ベジータが混血児の量産に賛成していたら 作:スーパーナッパ
基礎組とダッシュ、ほふく前進、筋トレ、柔軟など体作り中心のメニュー。中級組はそれに加えて組手。ヤムチャの教える上級組は亀仙流で、甲羅の代わりに重装備を身に付けさせた。また、牛乳配達の代わりに妻候補や兵に飲み物を配り、畑を耕す代わりに塹壕を掘った。
もともと気の強い女性たちばかりだったこともあり、教官に不平を言うことは多々あった。しかしちょっとでも手を抜けば、瞬時にベジータがやってきて、お尻を平手で打つのだった。
「あぎいいいい! いったあああああい!」
これで何度目か。パァーンといっそ気持ちいいくらいの肉が叩かれた音。その後、甲高い悲鳴が続く。
「真面目にやるんだな」
「は、はひっ。すみません」
ベジータの氷のような鋭い視線と、目に見えぬ圧倒的何かに、力自慢の女性達も逆らうことはできなかった。
訓練が2時間も続くと、屈強な女性達にも疲労の色が見え始める。ベジータは効率化のための休息は認めたが、回復すると即座に訓練を再開させた。特に基礎組の女性達には耐性のないことだった。
「よし! ダッシュラスト! ただし最下位だけもう一回だ!」
教官役の兵士は徐々に状況に慣れ始める。ベジータの点数を稼ぐために、指導と称して罵倒や体罰を加える者が出てくる。女性たちが美人と言うこともあり、にやにやしながら。
「くっ、あの野郎。雑魚のクセに」
「はあ、はあ。後でぶっ殺す」
射殺さんばかりに教官を睨む女性達。しかしベジータの手前表立っては反撃できない。笛の音に合わせて飛び出る。
「はあ、はあ、はあ」
「ふっ、ふっ」
「くっ。なんて速さだ」
女性達の中で一段と小柄な少女が、集団に大きく離されていく。柔らかなボブの金髪と、青の鋭い瞳が印象的な少女だった。
「おい貴様! 遅れてるぞ!」
「もっと腕を振れ! 90度!」
「足を上げろ!」
少女は明らかに10代前半。それ以外は10代後半から30手前の女性ばかりで、体力に大きな隔たりがあった。
教官の暴言罵倒を浴びながらも、足はそれ以上早く動かない。当然のように最下位でゴールした。
「オラァガキィ! やる気あんのか!」
「王をガッカリさせるなよ!」
「もう一回だ! さっさと走れ!」
その時、男が少女のお尻を軽く蹴った。
「くっ」
少女は反射的に後ろを睨む。男は嫌らしい顔でにやついていた。
「どうした? その反抗的な態度は」
「教官に逆らうとはしつけがなってませんな。これはもう2本追加でしょう」
「だな。それも全力で走らなければならない。自己ベストより遅かった場合はカウントしなくていいだろう」
「なっ」
少女が睨んだ男の近くに別の男達がぞろぞろと群がっていく。皆嫌らしい笑みを浮かべている。
「じょ、冗談じゃないよ! やってられるか!」
「まだ立場が分かってないらしいな。いいだろう」
教官役の男は手に警棒を持ち、脅すようにパンパンと反対の手に叩き付ける。
「調子に乗りやがって! ぶっ殺してやる!」
しかし少女はさらに興奮し、男に飛び掛かった。
「なっ、くっ」
男は警棒を振り回して応戦する。しかし少女が思ったよりずっと早く、懐に入られてしまう。
「クソガキ! 真面目に走って無かったな!」
全力と思われるスピードは、完全に己より早い。しかしパワーはそれほどでもなく、タックルを受けても2、3歩下がれば受け止められた。
が、そこで少女は男の足を引っ掻ける。懐に頭を付けたまま、見事な身のこなしで。
「むっ」
気付いた時には遅かった。男は踏ん張ることのできない体勢で中に浮いていた。
「このォ! 死ね!」
転ぶ寸前に男は警棒を振り回す。少女の左腕から側頭部にかけて命中する。しかし男は転んだ。
「うおらぁああああああああああああ!」
「ぐっ、くくっ」
馬乗りになった少女は間髪入れず殴りにかかる。獣のような雄叫びを上げ、何度も拳を振り下ろす。
「な、貴様ああああ!」
「くっ」
しかし、そこで今まで見ていたの男達が動く。
まず近場の男が少女に体当たり。警棒によるダメージもあって反応しきれず、少女は吹き飛ばされ、地べたを転がる。
「万死に値する!」
「覚悟はいいな!」
男達がワッと少女に群がって行く。
少女は痛みに顔を歪め、左腕を庇いながら、よろよろと立ち上がった。
「まずは地べたに頭をつけて謝るんだ! そうすれば打撲くらいで許してやれるぞ!」
「青あざの数がいくつになるかは分からんがな!」
「きれいな顔だけは殴らないでおいてやろう。くっくっく」
「さあ謝れ!」
謝らせた上で、集団でタコ殴りにする。それがここのルールらしかった。こうやって従順な兵士に育てていくのだろう。
しかし少女の戦意は衰えていない。
「し、死ね。バーカ」
少女は痛みに歯を噛みしめながら、男達を嘲笑うように目じりを下げた。
一瞬の静寂の後、男達の怒りが爆発する。
「半殺しだ!」
教官の声と共に一斉に少女に飛び掛かる。
少女は矢のような速さ右側の男に突っ込む。スピードと技術で押し且つが、吹き飛ばす程ではなく、揉み合いになる。
その間に、後ろから例の教官がやってくる。そいつは少女が目の前の男に手いっぱいなのを確認すると、にやりと口端をつり上げ、警棒を振り上げる。
「ちっ」
少女は気付くが、避けられない。
「死ねえっ!」
男の雄叫びに、万事休すと目を閉じる。しかし衝撃はやって来ず、代わりにガンッ、という鈍い音と、男の間抜けな悲鳴が聞こえた。
「がぺーっ」
男は叩かれた鐘のように震えながら前のめりに倒れる。その後ろでは、男を倒しただろう女性が、ハイキックの足を掲げたまま立っていた。
「へっ! いい根性してんじゃねえか! 気に入った!」
カールした金の長髪と鋭い緑の瞳が特徴的。体の凹凸ははっきりしており、女性らしからぬ身軽な服装のために、それらの露出も多かった。
「なっ、指令!」
「貴様ァ! 何のつもりだ!」
「教官にケガを負わせるなど言語道断! 反逆罪だ!」
少女に向かっていた男達が、一斉にその女に突っ込んでいく。
女は突然しゃがむと、その低い体勢のまま恐ろしい速さで正面の男に突っ込んだ。そして直前で体をひねり、腕を振るう。
「ぶへぇっ!?」
バギャッ、と骨が折れる音と共に男は回転しながら横へ飛んでいく。
その様に他の男達が怯む。しかし女はその隙を突く。
「がっ」
「うわああああ!」
「は、はやっ」
「おい! あいつ警棒持ってるぞ!」
「ええっ」
女は最初の男に突っ込んだ時に、教官の落とした警棒を拾っていた。それを使いながら、男勝りの力で顎やスネを的確に殴るもんだから、男達は一撃で倒れ、次々と地べたにうずくまっていく。
「す、すごいっ」
少女は呆気に取られながら、鬼神のごとき女性の活躍を見ていた。
「ひ、ひええええ!」
「王よ! 反逆者です! こいつ言うこと聞きません!」
無事な男達は助けを請いながら逃げていく。やがて基礎組に立ち上がっている男はいなくなった。
さすがにここまで騒動が大きくなると別組の人間も皆基礎組に注目し始めていた。それと同時に場の緊張感が急速に高まって行く。問題は、ベジータが彼女達を許すかどうかだった。彼の意志次第で簡単に殺されてしまうのは分かっていた。
「助けてください!」
「あいつ化けもんです!」
逃げた男達は上空のベジータに話しかける。王は女性の尻を平手打ちする時以外は上空でジッとして、睨むように訓練を眺めていた。
そのベジータが、不意に視界から消える。ヤムチャが数瞬の後気付く。ベジータは情けない嘆願をしている男達の背後にいた。
そして不意に男達の首根っこを掴むと、真上に放り上げる。
「う、うわあああああ!」
「ひゃあああああ! な、何をおおおお!」
ベジータは不機嫌そうな顔で上空の男達を指差した。
「はっ」
声と共にベジータの体から何かが発される。数瞬遅れて、ボンっ、という音と共に男2人が破裂した。
「汚ねえ花火だぜ」
ベジータはそう言うと再び上空に戻って行く。
訓練所は先ほど以上の静寂に包まれた。誰も動くことさえできない。特に男達は、現王が味方ではなく侵略者だったこと、その時の数刻前の凶暴さを思い出し、恐怖に囚われてしまう。女性達は死という概念自体に耐性がなく、それを呆気なくやり遂げてしまった狂王にえも知れぬ恐怖を抱いた。
「訓練を再開しろ! 死にたく無かったらな!」
ベジータの怒鳴り声に女性も男性も飛び上がり、いそいそとそれぞれのトレーニングを再開した。
ベジータは軟弱な男にムカついたから殺したのだが、その説明はなかった。しかし眼下の人間達は『助けを請うと消される』『女が問題を起こしても男が消される』『女に負けると消される』などと各々邪推した。結果、男も女もとにかく問題を起こさぬよう慎重になり、余計なことをせず黙々とメニューが昇華されていった。
ベジータは昼食の時間になるとどこかへ消えた。毒を盛られる可能性があるから、自分の食料は全て自分が調達する。はっきりとそうは言わなかったが、ヤムチャにはそれらしきことを告げた。