ヱヴァンゲリヲンFIS-もしシンジがイノベイターなら-   作:るーしー

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サブタイトルは、貞本コミックSTAGE.22 アスカ攻撃(アタック)を、ドイツ語にしました。


第5話 Asuka Angriffen

太平洋艦隊旗艦、オーヴァー・ザ・レインボウの甲板に仁王立ちしていた惣流アスカ・ラングレーは、その柳眉を逆立てた。

 

零号機操縦者(エコヒイキ)初号機操縦者(ナナヒカリ)が遅れるってどういう事よ!!」

「いや、アハハ……ちょっちね~」

 

獰猛な野犬の如き勢いで唸るアスカに、件の2人に先行する形でやって来たミサトは思わず後退った。

 

「冗談じゃないわよ! エースたるこの(・・)アタシを待たせるなんてあり得ないわ! 大体実力で選ばれた訳でも――」

 

この場にいない2人に矛先を向ける猛犬(アスカ)を宥めながら、ミサトの表情に安堵が浮かんだ。この状態のアスカに噛み付かれたら、いくら彼女(ミサト)でも洒落にならないかも知れない。

 

だが、激昂していた筈のアスカには冷静な部分が隠れており、ミサトの安堵の息を目敏く指摘する。

 

「ミサト……ひょっとして、アンタの不手際で遅れてんじゃないでしょうね」

 

ミサトの背を大量の冷や汗が伝った。

 

 

 

 

数時間前、ネルフ総本部のパイロット(シンジとレイ)達は長閑(のどか)な日曜の朝を過ごしていた。今日は珍しく、ネルフでの訓練も実験もない。

2人が同居を始めてから約3週間、家事のほぼ一切はシンジが行っていた。

倒壊した旧居における惨状(・・)から判る通り、レイは掃除は言わずもがな、料理などの家事が出来ない。(そもそ)もした事がないと云った方が適切だろうか。

 

一緒に暮らしていればシンジが炊事などを行う姿を、レイは毎日のように見る事になる。自然とレイが家事に興味を持ち、シンジの助けになりたいと思い始めるのに、あまり時間は掛からなかった。

しかし、連日のようにネルフに赴く日々は、レイが家事を覚える為の時間を容易には与えてくれなかった。

そんな日常の中では、貴重な自由な(オフの)休日である。

 

「掃除はクリーンロボットに半分任せてるから、今日は料理の練習でもしてみようか」

 

ラットの様な外見の、床を掃除してくれる小型ロボット家電をかっている(・・・・・)ので――流石に家具の上などは拭いたりするが――碇邸では掃除機の音が鳴り響く事は少ない。

 

「ええ、そうするわ」

 

微かに口元を綻ばせたレイと、練習する料理について相談していた時までは、本当に有意義で長閑な休日の朝だったのだ。

 

 

不意に鳴ったインターホンが、ゆったりとした時間の終わりを告げる鐘であったとは、シンジは夢にも思わなかった。

玄関の自動ドアを開けた先に立っていた人物を見るや否や、シンジは脇にある閉ボタンを押し込んだ。半分程度開いていたドアは途中でスライド方向を反転させる。

 

「見なかった事にしよう……」

 

扉が完全に閉まった事を確認してシンジは呟くが、直後に扉を叩く音と苦手な人物の怒声にげんなりとした。

 

「ちょっと、いきなり閉め出すコトはないでしょ!」

 

心底嫌そうな顔で再び玄関を開けたシンジは、改めてミサトを視界に入れた。

 

「何の用ですか? 今日はレイに料理を教える予定なのですが」

「デートのお誘いよ。豪華なお船でクルージング♪」

「……」

 

躊躇無く開閉スイッチに手を伸ばすシンジに、慌ててミサトが説明するには、弐号機パイロットを迎えに行くから付いてきて欲しいとの事だった。

要するにネルフの公務の一環である。しかし、当日の朝に伝えに来るとは非常識だろう。せめて前日には伝えるべきだ。

 

「分かりました。準備があるので1・2時間程待って下さい」

「いや、ヘリコプター(ヘリ)を待たせてるから、すぐに来て欲しいんだけど」

「聞こえなかったんですか?」

 

顔面の筋肉を完璧に操作した極上の笑み、しかしシンジの目は明らかな殺意で濁っていた。

 

 

 

 

自業自得なマダオが天才少女のプレッシャーに耐えていた頃、彼女を追う形になった2人はヘリで海上を進んでいた。

後部貨物室のシートにシンジとレイは並んで座り、対面には付き添いを買って出た形になるネルフ保安諜報部所属の剣崎キョウヤが座っていた。

並んで座る2人の中間点の真正面に座す黒服(キョウヤ)は、無骨なサングラスを掛けた無口無機質な印象の男性で、ヤシマ作(ラミエル)戦の前までレイの護衛主任を務めていた任務に忠実な人物だった。

脳量子波を失う以前に得たシンジからの人物評価は、盲目的なまでに命令を遂行する所為で、上層部の走狗の様に見られる事もあるが、単純な損得勘定等に左右されない誠実な人柄だと分析している。

 

エンジン音を別にすれば、口を開く者も居らず、静かとさえ云えるフライトの最中。目蓋の重くなった少女の頭が、ゆっくりと隣人の肩に預けられた頃だ。

それまで沈黙を保っていたキョウヤが、機外を一瞥すると、おもむろに口を開いた。

 

「そろそろ到着です。降機の準備をして下さい」

 

レイは閉じかけていた目を開いて姿勢を正し、シンジは窓の外に太平洋艦隊の雄姿を認めた。

 

 

旗艦たる空母オーヴァー・ザ・レインボウの甲板に着艦したヘリから、周辺を警戒しながら剣崎キョウヤがおりる。

 

「どうぞ、降りて結構です」

 

その言葉に、リュックサックを背負ったシンジが先に降りると、ヘリの搭乗口に立つレイに片手を差し出した。

 

「レイ、風が結構強いから……」

 

30キロ足らずの身体が海の風に攫われないようにと、伸ばされた手にレイがそっと触れると、優しくも強い握力が体温(ぬくもり)を伝えてきた。

芙蓉のかんばせが微かに緩む、大きな段差にふらつく柳腰がふわりと抱かれ、結果レイは雲の上に乗るような衝撃しか感じなかった。

 

「ありがとう……」

 

風の音に掻き消されそうな小さな声は、意外な程の浸透力を以て少年《シンジ》に伝えられた。その浸透力はその感謝の言葉(ありがとう)が、今の所唯1人しか聴いた事がないからだろうか。

無表情に近い笑みは、雨に濡れた海棠の様にしなやかな笑顔と、シンジには感じられた。

 

「どういたしまして」

 

事務的な声色だったが、自分の言葉をシンジが受け取ってくれた事が理解できた。そしてレイはその事に温もりを感じた。

 

 

2人の護衛兼付き添いの剣崎キョウヤは、我関せずと云った態度で周囲を見回しているが、傍目からはイチャ付いている様子にイラつく人物もいた。

 

「遊び気分でこのアタシを待たせるとは良い身分ね!」

「……君は確か――」

「――弐号機パイロット、惣流アスカ・ラングレー空尉……」

 

初陣を華麗な勝利で彩ったネルフユーロのエースが、秋波を不機嫌に歪めていた。

 

 

 

 

現在、シンジ達パイロット全員が乗り込んだエヴァ弐号機は、海中を魚のような使徒=ガギエルに引き回されていた。

オーヴァー・ザ・レインボーに繋がる外部電源(アンビリカル)ケーブルが接続されているので、今の処エネルギー切れの心配はない。

だが、巨大な(アギト)に銜えられている現状は、敗北()への坂道を転がり落ちているに等しい。

何故この様な状況に陥ったかと云うと、事は数十分前に遡る。

親の七光りで選ばれたと思っているシンジに対し、格闘家的な意味でのちょっかいをアスカが仕掛けた事からだ。

 

その結果は半分はアスカの予想通りで、半分は予想外だった。シンジに足払いをかけて転ばせた処までは、アスカの想定内だった。

しかしあろう事か、シンジは宙に両脚が浮いて倒れ込んでいる状態から、片手で全体重を支えて下段蹴りを放ってきたのだ。

速度も体重も乗っていない攻撃を、アスカがいなす事は容易であったが、シンジへの評価を上方修正するのに十分な一撃だった。

そして気を良くしたのか、愛機をシンジ達に見せる為に、アスカは小型ヘリを一機チャーターし、彼女の操縦で、弐号機を載せた輸送艦オセローに赴いた。

 

 

 

低濃度のLCLに浸かった弐号機は、アスカが髪留めに使っているインターフェイズヘッドセットと同じ赤い装甲に覆われていた。

アスカはヒールの高いパンプスで、足場の悪い弐号機の頭部に駆け上がって、シンジとレイを見下ろした。

 

「どう、アタシの弐号機は?」

「4つ目なんだね……」

「そんな程度の違いじゃないわ。この弐号機こそ実戦用に建造された本物と呼ぶべきエヴァンゲリオン! シンクロすらままならない本部のエヴァとは違うんだから!」

 

ある意味シンジ達への侮辱に近いが、確かにアスカの言い分は正しい面もある。起動までに一年近くかかった零号機に、シンクロ率が急降下した初号機だ。

しかしだからと云って、このような挑発的な物言いは無いだろうと、シンジは内心呆れていた。

 

突如輸送艦を襲った衝撃に、アスカは不安定な靴を履いて悪い足場に立っていたにも関わらず、バランスを保ち、弐号機の頭から駆け下りて艦外を確認しに出て行った。

転倒しかけてシンジに抱き留められたレイとは対照的である。

 

 

一分足らずで戻ってきたアスカは使徒の襲来を告げ、シンジ達を階段の扉まで連れて来るや、誰も来ないように見張っていろと言い残して奥に消えた。

 

「ちゃんと見張ってたで……えッ!!?」

 

程なく、赤いプラグスーツに着替えて戻ってきたアスカは目を丸くした。

アスカの眼に映ったのは、青いスーツに着替えたシンジと、白いスーツの空気抜きボタン(フィットスイッチ)を押したポーズのレイであった。しかもご丁寧に、半透明のビニール袋に荷物を入れてある。

 

「こんな事もあろうかと、プラグスーツを持ってきていたんだ」

「ま、まあいいわ……アタシの華麗な操縦を特等席で見せてあげる」

 

そう云うアスカの手から、シンジ達に渡すつもりだったであろう、彼女の予備のスーツが床に落ちた。

 

 

 

専属パイロットたるアスカはエントリープラグ内部のインテリアシートに跨り、弐号機の起動シークエンスを開始する。

 

「適当なトコに掴まっていなさい」

 

円筒形のコクピット(エントリープラグ)を回転し上下するユニットの、壁面を伝う為のガイドに足をかけ、アスカの右側にレイ、左側にシンジが掴まった。

弐号機のシステムが、本来なら異物であるシンジ達を受け入れる為、2人のプラグスーツとインターフェイズヘッドセットの設定を書き換える。

 

パイロットスーツが再設定され、何とか2人分のノイズは解消されるだろうが、まだ不十分だ。異物達は積極的に正規パイロットに合わせるべきである。

脳量子波を失わなければ、シンジは的確に同調して、アスカの操縦制御を補助し、弐号機の性能(パワー)を底上げする事すら不可能では無かっただろう。

しかし、今の脳量子波を失ったシンジでは邪魔(ノイズ)にしかならない。そこで登場するのはレイだ。彼女は特殊な出生らしく、全てのエヴァに限定的ながらもシンクロが可能らしい。

シンジはアスカは無理でも、レイになら合わせる事は十分に可能だ。

そこでレイに弐号機(アスカ)に合わせて貰い、シンジは彼女に合わせる事で、間接的に主操縦者に合わせる。

 

 

起動して輸送艦の上に立ち上がった弐号機は跳躍、源義経の如き身軽さで、旗艦空母(オーヴァー・ザ・レインボー)に着艦、甲板上に用意された外部電源を接続した。

正面から向かってくる巨大な水棲使徒に対し、アスカは左肩のウェポンラックから、高周波振動大型ナイフ(プログレッシヴ・ダガー)を引き抜ぬいた。

 

プログレッシヴ・ダガーは、プログナイフを強化した武器で、機能も使い勝手も同じである。しかし、対象を抉る様な、より攻撃的な形状になった刀刃部は、殺傷力を大きく高めている。

ただ、大型化した為にウェポンラックのスペースを圧迫し、ニードルガン(ペンシルロック)をオミットしたショルダーラックを使用しなければならない。

 

海面から飛び出して体当たりを仕掛けてきた使徒ガギエルに、アスカは弐号機の腰を落として回避(かわ)しながら、滑らかな流線型の腹部をブログダガーで斬りつける。

使徒ガギエルの旗艦空母(オーヴァー・ザ・レインボー)を跳び越える勢いが逆に祟り、高周波振動粒子の刃が、体表を切り裂いて不気味な色の体液を撒き散らさせた。

 

しかし敵も然る者、弐号機の頭上を通過しきる瞬間に、全身を捻り尾ビレを叩き付けてきたのだ。

アスカにとっては大した事のない一撃だったが、その攻撃でバランスを崩し、運の悪い事に飛行甲板のエレベーターを踏み抜いてしまったのだ。

結果、海に落下した弐号機は、使徒ガギエルに噛み付かれたと云う訳だ。

 

 

 

弐号機は巨大な(アギト)に銜えられて海中を引き摺られており、いずれケーブル長の限界に到達する。

その時が訪れたら終わりだ。アンビリカルケーブルが切断するか、或いは供給元である旗艦空母(オーヴァー・ザ・レインボー)が沈むか、どうにせよ弐号機は電源を失い動けなくなる。

 

「このッ!!」

 

逆手に持ち替えたプログダガーを、下顎に突き刺す。使徒ガギエルの身体は存外に軟らかく、あっけない程簡単に切り裂ける。

しかし効果は薄かった。下顎を切り取って脱出するには、使徒ガギエルの再生能力が高すぎる。ならばと破城槌を敷き詰めた様な歯牙には、プログダガーが通らない。

 

「(クッ、どうするの? アスカ……!)」

 

刻一刻と迫る破滅の時に、アスカの顔に焦燥が募る。絶体絶命の状況下で、彼女の頭は何の解決策も見出せない。

 

「もっと強い武器は無いの!?」

「プラズマソードがあるけど使えないわ!」

 

シンジが投じた一石は、検討するまでもなく切り捨てた手段(ぶき)の1つを脳裏に浮かべさせた。

1秒すら貴重な現状で無駄な(・・・)思考をさせた事に、激発しそうになる感情を、理性で抑えつけ藁にも縋る思いで答える。

 

「どうして?」

「アンタ、バカァ!? んな(モン)水中で使ったら、水蒸気爆発が――」

 

「それだッ!!」

「それだッ!!」

 

三人寄れば文殊の知恵と云うが、アスカとシンジ共に一を聞いて十を知る人間だ。短い遣り取りからの、異口同音の閃きは同じ光明(こたえ)に至っていた。

 

 

使徒ガギエルの牙の間をぬって、弐号機に左片手で両腰のプラズマソードを引き抜かせる。

作戦は口腔部でプラズマソードを起動、水蒸気爆発の衝撃を利用し咢《アギト》を開かせ脱出、更にこちらから使徒に取り付きコアを破壊すると云うものだ。

既にレイによって、使徒ガギエルの形状とコアの位置のデータを視界補助(モニター)システムに入力済だ。

ケーブル長の限界まで後30秒。

 

「準備は良いわね、アンタ達!」

 

弐号機(アスカ)に合わせられないシンジは、弐号機には合わせられるレイにアイコンタクト。彼女はインテリアシートの出っ張りをしっかりと掴み、ガイドに足を突っ張らせる。

 

「いつでも良いわ」

「同じく」

 

操縦桿(インダクションレバー)のスイッチを操作、弐号機の左手に持たれた2つのプラズマ発生器が励起する。

 

口の中で発生した爆発に使徒ガギエルの口は開き、その衝撃に動きも止まった。

突き刺さった牙から身体を抜くと、弐号機は水流によって後方に押し出される。

アスカは両肩のウェポンラックに搭載されたロケットブースターを点火、使徒ガギエルから離される前に弐号機の左手で上顎の上部を掴んだ。

 

「でやあぁぁ!!」

 

ガギエルのコアは体内に位置し、その場所は口蓋の奥、外からなら頭部――仮面の様な部位――の丁度真下だ。

弐号機はコンパス或いは振り子の様に、逆手に握ったプログダガーを使徒ガギエルの脳天、仮面状の部位に突き刺した。

プログナイフの約2倍のサイズを持つ高周波振動粒子の凶器は、仮面部位を破砕し、真下にあるコアを貫いた。

 

 

 

 

横須賀の軍港で――それまで海中から引き上げる事が出来なかった――弐号機から降りた子供達を出迎えたのは、リツコと剣崎キョウヤだった。

 

「まずはお疲れ様。そして惣流アスカ・ラングレーさん、ネルフ総本部は貴方と弐号機を歓迎します」

「……ぁ。ええ、よろしく」

「?」

 

どうにも歯切れの悪いアスカの様子に、リツコは疑念を覚えながら、偶発的に入手できた貴重なデータ――エヴァに複数のパイロットが乗り込んだ場合のシンクロ状態――を反芻する。

 

「リツコさん。着替えられる場所(シャワーとか)はありませんか?」

「ああ、それなら――」

 

シャワー室を完備したパイロット輸送車の場所を聞いたシンジは、レイを伴って歩いていき、剣崎キョウヤも護衛として追従する。

 

 

3人の姿が見えなくなると、アスカは重たげに口を開いた。

 

「あのさぁ……リツコ、あの2人ってどういう関係?」

 

思いもよらない質問に、リツコは目を丸くし、少し思案してから答えた。

 

「そうね……強いて云えば――多分、兄妹みたいなものかしら?」

「兄妹……ね」

 

歯切れが悪いが、複雑な関係(しんじつ)の一端を知るリツコですら、現在の2人の関係を言い表す事は困難だった。

だが、アスカの歯切れの悪さは何が原因なのだろう。

 

「何故あんな質問をしたのか訊かせて貰えない?」

「な、何となくよ……」

 

あからさまにお茶を濁す様子に、リツコの興味がすぐ無くなった事は、アスカにとって僥倖であった。

 

「(アイツら、一緒に着替えてたわよね?)」

 

状況証拠は揃っているが、その事を訊くのは、年頃の乙女には憚られた。

そしてある事に思い至る、まさか一緒に入浴(シャワー)なんて事はあるまいかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネルフの子供達が沖合(うみ)にいた頃、第一中学校の一角は――休日という事を考えれば――異様な賑わいを見せていた。

校内()某所(ばしょ)には、相田ケンスケがシートを広げて陣取り、露天を開いていた。客達にほぼ共通している事は、鼻の下を伸ばした男子生徒であることだった。

 

通常閑散としている日曜の学校を賑わせる集客力と、その客層(・・)から判るが、扱っている商品は碌な代物ではなかった。

相田ケンスケ商店は、女生徒の盗撮写真を販売しているのである。

それも、普通?の写真もあるにはあるが、体操服やスクール水着、果ては絶対領域の内側(・・・・・・・)や着替え中の姿など、完全に犯罪的な(ブツ)も少なくない。

さて、露天商ケンスケの(もと)にまた1人の()少年が訪れ、並べられた写真を物色し始めたが、目当ての写真(じょし)は無かった様だ。

 

「な、なあ相田。綾波の写真って無いか? ハアハア……」

「悪いけど、綾波のは置いていないんだ。それより、加古の着替えなんてどうだい? ×××もバッチリだぜ」

「ほ、本当に無いのか?」

 

何やら雲行きが怪しくなりそうになった所で、ケンスケの後ろに控えていた用心棒(・・・)が動いた。

 

「無いモンは無いンや! はよ帰りな」

 

鶴の一声を聞いたように、鈴原トウジの一喝で、レイの写真を求めた男子は踵を返した。

 

 

件の少年が去り、客足も細くなった頃、トウジは以前より疑問に思っていた事を口にした。

 

「なあ、さっきの奴には、ああ言うたけど、ホンマに綾波の写真は無いンか?」

「無いよ。ネガもデータも全部処分した」

 

溜め息混じりの答えは、本当ならここにレイも並んでいる筈だったと物語っているようだ。

 

「なんでや?」

「碇が怖いからさ……」

 

シンジが転校してきた当初より、綾波レイを気に掛けていた事を鑑み、予定していた販売を見合わせた事を話す。

暫く様子を見ていたが、そんな中起こったトウジのKO事件だ。明らかに自分を超える体格の人間(トウジ)を、空中で一回転させる膂力を怒らせるなど、考えるだけで恐ろしい。

付け加えるなら、普段大人しい人間程、キレた時に何をするか分からないものだ。

 

「あー……でも、最近センセは丸くなっとるみたいやけど」

「それはそうかも知れないけどね」

 

そう云いながら、2人は店を畳み(かたづけを)始めた。

 

 

 

 

翌日、いかがわしい(・・・・・・)店の店主と用心棒は、繁華街に繰り出していた。前日に得たあぶく銭を使って遊ぶ為である。

行き付けのゲームセンターでは、トウジは運動センスの要求されるスポーツ系アーケード(エレクトロメカニカルマシン)等を好み、ケンスケはガンアクション系のビデオゲームを、それぞれ好んでプレイしている。

これから予想外の不幸(インパクト)に直面する事などつゆ知らず、楽しい時間に思いを馳せている悪童達は暢気に目的地へと歩いていた。

 

 

 

時刻は未だ午後3時を回ったばかり、人も疎らな店内(ゲーセン)の奥にある一角が華やいでいた。

例えるなら、荒野に咲く一輪の薔薇――ミルク色の肌×揺れる蜂蜜色のロングヘア、編み上げ(パンプス)の赤い紐が、ゲーム台の上で舞う長い脚を飾っていた。

 

体感系アーケードゲーム、DansinG(ダンシング)M@steR(マイスター)

ダンレヴォシリーズに列なる体感系(ダンス)ゲームで、流れる曲に合わせてゲーム台の床面パネルを踏み、側面のセンサーエリアに手を(かざ)し、好スコアを目指す。

また難易度によって上限得点(スコア)が変わり、最高難易度(さいだい)では1000点満点になる。

 

職業ダンサー顔負けのキレで踊る少女が纏うのは、ステップの度にフレアミニの裾が(ひるがえ)る明るい色のサマードレス。

トップス部は肩も露わなキャミソールで、腕を突き出せば、脇から胸にかけてのラインが大胆に躍動し、健康的な色気を振りまいていた。

 

曲が終わり得点(リザルト)が表示された。曲名は『夜を奔る、宵のプリンス』、DanM@sの中でも屈指の難曲である。しかも設定した難易度(レベル)Sランク(さいこう)にも関わらず、980点超(ほぼパーフェクト)と云う超高得点だ。

 

 

残念な事に、ハイスコアを更新した少女に向けられているのは、賞讃でも拍手でもなかった。

半ばしゃがみこんだ()少年が2匹、下卑た視線を、ミニワンピースの奥にある純白に注いでいた。

台の柵に引っ掛けていたバッグを漁った少女の顔が曇り、背後の2人組に振り返り虫螻(ムシケラ)を見る様な目で見下ろした。

 

「そこの野良犬。このアタシに貢ぐ栄誉を上げるわ」

 

ゲーム台から降りてきた少女は、そういって2匹のエロ犬――云う迄も無くトウジとケンスケ――にお手(・・)を求めるように右手を突き出した。

 

 

 

第3新東京にある超VIP御用達の高級ホテルのスイートルームで、アスカは時間の潰し方を考えていた。

時刻は9時過ぎ、ネルフ総本部へは午後4時半頃に出頭する事になっており、移動時間を考えても6時間の暇がある。

活動的なアスカの性格からして、ずっとホテルに引き籠もっているのはあり得なかった。

 

「そう云えば、日本のアミューズメントはハイクオリティって話ね」

 

ホテル内の両替所でユーロを日本円に換え、アスカは街へと遊びに繰り出した。

 

 

午前中はウィンドウショッピング、オートクチュールも扱っているマンモス店で、ミュールに近いデザインをしたワインレッドの編み上げ靴を購入した。

つい昨日お気に入りのパンプスは、海の底に沈んでしまっており、さっきまでミサトが持ってきたダサいスニーカーを履く憂き目に遭っていたのだ。

欲を云えば、もう少しヒールが高い方が――美脚に見えて――好みだが、これはこれで歩きやすくてキュートなので良しとする。

 

小洒落た喫茶店「エンシェント・ヘリテイジ」で昼食を摂った後、時間調整のし易いゲームセンターに足を運んだという訳だ。

 

そこでアスカの目を引いたのが、DansinG(ダンシング)M@steR(マイスター)、通称『DanM@s』である。DanM@sの難易度は、Fランク(ベリーイージー)から始まり、Aランク(マスター)の上に更に、Sランク(レジェンド)が君臨する。

難易度D(ノーマル)で最初からパーフェクトを叩きだしたアスカは、数度のプレイの後、早々に難易度をSに変更した。

 

そして小さな伝説が誕生した。熟練したプレイヤーでも難しいと云われるSランクで、平均(アベレージ)970点以上という高スコア、踊る度に店の最高記録を塗り替えていった。

たった1日で、DanM@sのハイスコアがことごとく更新されたと云う事実は、まさに伝説(レジェンド)に相応しい快挙だった。

 

 

そして話は戻る。

難曲『夜を奔る、宵のプリンス』をクリアしたアスカは、バッグの中、両替した金銭の入った巾着袋をまさぐるが、百円硬貨の感触が無い。

少々困った事態だが、丁度良い事にサイフになりそうな奴が2人程いた。さっきから人様のスカートを覗いていた不埒者(ピーピングトム)である。

別段、野良犬如きに見られた所でどうと云う事はないが、不愉快である事に変わりはなく、相応の対価が支払われるべきである。

 

しかし、この2匹は察しが悪いようだ。誰だって美術館に行ったら入場料を出すのに……。

 

「見物料よ、さっさと財布を出しなさい! 全くこれだからダサい男は――」

「なんやとこの腐れ(アマ)!」

 

おまけに、下品で粗暴。あろう事かジャージの方が顔を真っ赤にして、アスカの手首を掴んできた。

 

「このッ!」

 

その瞬間、アスカの顔が怒りに染まり、捕まれた方の腕が閃くように動き、トウジの身体がバランスを崩す。

 

「私にッ――」

 

フレアミニから伸びる左脚が退かれ、右脚が持ち上がり白い太腿とずれ上がったスカート部が、見えそで見えない絶対領域を形成するが、性少年(トウジ)がそれを拝む事は出来なかった。

 

「――触れるなッ!!」

 

優れた瞬発力に裏打ちされた強烈な中段蹴りが、身体の芯を的確に捉えて、彼を吹っ飛ばしたからだ。

 

蹴り飛ばされたトウジは2メートル程宙を飛び、格闘ゲームをプレイしていたチンピラ風の男に激突した。

潰れた蛙の様な声を上(ダウンし)げた中坊(トウジ)が、真犯人でない事を推測する程度の知能は有していたらしいその男は、落ち着き無く周囲を見回す……までも無かった。

 

「フン、サルがッ!」

 

ゲーム機から流れる雑多な音が混じり合い、騒然としている店内にもかかわらず、よく通るソプラノヴォイスが吐き捨てられる。

哀れな少年を傲然と見下ろして仁王立ちする姿は、正に『女王様』と云った風格で実に様になっている。

 

とまあ、そう云った事はチンピラ男にはどうでも良い事だ。

重要なのは、この高飛車な少女が犯人な事であり、生意気そうな顔を歪ませたら、さぞかし気持ちいいであろう事だ。

軽くビビらせようとチンピラ男が、アスカの顎に手を掛けようとした時、男の右足が床を離れた瞬間だった。

 

「オイ、嬢ちゃ――――ぐぇ!」

 

左の片足立ちになる一瞬を、アスカの足払いが刈り取り、チンピラ男は床に転がった。更に爪先(トゥキック)が脇腹に突き刺さり悶絶する。

 

「あ~気分悪いわ! もう行きましょ」

 

いつの間に集まったギャラリーは、凄まじい一部始終に呆然としており、女王様のお帰りに慌てて道を譲った。

 

一方、性少年(トム)達はと云うと、悶絶したチンピラ男とその仲間達が発し始めた不穏な気配に、アスカを追うように出口を目指した。

 

 

 

 

第一中学校生徒の洞木ヒカリは放課後、級友2人と連れだって、街に夕飯の買い物に出ていた。

従兄妹同士であると云う2人が、1つ屋根の下で暮らしている事が発覚した日を前後して、ヒカリは兄の方の意外な一面を知った。

それまで、少々怖い人物と云う印象であったシンジが自炊をしている事。そして自分とレイの弁当を大規模停電の後日より作って持参し始めたのだ。

 

シンジが料理が出来る事は、家事全般の得意なヒカリにとって、彼らに対する親しみの念を抱く切欠となり、時折毎日の献立や弁当などについて話をする仲となった。

家庭の(フクザツな)事情で何時も忙しいと云う2人だが、今日は珍しく時間があると聞いている。

華の女学生と云う身の上からすれば、(いささ)所帯染みている(ババくさい)気もするが、趣味の合う友人達との買い物に、ヒカリは心を躍らせていた。

 

「――そうなんだ。昨日(にちよう)は急用でお買い物をする暇が無かったのね」

「まあ、そのお陰で今日は割とのんびり出来るんだけど……」

 

家事を覚えたがっているレイの為に、料理を教えようとしていた予定が、急な用事のせいでご破算になったらしい。が、その用事の詳細については語られなかった。

シンジもレイもある種の線引きをしており、彼らの事情には踏み込ませる気はないようだったが、深く追求しない分別をヒカリは持ち合わせていた。

 

南極に隕石が衝突したと云うセカンドインパクトの影響で、孤児や片親の同級生は珍しくないし、根掘り葉掘り訊くのは、今の世間では重大なマナー違反だ。

事実、彼らの保護者面談では明らかに親族で無さそうな若い女性が来校。父子家庭のヒカリにしても親の都合がつかず、高校生の姉コダマが代理で来ている。

 

 

大通りの一角で、シンジは右手のビニール袋をヒカリに手渡した。

 

「ありがとう、碇君」

「気にしないで良いよ。僕としても、料理について色々教えて貰ったし」

 

シンジの料理の腕前は、2ヶ月前まで碌に包丁を握った事すらない事を鑑みれば驚異的ですらあるが、専業主婦と同等の技量(スペック)を持つヒカリと比べれば明らかに劣るものだ。

今日は食材の選び方や、特売の上手な利用法など、洞木先生による家庭科の課外授業のお礼に、荷物持ちをシンジは買って出たのだ。

 

「それじゃあ、また学校でね。碇君、綾波さん」

 

「うん、また明日」

「また明日……」

 

そしてシンジ達はヒカリと別れ少し歩いた処で、歩道に面したゲームセンターから、見知った2人組が這々の体でてくると云う、珍しい構図に出くわした。

尤もその2人組とは精々顔見知り程度であり、基本的に身内以外には冷淡なシンジが気に掛ける事はなく、レイも同様であった。

少なくとも助けを懇願する目を切り捨てられる程度の仲である。

 

トウジとケンスケが店から出てきた直後、聞き覚えのある声が店内から響いてこなければ、彼らを無視して歩き去った事は間違いなかった。

 

「邪魔よ、ウジ虫がッ!」

 

人間が打ち棄てられたような、派手な物音と共に悠然と現れた少女は、昨日出会ったばかりの惣流アスカ・ラングレーだった。

 

 

肩を怒らせて歩道へと出てきたアスカを、何処らからか集まってきた数人の男が取り囲んだ。更にゲームセンターからも3人程出てくる。

合計10人近い頭の悪そうな連中(チンピラ)に取り囲まれても、アスカは動じなかった。それ処か威勢良く啖呵まで切っている。

 

「ハン! 女1人を囲むなんて恥ずかしくないのかしら。揃いも揃って不細工で卑怯者。アンタらみたいな三下のモンキーなんて、視界に入るだけでも反吐が出るわ!」

 

「(よくあんなに悪口が出てくるな……)」

 

彼女の実力(・・)の程を身を以て知っているシンジは、男達に取り囲まれても堂々としている様子より、寧ろ次々と罵詈雑言を並べ立てられる言語力に感心している。

 

「――――どうせ○○○(ピー)も脳も小さいんでしょ。豚にも劣る黴菌(バイキン)風情が、アタシと同じ空気を吸うだけでも大罪だわ! 少しでもまともな感性があるならハラキリでもして、生まれてきた事に謝罪しなさい!」

 

トウジが――凄まじい罵倒の嵐に、何故か物欲しそうな視線を向けるケンスケを引っ張って――フラフラとシンジ達の傍に移動してくる。

その間に男達の怒りは天元突破し、アスカに襲い掛かった端から返り討ちにされ始めていた。

 

「てめえ等も、あの外人の仲間か!」

 

シンジの影に隠れるようなポジショニングをしたトウジを追ってきたのか、スキンヘッドの大柄な男が1人向かってきた。

その男はいかにも喧嘩慣れしている様で、中々に筋骨が逞しい印象の体格をし、野卑な面構えをしていた。身長は約180、体重も80キロを下らないだろう。

 

敵が迫り来る中、シンジは無言で左手をレイに差し出した。シンジの意図を汲んだレイもまた無言で、スーパーの買い物袋を、彼の手から抜き取って預かった。

腕を振りかぶる男に対し、シンジは一歩だけ前に出ると、熊手の様に開いた手を男の目元に突き出した。

カウンター気味の目突きを喰らった男が両目を押さえた所に、腕を引き戻す勢いを脚に伝えて放った金的蹴りは、倍はある体重差をもろともせずその身体を宙に浮かせた。

 

目と股間を押さえ尻を突き出し、頭と膝で全体重(80キロ)を支える滑稽なポーズとなった男に、シンジは更に追い打ちをかける。

丁度足元で奇妙な土下座をする男の後頭部を、情け容赦なく踏みつけた。

ハンマーで地面を叩いたようなすごい音が鳴り、顔面がアスファルトにめり込み放射状のヒビが入る。その罅割れが、赤い液体でじわりと満たされた。

 

「おい、トウジ……あれ(・・)のどこが丸くなってるんだよ」

「う……むしろ、えげつなくなっとる」

 

シンジの行った凶行(オ-バ-キル)に青くなった2人の呟きは、当人の耳に入っていた。

 

「失敬だな。今はちょっと手加減が出来ないだけだよ。それより、一体どうすんのさこれ?」

 

既に場は混沌とした状況が形成され始めている。その光景に悪童2人は冷や汗を流す。アスカが大立ち回りを演じ、何人かをKO済。シンジの足元では馬鹿一匹が瀕死状態だ。

 

「うぇ! いや、そのぱんつが高くて……大暴れして――」

「……はぁ」

 

要領を得ない2人を早々に見限ったシンジは、レイから買い物袋を受け取り、ガラス細工のように繊細な作りの手を、優しく握って走り出した。

 

シンジに白魚のような手を取られたレイは、自分より体温の高い少年から伝わる温もりと、張りのある柔らかさが、いつも通りである事に、小さな幸せを見出していた。

 

 

 

片手の指で釣りが来る数しか、世界に居ないエヴァパイロットは基本的に多忙である。その為に中学校生活においても、遅刻早退欠席などは珍しくない。

しかし、ドイツから移送されたエヴァ弐号機の受け入れの為、週末までネルフでの訓練や実験はほぼ無い。

放課後はネルフに直行すると云う事が無くなった事で、何処かの女性戦闘指揮官の所為で台無しになった休日の埋め合わせに成り得る自由を手に入れた。

 

 

もしかすると生まれて初めてかも知れない、レイが自主的に望んだ事=料理を覚えたいと云う、ささやかな願い。

その思いに笑顔で応えてくれた事に、胸の(うち)が満たされ、約束の時間はフワフワして温かであろうと予測していた。

 

「(きっと……その時間を、楽しいと云うのでしょうね)」

 

特殊な環境で育ったせいか、自己の感情と云うものに疎い処のあるレイの、確信に近い推測はおそらくは正しかった。

 

肉が嫌いなレイの為に、卵や豆腐などを使った食事。シンジは特に料理上手では無かったが、持ち前の器用さでカバーし、今ではヘルシーメニューの名人だ。

他にも、掃除や洗濯などの家事の一切を引き受け、制服以外にまともな衣類を持っていないレイに、私服まで貸してくれている。

 

そして何より、綾波レイと云う少女の存在を全肯定してくれる。

かつて自分に存在意義を与えた『あの人』のように、レイに誰かを重ねていない――思い掛けず重ねてしまう事もあるが――自分を戒め、レイ本人を見つめようと努力している。

まさしく無償の愛情を注いでくれる大切な人だった。

 

だからか。かつては空虚であったレイの心から、自己の変革を伴う想いが沸き上がってきた。

与えられるのではなく、与えたい。受け取るのではなく、渡したい。

慎ましく純粋な衝動だった。

 

故に、その為の第一歩(でばな)を挫かれたレイの、端整な無表情(ポーカーフェイス)の内側にあった落胆は、長い付き合いの人達が知れば驚愕する程だろう。

 

 

クラスメイトである洞木ヒカリも一緒の買い物。レイにとって全く未知の領域の話題が多く、彼女はあまり口を挟む機会がない。

そんな中でシンジは時折、レイに意見を求める事がある。ヒカリも同様に話を振ってくる事がある。

仲間外れにしない為の気遣いである事は理解できたが、正直レイにはあまり意味をなさなかった。

 

ヒカリと話している間も、シンジに想われている事が朧気に感じられるからだ。

尤も無口であるレイが「想われてる事は知っているから、無理に話しかけなくてよい」などと云う筈もなく、もしそんな事を告げればヒカリは赤面するだろう。

それも破廉恥(フケツ)とは対極にある盛大な惚気に、何も云えなくなる事は請け合いである。

 

 

ヒカリと別れた後、とある娯楽施設(ゲーセン)の前を通りかかった時の事件は、レイにとって特に印象には残らなかった瑣事(さじ)である。

憶えているのは、シンジが迫り来る暴漢を撃退する為、買い物袋を預かって欲しいと無言で伝えてきた事位だ。

 

買い物袋を返した後、手を握られた。いつもと変わらない温かな手だった。

シンジと云う少年が無意識に発する雑多な情報(けはい)から、彼の行動をレイは予測する。

 

「走るよ!」

 

その言葉を聞くまでもなく、シンジと同時にレイは走り出す。

後方で慌てる2人組などレイの眼中に無かったが、数分の後に再会する洞木ヒカリ臨時家庭科教諭と一緒に合流する事になる。

そしてヒカリを除く3人が、洞木家でシンジ+ヒカリによる夕食のご相伴に与る事は、誰も予想できなかった。




旧題は“Asuka Zweite Angriff”訳すなら“アスカ、第2撃”となります。
以前は前半部と後半部が別話扱いだったので、「水飲み鳥の使徒を斃したアスカの2撃目」
つまり、ガギエル戦と云う意味でした。
今回は使徒戦と街での乱闘を表す為に、“Zweite=第2”を無くし“Angriff=攻撃”を複数形にしてあります。


今回の後書きは長いです(汗)。

洞木ヒカリが漸く登場。

さて今回の後半はネタというかパロディはかなり多めです。

まず『DanM@s』の元ネタは勿論、アイマス。難曲『夜を奔る、宵のプリンス』も、菊地真の持ち歌をもじった物ですし。
ちなみに難易度の別称ですが、
上から、レジェンド(S)、マスター(A)、ベリーハード(B)、ハード(C)、ノーマル(D)、イージー(E)、
ベリーイージー(F)、となっています。

喫茶店「エンシェント・ヘリテイジ」、『アーネンエルベ』を英語にしてみました。私は型月ファンです。

アスカの暴言は、某『肉』と某『魔女王』を参考にしています。

シンジの護身術? にも元ネタがあります。コミック『大江山流護身術道場』少々癖がありますが、楽しめる作品かも。

ちなみに盗撮された加古と云う娘は、クソゲー『名探偵エヴァ』で死体として登場したキャラです。
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