ヱヴァンゲリヲンFIS-もしシンジがイノベイターなら-   作:るーしー

9 / 9
漸っとDouble T/Winの最終話をお届け出来ます。

Assault:突撃、強襲など
Raid:襲撃、殴り込みなど。erを付けると?


第9話 Double T/Win “Assault Raider”

翌日、朝一番でシンジ達はネルフ本部に赴いた。

昨日の夕暮れにメールで頼んでおいた、訓練用シミュレータの仮想敵性体はMAGIが一晩で完成させている。

ミサトへの経過報告もそこそこに、手早くプラグスーツに着替えた彼らはシミュレーターに乗り込んだ。

 

 

15.24㎝口径EVA専用拳銃とプログダガーを装備したCQCスタイルの初号機と弐号機は、仮想世界でイスラフェルを一方的に叩きのめしていた。

管制室の大型モニターに映る2機は、ヴァーチャルとは云え驚異的な撃滅スコアを積み上げている。だがその戦果に反し、訓練監督の顔は渋い。

 

「パレットピストルの命中率8.7%……これはどう云う事!?」

「は? 桁、間違えてるわよ」

 

訝しげに「ちゃんとモニター見てる?」と眉を寄せたアスカに、たちまちミサトは声を尖らせた。

 

味方への命中率(・・・・・・・)よ! 一体何考えてンのよあんた達!」

「その10倍以上の効果は出している筈ですが」

 

フレンドリーファイアへの叱責を歯牙にも掛けず、しれっとシンジは反論する。そのアスカ以上にふてぶてしい態度に、ミサトの額に青筋が浮かんだ。

 

しかし必ずしもミサトが短気という訳ではない。

シミュレータのイスラフェルは意図的に戦闘力を落としている。その上で平気で使徒諸共フルオート射撃を撃ち込み、味方を被弾させているのだ。作戦指揮官として許容出来る事ではない。

更にその光景が嘗胆の思いで――元カレのアイディアを受け入れ――立案した作戦を蹴った挙げ句、僚機の事などクソ喰らえと云わんばかりの喧嘩殺法紛いと来たら、ミサトで無くとも腹に据えかねるだろう。

 

「あんた達……世界が自分を中心に回ってるとでも、思って無いでしょうねぇ」

 

ミサトの威圧的な低い声を、心外とばかりにアスカは鼻で笑った。

 

「アンタこそ何云ってんの? 世界が自分のものだなんて……そんなの当たり前の事じゃん」

「逆に、自分の意識外で回っていた事なんて、有り得ないですね」

 

足の引っ張り合いをしていたとしか思えない2人の、思いがけない反撃(れんけい)に――彼らが一度も互いに毒づいていなかった事を見逃していた――ミサトはギョッとたじろいだ。

3人が入り乱れての混戦になると思っていたら、2人は秘密協定を締結していたらしく、実体は2対1だった事にミサトの表情筋がヒクつく。

瞬時に己が不利を悟った上官殿が言葉を詰まらせる様子を、のべ6秒観察した彼らは訓練を再開した。

 

 

 

 

シンジ達3人はカフェテラスにて、昼食がてらの反省会(ミーティング)を開いていた。尤もその内容が反省(・・)であるとは限らないが……。

先の戦闘データを落とし込んだタブレット端末をテーブルに置き、レイの合いの手を交えながら、ミサトが喧嘩紛いと勘違いした過激な連携を研ぎ上げる。

 

午後は再びシミュレータに乗り込み模擬戦を繰り返す。ただし今回からは敵を弱体化させず、MAGIがエミュレートした最大戦力とヤり合うと云うものだ。

その実戦と遜色ない世界において、急激なレベルギャップを感じない処か、誤射も無くより高密度にして激烈な戦斗を展開する。

 

「まさか……あのコ達、初めから――」

 

手厳しく鼻っ柱をへし折ってやろうと息巻いていたミサトは、最初から2人がこの領域(レベル)を想定し、全ての動作を加速していた事を、漸っと悟った。

 

「それに――」

 

戦術家の端くれであると自負するミサトの目をして、隙らしい隙が見当たらない。防御の一切を捨て攻撃に特化する事で、付け入られる余地を悉く潰している。

どんな魔法を使えばこの短期間で、自分(ミサト)を黙らせるに充分な完成度を得るに至ったのか。

 

その答えは仮想空間の色付きに、初号機の離脱――いや目標変更から僅かコンマ6秒で、二丁拳銃のフルオート射撃を叩き込んだ少女が知っていた。

 

「(エコヒイキ(あの子)の功が予想以上に大きいわね……動きに思った以上の余裕がある)」

 

本人以上にシンジを理解している節のある少女が、幾つか指摘したポイント。必然的に視点が少年中心となるのは致し方ないが、レイの意見は至極に的確であったと断言出来る。

レイの助言はその多くが小さな事で、鋭さよりも、しなやかさが勝る言葉だった。

 

「(ただ……二言、三言目までには『シンジくん(ナナヒカリ)~』だし。赤裸々と云うか、あからさまと云うか――ッ!)」

 

目の前に使徒(てき)格闘武装(ナイフ)は間に合わない。左の銃を振り上げられた腕/右の銃を発光する仮面部位/腕を交差させ各々撃ち抜く。

その流れから、ビームの暴発で怯んだ使徒のコアに、零距離で15.24㎝炸裂弾をブチ込んだ。

 

 

 

 

4時間近く不休で戦い通し、時刻は午後5時を回っている。

現実の肉体は余り動かさないとは云え、長時間に亘る擬似戦闘(リアリティ)に流石のシンジとアスカも疲労を滲ませていた。

 

「もうこれ位にして休憩したらどうだい」

 

ミサトの直属で副官も兼任する日向は、グラフ化された戦闘データに表された攻撃速度が低下している事を鑑み、シミュレーション用エントリープラグ内の2人を労った。

 

コアを浅く切り付け一瞬怯んだ色落ちを、前蹴りで蹴り飛ばして距離を取ったシンジは、真面目そうな風采の青年に目礼で了承を伝える。

 

「(午後イチで再開して、そのまま無休(オール)……思ったより疲れてるな)式波(アスカ)、ラストダンスだ!」

Alles klar(オーライ) シンジ、ジルバはイケる?」

 

ジルバ=速いテンポの社交ダンス。あまりソシアルダンスが普及していない日本において、一般的な中学男子には馴染みの無い固有名詞である。

シンジにしても何時だったか――電子書籍関連サイト辺りか――見聞きした気がする位で、音楽関係の用語だろうと見当を付けられる程度だ。

だが、アスカの気性を顧みるに、ジルバが手緩いものである筈がない。ハイテンポないしアップテンポと云った性質が少なからず含まれていると推理出来る。

 

「フ、僕を誰だと思っている」

 

後でこっそりジルバについて調べると決め、シンジは自信タップリに戯けて見せた。

 

 

 

ラストワルツで、今まで以上に使徒をコテンパンにしたアスカは、意気揚々と着替えを済ませた。

イスラフェルの活動再開予定が明日であるので、ネルフ本部に泊まる事を彼らは決めていたが、散々コケにされたミサトの魔の手が、既に宿泊施設に伸びていたのだ。

ツインルームであった5日前と違い、諸事情でやや大きいベッド――彼女の僅かな良心か――が運び込まれたが内装はビジネスホテルのそれの、一般職員向けシングルを探し出している。

 

案内された部屋を見たアスカの額に、数時間前の某女史の如き青筋が浮かんだ。

 

「あの女……ガキみたいな真似をして!」

「(……別の部屋を――実力行使(ぶりょくかいにゅう)で用意させるのも気が引けるな、今日に限っては)」

 

もう少し――屁理屈を捏ねるであろうミサトを黙らせるだけの――余裕があるなら、快適に過ごす為の環境整備を躊躇う事は無かったが、今は体力温存の方が重要。

しかし入り口から覗いた部屋は、小さなデスクとやや大きめのベッドで室内を使い切っている様なウサギ小屋で、ゆっくり休めるかは微妙な処だ。

 

「ベッド、小さ過ぎだし」

 

寝具の全体像こそ彼の肉眼に映っていないが、部屋の壁や半分弱見える本体から、その空間認識能力で瞬時に正確なサイズを目算算出しキャパシティオーバーを見抜く。

 

置かれた(セミダブル)ベッドは無理をすれば3人が乗る事は(・・・・)出来る。だが、寝返りすら難しい雑魚寝で、年頃の少年少女――レイは兎も角、アスカとシンジ――が熟睡など出来るワケがない。

特に異性との同室になる事自体が承服しかねるアスカにすれば、男との同衾など論外だ。

 

どうしたものかと首を捻るシンジに、部屋の前で合流したレイが声を掛けた。

 

「シンジくん、帰りましょう」

 

悩む暇があるなら、帰宅を即断した方が良い。敵への即応性と、休養と云う板挟み――――速やかに片方の板を叩き割る事で、結果的に損失を限定する合理的ロジック。

ひとつ理のある魅力的な提案だが、帰路の手間(じかん)を考えると二の足を踏まざるを得ない。何らかの足があるなら話しは別だが、今からそれを探す事はあまり現実的でない。

 

「レイ……でもね――」

 

優しく苦笑する義兄の失望感を遮るような、レイにしては珍しく力強い笑みに、シンジは言葉を切った。

 

「大丈夫、剣崎大尉に車を用意して貰った」

「(レイ……?)」

 

だから、わたし達の家に帰りましょう……。既に算段が付いている以上、眼差しにも込められた思いに異存はない。

その事は純粋に良いのだ。ただ、力強いと云う事は、必要以上に力んでいるとも云える。微笑に隠れた切実さの理由は何なのか。

 

「ヒュウ!」

 

痛快そうに――そっちの妹(・・・・・)(Schwester)も中々やると――口笛を吹くアスカとは対照的に、シンジの心には燻りが生まれる。自分がシミュレーターにカンヅメになって居た時に、何かあったのかも知れない。

 

レイは訊かれなかったから答えない――正確には意識すらしない――事はあるが、意図的に話さない場合は極端に少ない。また赤木リツコ女史の薫陶か、端的だがロジカルな話し方をする傾向がある。

そんなレイが理由も無しに、ここまで強硬な姿勢を見せるとは、彼女への理解があると自負するシンジには考え難かった。

2~3時間足らずの間にあった事が、思い出(いしき)したくもない事なのか、秘密にしておきたい事なのかは判らない。

 

「(いや、今は訊かないでおこう……)ありがとう。さあ、帰ろうレイ」

 

少女には話したくないモノがあって……ネルフにいるより、自宅に帰りたいと思っている事だけは、今のシンジにも解る。

だから初戦の後、レイが心を抱き締めてくれた様に、シンジは出来る限り優しく笑った。

だが、その笑みの裏でつい思ってしまう。ラミエル戦で脳量子波を失った事に後悔は無いけど……もし、脳量子波を失わなければ――と。

 

 

 

 

保安諜報部の剣崎キョウヤが運転するワゴンで、シンジ達3人は自宅マンションまで帰ってきた。

車内でレイが義兄にペタペタしていた事もあって、道中アスカの舌鋒先は専ら剣崎キョウヤに向けられ、健気にせっせと曖昧な相槌を打ち続けた彼には、憐憫の情を禁じ得ない。

シンジは普段保安部の人間に対して行う社交辞令レベルのそれより、4割増しで慇懃に剣崎キョウヤへ礼をした。

 

 

自宅のあるフロアまで上ってきたアスカは、揚々と玄関口にIDカードを使用するが、ドアもミニパネルも反応が無い。

よくある読み取りエラーかと思い再試行するも、やはり反応しなかった。あれっ……と、アスカが疑問符を浮かべる中、不意に電子的な鐘が鳴る。

 

「(この着信音は確か、ナナヒカリ(シンジ)の……)」

 

音源に振り返ると、面倒臭そうにシンジが携帯を取り出し、メールを確認中。そして……なぜか表情筋を引き攣らせ、あんぐりと口を開らいた。

 

メールの送り主はかの女上司殿――それだけでゲンナリするが、ままよと内容を確認し……あまりの非常識さに唖然。

 

「ちょっと、どうしたのよ?」

「ん、ああ……」

 

届いたメールはアスカにこそ重要であり、メール画面を開いたままの携帯を、シンジは彼女へと投げ渡す。

 

「っと、何々――」

 

危なげなく携帯をキャッチしたアスカが、モニターに目を落として数秒後に固まった。

 

メールを要約すると『部屋の鍵を無効化したから、シンジの家で厄介になれ』こんな内容が、極めて主観的かつ独善的な頭の悪い文(・・・・・)で書かれていた。

 

「普通、ここまでやる!?」

「同感…………」

 

切羽詰まった状況下で、ちょっと洒落じゃ済まない悪戯を敢行するミサトに、呆れや怒りを通り越して感心の念すら湧いてきそう。

こんな無駄に手の込んだ悪ふざけをしでかす彼女の世界は、地球を中心ではなく、冥王星あたりを中心に回っているに違いない。

 

シンジは溜め息を吐きつつ従妹に目配せ。レイは視線の頷きで、突然に宿無しとされた少女の宿泊を了承する。

 

「――で、どうする? 君さえ良ければ、僕らは構わないけど」

「アイツの思い通りになるのはシャクだけど……はあ、今日はアンタに貸しを作らせて貰うわ」

「ハハハ……無利子、無期限でいいよ」

 

眉尻を下げて肩を竦めるアスカに、乾いた笑いを見せながらシンジは彼女を自宅へと招き入れた。

 

 

トンボの反転が如き急な帰宅で、暮れの支度を全くしていない家庭に、シンジは何から手を付けるか軽い呼吸で思案する。

 

「(目下の事は食事と風呂か……でもあんまりレイを独りにしたくないしな)」

 

とっぷり帳も落ちてしまっている今、時間は不足こそしていないが余裕もない。

 

普段ならば、それこそ四六時中レイと一緒に居ても、何の問題も起こらない。しかしアスカの目がある以上、ある程度の自重は必要だろう。

具体的には、添い寝くらいならギリギリ許容範囲と思われるが、混浴や過度なスキンシップに彼女が黙っている筈が無い。

かと云って、現在進行形で義兄のシャツの裾を掴んでいるレイを、己が目の届かない状況に置く事も忍びない。

 

「フロメシ!」

 

取り敢えず、何をしようと思っていたんだっけ……突然にアスカが上げた声に、直前のRAMデータが吹き飛んだ。

 

「は……何それ?」

「ん、今のが日本(こっち)の作法じゃないの?」

 

それは昭和以前のオヤジ的な言動であるが、チャキチャキの現代っ子であるシンジには、理解が及び難い代物である。

 

「どんな情報源(ソース)だよ?」

「やっぱりか……アイツめ」

 

呆れ顔をしたシンジに、溜息を吐いて納得したアスカは舌を打つ。

 

葛城(カノジョ)かい?」

 

ユーロ本部(ドイツ)でミサトと知り合った際に、妙なコトをイロイロと吹き込まれでもしたのだろうか。

 

「ミサトじゃないわ、違うヤツ」

「ふ~ん(そう云えばアスカ(この娘)も昔からネルフに居るけど、最近まではドイツ(むこう)の人間だった訳だよな……)」

 

理由こそハッキリしないが、レイが本部から離れたがった事は事実。それが職員にまで及ぶかどうかは定かでは無いが、少なくともアスカは外部の人間に近い。

アスカのキャリアは数年以上だが、こと総本部(日本)では基本的にシンジと同じ立場である彼女が、レイに関する機密に触れる機会は皆無。

そして式波アスカは意外と懐が深い。故に惣流アスカも潜在的には同様だと云ってよい筈だ。

 

「(――任せるかな)式波、先にお風呂に入ってくれないか? レイと一緒に……」

 

シャツの布地の引き攣りに、裾を摘まんでいる握力が僅かに強まった事を感じる。

 

「ワタシとしちゃ、直ぐにシャワーを浴びたかったから良いけど……ふむ、time is money ってコト?」

「理解が早いね、もう一方のアイツ(・・・・・・)のせいで、時間が高騰してるよ」

「OK――着替え、借りるわよ」

 

そう少女に告げたアスカは、レイの全身を見回し、ごく小さく鼻を鳴らした。

ウェストの細さは兎も角、その他のプロポーションでは全てに於いて自分が上回っている。……それは良い。

 

「(つまり、下着が合わないのは確実よね)」

 

重ね着は必須かとアスカが考えている一方、シンジは優しくレイの肩に手を添えた。

 

「(埋め合わせはするよ、必ず……)」

 

そう眼で明日の勝利を誓うと、少年の意思を聴いたレイは、静かに従兄から離れ、アスカと共に自室へ向かった。

 

 

時間にも材料にも投資出来なかった夕餉のメインは、偶々セールで買い込んでいた為に余っていたパスタだ。

他には、パスタの茹で汁に卵を投げ込んで、デッチ上げた温泉卵。更に、パスタのソースと兼用のタレとして麺つゆを利用すると云う、お手軽な物だ。

しかし、手軽と云う事は、結果的には手を抜いたと同義と云える。

 

「なんか、ショボいわね」

「だから期待するなって云っただろ。一応、消化の良い物で揃えたんだぞ」

 

背後で圧力を増した少女との裸の付き合いにすっかりのぼせ、衛星軌道まで昇天していた記憶を引き摺り戻す。

ほんの数十分前、レイに借りた着替えを抱えたアスカは、リビングを横切る際に本日のディナーについて、シンジに尋ねた。

確かにその時、今微妙な顔をさせた少年は「食材(モノ)が無いから大した物は出来ない」と云っていた。

 

「取り消すわ。今のは失言だった」

「事実だから構わないよ。それより、随分レイと打ち解けたみたいだね?」

 

一昨日までと比べて、アスカに対するレイの感情が穏やかだ。小さな信頼さえ感じる。

 

「別に何もしてないわよ。ちょっと女の嗜みに欠けてる事を指摘しただけ……」

 

主人格(そうりゅう)以上に女を捨てているつもりの式波だが、女性としての品格まで捨てる気は無い。要は彼女的な最低限の身嗜みに関する事だ。

嬉しげな様子のシンジに、アスカは努めて淡々と些事だと告げる。

 

「そうそう、ヘンタイの謗りを受けたくないなら、嗜み(それ)が何かは訊かない事ね」

 

アスカは猫の様に目を細める。だが、一見落ち着いているが、その実何やらウズウズしているレイを見て、シンジは彼女の注意は無駄だろうと、頭の隅で思った。

 

 

ダンスマシンで動きを試し、タブレットに落としたデータを基にディスカッションを繰り返す。その度に使徒イスラフェルへ向いた穂先は尖り、攻撃密度は増し続ける。

確実に研ぎ澄まされていく二振りの剣――運命的な絆と、新たなる絆――を、ソファーに座ったレイは飽きもせず見詰めていた。

 

幾度も重ねて来た論議の最中、不意を突いた少年の人差し指に唇を抑えられたアスカは、出掛かった言葉を飲み込んだ。

 

「ッ……!?」

「シッ……」

 

嵩が指先とは云え、実母以外には許した事が無い処である。口唇は人体で特に敏感な場所の1つだ。そこに触れる小さな熱源。

意図しない刺激で瞬時に喉が渇く、迫り昇った熱と鼓動が、人体で最も(シンジの)高感度なセンサー(ゆびさき)に感知されないかと冷や汗が出そう。

何時になく真剣な眼差しに息が詰まる。普段なら領空侵犯の時点で手痛い洗礼をくれてやるのに、何故本土上陸を許したのか。

 

アスカは級友の言葉を思い出す。

生来の中性的な面立ちに加え、シンジの目付きや所作からはフケツな生臭さを感じない。故に彼は、通常異性へ相対する際の本能的な緊張を強いられない。

その上、本質的には同性で無いので、女を相手にする様な対抗心も生まれないと云う、ある種のステルス持ちである。

 

「(実はコイツ相当な女誑しなんじゃ……)」

 

アスカが騒ぐ気配の無い事を認めると、シンジは彼女の視界を誘導する様に、ゆっくりと顔ごと視線を横に向ける。

彼らの視線の先では、少女がゆらゆらと舟を漕いでいた。

 

「(……そう云う事っ!)」

 

少し考えれば判る事だった、あの怜悧なシンジが意味も無くアスカに一時的接触(こんなマネ)をするワケが無い。

頭に上った血液が瞬時に臨界点まで過熱。しかし……、気化炸薬への相転移は成されなかった。

 

睨んだ先にある横顔は、数秒前とは打って変わり、しごく穏やかで優しい。

 

「(……この目、何処かで――)」

 

少年の眼差しに懐かしさを覚え、アスカの血は急速に冷める。

 

「(最近じゃない。ずっと、昔…………)」

 

シンジは静かに立ち上がり、ソファーで夢路を泳ぐ少女に寄り添う。

眠り姫の右側に膝を着いたシンジは、右手を姫の肩に回して上体を起こし、ソファーとの間に出来た隙間から左腕を差し込んで、小さな背を支える。

 

「ぅ……」

 

すると、コロ……と軽い寝返りで、少女は丁度良い具合にシンジの腕に収まった。

 

「(……ホントに寝てんのかしら、この子。ちょっと疑いたくなるわね)」

 

担がれている可能性を考えるアスカを余所に、姫君の膝裏に右手を回したシンジは、軽々と少女を抱き上げる。

 

「(む、コイツ意外と……)」

 

自身の8割前後になろう体重を持ち上げたにも拘わらず、少年の体幹は小揺るぎもしない。

 

「(何て云うか、すごく男の子ね。ヒカリも似た様なコト云ってたっけ)」

 

フェアリィテイルの王子様を思わせる所作、一度は冷めた胸の最奥に種火が灯る未知の感覚が、友人との雑談をより鮮明に蘇らせた。

 

 

 

 

一週間ほど前、総本部では(パイロットとして)先任(ライバル)となるシンジとレイに付いて、ヒカリに訊いた時だ。

唐突な話題に訝しむ彼女に、自分も2人の裏事情に噛んでいる事を教え、便宜的(テキトー)な理由を告げると、快く色々と話してくれた。

 

レイについては然したる収穫は無く、既知の情報を補足する程度だった。対して、質問の意図からは外れていたが、シンジについて面白い話があった。

ヒカリを含む多くの女子は、男子用に一定の距離を定めているそうだが、その距離感(ライン)の内側に、シンジは同性以上にスルリと入って来てしまう。そこで漸くシンジの性別を再認識してドキリとする事が多々ある、との事。

そう云う『思い出しドキ』は己の不覚であり、まだ乙女的に許容できる部類らしい。

逆にシンジが有罪(ギルティ)を免れない場合に関して、ヒカリは恥じらいと困惑が入り混じった微妙な笑みを作った。

 

「でも碇君って、やっぱり男の子なのよ。良い意味で――女の子の琴線に触れると云うか――ちょっと反則。私にはスズ……っ! 何でもないわ」

「ふ~ん(好きな子居るんだ……)」

 

面白半分で恋路を茶化される以上に不愉快な事など、思春期の少女には、まず存在しないとアスカは信じている。

 

「何よ、その目……」

「ふふっ、ねェヒカリ――」

 

故にアスカは、本命(スズ?)には言及せず、シンジに気があるのかと、冗談を云った。

 

 

 

 

Never(ぜったい) disturb(ゆらさない).細心の注意を払い、眠れる乙女を運ぶ足取りは恐ろしく滑らかだ。義兄の腕に抱かれる少女は、熟練ドライバーの就いたリムジンの如く一切の振動も感じていないだろう。

まさしく女の子が夢見るシチュエーションの典型である。尤も式波アスカは、そう云ったモノに憧憬の念を抱くタイプでは無いが。

 

器用に自室のドアを開け、常に壁との間に我が身を挟んで、腕の中に居る少女を保護しつつ、滑り込むように入室。

そんな2人――内1人は静態な故に、或いは1.5人?――の様子をアスカは頬杖をついて眺めていた。

彼女の意識に浮かぼうとする古い澱と、年頃の少女らしい想像力(イマジン)が奇妙な結合を果たし、寝室の内部を擬似的に透視する。

中性的な王子様は娘を優しくベッドに寝かせ、静かにDecken(ブランケット)を掛けてあげるだろう。

慈愛に満ちた微笑は、彼の器量から、きっと女性的な印象を受ける筈。

そして、柔らかな頬か愛らしいおでこに、キスの1つでもしているかもしれない。

 

 

小柄な少女1人寝かし付けるには少々長い時間が経過し、寝室から出てきたシンジは何故か約200秒前とは上衣が異なっていた。

 

「なんで着替えてんの?」

 

アスカが性別=(一応)男の寝ているベッドを嫌がった結果、レイの部屋が客室として供されている。つまり、彼が姫を連れ込んだ部屋は自室であるので、衣服には困らない。

だが、さして汗もかいて無かったし、脱いだシャツを持っていないのは不自然だ。

 

「剥かれた……」

「……本当に寝てるの?」

 

その一言で、アスカは相棒の状況を完全把握。レイが掴んだ服を放してくれないので、脱ぎ渡して来たのだ。

 

「それは間違いない(……だから余計に可愛いんだよね)」

 

エッジの効いた断言に反して、晒されたフニャふにゃんな惚気顔は婦女子のそれであり、真に婦女子であるアスカには何を考えているか丸判りだった。

 

そうね(・・・)(アタシ)も可愛いとおもうわよ?」

「――口に出してた?」

 

少女のその言葉は誰に向けたものだったのか。シンジの問いに、彼女は笑みを深めることで回答する。

 

今の共通認識、仕上がりは想定以上(120%)/全身に満ちる自信/陰の、そして最大の功労者は、最高にNiedlich(キュート)な女の子だ。

 

 

 

夜が更け始め、充分に人事も尽くされた。後は明日に備えて英気を養うのみ。

そんな折、入浴の優先権を主張するアスカに、躊躇無くシンジは家主としての主権を発動。

 

「君、長いだろ。僕は5分で上がる」

 

駄々と屁理屈をこねて不法占有を行う程、アスカは厚顔無恥では無いし、シンジの権利行使は正当なものだ。

更にそこに内包された、ぐぅの音も出ない合理的ロジックの存在に因り、彼女は妥協。

結果的に、熱いシャワー2分半、クールダウンの冷水1分半、身支度1分のカラスの行水でシンジは出て来たので、相互利益率は最大となった。

 

 

眠っているであろう少女を起こさぬ様に、静かに部屋に入ったシンジは、丁寧にドアを閉めた。そして足音に気を付けながらベッドに歩み寄る。

彼のベッドで眼を閉じている少女は、高名な禅僧の如く静謐であり、僅かに上下する胸に気付かなければ、その端正な輪郭から精巧な人形と誤認しかねない。

どこか明彩を欠いていた碧空色の髪は、いつしか月光を帯びた藍玉の輝きを宿した。元々長かった睫毛は、よりしなやかに伸びている。

そんなウンディーネを思わせる容貌は、華やかな仏蘭西人形に通じるようだが――華美な雰囲気が薄い独特の佇まいは、楚々とした京人形こそ本質に近い。

 

「(ブランケットは……まあ、いいか)」

 

毛布の1枚すら無い床で寝ても割と平気な自分と、レイを起こしてしまう可能性を天秤に掛け、即行で後者を優先。マットレスの地殻変動を起こさぬよう、慎重にベッドに上がる。

当時は役に立ちそうも無かった多点接地着地術のレクチャーを応用、うまく荷重を分散して褥を揺らさずにレイの隣で横になる。

すると不意に、本当にシンジにとっては不意に、眠り姫の眼がスッと開いた。

 

「……起こしちゃった?」

「いいえ、起きた(・・・)の……」

 

起きたいから起きた。つまり義兄の接近と云う事態に対し眠り続けるコトも出来たが、自らの意思で目覚めを選んだのか。野生の動物的、いやある意味もっと革新的な特性かもしれない。

 

「一緒が、よかった。おやすみなさい……て、云いたかったの」

 

文脈は怪しく抑揚も無かったが、その赤光は常より弱く、眉根は微かに震えている。

その切なげな紅眸を、せめて抱き締めようとしたシンジの衝動は、他ならぬレイによって制止された。

 

「ちょっと、待って」

 

云うな否や、ブランケットの上部と下部――は足指で――掴みゴロンと寝返って寝具を肌蹴る。そして少女は口元を綻ばせて振り返り、片手を開いて申し訳な程度に差し伸べた。

 

「来て……」

 

もっと傍に……。

 

その言葉と想い、少年には是非も無い。

シンジがもぞもぞと近寄り、互いの距離がほぼゼロになると、誘い手は後ろ手に掴んでいたブランケットをバサリと自分達に掛ける。

そしてシンジの向こう側に行った腕を、そのまま頭に回して、レイは胸元に彼を引き寄せた。

 

「え……レイ?」

 

それ、僕の役割……そんなシンジの心の声を黙殺。

 

「今は、明日の事だけ考えて……」

「…………うん」

 

義従妹の暖かな柔らかさと落ち着いた香りに、シンジの意識は、数秒で安寧に落ちて行った。

 

 

 

仮宿とは云え個人の秘密(プライヴァシィ)の保障がされた完全な(プライベヴェイト)密室(ルーム)、遅生まれの姉が弱いと語った主人格=惣流アスカも全ての鎧を脱ぎ捨て、その裸身と心を曝け出していた。

 

Ach(ぁふう)……」

 

シャワーの温度はやや熱めが好みのアスカだが、明日の決戦に備え、リラックス効果があると云われる温めの湯を浴びている。

日本人の同年代と比較すると……いやする迄も無く明らかに抜きん出たプロポーション。起伏に富んだ乳白色の肢体を、柔らかな温水が伝い落ちて行く。

 

少なからず筋肉が付いているとは云え、9mm軍用弾(パラべラム)を軽々と扱えるとは思えないほっそりとした腕と、少女らしい小さな肩。そこから細くて色っぽい鎖骨を下ると、実にワガママな自己主張をする山脈があった。

窯で膨れるパンの様に豊かに盛り上がった双峰は、急激に熟れゆく果実の如き内圧に、はち切れんばかりに張り詰めている。固さの残る白く瑞々しい肌には薄っすらと静脈が浮かび、その淡青色とは対照的な完熟プラムのピンクが尖端部周りを染めている。

 

胸背筋と若い肌の緊張で重力へ傲慢な姿勢を崩さず、ツンと上向いて浮つく小悪魔的な破戒力(バースト)をやり過すと、驚異的な上部に反してスレンダーなウェストに誘われる。

革紐で縛った様にキュっとくびれた腰部は、細くともイルカ等に通じる優美な流線形で、存外グラビアモデルによく見られる明白なメリハリは薄い。しかしそれが逆に、脂がのっていない思春期の貴重でナチュラルな魅力を感じさせる。

深層部から丁寧に鍛えられた腹筋により、引締まった腹の中心にある小さな窪み――正中線に沿って浅い渓谷を形作る臍。その切れ込みは見る者をある種の深淵へ堕とす様な、蠱惑的な誘引力を発して在る。

 

造り自体は浅/悩ましい奈落から、更に南下すると、黄金色の草叢が不揃いに波打っている。その三角州を思わせる小ぶりな丘陵は、薄く延びたV字の国境線で、若い肉で張り弾む双()国と曖昧に分かたれていた。

秘密の二等辺(Dreieck)を結合する頂点からは、緩やかな地続きのデルタとは違い、明白なラインとなるクレヴァスが裏側まで延びている。事象が側面から更に裏に至り、野性的ですらある腿国の別の顔が、素晴らしい水蜜桃であると判る。しかも恐るべき事に、既に十二分な蜜を貯め込んでいるこの大白桃は、未だ完熟には程遠い青い果実であるのだ。

 

濡れそぼつ茅原に縁取られた裂け目の直下では、左右から斜めに流入する琥珀翠雨が、透けた清水となって落下している。

僅かな量であったが、アスカはその滝に粘性の物が混じった事を感じた。

 

Was(あれ)?」

 

その正体が、谷底に秘匿された深淵へ繋がる縦穴に由来する物質だと気付くと、アスカは暖かな陰雨の中で薄目を開ける。忌々しいアレ(メンズ)は、まだ先の筈だった。ならばこれは?

 

「Amm……!」

 

不意に、弱い静電気の様な鈍い痛痒感が腰椎から頸椎にかけて奔り、アスカの薔薇色に染まった紅唇から微かな吐息が漏れた。

 

緩い飛沫が全身を保温しつつマッサージする事で、血流は促進され毛細血管も拡張。末梢部以外でも、血管密度の高い部位は自然と体積を増し、体幹部に存在する幾つかの末梢/尖端は、血潮の内圧に硬さを帯び始めていた。

その取るに足らない硬度変化は、水の運動エネルギーを電気エネルギーへ変換している生体素子において、その効率=発電量を引き上げる。それにより増量した感覚信号が脊髄を通りA10神経に達すると、快楽物質の代謝バランスを生産放出側に偏らせ、局所的な血圧の上昇は未熟な果実達をより豊満化させて行く。

その特異な感覚刺激をアスカ当人が自覚すると、双結実した淡いHimbeere(キイチゴ)は俄かに熟しだして、甘雨を歓ぶように小さく揺れる。

 

「Hachh……!」

 

無意識に数秒ほど止めていた呼吸は、熱い息と共に再開された。

 

何故、よりによって!――リースリングのAuslese(遅摘み)を思わせるアロマが、臍下の下部に集まり澱んでいる。自宅に独りならまだしも!――他人の、()()()()()()()

自らを律しなければ……と、アスカは背を丸め両腕を強く抱き締める。両脚をピッチリと閉じ合わせ、引き揚げられた牡蠣が潮を封じる様に、二枚貝の外縁を鼠蹊部ごと左右から圧迫。粘液の閉じ込めを図った。

だが、そんなアスカの意向とは裏腹に、太腿は内股でモジリモジリと擦り合わされ、貝覆いの戯れの様に貝殻同士を(まさぐ)らせていた。

 

大きく溜め息を吐いて、正面の鏡を――今は気が進まないが――見る。()()()()()()()()()、この方法が一番やり易い。

 

「どうするSie(アンタ)?」

 

惣流アスカが鏡の中の式波(Sie)に問いかける。それに対する鏡の国の(シキナミ)アスカは、どう云う訳か冷淡さすら感じる態度であった。

 

「どうもこうも、こう云う身体に基づく衝動(モノ)の類は代われないわよFrau()

 

言外にサッサと()()()()しまえと告げる鏡に映る自分を、アスカは――碌な表情をしていないだろうと――見詰め返す事はしなかった。

 

脳裏に浮かべた憧憬は、年上の男だ。背が高く程よく鍛えられた肉体を持っている。左手は上半身を這って、指先で木の実を転がす。右手は両脚の隙間――付け根辺りを覆い隠していた。

空想上も現実の加持も――アスカとは相対的に――大きな手と太い指をしている。だが、現実に使われるのは細長いアスカの指だ。

その僅かな差異の為か、或いは別の要因か。いつしか空想は寝室で眠っている兄妹2人に変化し、ある意味ずっと刺激的な夜の夢になった。

 

「さっさと寝よ……」

 

火照った身体も鎮まった事だし……と、家主が考えたより幾分か早くに、アスカは入浴を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、ネルフ総本部は喧騒に包まれていた。使徒イスラフェルの活動再開を観測したのだ。

 

「総員第1種戦闘配備、エヴァンゲリオン出撃準備! 私も直ぐ作戦指令室に往く」

 

司令執務室に併設された自室=司令専用職員寮にて、緊急コールを受けたゲンドウは、手早くネルフ最上級士官用ジャケットを羽織りながら作戦指令室へ急いだ。

早足で通路を進みながら、上着の正面を留めた処で、老齢に差し掛かった副司令と合流。そこで冬月は、総司令殿の頭部を見咎める。その指摘に対してゲンドウは、無言でナイトキャップを引っ掴み、ポケットへと押し込んだ。

 

 

作戦指令室に到着したゲンドウと冬月は、スタッフ達の敬礼に出迎えられた。それを掌を軽く掲げて制する事で、言外に「作業を続けよ」と伝えると、既に指揮を執っていたミサトを司令官席から見下ろした。

 

「状況はどうか」

「ハッ! 目標は現在、旧沼津市跡を抜け、三島市に侵入、湯河原・北東方面へ向け侵攻中です」

「エヴァの輸送ルートを辿られたか」

 

淀み無く答えるミサトに対し、ゲンドウは尊大かつ鷹揚な態度で応えた。

そして学者肌の冬月は、使徒活動再開の報から現在の上陸/侵攻状況の火急具合に、疑念を呈した。

 

「しかし随分と侵攻速度が速いな。目標が活動を再開する徴候は、観測されなかったのか?」

「いえ、それが……」

「成程、戦自(むこう)が情報を出し渋ったのか……エヴァとパイロットの状態はどうなっている?」

 

半ば無言で肯定するミサトに、冬月は苦虫を噛みながらも話は終わりだと告げ、更なる状況説明を求めた。

 

「初号機、弐号機、共に修復は完了。現在、兵装と電装部品(モビルニクス)の最終調整(チェック)を行っていますが、20分程度で終了します」

 

悪友からの目配せによる引継要請に応えたリツコは、手元のポータブル端末を一瞥してから、キビキビとルージュの引かれた唇を動かす。自分の管轄(シゴト)は終わり――パイロットは貴女の部下よ――と隣人を見た技術部長は、ミサトの頬が僅かに引き攣った事を見逃さなかった。

 

 

 

 

一方その頃――某戦闘指揮官の愚行が原因で、某少年宅に()()した――パイロット達は、加持が運転するワゴン車でネルフ本部へ急いでいた。

 

 

国連軍から使徒活動再開の一報を受けた直後にミサトは、加持から既に車を回していると連絡された。ミサトは「流石に耳が早い」と皮肉りながらも、エスコートを加持に一任。

マンションの一時(ワンタイム)キーの発行を受けた加持は、シンジ・レイ兄妹? の家に入ると、怒鳴り声にならない程度の大声で呼びかけた。

 

「アスカ! シンジ君、レイちゃん! 起きてるか!」

 

非常事態故に、元カノの様に容赦無くドアや戸を開けて行く加持に、最初に反応したのは()のベッドを借りていたアスカだった。

 

「加持……さん」

 

仮宿から出たアスカは半眼を擦りつつ、つい呼び捨てをしそうになり、敬称を追加。

 

「アスカ、使徒が動き出した! シンジ君達は?」

「ッ、そっちの部屋よ!」

 

反射的にシンジの部屋を指差す。クルリと反転して取手に手を掛けた加持に、アスカは「アッ――!」と声を漏らした。

使徒活動再開の知らせで一気に目が覚めたアスカだが、昨晩の残滓と寝惚け頭が合体し、ベッドにて裸で抱き合う2人を妄察。アスカは2人が恥を晒すのは忍びないと、慌てて加持に手を伸ばす。だが、時はすでに遅し。加持はヘヴンズドアーを開け放っていた。

 

無論、アスカが期待……もとい危惧した光景なんぞ無い。

部屋の内では、両腕の中にレイを匿うシンジが、ベッドの上から加持を睨んでいただけだ。

 

「なん――」

「使徒が動き出した! 今直ぐネルフ本部へ行くぞ!」

「ッ!!」

 

シンジは息を呑んで一瞬だけ目を見開くと、レイを抱く腕を少し緩め、密着状態から鼻先が触れ合う程度の距離感に微調整。少女の紅眸と、少年の黒眸が1~2秒繋がり、そして離れる。見つめ合い……瞳と瞳の光通信で、意思疎通は完了。

 

2人は同時にベッドから降りた。シンジはベッドサイドに用意していたトートバッグを持ち上げる。レイはサイドテーブルに畳んで置いていた制服の下――ジャンパースカート――を手に取り、肩当を持ってバサリと広げ、僅か2工程で穿いて身に着けた。

トップスがブラウスで無い――ブカブカのYシャツだ――が、一応は外出着=制服姿となったレイがスカートのジッパーを上げるのを横目に確認し、シンジは加持に向き直る。

 

「準備OKです!」

「IDカードは?」

「バッグに入ってる」

 

加持は「ヨシ」と頷くと、何処か呆けた顔のアスカへと振り向いた。その表情の理由には言及しない。

 

「アスカ、君は!?」

「すぐ準備するわ!」

「急げ、62秒で支度しろ!」

 

アスカは「Ja!」と短く答えると、寝ていた部屋へと踵を返し、後ろ手にドアをバタンと閉める。レイの部屋からバタバタと物音が響き、約40秒後に着替えたアスカがボストンバッグを片手にドアを開いた。

 

 

車上の人となったパイロット3人は、MAGIによる電子情報統制措置により、第3新東京にて最優先の通信権限を与えられた端末で、ネルフ本部と繋がっていた。

 

「確か予報じゃ、今日の昼頃に動き出すんじゃなかったの?」

「使徒の能力は常に未知数よ。MAGIと云えど、完全な予測は困難だわ」

 

だからこそ昨日は、躊躇無く帰宅を選ぶ事が出来たのに――と云う、アスカの詰問に、ラップトップモニターのリツコは冷静に答える。

 

「使徒は今、どの辺りですか?」

「目標は芦ノ湖の東側を北上して、現在位置は浅間山の手前まで来ている。要塞迎撃都市への到達予想は25分後だ」

 

シンジの問いには、画面の一部が切り取られて現れた青葉が答えた。

 

「こっちは――」

 

言葉を切ったシンジが、加持に呼びかけると大きく「4分で着く!」と返ってくる。そこに青葉を押し退ける様にミサトが「聞こえたわ!」と出現。

 

「エヴァの準備は万全――あんた達が到着すれば、直ぐに起動出来る。待ってるわ」

 

そう云ってミサトがモニターから消えると、パイロット達はキュッと唇と引き結んだ。

 

 

 

 

双子の使徒イスラフェルは、分裂状態から合体状態に戻って侵攻して来ていた。数分前に、東部の最終ラインである強羅防衛線を悠々と突破し、既に迎撃都市たる第3新東京の外縁部に達している。

 

都市内に足を踏み入れたイスラフェルはジオフロントへの侵入場所を探しているのか、兵装ビルが点在する平地部をゆっくりと歩いていた。

その兵装ビル群の一角――とあるビルの屋上部が人知れず展開。その開口部から内部を覗くと、平行な2本のレールが、地下深くからビルの天頂部まで続いている事が見て取れる。

俄かにレールが震え始め、その振動は急速に激しさを増していく。それは巨大な質量を持つ物体が、高速で昇って来る為であった。

 

最上部の固定ロックを解除した輸送リフトを射出機(マスドライバ)に、エヴァンゲリオン弐号機は天高く撃ちだされた。

弐号機は空中で1回転しつつ、腰部ハードポイントから引き抜いたポールウェポンを伸展。長柄が完全に展開され、ガチンとロックが掛かると、上端と下端にある高周波振動刃が唸りを上げる。

ソニックグレイヴ・ダブルブレードモデル――ソニックグレイヴ・ツインランスを振り上げた弐号機は、イスラフェルを斬り伏せんと落下して行く。

 

しかし敵もさる者。弐号機が飛翔した直後から、イスラフェルは仮面部位を発光させ、ビーム砲を準備していた。あわや、弐号機が狙い撃ちされると思いきや、出撃用ビルの側面から、パレットライフルを左右各々の手に握った初号機が時間差で躍り出る。

弐号機が空中からATフィールドを中和する中、初号機左手のパレットライフルから放たれた250mm炸裂徹甲弾が、使徒イスラフェルに突き刺さる。ビーム砲のチャージ時間が短かった為か、エネルギーの誘爆こそしなかったものの、仮面部位を砕かれたイスラフェルは一瞬怯む。その隙を見逃すアスカと弐号機では無い。

 

「どりゃああ!」

 

弐号機のツインランス一閃。初戦の焼き直しの様に、唐竹に割られたイスラフェルは一瞬で『色付き』と『色落ち』の2体となって再生する。

だが、雪辱に燃えるアスカに油断は無い。着地時の腰を落とした状態から、流麗な動きにて頭上でツインランスを回転させ、2体をほぼ同時に斬り付けつつ弐号機は飛び退る。

連斬撃の効果確認は不要だった。すかさず初号機が、開いた射線の先――色付きへと、左の250mm弾を叩き込む。

 

弐号機はバックステップから、フィギュアスケートを思わせる華麗なジャンプを決めつつ、ツインランスを中央から分割。2本のショートグレイヴをターンジャンプの遠心力で投擲。身軽になった弐号機は、更に後方宙返りをして、初号機の隣に着地する。

 

「ライフル!」

「ライフル!」

 

シンジとアスカは異口同音にして異義を叫び、初号機右手のパレットライフルが、弐号機へと放られる。受け取ったパレットライフルを構えつつ、外部電源(アンビリカル)ケーブルを接続。アスカはサブモニターに僚機ステータス表示させ、初号機の全弾消耗に被せて射撃を開始。

 

弐号機は色付きへと攻撃を集中させながらも、仮面部位にショートグレイヴが刺さったまま接近して来る色落ちにも、250mm口径をバラ撒き牽制。その間に初号機は、武器庫ビルに上って来た新しいパレットライフルを受領する。

 

弾幕で2体の足止めが為されている隙に、シンジは初号機右腰部から新装備を抜刀した。

マゴロク・プログレッシヴ・ソード。そのショートモデル=マゴロク・カウンター・ソード――エヴァサイズの脇差であり、プログナイフやソニックグレイヴ同様の高周波振動刃を有する。備考として、汎用性の確保の為に、敢えて刀身を反らさない直剣として造られている。

更にシンジは引き抜いたカウンターソードを、初号機が右手に持つパレットライフルの下部アタッチメントレールに装着。この銃剣状態は特に、パレットソードライフルと呼称される。

 

 

初号機の武装完了が表示されたサブモニターを横目に、アスカは弐号機を奔らせた。突撃銃(アサルトライフル)と云う銃種の通りに、電磁加速された砲弾を連射ながら、弐号機は『色付き』との距離を一気に詰める。

 

ショートレンジ――ATフィールド完全中和圏内/近接戦闘。

駆けながらパレットライフルを投げ捨てたアスカは、弐号機左肩ウェポンラックを開放、プログレッシヴナイフ・ヴァリアント2――通称、プログナイフ改――を抜きざまに、色付きのコアを袈裟に斬り付ける。薄刃の高周波振動刃はコアの半ばまで斬り込むも、パキンと根元から圧し折れた。アスカに動揺は無い。

 

Nachster(つぎ)!」

 

ネスター……寧ろ短く「ネス」と云ったアスカの言葉通りに、折れたプログナイフの刀身が、柄の内部から新たに延びる。プログレッシヴナイフ改は、カッターナイフの様に新品の刃をグリップの奥に蓄えているのだ。

 

後ろ手から振り子の様に腕を戻し、色付きのコアを下方から突き刺す。そのまま力任せに刃を折りながら振り上げ、掌中でプログナイフをクルリと回転、逆手での振り下ろし。右掌上下反転/左下段から裏拳気味の逆手突き。予備刀身、全段消耗。

 

バキンバキンとプログレッシヴナイフ改の高周波振動刃を折りながら、順手・逆手で各2回。その数の刃が色付きのコアに刺さっている。この使徒はコアを損傷すると、修復されるまでは動けない。

 

「ウオオオッ!」

 

柄のみとなったプログナイフ改を、最後の逆手付きの勢いのまま捨てる。その右腕の回転モーメントを利用し、左拳でのアッパーカットで、動けない色付きを空中にカチ上げ――。

 

「リャアアアッッ!!」

 

更にアクセルジャンプからの跳び上段/渾身の右後ろ回し蹴りを叩き込み、数百メートル先にまで色付きをブッ飛ばした。

 

 

ウルトラE(エヴァ)の大技を終え、着地しようとしている弐号機の隙を、半身を痛め付けられた『色落ち』が見逃す筈も無かった。

両腕のカギ爪を振り上げた色落ち、しかしアスカの顔には笑みが浮かんでいる。ザクリと色落ちのコアから切っ先が生える。初号機によるパレットソードライフルの銃剣――マゴロクカウンターソードでの奇襲だ。

 

「セェッイ!」

 

背後からコアを貫いたシンジは、串刺しにしたまま色落ちを頭上に持ち上げ、ソードライフルのトリガーを引き絞る。250mm炸裂徹甲弾は、周辺の組織諸共コアを穿ち、空高く消えて行く。

 

「決めにいくわよ!」

「応!」

 

シンジはライフルのトリガーを射撃状態でロックすると、初号機の背面――『色付き』とは反対方向――へ突き刺したソードライフルごと色落ちを放り投げた。

 

色落ちはもんどり打たれて転がった。使徒にとっては幸いにも、パレットライフルの下部アタッチメントが衝撃荷重に耐えきれず破損。絶え間なく蜂の巣にされる事からは解放されたが、マゴロクカウンターソードの刀身は未だ背面からコアを貫通している。

 

緩慢な動作で直立した色落ちは、コアの再生圧でなんとかカウンターソードを圧し折って排除。しかし漸っと刺さっていた刃を抜いた色落ちの前には、既にデュアルソーを構えた弐号機が立ち塞がっていた。

 

Guteag(ごきげんよう)

 

そんな挨拶と共にアスカは、高速回転する連装の高周波振動刃を色落ちのコアに突き込む。デュアルソーによってコアの再生を封じられた色落ちを、油断無く見据えながら、アスカは意識の一部を後方の初号機に振り分けた。

 

 

作戦の第1段階。合体した使徒イスラフェルを再分裂させる。

第2段階は、分裂したイスラフェルの一方のみに攻撃を集中させ、コアの量子共鳴二乗出力化を阻害しつつ、2体を分断。

作戦最終段階。分裂した一方を大型破砕兵器デュアルソーによるコアの連続粉砕で無力化。そして――。

 

 

投げ飛ばした『色落ち』に、デュアルソーを装備した弐号機が向かって行く中で、初号機は『色付き』に臨まんとしていた。地面に何度かバウンドしながらも、色付きはコアに突き刺さったプログナイフを弾き出し、停止して起き上がる頃にはダメージの大半も癒えている。

 

「色付きの頭上を押さえる! 兵装ビル、16番から25番、36番から49番まで全力発射(フルファイア)!」

 

零号機のコクピットから、戦況を見守って居たレイより「使徒を跳躍させずに地上戦を……」との意見具申を受け入れたミサトは、弐号機が色落ちを抑え込むタイミングで目を見開き、通常兵器での援護を命じた。

 

 

人工流星を供廻りに、シンジは初号機を駆りながら、機能をアンロックされた事で操縦桿(インダクションレバー)のトリガースイッチに登録(セット)された操縦(シンクロ)モードを意識する。

 

「(使用可能(つかえる)時間()は2秒だけ……)」

 

エヴァの特殊連動シンクロシステム。初号機へ搭乗する直前に、リツコから「時間制限のある試作品だけど搭載した」と云う事で説明を受けている。

 

「(使うなら今!)」

 

シンジは人差し指の緊張を抑えながら、初号機の右手を、左腰部ラックに懸架された新装備の柄に添えさせた。

 

マゴロク・プログレッシヴ・ソード・ロングモデル――マゴロク・エクスターミネート・ソードと呼称される。ショートモデルとは対を成す長刀――反りのある太刀であり、長大な高周波振動刃による攻撃力は絶大。

この剣を以って、初号機に狙いを定めて来た色付きを両断するのだ。

 

ミドルレンジ――ATフィールド中和開始距離。

 

「ここだッ!」

 

シンジがトリガースイッチを引いた直後。彼の頭の奥――或いは脳内のあらゆる場所――から、無数の輝く粒子が放射され、自身の脳や肉体すら超えて、エヴァ初号機の全身にまで広がった感覚が、シンジを突き抜けた。

 

 

感応増幅式操縦補助機構。簡単に説明すれば、読み取った脳量子波で、エヴァの操縦系――神経素子に干渉する事で、擬似的にシンクロ率と反応速度を引き上げるシステム。

厳密に云えば、シンジは脳量子波を失った訳では無い。そもそも全人類は脳量子波を持っている。ただ、その強度が観測できない程、弱いだけだ。

だがシンジは、シャムシエル戦前後の期間、脳量子波のサンプリングを受けている。そのデータを活用し、量子場観測装置の設定を行う事で――適用はシンジのみだが――実用可能な脳量子波入力機器として暁光が差された。

 

その名も、1.5(アイズ)システム――Inspirational Intention Maneuvering Auxiliary System. Iが先頭となり、また単語数が5個である点。

何より、MAGIの計算において、エヴァの性能を50%向上させる効果が見込める事から、I’sにして1.5のシステムと命名された。

 

 

1.5(アイズ)システムが起動した瞬間。

シンジの中では、初号機の操縦に集中している自分と、拡散する閃光を感じている自分と云う複数の意識が揺らいで居た。

量子化した思考はコンマ02secで統合され、加速する意識は『色付き』が()()()()()()()()右腕を、マゴロク・エクスターミネート・ソードの抜刀居合で斬り飛ばしていた。

 

刃を反し柄頭に左手を添える/同時に踏み込む/色付きのコアへとマゴロクを振り下す。仮面部位を叩き斬るも、ミサイルの被弾すら厭わない様な色付きのバックステップにより、切っ先こそコアに届いたが破壊には至らない。

追い縋って初号機も跳ぶ/左側に刃を逃す為、右手は柄から離れている。左腕の回転軸面を水平へ/初号機自体も宙で一転。1.5システム限界時間/システム強制終了。だが既に、次の運動命令は下されている。

 

「セアアアッ!」

 

捻り跳び込みからの変則的な逆胴、マゴロクの薙ぎ払い。長大な高周波振動刃はその刃長を活かし、滑るように色付きの胴体に斬り込み、一刀で体幹部に鎮座するコアを両断した。

 

空中でバランスを崩した初号機が、片膝立ちで着地した直後、色付きのコアはグチャリと圧潰。第3新東京の空に十字の爆炎が2つ昇る。シンジは大きく息を吐くと、初号機を立ち上がらせマゴロク・エクスターミネート・ソードを納刀した。

 

 

 

 

ネルフ本部が勝利に沸く中、ある男が監視システムの死角となる場所で息を潜めながら、手にした小型端末のボタンを押した。

その直後、第3新東京市のあらゆる電力が停止し、ネルフ本部は暗闇に包まれた。

 

 

この非常事態に、使徒殲滅の余韻に浸っていたネルフは騒然となり、スタッフの多くは動揺を隠せていないが、司令官クラスともなれば平静を保っている。

 

「状況を確認し報告しろ!」

 

総司令からの命令に、オペレーター達が動き出した。コンソールには小型バッテリーが設置されており、今回の様に全館が停電しても、ある程度は動かせる。

 

「本部内、全系統電圧ゼロ。生き残っているのは前組織(ゲヒルン)時代の一部回線のみです!」

「MAGIとセントラルドグマの維持に、残った全電力を回せ。最優先だ!」

 

パワーグリッドの再設定が行われる中、ゲンドウ達はこの停電が人為的な物――ネルフ本部の調査などを目的とした破壊工作であるとの結論に達していた。

復旧ルートからの構造把握を妨害する為、既にリツコはMAGIによる欺瞞情報撹乱を始めている。ミサトはパイロット保護の為に、日向など信用のおける部下達と共に、ケイジへと走っていった。

 

 

 

 

数時間後、なんとか電力の復旧に成功したネルフ本部。その総司令執務室では、保安諜報部による事件の捜査報告が行われていた。その懸命な調査の甲斐もあり、実行犯の1人を特定し拘束する事に成功している。

特にゲンドウはこの時まで、眉一つ動かさぬ沈着さを示していたが、内心では静かに炯々と業火を燃やしていた。

 

「そうだ、対象の生死は問わん。何としても口を割らせろ」

 

総司令たるゲンドウは、ネルフと云う一国一城の主である。自らの城に紛れ込んだ鼠へ、一切の容赦をする気は無い。なにしろ状況証拠から、後宮の美姫(パイロット)の拉致や、王より大切な国宝(エヴァ)への破壊工作などを、画策していた事を掴んでいたのだ。

 

拷問、薬物使用。果ては頭蓋骨を切除し、脳に電極を挿して情報を強制的に吸い出す事すらも、ゲンドウは厭わせない。

例え不幸中の幸いにも、ミサト達とパイロット3人が無事合流できた事も、エヴァに何の異常が無かった事も、考慮には値しないのだ。

 

 

保安諜報部員が去った司令執務室で、同席していた冬月はため息交じりに口を開いた。

 

「しかし嫌な話だな。本部、初の被害が同じヒトに因るものだとは……」

「所詮、人間の敵は人間と云う事だ。使徒などは寧ろ、克服すべき自然災害に近いだろう」

 

冬月は「やりきれん話だ」と呟いて自身のデスクに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、市立第一中学校の2-Aでは、朝礼前と云う事を差し引いても、随分と浮ついた空気が流れていた。間近に迫った修学旅行への期待に、生徒達は色めき立っている。

タダでさえ物騒な近年、先日の停電ではシェルター内の換気システムが一部停止した為に、体調不良を訴えた者も少なくない。そんな中で開放的な旅行先――沖縄を思えば、気分も高揚すると云うものだ。

 

予鈴が鳴り暫くして、担任の利根川教諭が教室に入り、生徒達に着席を促すもやはりその動きは鈍い。クラス委員長の洞木ヒカリの注意も、何処か精彩を欠いている。利根川教諭は穏やかさを崩す事無く、話があるから再度着席を促すと、ソロソロと生徒たちは席に向かった。

 

全員の着席を確認した利根川教諭は、廊下に向かって呼びかける。

 

「転校生を紹介します。霧島さんに山岸さん、入って下さい」

 

すると、廊下で待って居た2人の少女が教室に入って来た。利根川教諭が2人の名前を黒板に書き、綴りは正しいか小声で確認した後、クラスへの簡単な自己紹介を求めた。

それに対し、軽く脱色したショートカットの少女が「じゃあ私から」と、前にピョンと出る。

 

「霧島マナです! みんなヨロシクね!」

 

その見た目通りの、快活な挨拶に、一部のノリの良い生徒が「よろしゅう!」などと声を上げる。

マナの話が終わると、利根川はもう1人の少女を促した。彼女は小さく「はい」と答え、スッと一歩を踏み出す。見た目からしてマナとはかなり対照的な少女だった。

 

「山岸マユミです。よろしくお願いします」

 

そう云って一礼するマユミは、フレームレスの丸眼鏡を掛け、長い黒髪を切り揃えており、楚々とした文学少女を思わせる。

 

 

転校生2人の自己紹介を聴き終えたシンジは、隣にの席に座るレイに顔を向ける。するとレイもまた、少年を見つめ返した。

 

「(こんな風に2人の世界創っちゃてねぇ?)」

 

そんなシンジとレイに、アスカは冷めた秋波を送りながら、修学旅行に思いを馳せている。

 

それ故に、エヴァパイロットの3人――特にシンジ――を、じっと見詰める霧島マナの視線に、その時は誰も気付かなかった。




数年前のストック分は約半分の1万文字くらい。残りはほぼ新規描き下ろしです(プロットはしっかり組んでましたが)。
また、気付かれた方もいると思いますが、徹底的に『2』と云う数字を意識しています。


アスカちゃんはスケベボディ
コレが原因で、R15タグの当話投稿前の事前追加を決意した。アスカのネタは当初は、加持→シンジの予定でしたが、3Pを観たいと云う感想があったので、一部の改良に性……成功しました。

ゲンドウ
ナイトキャップ着用派。

モビルニクス
アヴィオニクスの機動兵器版。クールなので結構好きな用語です。

62秒で~
言わずと知れたMa・ドーラ婆さんのパロディ。何気に40秒で出て来て元ネタ回収をしている。


イスラフェルの侵攻ルート
駿河湾(南西)で戦った奴が、何故か反対の強羅(東北東)から向かって来る?
整合性を持たせる為、グーグルマップと睨めっこです。


イスラフェルとの再戦
筆者的にかなりダブルオーを意識してます。武器などのネーミングとか。あとは一部のスポーツ用語などの多用ですね。
元のユニゾン作戦――と云うか、スパロボでいう合体武器名ユニゾンキック――の面影がほぼ無い。ただ一部の攻撃は、元の動きを参考にしています。
また地味にレイの――ついでにミサトも――見せ場を作ってます。分り易いですが、兵装ビルのナンバーは1桁自然数の2乗。


1.5(アイズ)システム
第2話から張って来た伏線を、やっと回収出来ました。名前の元ネタは当然1.5(アイズ)ガンダム。
イノベーターである必要なくね?(原文ママ)と米して2点付けたDummeは悔い改めよ

マナとマユミのW転校生(transfers)
最後の『2』は転校生。そして市外からやって来た新入者、即ちRaiderでもあります。
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