幻 作:とうたく
「それはなんだい?」俺が尋ねると、悪魔は本を開きながら言った。
「これには貴方様の人生が記載されております。今後貴方様の人生がどうなるのかは、これを読めば分かります」
「なんだって? そんな便利なものがあるのか。見せてくれよ」
「……いえ、申し訳ありませんが悪魔専用ですのでお渡しすることはできません。これがないと商売になりませんので」
なるほど、確かにそれがあれば俺一人で事故を解決する事も出来るかもしれない。商売道具を客に渡すわけにはいかないということか。
「そうなのか。まあそれならいいけど、とにかく証拠とやらを見せてくれないか」俺が促すと悪魔は小さく頷いた。
「かしこまりました。それでは貴方様にこれから起こりうる不幸を一度だけ予言し、回避出来る事をお見せ致します」
悪魔はそう言って立ち上がり、玄関の方に向かった。
「貴方様には今から不幸が訪れます。実は私がわざわざ深夜のこのタイミングで訪問致しましたのも、それが理由でございます。まずは最初の不幸を回避する為、こうしてこのような時間に来た訳です」
「深夜に来たのは今から不幸が起こるからってこと?」
「はい、そうでございます。それでは、そこではなくこちらの……ベッドの方へお座りになって下さい。そこにいれば不幸を回避する事が可能ですので」
「こうか?」
「はい、そうでございます。それでは私もこの場にいると巻き添えになりかねませんので、一旦外に出させて頂きます。失礼しました」
悪魔は礼儀正しくお辞儀した後に、玄関のドアを開け出ていった。その姿を俺は呆然と見送って、時計を見た。今は午後の十一時だ。もうそろそろ風呂に入らねばなるまいが、不幸とやらが来るのをとりあえず待ってみることにしよう。
そう思って、ベッドに置いてあるスマホを手に取った。
その時だった。
耳を劈くような激烈な爆音が窓の外から鳴り響いた。俺が驚き顔を上げると、外は真っ白だった。正確には光り輝いていて眩しくて、私思わず目を瞑ってしまった。
外で響いている爆音は次第にその音量を増し、メキメキとなにかが擂砕かれているような音に変わった。同時に予想外の大音響が空気を掻き混ぜる。これはガラスの割れる音である。
俺は気付くと腕で顔を覆っており、縮こまって恐怖に身を震わせていた。その音もそうだが、暴力的な光の爆発が最も直に来た俺への衝撃であった。目眩を起こしてくらくらと不安定な視界を無理矢理こじ開けると、そこには潰滅した自宅があった。
「ははは……」
気付いたら苦笑している自分だけが残っていた。トラックが突っ込んだのだ。築何十年の木造のアパートは容赦なく打ち砕かれて、見るも無残な姿となっていた。