問題児とドラゴンと天使を従える精霊使いの少年が来るそうですよ? 作:ユンベルク
「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」
‘‘サウザンドアイズ”の店の中は外側からは考えられない程の広さだった。
七人と一匹は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。個室というにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びしてから俺達に向き直る。
「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている‘‘サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」
「はいはい、お世話になっております本当に」
投げやりな言葉で返す黒ウサギ。その隣で春日部さんが小首を傾げて問う。
「その外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」
黒ウサギがホワイトボード的なもので上から見た箱庭の図を使って説明してくれている。
「...........超巨大タマネギ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」
「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」
「そうですね。バームクーヘンに似てるかもしれません」
四人の身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。
対照的に、白夜叉は呵々と哄笑をあげて二度三度と頷いた。
「うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は‘‘世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強大なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞーーーーーその水樹の持ち主などな」
白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」
「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしたのですよ」
「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」
「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」
神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高ランクに体を変幻させるギフトを指す。
蛇に神格を与えれば巨躯の大蛇に。
人に神格を与えれば現人神や神童に。
鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。
更に神格を持つことで他のギフトも強化される。箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目標のため神格を手に入れることを第一目標とし、彼らは上層を目指して力を付けているのだ。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ?もう何百年も前の話だがの」
小さな胸を張り、豪快に笑う白夜叉。それを十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。
「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の‘‘
白夜叉がそういうと同時に十六夜・久遠さん・春日部さんの三人は一斉に瞳を輝かせた。
「そう.........ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
そういうと三人は立ち上がり剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。
「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」
「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」
「はぁ。なんでいつも初対面の人に喧嘩を売るんですか......」
慌てる黒ウサギとコメカミに手を当てる俺。
白夜叉は黒ウサギを右手で制する。
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」
「ノリがいいわね。そういうの好きよ」
三人とも相手の実力を分かって喧嘩売ってるんですよね?
「ふふ、そうか。しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」
どう考えても君達三人じゃ、
「おんしらが望むのは‘‘挑戦”か?もしくはーーーー」
絶対的に勝てるわけないのに。
「‘‘決闘”か?」
刹那、ここにいる全員の視界が爆発的な変化が起きた。
視覚の意味をなくし、様々な情景が脳裏で回転し始める。脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から呑み込んでいく。そして投げ出されたのは白い雪原と凍る湖畔ーーーそして、水平に太陽が廻る世界だった。
「「「..........なっ!?」」」
あまりの異常さに息を呑む三人。
遠く薄明の空にある星は只一つ。緩やかに世界を水平に廻る、白い太陽のみ。
まるで星を一つ、世界を一つ作り出したかのような奇跡の顕現。
これには悠弥も他の三人と同じように唖然と立ち竦む。
そんな四人に白夜叉は今一度問いかける。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は‘‘白き夜の魔王”ーーー太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への‘‘挑戦”か?それとも対等な‘‘決闘”か?」
少女とは思えぬ凄味に三人は再度息を呑む。
星霊とは前に説明した箱庭の『最強種』の一角である龍の純血と同等の力を持つ種族の事である。
惑星級以上の星に存在する主精霊。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、同時にギフトを‘‘与える側”の存在でもある。
星霊は最強種の中でも頂点に位置する。その理由は戦闘能力の問題でなく人類の発祥とは無関係に必ず誕生するためである。故に星霊を完全に殺すためには無限に存在する世界を破壊し尽くすほどの力でなければできないのである。
「水平に廻る太陽とこの雪原と湖畔...........なるほど。『白夜』と『夜叉』。この土地全てが白夜叉の存在を表現しているみたいですね」
「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の一つだ」
白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方から雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。
「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤.......!?」
「如何にも。して、おんしらの返答は?‘‘挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。だがしかし‘‘決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」
「「「..............っ」」」
三人は即答出来ずに返事を躊躇う。
そらそうですよ、相手が悪すぎますね。いくら蛇神に勝てたといっても今回の相手は正しく次元が違います。ジブリールとティアの方を見ると首を横に振る。彼女達ですら敵わないと思わせるほどの相手。しかも
「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」
しばらく静かだった十六夜が諦めたように笑いながら降参した。
「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」
「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。いいぜ。今回は黙って
苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪え切れず高らかと笑い飛ばした。プライドの高い十六夜の最大限の譲歩の言葉である『試されてやる』。白夜叉は随分と可愛らしい意地の張り方だと、腹を抱えて哄笑をあげた。
「く、くく.........して、ほかの童達も同じか?」
「.........ええ。私も、試されてあげてもいいわ」
「右に同じ」
苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。
「そうか。しておんしらはどうする?」
「マスターのお選びになる方にします」
「私もだ」
「じゃあ俺も試練で」
「うむ、そうか。そこの二人とは是非決闘してみたいとおもったのじゃがの.......」
そう言ってティアとジブリールを見て目を細める。
「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!‘‘階層支配者”に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う‘‘階層支配者”なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」
「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」
「はてさて、どうだったかな?」
ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉。ガクリと肩を落とす黒ウサギと三人。
あらら、現魔王ならエストが有効だったんですけどねー。白夜叉に挑むのはもう少し強くなってから、ですね。
その時、彼方にある山脈から甲高い叫び声が聞こえた。獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、春日部さんだった。
「何、今の鳴き声。初めて聞いた」
「ふむ.......あやつか。おんしら四人を試すには打ってつけかもしれんの」
白夜叉が鳴き声のした方にチョイチョイと手招きすると体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く四人の元に現れた。
鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣を見て、春日部さんは驚愕と歓喜の籠った声を上げる。
「グリフォン......嘘、本物!?」
おお。会ってから一番大きな声だしましたよ。これはティアの本当の姿を見たら絶対にテンション上げてくれますね。
「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。‘‘力”‘‘知恵”‘‘勇気”の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」
グリフォンは白夜叉の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。
「超カッコいいですね!!」
悠弥もグリフォンに礼をするとすぐにグリフォンに駆け寄りキラキラした目でグリフォンを見つめる。
「さて、肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンで‘‘力”‘‘知恵”‘‘勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞う事が出来ればクリア、という事にしようか」
すると、虚空から‘‘主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。
『ギフトゲーム名 ‘‘鷲獅子の手綱”
・プレイヤー一覧
逆廻十六夜
久遠飛鳥
春日部耀
一ノ瀬悠弥
・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。
・クリア方法 ‘‘力”‘‘知恵”‘‘勇気”の何れかでグリフォンに認められる。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
‘‘サウザンドアイズ”印』
「私がやる」
読み終わるや否や指先まで綺麗に伸ばして挙手したのは春日部さん。
『お、お嬢........大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』
「大丈夫、問題ない」
「ふむ。自信はあるようだが、コレは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我では済まんが」
「大丈夫、問題ない」
RPGのNPCみたいな受け答えですね......。
そんなキラキラした瞳されたら譲るしかないじゃないですか。
どうやら久遠さんと十六夜も同じ意見みたいですし。
「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」
「気をつけてね、春日部さん」
「骨はちゃんと拾いますから安心してください」
「うん、頑張る。あと、悠弥のは応援じゃない」
頷き、ツッコミ、グリフォンに駆け寄る。
まさかあんな無表情でフラットなツッコミが来るとは思いませんでした。
春日部さんとグリフォンは数mほど離れた距離で互いを見つめ合う。
「え、えーと。初めまして、春日部耀です」
『!?』
ビクンッ!とグリフォンが跳ねた。
「ほう.......あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」
白夜叉は感心したように扇を広げた。
そういえば彼女が抱えてた三毛猫とも会話していたような感じでしたね。
それが春日部さんのギフトなんでしょうか?
「私を貴方の背に乗せ........誇りを賭けて勝負をしませんか?」
『......何.....!?』
中々大胆な挑発をする春日部さん。
見かけによらず豪快な人なんですね。
「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていたら私の勝ち。..........どうかな?」
『娘よ。お前は私に‘‘誇りを賭けろ”と持ちかけた。お前の述べる通り、娘一人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。ーーーだがな娘。誇りの対価に、お前は何を賭す?』
「命を賭けます」
即答ですね。
その答えに黒ウサギと久遠さんが驚きの声を上げる。
「だ、駄目です!」
「か、春日部さん!?本気なの!?」
「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。........それじゃあ駄目かな?」
『......ふむ...』
心の中でいいともー!と巫山戯た返事をしていると更に慌てだす黒ウサギと久遠さん。
「二人とも煩いですよ」
「「......なっ!?」」
「これは春日部さんのゲームです。君達が彼女の決意を無下にすることをやってはいけない事じゃないのですか?」
「ああ、無粋な事はやめとけ」
「そんな問題ではございません!!同士にこんな分の悪いゲームさせるわけにはーーーー」
「大丈夫だよ」
春日部さんは振り向きながら黒ウサギと久遠さんに頷く。その瞳には何の気負いもなく、むしろ勝算があるような表情だ。
グリフォンはしばし考えた後、頭を下げて背に乗るように促した。
『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』
春日部さんは頷き、手綱を握って背に乗り込む。そしてグリフォンの強靭で滑らかな肢体を擦りつつ、満足そうに呟いた。
「始める前に一言だけ。.........私、貴方の背に跨るのが夢の一つだったんだ」
『.......そうか』
そうしてギフトゲームが始まり、春日部さんの勝利でこのゲームは終了した。
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