幻 作:とうたく
俺は目を覚ました。意識が蘇り、突然の事で一瞬だけなにも考えられずに呆然とする。
「ここは……」辺りを見渡すと自宅だった。それも、崩壊していない自宅である。
「お気付きになられましたか?」
「……! 悪魔! さっきのはなんだ!? 夢だったのか?!」俺は焦りながら悪魔にそう聞いた。体中汗だくだった。Tシャツが肌に張り付いていて、額は酷く湿っている。
「いいえ、現実でございます。先程のトラックは貴方様の家に突っ込み、また貴方様に重症を負わせる予定でございました。それを回避したということです」
「……じゃあ、なんでこの家は無事なんだ? それにあのトラックはどこにいった?」
焦って聞く俺とは対照的に、悪魔は余裕綽々といった表情だった。それが俺を苛立たせ、より大きな焦りを産んだ。
「家くらいでしたら私が復元することが可能です。所詮『物』ですから。トラックには帰ってもらいました。運転手に記憶操作を行いましたので。音に釣られてやってきた人達も記憶だけ消して帰しましたよ」
「……そうか」
悪魔とやらはそんな事も出来るのだろうか? 俺は先程の体験をしていなかったら、悪魔の今言ったことは信じなかったと思う。だが、確かにトラックは家に突っ込み、確かに俺は助かった。夢なんかじゃない。悪魔の話は嘘ではなかったし、だから今話してることにも信憑性がある。
「しかし……本当に不幸が起こるとは思わなかった」
「今から半年間、貴方様は不幸のどん底にいます。ですが私達が協力する事によって、それは回避することが可能ということです。これで分かっていただけましたでしょうか」
「……分かった、分かったよ嫌というほど分かった。言うことを聞くよまだ死にたくないんだ」
俺は頭を抱えた。まさか俺がこんな目にあうなんて、誰が想像出来ただろうか。こんな所で人生を終えるのは馬鹿馬鹿しい。いや、理不尽だ。俺は今まで善良な一般市民として真面目に働いてきた。休日にはボランティアにも参加し、募金だって人一倍くらいはしてきたに違いない。悪い事は何もしてないのだ。
「現実は因果応報という訳にもいきません。貴方様のようにとことんついてない人もいらっしゃいます」
「……でも、今まではそこまで不幸ではなかったはずだ。どうして急に?」
「それは、ある人が原因です」
「ある人?」
「貴方様は本来今日ここで事故に合い病院に入院致します。命に別状はないのですが、そこである人と出会い、そこから不幸が深刻化するのです」
「事故以外はそいつが原因ってことか?」
「左様でございます。事故で入院した貴方様が、自殺未遂で入院したある人に目を付けられた事により、不幸のどん底まで叩き落とされるということです」
「ちょっとまて、自殺未遂ってなんだ?」
「その人は明日自殺未遂で入院致します。飛び降りですが、高さが足りなかったのです」
「なんだって? それは止めないと」
「どうしてでごさいますか?」
「どうしてって……」悪魔が真顔で聞いてきたので、俺は困った顔をする。人が自殺しようするのを止めるのはいけない事なのだろうか。
「とにかく、契約して頂けるということで宜しいでしょうか?」
「……ああ、契約するよ、契約する」
俺は投げやりにそういった。実際、それ以外に俺が助かる術は無いのだから。
「かしこまりました。それでは魂は、貴方様の依頼が成功しても失敗しても、その時頂く事に致します」
「……いや、ちょっとまて、失敗なんてものもあるのか?」
「時と場合によってはそのような結果になる可能性もございます。ですが尽力いたしますので心配なさらないで下さい」
「……もし失敗したらどうするんだ?」
「そこで終わりです。それか、魂の4分の1をもう一度払って頂けるなら再契約し、死ぬ少し前に戻すことが可能です」
「なんだよそれ、冗談じゃないぞ。失敗しても俺の責任じゃないはずだ」
「責任……? 申し訳ありませんが分かりかねます。契約は契約ですので、それ以上も以下もないかと」
悪魔は表情を崩さなかった。やはり人間ではないのか、時に冷酷で慈悲を見せない。俺はそういうものかと納得させるように何度か頷いた。
「……そうか。だが、手は抜かないよな? 俺が死んだ時の方が、お前らに都合の良い用に思えるけど」
「いえいえ、そこは心配に及びません。先程も申しました通り契約は契約ですので、全力を尽くします。我々の信用にも関わりますので」
「そうか、ならいいよ。とりあえずは……」
「もう帰ってくれないか、少し疲れたんだ」俺は続けてそう言った。一日にこれだけ多くの事が起こったのではパンクして当然である。頭がくらくらして、頭痛もする。
俺はベッドにもう一度横たわった。それを見た悪魔は丁寧にお辞儀をして、玄関から出ていく。
今後どんな幸せな事があろうと、俺の気分は晴れそうにない。不幸のどん底とはこのような事を言うのか。
電気を消してから風呂にも入ってないことに気付いた時には夢現であった。意識が遠退いていく中、自分の運命を恨んだ。