椅子の背後にはステンドグラスから月の光が射し
レミリアの影をより濃く、深く照らしている
「よくここまでたどり着いたわね、褒めてあげるわ」
「お初にお目にかかります、私垣根帝督と申します
お褒めに預かり光栄でございます」
仰々しい挨拶をし、畏まった礼をする垣根
しかし、その仕草は誰がどう見てもふざけているようにしか見えない
主に、ニヤニヤと笑っているその顔が原因なのだが
「…ふざけているのかしら?」
「咲夜、だっけか?そこのメイドに行儀よくって言われたんでな
お気に召さなかったか?」
「…ふふ、貴方のような威勢のいい人間は嫌いじゃないわ
この私を前にしてそれだけ尊大な態度をとるなんて面白いじゃない」
心の底から愉快そうに笑うレミリア
そして、そのレミリアから何かが吹き出す
形がある物体ではないが、その小さな体からはとてつもない『何か』が噴出していた
(こりゃあ、マジもんだな…とんでもねぇ存在感だ)
目の前の吸血鬼は、学園都市第二位をもってして驚異と感じるレベルにあった
おそらく、常人がこの威圧を受けていれば失神するか
良くてもその場で腰を抜かしてしまうだろう
さて、と一つ間を置き尊大に言う
「楽しい夜になりそうね」
「長ぇ夜になりそうだな」
その言葉が合図となり、吸血鬼と超能力者の戦闘が幕を開けた
まず動いたのは垣根、腕を組み自分を見下ろしているレミリアの元へ一瞬で到達し
翼を唸らせ、人体の急所六ヶ所を同時に狙う
しかし、レミリアは空中にいるにも関わらず、その場で直角に動き垣根を背後を取る
「っちぃ!」
対して垣根は翼の揚力をゼロにし、あえて重力に身を預ける
そして、ついさっきまで垣根の頭があった位置をレミリアの手刀が貫く
垣根は自由落下し、地面スレスレの所で停止することで難を逃れる
「ふふ、そんなものでは私には到底届かないわよ?」
またも垣根を見下ろし尊大に言うレミリア
(さっきの空中の挙動を見る限り、アイツは俺より空中戦に慣れてる
しかも単純なスピードでもおそらく負けてやがる…)
垣根が学園都市にいた頃は、相手にするのは低レベルの能力者がほとんど
たまに高位能力者と戦闘したとしても空を飛ぶ相手などいなかった
(思い返してみりゃあ人と空中戦したのなんざあの第一位との戦いの時ぐらいか)
思い出したくもない相手の顔を思い出し、思わず舌打ちをする
「私とのダンスはそんなに楽しくないのかしら?」
「ハッ、テメェみたいなガキには興味無いんでな」
「…言ってくれるじゃないの、今からそのガキにやられるのよ?」
不敵に笑い、優雅な動作で構える
「いくわよ?紅符『不夜城レッド』!」
レミリアが声高に宣言すると、彼女を中心として十字架型に真紅の光が噴射される
もっとも、彼女のほぼ真下にいた垣根からは自分へと向けて圧倒的な
赤い光が打ち出されたように見えたのだが
「っつ!?」
とっさに赤い光へと翼を叩きつけると
ガギギィィ!と、金属同士がぶつかり合うような音が鳴り響く
(コイツ…今までの奴らとはレベルが違ぇ!)
光の噴射が終わり、攻撃をガードしきった垣根
しかし、未元物質で形作った翼のあちこちに傷や欠損が見られる
(あんなもん連発されたら流石に耐え切れねぇぞ・・・)
それに、と垣根は考えていた
(さっきから窒素を変化させてあるんだが、全く効いてる気がしねぇな)
咲夜戦で使った変化窒素を戦闘開始時から散布してあるのだが
レミリアの様子にこれといった変化はない
(吸血鬼だっつーのは本当みてぇだな…ってことは、試してみる価値はあるわけだ)
再び翼を展開し、レミリアの元へと
ではなく、月光が差し込むステンドグラスへと向かっていく
「あら、逃げるつもりかしら?」
窓を割り、外へと逃亡するつもりだろうと判断したレミリアがその後を追う
やはり速度ではレミリアの方に分があるのか
レミリアの手が垣根の背中を捕える
そう思われた瞬間、レミリアに激しい痛みが走った
「ああああ熱いぃぃ!いやぁああああ!」
肌が焼け焦げるような痛みを味わったレミリアはとっさに柱の影へと退避した
その肌は所々に火傷したかのように酷く傷ついていた
(ハァハァ…今のは、日光に当たったときと同じ感じ…今は夜
太陽なんて出てるはずが…)
「おいおい、マジでこんなに効くモンなのか」
垣根がやったことは簡単で
月光を太陽光に変化させただけである
かつて一方通行との戦闘で太陽光を殺人光線にしたことがあったが
それと同じ理論で、月光を翼に当てることにより太陽光と同様の性質を持たせている
(この分なら流水とかも効きそうだし、案外楽勝か?)
柱の影に避難したレミリアは肩をわなわなと振るわさせていた
(…ッツ、私にこんな屈辱を味あわせるなんてッ…)
レミリアが垣根の姿に憎悪の怒りを燃やしていると
いつの間にか誰かに両手を握られていた
「お嬢様、そろそろ潮時かと」
いつの間に部屋に入ってきたのか、メイド長十六夜咲夜の姿がそこにあった
「元々彼は晩餐に招待をする予定だったはずです」
そう、本来は美鈴との戦闘で負けるはずだった垣根が予想を裏切り
美鈴や咲夜までも撃退してしまい、予定変更となったのだ
「…そうね、少し血が上りすぎたかしら」
当初の目的を思い出し、怒りに満ちていた瞳から怒気が消えていく
しかし、肌を焼かれた屈辱が消えることはなかった
「でも、流石にこのまま終了っていうのはもったいないわよね」
それに加え、久しぶりに自分と同程度の力を持った人間が現れたというのもあり
柱から身を出し、レミリアは一つの提案をした
「貴方なかなかやるじゃない、でもね私達が本気で戦えば屋敷を壊しかねない
そこで一つ提案なのだけれど、あと一撃ずつで終わりにしましょう?」
「要は最大火力をぶつけ合うってことか?」
(…ってかよくよく考えてみりゃ特に戦う必要もねぇな
まぁムカツいてるし、本気で一発ぶっぱなしてやるか)
そうね、と返し屋上へと向かうレミリア
垣根もその後をついていき、月が輝く紅魔館の上空へと躍り出る
「さてと、殺しちまうかもしれねぇが構わねぇんだな?」
「それはお互い様よ」
実際問題として、先程のように月光を日光に変化させれば
かなりのダメージは与えられるが、『火力』をぶつけ合うという主旨とは
少しばかりずれてしまう、そうなった時に咲夜の邪魔が入るのが垣根にとって
最も面倒な展開であった
もしも咲夜の時間に他人を引き込むことが出来るのなら
レミリアに一方的に蹂躙されることになる
その点を考えたため、先程垣根はレミリアに対して追撃をしなかった
(つーか俺の未元物質でどう火力を出す?)
元々『未元物質』は一撃で相手を倒すというよりは
周囲の環境を自らの物とし、存在しない物質を作り出すことにより
自分に優位なフィールドで戦うというのが基本戦法であり
一撃で相手を葬るといった『必殺』というものは必要がない
(『原子崩し』のヤツみてぇに分かりやすいモンがありゃいいんだけどな)
「さぁ、行くわよ!神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
レミリアの手に赤紫色のエネルギーで構成された槍が出現し
圧倒的な存在感と威圧感を噴出する
(…スゲェな、謎のエネルギーが異常なまでに圧縮されてやがる)
美鈴が見せた『弾幕』と呼ばれる色鮮やかなものと
同じエネルギーを感じ取った垣根はとあることを思いつく
(俺の未元物質であのエネルギーは対応できる
つまり、未元物質と本質的には似ているっつーことだ…なら)
手に、『未元物質』を収束させ未知のエネルギーをできる限り再現する
(まだ解析は5%も進んでねぇが、まぁ見よう見まねだな)
そして、収束させたエネルギーに形を与える
「そっちも準備できたみたいね!それっ!」
レミリアが槍を投擲し、垣根を貫かんと高速で飛来する
「っつオラァ!」
対し、垣根は片手を突き出し赤色の光線を放った
これは学園都市第四位『原子崩し』の能力をイメージし
形作ったもので、『未元物質』と『弾幕』そのどちらでもない
中途半端な状態で放った一撃であったが
(っつ!?なんだこの威力は!)
その一撃は垣根の予想をはるかに上回る威力と速度で
飛来し槍へと向かう
槍と光線が激突し、衝突地点を中心に衝撃波が撒き散らされ
一瞬遅れて、激突時の轟音が響き渡る
爆音と激突の際の閃光に周囲が飲まれ
垣根とレミリアの視界がホワイトアウトする
閃光が途絶えた時、そこにいたのは…
「引き分け、といったところかしらね」
「…そうみてぇだな、不本意極まりないがな」
愉快そうにレミリアが笑い垣根を指差す
「…フフ、十分に楽しませてもらったし
貴方を紅魔館の正式な客人として歓迎するわ」
「そりゃどうも」
こうして、紅魔館での戦闘を終えた垣根であった。