからと、……ちょっと見てすぐに帰ってくるつもりだった? それにしては。

「まずいぞ。もう夜だ。それに今日は……満月だ」

「見えた! あそこです!」

 アステルが示した島へ、次々にレアバードを着陸させる。

 話に聞いていた通り、島の中心部に大きな岩が輪を作っているだけの、遺跡だとは言われなければわからないような。しかし確かに自然の造形ではなく、よく見れば岩は表面に何かの文様が刻まれている、人為的なもの。

 月明りに照らされるその岩のそばに、リフィルが一人静かに立っている。

「先生!」

「みんな……! どうしてここに」

 遺跡モードでもない、いつもの冷静なリフィルだった。

「姉さんが心配だからに決まってるだろ」

「一人でこんなところに来るのは危険です。同族として、放っておけません」

 声をあげたのはジーニアスとミトス、しかし他の皆も気持ちは同じ。『調べたいことがある』なんて書置きだけで、納得なんてできるものか。

「どうしてこんなところに来たんですか?」

 コレットの声には、相手を責める響きが全くない。ただ純粋に、理由だけを問うている。だからだろうか。リフィルは一瞬考えた後で、振り向きその岩を―――遺跡を見上げ、ぽつりと零すように話し出す。

「ここは……私とジーニアスが捨てられていた場所だから」

「? どういうことだよ。ふたりはシルヴァラントの人間だろ」

「いいえ。……コレットを助けた時、たまたまこの場所が目に入って、ずっと気になっていたの。そして二つの世界を繋ぐ二極の話を聞いて、確信したわ。ずっと探していた風景はこの場所で、探していた遺跡はここなんだって」

 探していた?

 その時ロイドは思い出す。トリエットの夜、空を見上げていたエミルの顔。

『見たいものがあったから』

 どうして旅に出たのかと聞いて、探しているものがあるからだと答えたエミル。『あの場所』に行けばきっともう一度見られる。

 そうだ、その時のエミルと、今のリフィルは同じなのだ。

「私たちはエルフの里で生まれ、育った。そしてその後疎まれて、ここに捨てられたの……ここが伝説のシルヴァラントへと続く道だと伝えられていたから」

「エルフの里……あのエルフしか入れないという秘密の村のことですね」

 ハーフエルフであるミトスは知っていた。エルフしか、ならばきっとハーフエルフである、二人は。

「詳しいいきさつは分からない……でも確かに私は、生まれたばかりのジーニアスと一緒に、ここへ置き去りにされた……そしてシルヴァラントへと流れついたのよ」

 リフィルとジーニアスの年齢差を考えれば、当時リフィルは十歳前後だったはずだ。人間にとってはそれなりの間、しかし長い寿命を持つというエルフたちにとっては、きっとほんのわずかな時間。

 それは、それは、

 

「では。今度こそ黄泉の国へと送り込んでやろう」

 

 誰もいなかったところに、煙と共に誰かが現れた。この現れ方、この声は。

「くちなわ! いったい何を……!」

 しいなは途中で口を閉ざした。コレットの超聴覚がなくても聞き取れる、これは鎧の金属音。ロイドたちが構えるよりも早く一行を包囲した、その鎧の集団は。

「……教皇騎士団……そこまでして僕たちを始末したいんでしょうか」

「さあな。……もともとミズホは、王家に仕える隠密で、いまの教皇はそれを動かせる」

 アステルを庇いながら、リヒターは慎重に間合いを測る。ロイドも辺りを見回すが……位置関係が悪い。ここには戦えないアステルや、病み上がりのマルタたちもいる。後衛のジーニアスたちも、リフィルも、……きっとロイド達より向こうが動くほうが早い。

 じりじりと後退するしかないが、中心には遺跡の岩が転がるばかりで、周囲には何もない。……どこかを無理やりにでも突破するしかないのか?

 くちなわはしいなを視線だけで殺せそうだった。前回しいながヴォルトとの契約に臨んだ時の、犠牲の中にくちなわの両親がいたと。だというのにしいなは無事精霊と契約していると。

「本当に契約ができないのなら我慢もしたさ! だがどうだ、シルヴァラントの神子の暗殺には失敗して、ミズホを危機に陥れて、あげく本人だけはちゃっかり精霊と契約して! 前回は手を抜いたんだ! そして親父たちを―――殺した」

「ちがう! 手なんか抜いてないよ! あたしは……」

「だまれ!」

 くちなわが投げつけた短刀をリヒターが弾き、その隙をみて踏み込んできた騎士の数名をゼロスとロイド、コレットが撃退する。……が、数が多すぎて相手の包囲網を崩すには至らない。

「くそっ、数が多くて話にならねぇ!」

 下手に動けない。こっちが仕掛けても、向こうに仕掛けられても、対応しきれず崩される。クラトスが教えてくれた戦術の知識がいくつか頭を過ったが、そんなに簡単に応用ができれば苦労はないのだ。

「っ、くちなわ! あたしが憎いんだろう! だったらあたしだけ殺せばいいじゃないか!」

「しいな!」

 だめだ。しいなだけが前に出ては、守り切れない!

 

「……冗談じゃねーぞ、アホしいなが!」

 

 ゼロスが叫び、……上を見て、しいなのところまで駆け寄り腕をつかむ。

「ロイド、来い!」

 そのままゼロスは陣形の中心部へ―――月明りとはまた別の光を発し始めた、異界の扉の岩のところへ。

「みんな、扉に飛び込め!」

 即座にみんなが身を翻す。謎の光の中へ飛び込み―――

 

 

…………………………

 

 

 ロイドは何かを見た。

 おおきな円形の何か、そこに何人かの人影がある。

『面白い、戦おうというのか?』

 知らない誰かの声がして、そして。

 

 

 マルタは何かを見た。

 誰かの背中。知っている人の背中。

 その誰かが振り向いて、そして。

『――――――』

 

 

…………………………

 

 

 気が付いたら、辺りは白と黒だった。

 ……いや違う。白っぽいが、それは夜の闇から明るい場所に移動したせいで目が慣れていなかったから。そして確かにその空間は遠くが白く靄がかって、目の前にある地面との距離感が一瞬わからなくなりそうになる。

「……みんな、無事か?」

「だ、だいじょぶ」

「無事だよ」

「問題ない」

「ミトス、ミトスッ!」

 次々に応えが返る中、ジーニアスの悲鳴。が、そこでエミルがジーニアスの口を塞いだ。

「しっ、静かに」

 エミルだった。皆言われた通り声を潜める。……すると、道の向こうで何かが動いていく。巨大な体を持つ、見たこともない魔物。……セイレーンのような、上半身は人に似た、下半身は魚のような蛇のような女性型の魔物。紫色の体、手には弓。それは近くまで来るが物陰にいるロイド達には気が付いていないようで。辺りを見回し、くるるるる、と歌うように鳴き声を上げた。

 くるるる、くるる。鳴き声は続いて、まるで何かとやり取りをしているよう。だが気づかれて、仲間を呼ばれては困ったことになる。

 幸運なことにやがてそれが遠ざかって行って、無意識に止めていた息を吐きだす。

「いまの、……強いな」

「そうなの? リヒターが言うならそうなんだろうけど……」

 ロイドもそう思った。だからミトスのことは気になったがおとなしくエミルの言うとおりにしたのだから。

「……急にごめんね、ジーニアス。咄嗟のことだったから」

「ううん、ボクは魔物には気が付けなかったから……それより、ミトスが!」

 言われてミトスのほうを見てみれば、リフィルに介抱されていた。その隣にはマルタが頭を押さえている。

「先生、ミトスは」

「大丈夫。気を失っているだけです。転移の衝撃のせいかしら……少し休んでいれば目を覚ますはずよ。マルタ、あなたは大丈夫?」

「平気……です。少し、頭が痛かったんだけど……落ち着いてきたみたい」

 とりあえずではあるが、これで全員無事が確認できた。

「ええと……ここがシルヴァラント……ってわけじゃなさそうだね」

「違うよ。こんなところ見たことない」

 そこは不思議な空間だった。

 ロイド達が立っている場所は固い地面のようだが、そこから先にのびる道はどこか骨のようでもあり。地面は島状になっていて、下を見れば白い霧かなにかに遮られて先が見通せない。上を見ても同じようなもので、白い空間から、太く、白っぽくなった木の根らしきものが下のほうまで伸びている。

「どこなんだここは……異界の扉は、本当に異世界に繋がっていたのか……」

 

「ゼロス! どうして邪魔したんだい!」

 

 さっきまで繋いでいた、もといゼロスにつかまれていた腕を振り払って、しいなが悲壮感を漂わせて叫ぶ。だがゼロスのほうはあのなあ、としいなに向き合う。

「お前だって、死にたかったわけじゃねえだろ」

「……それは」

「第一、お前が死のうが死ぬまいが、あいつらは俺たちを狙ってきたはずだ。教皇の命令ならな」

「くちなわが教皇とつるんでるっていうのかい?」

「教皇騎士団を動かせるのは教皇だけだ。可能性は高い」

 しいなは俯き押し黙る。コレットがしいなの手に手を添えた。

「しいな。わたしと同じ間違いはしちゃだめ。自分を犠牲にしても、いいことはないよ」

「そういうこと。ゼロスにお礼を言えよ、しいな」

 ゼロスの機転で助かったし、ゼロスのおかげでしいなは死なずに済んだのだ。

「……ありが……とう」

「なーになーに、キスの一つや二つくれても罰は当たらないぜ」

「ゼロスくん、……最低です……」

「うっ、きっつ……ってもまあ、ここがどこかわかんねえんじゃ、なあ。おいアステル、お前はここに来たことは無いんだよな?」

「はい神子様。僕たちは満月の夜に来ることができなかったので……おそらく満月の時だけ、あるいはほかにも条件があるんだと思いますが」

「姉さん、姉さんは何か覚えてない?」

「ここは見覚えがないわ……私は気が付いたらシルヴァラントの平原に立っていたもの」

「ではさらに特殊な条件が……?」

 アステルはさらに考え込み始めてしまった。リヒターは肩をすくめてアステルのそばに立つ。……ああ、先生もよくこうなってたなあ、と思い出すロイドである。

 さて。

「なあエミル、手分けしてちょっと周囲を―――うん?」

 見てこないか、と言いかけた時だった。

 

「間違いないんでしょうね? ……うん、そう、わかったわ。このあたり?」

 

 知らない女性の声。

 こんなところに人が? 魔物が徘徊する場所で?

 しかし明らかにひとの言葉を話す存在に、一行は姿を隠すのは間に合わなかった。

 

 ―――それは、ヒトではなかった。

 

「あ、侵入者ってあんたたちのことね?」

 それは空中を滑るように泳いでいた。ヒトの少女の形に似ていたが、しかしその手足の先端は鋭く、長い。髪は水色、だが先端で魚の尾びれのように変化し、髪ではなくなっている。体は白と黒に黄色のライン。

 その姿はヒトというよりも、

「ま、魔物がしゃべった?!」

「一緒にするんじゃないわよ!」

 驚き叫んだジーニアスに、それは即座に言い返した。

「バカにしてんじゃないでしょうね? アタシには、センチュリオン・アクアって名前があるんだからね!」

「セン、チュリオン?」

 リフィルが何か考え込む。ロイドもどこかで聞き覚えがある気がする。が、思い出せない。

「とにかく、ここはヒトがくるところじゃないの。帰りなさい」

「って言われても……俺たちどうしてここに来たのかもわからないんだ」

「?? ふうん……??」

 アクアと名乗ったそれはロイド達を見回し、ヘンな顔をした。

 しばらくして、

「あんたたち、ちょっと待ってなさい。あの方に伺ってみるから」

 と、そのまま立ち去るそぶりを見せた瞬間に。

「あ、待って! 僕も行かせて!」

「アステル!?」

 リヒターが止めるのも聞かずに、アステルがアクアの前に飛び出す。

「会って、ちゃんと説明したい」

 アクアは真剣なアステルを見、ロイド達を見、頷いた。

「いいわ。アタシだけじゃうまく説明できそうにないし」

「なら俺も」

「アンタはダメ」

 リヒターは即却下された。

「なぜだ」

「言ったでしょ、ここはヒトが立ち入っていい場所じゃないのよ」

 リヒターは納得などできない様子だ。当然だろう。だがここは確かに、ロイド達の常識が通じそうな場所ではないのは分かる。

「……じゃあ僕が付いていくよ。それならいい? 余計なことはしないからさ、ね?」

 エミルが立ち上がる。アクアはすっごく悩んだ顔をして、仕方ないからしぶしぶ、という様子で頷いた。

「わかったわ。そっちはここを動かないでよ。ほんとーーーに特別なんだからね! うろうろして死んでも知らないんだから!」

 そういうと、アステル達が付いていくのも待たずにさっさと先を行く。二人は一行に手を振って、アクアの後を追いかけていった。

 

「大丈夫だよリヒター。エミルが付いてるんだもん」

「ああ、……そうだな」

 

 

 

……………………………………

 

 

「―――あーもぉつっかれたぁあ!」

 しばらくアクアの後ろを追いかけていたアステルだが、いきなり頭に重みがかかって足を止める。

「つかれた! アステルさんのせてー」

「はあ……アンタ変わんないわね」

 アステルの頭に乗っているそれは、アステルからは見えないがきっと小さな獣のような姿をしているのだろう。黄と茶色の艶やかな毛並みで、ぱっと見キツネかネコにも見えるが、頭に小さな角がある、中くらいの獣の形を。

 そしてアステルの後ろを歩いていた『エミル』はどこにもいないのだろう。

「アンタ飛べるでしょ。自分で飛びなさいよ」

「細かいこと言いっこなしだよー。もうずっとがんばってヒトの形を維持してたんだからちょっとくらい休んでもいーでしょ? 主のとこにつく前にはちゃんとするったら」

「僕は構いませんよ」

「ほら見なさい! んへへーアステルさんやさしい~」

 といいつつ、それは頭に着地? したときこそちょっとした重みがかかったが、それ以降はほとんど重くない。むしろ軽い。口ではこんなことを言いつつ気を遣っているのか、それとも彼女たち『センチュリオン』には物質的な重さなどないのか。

 アクアが先導を再開したのでアステルも後に続く。

「そういやアクア。マナの調停は大丈夫?」

「ちゃんとしてるわよ。アタシたちに『返し』たあとも、ウンディーネ様がすこし手伝ってくださるからなんとかね」

「うわ、いいな。ノーム様とかノータッチだよ?」

「そっちはまだあの陰犬が寝てるんでしょ? あんたも苦労するわね、ソルム」

 彼女らは互いに軽口を叩いて話がはずんでいる。人間の同僚と変わらないんだなあ、とアステルは思った。サイバックの皆が少し懐かしい。

「あ、ところでさー、―――アクアなんでここにいるの?」

 声色は同じ、だが一瞬空気がピリッとする。

「……来たのはついさっきよ。あの方に呼ばれて『ここ』に来たら、奥に行く前にあのネレイスが飛んできて、ソルムが人間を連れてきたっていうから様子を見に来たの。……そっちこそなんでここに人間連れ込んでるのよ」

「んーそれは、」

 

 アクアが止まる。アステルも同じように。ソルムがアステルの頭から降りた。

 それは壁だった。アステルには壁にしか見えなかった。アステルにはマナなど見えない、だが辺りを漂い、壁の向こうに吸い込まれていく光はきっとマナなのだろうと直感した。

 

「主様の前で説明するよ」

 

 ソルムが壁に触れると、……壁だったものに、大きな穴が開いていく。

 扉が開いていく。

 

 その奥に、―――アステルがずっと探していた存在が待っているはずだ。




大変にお久しぶりでございます……続きが書きたくなって戻ってきてしまいました。
恐らくここの感想、評価等の通知が届かなかったらまた書こうとは思わなかったと思います。この場を借りて御礼申し上げます。本当に本当にありがとうございます。
気がついて夜中にベッドから飛び起きまして、そこからプロット練り直しました。そしてここまで半年以上かかってしまいました……

今回テセアラ編突入してからずっと仕込んでいたものと、この話を書き始める最初から浮かんでいたシーンを書けたので満足です。

これまでの話、どのシーンがどっちなのかは一応分かるように書いてきたつもりですが、全部分かって読んでいた人がいたら、悔しいような嬉しいような……

よろしければ、また気長にお付き合いくださいませ
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