暗闇に鈍く煌めきを放つ大剣を片手に俺はゆっくりと歩を進める。
濁った気配をかすかに感じることはできるが、残念ながら詳しい位置まではわからない。
そのためいつどこから攻撃が来ても反応できるよう俺は気を張りながら廃屋の中を虱潰しに歩いていた。
カランコロォンッッ
10時の方向から物音が聞こえてくる。
音からして金属パイプが転がったような音だったが、この廃屋内では音がかなり反響するため、距離がつかめなかった。
「少しやっかいだが…仕方ない、誘いに乗ってやるか…」
音のしたほうへ全速で走り出し、はぐれを探す。
100メートルも動いたであろうときにわずかに空気の乱れを感じた。
すると上から鋭く尖ったナイフのような爪が首を刈るように降ってきた。
「くたばれぇぇぇ!!」
声の主はおそらくゲーシャル!
予想より幾分早かった攻撃に俺は身をよじらせ回避する。
「ちっ…なろっ!」
間一髪で首への斬撃を避け、逆に右手に持っていた大剣を振るう。
その斬撃は軽くよけられ、俺の目の前約10メートルにゲーシャルは降り立った。
「はじめまして、はぐれ狩りの者よ。
私はゲーシャルという、はぐれ悪魔だ以後よろしく頼むよ。
それにしてもあの爪撃をかわすとは年の割にはなかなかやるじゃないか。」
ゲーシャルと名乗ったその悪魔はドラキュラのような格好をしている男だった。
鮮血のように赤く揺れるマントにコウモリのモチーフのようなシルエットは依頼受注時に見た外見とはかなり変わっていた。
「自己紹介ありがとうな、俺はフリーのはぐれ狩りをしているシルバーと名乗っている。
そっちこそ俺の剣撃を軽くかわしといてよく言うぜ。
こりゃ苦戦しそうでやんなっちまうよ。
アンタ、はぐれにしてはまともに話ができそうだし、大人しく捕まってくれないか?」
「フン、大人しく捕まったところで殺されにいくようなものだ。
そんなところに行くのは愚か者以外ないな。
私は血を見るのが好きでね、君の血も今見たくなってきたところなんだ。」
言い終わると共にゲーシャルは両手を前に突き出した。
ヤツの手のひらに魔力が高まっているのを感じ、オレの体中が警戒しはじめた。
「ナイトレイドォ!!」
ヤツの手のひらから暗黒の瘴気と共に無数のコウモリが俺に向かってきた。
俺はすぐに後ろへ飛び退き、同時に右手の大剣、「テンコマンドメンツ」を発動する。
「真空の剣《メル・フォース》!!」
剣の形が変化し、大剣から風を纏う小ぶりな剣へと姿を変えた。
そして俺が力を込めると、風の衝撃波が周りのものを巻き込みながら渦を巻いてコウモリ達を蹴散らしていった。
そして俺は後ろに剣を向け再び真空波を発動しゲーシャルの元へ急速接近した。
「なにぃ!?ナイトレイドを簡単にっ!
ならばっっ!
ブラッディ・ストリームッッ!!」
ヤツの右手から赤く光る光線が発射された。
光線は壁やガレキなどを貫通しながら俺にせまっているが、俺は特に慌てることなく
「音速の剣《シルファリオン》」
剣が再び形を変え、丸みを帯びたさらに小さい剣へとなった。
剣を変えた瞬間から俺の速度は先ほどと比べものにならないほど早くなり、ヤツの光線など 恐れるに足らないものだった。
ブラッディ・ストリームを難なくよけ、ゲーシャルの背後へ移動し、シルファリオンで心臓を一刺し…………
するはずだったのだが、俺はヤツへ剣を刺す直前何かにぶっ飛ばされ 廃屋の柱を二、三本ぶっ壊しながら壁へ激突した。
ガラガラと音を立てて崩れていく後ろの壁を背に俺はなにが起こったかを頭の中でかんがえていた。
「っってぇ……完全意識の外から入れられたせいでまともな防御できなかったなコンチクショウ……
っ何が起こったんだ、ブラッディ・ストリームとやらはかわしたはずなのに、……くそっ…」
全身の激痛に耐えながら俺は思考を張り巡らせていた。
手元の大剣は今は通常形態へと戻ってはいるが、ゲーシャルを刺そうとした時は確かにシルファリオン、つまり高速形態だったはず…。
その俺が気づくことができない速度の攻撃を食らったのは考えられなかった。
よしんば、そんな攻撃を受けたとしたら俺にはそいつは恐らく相手にできない……
このまま退却することを考えたとき、ブラッディ・ストリームをかわしたときに見たゲーシャルの行動を思い出していた。
あの不自然な手の動き…
もしかして…
考えをまとめた俺は自分の位置とゲーシャルの位置とを確認するためひとまず起き上がり、ゲーシャルの気配を探る。
ヤツはあの位置からあまり動いていない…それどころか弱っているのを感じる。
シルファリオンの攻撃が少し当たっていたのか?
そんなことを考えながら、俺はシルファリオンを発動しヤツの元へ向かった。