ヱヴァンゲリヲンFIS-もしシンジがイノベイターなら- 作:るーしー
タイトルやサブタイトルにはルビが使えない事がちょっぴり不満だったり。
目覚めたシンジは、まず台所に直行し、炊飯器のスイッチを入れてから浴室に向かった。
セカンドインパクト以来の異常気象で、日本の気候は温帯から亜熱帯に変化しており、朝風呂を習慣とする人は多い。
軽く冷水のシャワーを浴びたついでに、
鍋に水を張り、IHクッキングヒーター(電子コンロ)の火力を大に合わせる。米が炊かれる匂いが食欲を誘う中、冷蔵庫から卵と青菜、前日のおかずを取り出す。
卵と青菜を調理台に置いてから、昨日の夕飯に供された
シンプルで使いやすいシステムキッチンに戻ったシンジは、
鍋の水はまだ沸いていないし、フライパンも熱くなるにはもう少し掛かりそうだ。
流しに置いた
汁椀に卵を割り入れて菜箸でかき混ぜる。丁度よく熱せられたフライパンに溶き卵を注いで卵焼きを作り、皿に移す。
沸騰した鍋の電子の火を一度止めて、青菜を突っ込み直ぐに取り出して俎上に戻す。鍋のお湯を捨て、新たに水を入れ再度電子の火に掛ける。
沸騰した鍋に大根→豆腐→ワカメの順に入れて最後に出汁入りの味噌を加えてひと煮立ちさせる間に、青菜の水を切り、適当なサイズに切って出汁醤油と擂(す)り胡麻(ゴマ)を軽く振りかけてお浸しを完成させる。
「ふふっ……」
味噌汁とお浸しを
その時、背後に人の気配を感じた。誰かは判っている。
体重は羽のように軽い上に、あまり汗をかかない体質らしく、フローリングの床は微かにヘタヘタとした音しか立てることがない。
「おはよう、レイ」
誰かの為に食事を作る事の楽しさを、知る切っ掛けとなった少女に振り向いて、シンジは微笑んだ。
「おはよう、シンジくん……」
シンジから借りた――彼が殆ど着ない為、貰った近い――ロングスリーブのYシャツを羽織ったレイもまた微笑んだ。
脳量子波を介さずとも、レイが幸福を感じている事が何となく分かる。シンジの脳量子波と引き替えに、2人は家族を得たのだ。
ヤシマ作戦の後、病室で目を覚ましたシンジは
その事に驚きはせず、どうにも常に眠気があるような感覚の、原因を知る事が出来たと納得した。
もう一つリツコが告げたのは、流れ弾か落下した兵器の破片によって、レイのマンションが文字通り粉砕されたという事だった。
レイが住処を失った事を聞いたシンジがした提案に、リツコは驚いた表情をした後、人の悪そうな笑みを浮かべて、その提案を受け入れた。
ただ、シンジと同居しようとした時、彼の
その後、レイの為――ケーキを用意した程度の――ささやかな歓迎会に、
「
「えー、カタいコト言わないでさ~」
シンジが目敏く見付けた大量のビールについて指摘した所、ミサトは強引に侵入しようとするが、力尽くで叩き出された。
「ふん、
目を回しているミサトを哀れむ様な目で一瞥してから、ちゃっかり玄関の脇に待避していたリツコは部屋に上がった。
食卓に並べられたのは、白米、大根とワカメの味噌汁、卵焼き、青菜のお浸し、
欲を言えば、もう少し
尤も、肉や魚は駄目ではあるが、卵やゼラチンなどは平気である事から
現在、対外的に2人は同居している従兄妹と云う事になっている。
シンジとしてもレイとしても、特に互いの呼び方を改める気はなかったのだが、学校にて些細な一件から同居が発覚し、その際の
無論、簡単に年頃の男女が同居する事に納得するような、中学生達ではないが、あの
尤もそれが方便である事を、レイは分かっているようだ。
同居を開始した当初、レイは素っ裸でリビングを闊歩したりしていた。訊いてみれば、服を持っていないそうなので、シンジが自分の服を自由に着てよいと云ったのは記憶に新しい。
しかし、シンジが以前の学校にいた時分に購入したはよいが、お蔵入りしていたYシャツをいたく気に入ったらしく、全裸が半裸になった程度である。
それでも
食後、牛乳をレイのコップに注ぎながら、シンジは口を開いた。
「今日の進路相談は、最上アオイさんが来るらしいよ」
「誰、その人?」
「MAGIメルキオールの主任オペレーターだよ。彼女が適任だってMAGIが判断したらしいよ」
当初、ミサトが保護者代理として来ようとしていたらしいが、リツコが偶々出来た暇なときにシミュレートして、アオイの抜擢を決定したと聞いた。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
その挨拶をシンジは何となく云っている。レイは口元に満足を湛え、肉を食べられない己に気を遣ってくれる感謝もこめて云った。
食事が終わると、汚れた食器を軽く濯いで、片端から食器洗い機に放り込む。ちなみにこの食器洗い機は最新型である。
シンジのパイロットとしての給料は、既に十年くらいなら遊んで暮らせるくらいの額に達しており、金に明かせて、洗濯機などの家電は最高級品を揃えている。
基本的にシンジは弁当を作らない。毎日の陽気では痛むのも早いので、購買や学食を利用しその場で済ませてしまう事にしていた。
しかし、今はレイもいるので、あまり妥協をしたくない。結論として便利グッズを通販で購入し、毎日弁当を作って持って行くようになった。
後片付けを終え、身支度を調えた2人は玄関で靴を履いた。
「いってきます」
「いってきます」
誰も居ない部屋に挨拶が響く。
隣の少女以外の物事への関心が薄いシンジだが、レイから伝わる気持ちを大事にしようと心をこめて……。
無表情に見えて物事に真剣に取り組むレイは、生きている事を祝福してくれた少年と共有する空間に想いをこめて……。
それぞれ、挨拶をした。
旧東京台場跡地に行ったミサトからの緊急連絡を受けた日向は、申し訳なさそうに告げた。
「今は東京に向かわせられる機体がありません」
「はあ!? 修理中の零号機はともかく、初号機は動かせるでしょ!」
「今、初号機は技術部の管轄になっていて、僕らには権限が無いんです」
ミサトによると、
実験管制室で第二次特殊連動解析実験の指揮を執っているリツコに、日向から連絡が来た。
「何の用? 今とても忙しいのだけれど……」
この実験の重要性を誰よりも確信しているリツコの態度は刺々しかった。尻込みしながら用件を伝えた日向は、早々にミサトに替わる。
JAを止める為初号機を使わせろと云うミサトに、辛辣な言葉と皮肉を叩き込んでリツコは回線を閉じる。
その後日向へと繋ぎ、今日は使徒襲来かそれに準ずるような非常事態以外で連絡を入れるなと念を押した。
受話器を乱暴にラックに叩き付けたリツコは、実験用エントリープラグを搭載した初号機に乗るシンジに声を掛けた。
「どう? ラミエル戦の直後と比べて」
ヤシマ作戦後の最初のシンクロテストで、シンジのシンクロ率は30%以上急低下し、エヴァの操縦も思う様にいかなくなっていた。
それ故にこの実験の重要度は高まっていた。
「良い感じです。以前程では無いですけど、反応も悪くない」
「それは良かったわ。シンクロ率も若干ではあるけど回復しているし、これなら以前以上の戦闘力を発揮するのも不可能ではない筈よ」
回復した数値は数%程度だが、それは未だシステムが完全ではないからだ。
リツコはいずれシステムが完成すれば、理論上、現在の状態から初号機の性能が50%向上する程の効果が見込めると踏んでいる。
脳量子波を失って弱体化したとは云っても、シンジの反応速度も操縦技術も高い水準を保っている。
それだけにこのシステムへの期待も大きかった。
夕方になって、リツコの代わりに旧東京に赴いた加賀ヒトミを伴って、ミサトが第三新東京に帰ってくるや否や、リツコを睨み付けた。
結局、炉心融解直前で非常システムが作動し大事は免れたが、
「ミサト、使徒撃退こそが最優先事項よ。そしてその為のエヴァンゲリオンなの、その事をよく理解して欲しいわ」
そう云ってミサトの視線を涼しい顔で受け流す。
そして今日の成果と、
ヨーロッパ地方、地中海に出現した使徒を叩く為、ネルフユーロ・ドイツ本部からエヴァンゲリオン弐号機を乗せたウィングキャリアーが飛び立った。
エヴァ空輸の為に開発された全幅300メートル超の全翼機は、機体中央下部にエヴァを固定する巨大な溝が機首付近にまで続いている。今回のフライトはイタリア南部の沿岸までだ。
エヴァという巨大な物体を搭載して、数百~数千キロメートルもの距離を飛行する史上最大の航空機には、船舶と比較しても遜色ない居住スペースがあった。
エヴァパイロット向けに
ドイツの保有するエヴァンゲリオンは弐号機のみ。当然その輸送機も1機だけである故に、この部屋は事実上唯1人のプライベートルームだ。
エヴァ弐号機専属パイロット、惣流アスカ・ラングレーはプラグスーツに身を包み、キャビンで1人ティータイムと洒落込んでいた。
アスカは赤毛のブロンドロングヘアーを、インターフェイズヘッドセットでツーサイドアップに結い、端正な顔立ちに驕慢そうな大きな目をしている。
彼女は、半分近く残っていた
「もうすぐね……」
初めての実戦に、不安や緊張がないと云えば嘘になる。だが、訓練に於いて、十年近くも好成績を維持し続けてきた自負が、恐怖を武者震いに相転移させていた。
更に、ネルフ総本部では既に3体もの使徒を斃しているのだ。それも碌な訓練も受けていない
「負けられないわよ。アスカ……」
故に今日は全力で
窓に映った碧眼は、紅蓮の炎を灯していた。
エントリープラグへ搭乗する為のエアロックは――エヴァ
構造上、気密が不完全になりがちで、耳が痛くなる――解消の為に鼻を摘んで唾液を飲み込むなど、
アスカは軽やかな身のこなしで、コクピットシートに収まり、速やかにエントリープラグのハッチを閉めた。
エヴァ弐号機の全身を包む、鮮やかな赤い装甲は、専属パイロットの猛々しい気性を表しているようだ。
同色のスーツを纏ってインテリアシートに跨ったアスカは、望遠モニターで捉えた使徒の姿を見ると、エヴァ弐号機の起動シークエンスをスタートさせる。
「LCL Fullung.Anfang der bewegung anfang des nerven anschlusses. Ausloses vou links-kleidung. Sinkio-start」
水面を結晶化させて、海上を歩いてくる使徒は、どこか水飲み鳥に似ていた。
しかし、人工物とも生物とも云い難い、鳥類の頭蓋骨と昆虫そして振り子を
「エンゲージポイントまで後90秒、コントロールをエヴァ弐号機に譲渡します」
「了解。
キャリアーのパイロットから、エヴァ専用ハードポイントのロックを譲渡される。
緊張が高まるが、ゆっくりと深呼吸をしてリラックスを試みると、ほどよい緊張感だけが残った。
目標の暫定呼称を
そんな事を言っていたネルフユーロ司令に倣い、予定ポイントまであと20の位置で、アスカも出撃の号令を取る。
「(行くわよ! アスカ)エヴァンゲリオン弐号機発進! トリィ撃滅作戦スタート!」
アスカの手が無駄のない動きでコンソールを滑ると、固定ロックが解除され、うつ伏せで固定されていたエヴァ弐号機が、ゆっくりと後方にスライドし、宙に飛び出した。
高空より落下し始めた弐号機の背から、腕を広げた以上の全幅の翼が展開される。肩のウェポンラックを挟み込むように配置された、後方に向いたメイン2機、前方に向いたサブ2機のブースターが起動する。
エヴァンゲリオン空挺用S型装備は、腕部及び脚部の装甲を専用
専用バックパックに繋がる、エヴァが両腕を広げた程もある前進翼と、高性能ターボジェット。
更に優れた空力制御システムと、何より熟練したパイロットの技量によって、エヴァを――限定的ではあるが空中戦を行える――モーターグライダーに変化させる装備である。
弐号機に遅れる形で、この空挺強襲作戦の為に用意された専用武装も、ウィングキャリアーから投下される。
エヴァ専用
しかし連射性で劣る分、命中精度と集弾性は向上している。更に、鉄とカーボンマテリアルの複合素材から成る矢は、貫通力と破壊力という点では比較にならない程だ。
アスカは手慣れた様子で弐号機を減速させ、遅れて落下してくるクロスボウを掴もうとするが、それは叶わなかった。
十数本の先が尖った触手は、稲妻のような鋭角的な軌跡を描いて弐号機に襲い掛かった。
「チッ!」
四肢を僅かに傾ける事で軌道を変え、弐号機は触手を回避するが、クロスボウから離れてしまった事にパイロットは舌打ちする。
更に使徒の追撃、回避した触手は反転して、或いは大きな曲線を描いて再び襲い掛かる。
バックパックから伸びる主翼の操作、腕の振りによる回転モーメントへの寄与、アスカは巧みな操縦で使徒の攻撃をことごとく回避する。
「
だが、現状はジリ貧である。このままでは、
故にアスカは専用クロスボウの回収を諦め、自分に言い聞かせるように呟いた。
「アスカ、作戦をBプランに変更するわよ」
プランAはクロスボウを使用した空中狙撃による目標の殲滅。一見
そしてプランBは、まさに現実的な作戦ではない。だが、アスカの表情に焦燥感はなく、それどころか暴力的に口元を歪めていた。
ジェットエンジンをフルスロットルにして、空中姿勢を安定させると、アスカは弐号機の両腰に装着されていた武器を引き抜いた。
グリップがやや大きいプログナイフに見えるそれは、その実プログナイフを遙かに凌駕する攻撃力を秘めた新装備である。
速度の落ちた弐号機に迫る触手を、短い刀身から伸びた青白い光が切断する。上下左右から急襲する触手を光剣の二刀流が片端から斬り裂いていく。
試作型プラズマソード――基本原理はネルフ日本総本部に配備されているサンダースピアと同じで、プラズマを発生させその高熱とイオン流で対象を溶断する武装である。
違うとすればその
使徒の頭部らしき部分から伸びてきた触手を、半分程切り払った頃、アスカはプラズマソードを投擲した。
投擲された2本のプラズマソードは、使徒の触手に当たる直前で、プラズマの刀身が消えるが、望んでいた筈の成果を得られなかったアスカの顔に動揺はない。
これがプラズマソードの欠点だからだ。小型化したが故の稼働時間の短さ、数十秒程度しか刀身を維持する事が出来ない。
プランBはプラズマソードによる近接戦闘、自由に動けない降下作戦であることを考えれば、明らかに
アスカとしては、より
そして、プランBは“クロスボウの回収が不可能になった場合”における付け焼き刃の作戦だ。逆を云えばクロスボウの回収が
使徒の触手をプラズマの刃で退けながらアスカは、攻撃を回避する為に離れてしまったクロスボウにジワジワと弐号機を接近させていた。
回収したクロスボウは使徒の触手攻撃を数発貰っていたが、使用するのに支障はない。弐号機の右手をトリガーに、左手をサイドグリップに添えると、射撃管制システムが自動起動する。
システムが完全起動するより先に2発速射、投擲したプラズマソードで仕留め損なった触手を撃ち抜く。
機体を旋回させて軸線を合わせると、完全起動した管制システムの恩恵を存分に活用、本体に向かってクロスボウを連続発射する。
新たに生えてきた数本の触手ごと、
頭部を破壊された使徒はあっけない程に、全身を崩壊させていった。
「あっけないものね……!!」
アスカが呟いた直後、崩壊していく使徒の全身が逆再生を見るように再構築されていった。
鳥の骸骨の如き頭部の直下、バランスをとる為の
「そう来なくっちゃあ!」
使徒を斃し損ねたアスカの表情は歓喜、曲がりなりにも自分を
コアの中心を狙い、残弾の全てを叩き込むが、ポイントがコアを貫く事は無くATフィールドに弾かれてしまう。
だが、防御するという事は結論は1つだ。アスカの冷静な部分がこの結果を分析する。
「あれが弱点よ……アスカ!!」
クロスボウが無効化された事に怯むことなく、アフターバーナーを点火、地球の引力を追い越して加速する。
時速500キロで一回転して機体の上下を戻し、右足を突き出す。踝に装着されていた予備のプラズマソードのスイッチを入れる。
「うおぉりゃああー!!」
使徒のATフィールドとプラズマの切っ先が一瞬だけ拮抗するが、パイロットの気合いと共に、弐号機の
さて時も場所も変わり、ここは第3新東京にあるネルフ総本部。
ヨーロッパでの事件について、丁度リツコがミサト達に話し終えた所だ。
「――と、云う事があったのよ」
「ジェットありとは言え
「その
そう云ってリツコは少し冷めてしまったブラックを啜った。
今回は短いです。
クオリティも微妙ですし。
さて、今回の話は第1部と第2部の繋ぎに当たります。
つまりは第2部の予告編だと思えば、クオリティの微妙さも気にならないと思います。
脳量子波を失ったシンジは、2ndシーズンのアレルヤみたいなものです。
でも肉体的には超へ……じゃなくてイノベイターなので身体能力は据え置き。
第1部は原作をなぞった展開でしたが、次回からはオリジナル展開が増えていきますので、お楽しみ頂ければ幸いに思います。