嘘から出た……   作:フチタカ

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そして彼は嘘を重ねる

「穂乃果ちゃーん、上がって来て良いよ!」

 

 玄関先から懐かしい声が響き、南さんは名残惜しそうにしながらも僕の腕を離して立ち上がった。暖かかった左腕が急に冷えて、僕は静かに手に持っていた写真を机の上に戻す。この名残惜しさは南さんに対してか、それとも一枚の紙切れに対してか。

 

 最後にもう一度それに目を向ける。

 相変わらず、写真の中の彼女は誰よりも美しく輝いていた。

 

「はーい」

「お邪魔します」

 

 トントンという軽妙な足音が耳朶をうち、その音が近づくほど自分の鼓動が早くなっていくのを感じた。嘘をつかねばならないという使命感と、僕にそんなこと出来るのかという不安、そして緊張感。

 

 そして何よりも……。

 

 そっと、南さんの方へと目を向ける。

 彼女はおそらく先ほどから僕のことを気にしていてくれたのだろう、心配そうに僕の様子を伺っていた。デート中にほかの女の子の写真に見とれるなんて、ふざけた行為に腹も立てず、あろうことか心配まで。

 

 ズキン。

 

 緊張や、不安ではない。

 明確な痛みが走る。

 

 その名前は――罪悪感。

 

「大丈夫だよ。ことりがうまくフォローするから……」

「……!」

 

 僕はその言葉にうつむいて、強く唇を噛んだ。

 本当に最低だ。今みたいな言葉をあろうことか、南さんに言わせてしまうなんて。

 

 今この状況でつらいのは、他でもない彼女なのに。だってそうだろう? これから彼女と僕が騙さなければいけないのは高坂さんと園田さん。つまり、南さんのかけがえのない親友二人だ。

 僕が高坂さんや南さんに対して抱いている罪悪感なんて……彼女のそれに比べたら微々たるものだ。そんなこと、頭では重々承知してる、

 

 でも。でも……。

 

「……ごめんね」

「うんっ」

 

 今の僕には、謝ることしか出来ない。

 

 視線を落とし、拳を握りこむ僕の傍に南さんは静かに腰を下ろして優しく僕の手を取った。柔らかな感触と、暖かな想いが体温にのって伝わってくる。この子はいったいどうしてこんな僕のことを……。

 

「気にしなくて良いんだよ。ことりは、あなたのためなら頑張れるから」

「なんで……」

 

 掠れる声で呟く。

 こんな僕に、どうして君はそこまで。

 

「あなたが、そういう顔をしてくれる人だから。ことりの気持ちを心の底から思いやって、苦しんでくれる。それでも、あなたには手に入れたいものがあって、それに向かって一生懸命前を手を伸ばす。そんなあなただから、ことりはあなたの事が今でも好きなんだよ」

「……」

 

 彼女の健気な好意に触れてしまい、思わず顔を上げてしまった。

 目を合わせるつもりはなかったんだ。だって、今、南さんの瞳を見つめてしまうと僕は罪悪感でどうにかなってしまいそうだったから。もし彼女が泣いていたら、もし彼女が寂しそうにしていたら。

 なんとも身勝手な想い。

 

 しかし。

 顔を上げた先には――彼女の心からの笑顔。

 

 僕は、その高坂さんとは別種の光を放つ表情に、思わず見とれてしまう。まるで月の光のような、優しく、そして儚げで、すべてを包み込んでくれる柔らかな光。

 

 

 

 唐突にかなり大きめの音を立ててドアが開かれた。

 いや、僕たちが思わず彼女が来ることを忘れてしまっていただけだ。

 

 

「あー! 久しぶりだねー!!」

 

 まぶしい笑顔。

 

 

 一瞬、僕を照らしかけた月の光は……太陽の圧倒的な光量によってかき消された。

 そして、僕の視線は彼女に釘付けになる。南さんの僕の手を握る力がわずかに強くなるが、僕にはそんなことを気にしている余裕などなかった。 

 

 

 一か月ぶりに会った高坂さんは、南さんと同じく、いやそれ以上に魅力的になっていた。新たな出会いを経たせいか、一層輝きを増した笑顔、表情、快活な声。少し伸びた髪の毛も幼さの残る彼女に僅かばかりの色香を与え、僕の心を大きく揺さぶる。

 

 ごめん、南さんやっぱり僕は……。

 

「久しぶり、高坂さん。元気だった?」

「うん! もちろん! 君は元気にしてた?」

「元気だったよ。新しい高校も楽しいし」

「そうなんだ! 良かったね~。穂乃果も音ノ木坂に行って良かったよー」

 

 嬉しそうに話しながら跳ねるように部屋に入ってくる。

 しかし、そこで初めて南さんが僕の手を取っているのが目に入ったのだろう。一瞬、うっとした顔をして困ったように笑った。僕と南さんは慌てて繋いでいた手を離す。

 

「えへへ……、もしかして穂乃果、邪魔しちゃった?」

「そ、そんなことないよ! ねっ!?」

「も、もちろん!」

 

 慌てて、弁明するが後の祭りだろう。

 実際の話は別として、行為自体は完璧に恋人のそれだ。まぁ、一応恋人同士なので問題はないのだが、どうしても複雑な気持ちになる。出来れば彼女の目にこんな僕の姿を見せたくなかった。そんな性質の悪い我儘。

 当然高坂さんの表情に浮かぶのは嫉妬や妬みではなく困惑と遠慮。

 

「もう、だから勝手に入ってはだめだと言ったのですよ」

「う、海未ちゃん……ごめん」

「園田さん、久しぶり」

 

 困る高坂さんの後ろから、そっと姿を現した園田さんが呆れた様子で幼馴染を諌める。ほかの二人と比べて彼女はあまり変わらないようだ。元々しっかりしていた印象もあるし、変わらず真面目にほかの二人を見守っているのだろう。

 

 彼女は僕が話しかけると、丁寧に会釈を返してくれた。

 実はあまり彼女と話したことはないので少しだけ緊張する。

 

「お久しぶりです。卒業式以来ですね」

「うん、そうだね。園田さんは弓道を高校でも頑張ってるのかな?」

「えぇ、今日も先ほどまで練習を。……ことりとのデートは楽しかったですか?」

 

 早速来たか。

 挨拶も早々に、彼女は本題を切り出した。

 

 にわかに緊張が満ちる。高坂さんだけは若干変化した部屋の雰囲気に気づいていないみたいだけれど。

 

 園田さんの表情を見ればわかる、彼女はこの話をしにこの場所に来たのだ。現在時刻は四時半くらい。先ほどまで部活があったと言ったが、高校の部活。それも一年生時の春に四時なんて中途半端な時間に終わるはずがない。

 間違いなくこの子は、部活の時間を削ってまで『僕という存在』を見極めようとしている。本当に、いい友達同士なんだろうな。親友である南さんのために彼女はここに居る。

 僕が南さんにふさわしくないと感じれば、必ず彼女は牙を剥くだろう。

 

 そう考えて、僕はそっと微笑んだ。

 

 そんな表情の変化に園田さんはいぶかしげに首を傾げたものの、静かに僕の返事を待っている。ちらりと横を見ると、南さんが何気ない風を装いながらも僕の事を気にかけているのが視線から伝わってきた。

 

 

 やっぱり駄目だ。

 嘘は僕がつかなきゃ。

 

 南さんに、これほどまでに親身になってくれる親友に何度も嘘をつかせるなんて出来やしない。汚れるのは……僕も一緒だ。

 

 

 

「うん、すごく楽しかったよ」

 

 

 

 笑えたはずだ。

 きっと、誰よりも幸せそうな笑顔で。

 

 

 

 そしてその笑顔の裏で、また一つ、僕の罪が増えていく。

 

 

***

 

「へぇー、あのお店でランチしてきたんだ。どうだった? 美味しかった?」

「うんっ、すっごく美味しかったよ! ね?」

「そうだね。ちょっとチーズケーキが甘かったけど」

「えぇ~、そこが良いんだよー」

「いいな~。穂乃果も付いていけばよかったぁ」

「それは流石にお邪魔ですよ」

 

 僕たちは小さな机を囲んで談笑していた。高坂さんのお父さんが経営するほむらまんじゅうを頂きながら今日あったデートの話や、彼女たちの近況を聞いた。

 園田さんは時折伺うような視線を僕に送ってきてはいるが、それほど厳しいものではない。

 自分で言うのもなんだが、中学校では一応真面目な生徒で通っていたため第一印象自体は悪くないのだろう。それでも彼女は相当慎重な性格なのか、まだ僕の評価付けをやめる気は無い様だ。

 

「君はちょっと身長伸びたね!」

「そう?」

「うん! 絶対伸びてるよ、ちょっと立ってみて!」

 

 一瞬、じぃっと僕を見た高坂さんが、元気よく立ち上がる。そして早く早く、と催促してきた。言われるままに立ち上がって、少し気恥ずかしく思いながらも同じく立ち上がり僕を待つ高坂さんと視線を合わせる。

 一体何だというのだろう。

 

「うん! やっぱり伸びてるよ」

「穂乃果、分かるのですか?」

 

 不思議そうに、園田さんが僕の気持ちを代弁してくれた。

 もちろん成長期だから伸びてる可能性はあるけれど、立って顔を合わせるだけで分かるものだろうか? 高坂さんはなぜか自信満々に腕を組んで頷いている。

 

「立って向かい合った感じがちょっと違うもん。それは君の身長が伸びた証拠だよ。だって、穂乃果は身長伸びてないから」

「そ、そうなんだ。いや、そんなことで分かるものなの?」

「わかるよ! 中学の頃たくさんお話してくれたからっ」

 

 えへへ、と嬉しそうに彼女は笑う。

 

 僕は……思わず言葉を失った。

 

 

 現金なものだ。

 南さんと付き合っていることを受け入れられたら辛くなり、彼女と手を繋いでも高坂さんは何とも思わないと気付かされては落ち込んでしまう。

 でも、自分との思い出が彼女の中にまだ大きく残っているというその事実だけで……僕の心は舞い上がってしまった。昂る感情と、跳ねる心臓。憧れの子が学校が変わってもなお、自分の事を記憶してくれているという些細な喜び。

 

 僕はどこまでも子供だった。

 昔と違うのは、今の僕の傍らに『彼女』が居るということ。

 

「こ、ことりも身長のびたかな~」

「わわっ! ことりちゃん?」

 

 急に南さんが立ち上がり、高坂さんに抱き付いた。

 

「んー、ことりちゃんはあんまり変わってないよ?」

「そ、そっか。えへへ~」

 

 お互いの体に触れあいながら、仲睦まじく身長を比べあいっこする南さんと高坂さん。いつの間にか僕は放置されてしまっていた。

 どうやら二人で楽しそうに話し始めてしまったため、僕はそっと腰を下ろす。そして食べかけのほむらまんじゅうを手に取って口に放り込んだ。優しいあんこの甘さが口いっぱいに広がって高ぶっていた精神を少しだけ落ち着かせてくれる。

 

「ことり……?」

 

 少しだけ嫌な予感がした。

 

 わずかに鼓膜を揺らした囁き声につられて前を見ると、疑問符を浮かべた表情で園田さんが静かに南さんの様子を伺っている。その目に浮かぶのは戸惑いと……。

 僅かな猜疑心。

 

「園田さん!」

「は、はい? 何でしょう?」

 

 僕は思わず声をあげていた。

 理由はわからないが、あのまま園田さんが南さんを見つめていると何かに気付かれそうだったのだ。あくまで勘にすぎないけれど、確かな警鐘が僕の中で鳴り響いている。そしてそういう悪い予感というのは総じてよく当たるものだ。

 驚いたように僕を見る園田さんの注意を引きつける。

 

「園田さんは彼氏とか居ないの?」

「な、なんですか、藪から棒に……」

 

 取り合えず声をかけてしまったせいか、うまいこと話題を作ることが出来なかった。しかし、園田さんは戸惑いながらも、僕のその唐突な問いかけに答えてくれる。南さんも高坂さんも一通り話は終わったのか、揃って座ると、園田さんへと顔を向けた。

 

「いないですよ、そもそも女子高ですし」

「そ、そうなんだ」

「……まさか、自分は彼女がいるぞっていう嫌味でしょうか」

「ちっ、違うよ!」

「あー、それは穂乃果たちへの宣戦布告だね?」

 

 じろりとこちらを睨みつけてくる園田さんと、嬉しそうに話に乗っかってくる高坂さん。注意を逸らすことには成功したものの、再びピンチになりそうだ。南さんはあはは~、と困ったように笑っている。

 

「そもそも、貴方たちの方が異質なのですよ?」

「ホントだよ! ことりちゃんが好きな人が居たことにも驚いたけど、まさか卒業式の日に付き合うなんて」

「全くです。何度も言いましたがことりも、相談くらいしてくれれば良かったのに」

「ご、ごめん。だって、恥ずかしかったから……」

「君もだよ! 穂乃果は二人共と仲が良いつもりでいたのに……汗臭いよ!」

「穂乃果、それをいうなら水くさいです」

 

 急に怒り始めた二人の勢いに押されて少し後ずさりしてしまった。

 横に視線で助けを求めると南さんが、最近二人ともいつもこうなの、とふわりとした笑顔を浮かべながら耳打ちしてくる。どうやら、三人でいる時も時折こうして詰め寄られているらしい。

 

 それにしても。

 二人共と仲が良い、か。

 

 あくまで南さんと僕は同列。

 

「ねぇ、ねぇ!」

「どうしたの、穂乃果ちゃん?」

「ことりちゃんはこの人のどんな所が好きなの?」

「ええぇ~」

 

 高坂さんは急にその質問がひらめいたのか、天真爛漫な表情を浮かべて南さんに問いかける。よほど気になっているのだろう、体重が完全に前の方へ傾いていた。園田さんもやはり気になるのか、一瞬高坂さんを諌めようと口を開きかけたものの、じっと南さんの顔を見つめる。

 

「だって、ことりちゃん。いっつもはぐらかすんだもん! 今日くらい答えてもらうよ!」

「そうですよ、ことり。私も気になります」

「う、海未ちゃんまで……」

 

 ちらり、と横目で僕に助けを求める南さん。

 う、どうしろと言うのだろう。

 

 一応ボロが出る可能性があるため、できればそういう話は避けたい。

 僕が何とか話題を変えようと口を開きかけたその時、観念したように南さんが話し始めた。おそらくほかの二人の性格をよく知る彼女の事だ。さすがにそろそろ話しておかねばならないと判断したのだろう。

 僕は彼女の意図をくみ取って、口をつぐむ。

 

「二人とも、からかわないでよ? ……あなたも」

「うん!」

「はい」

「……分かった」

 

 南さんは少しだけ躊躇う素振りを見せた後、静かに顔を上げた。

 その凛とした横顔に思わず目が行ってしまう。

 

「一番は……色んなことに一生懸命な所かな。いつでも何か目標をもって、それに向かって努力出来る人」

 

 僕たちは静かに彼女の話を聞いていた。

 なんというか、他の二人もなぜか急に真面目な表情に変わっていて……とてもじゃないけど茶化せる雰囲気ではない。

 

「あと、すっごく優しい人なんだ。……穂乃果ちゃんは知ってるでしょ?」

「……うん。優しくて、面白い人だって分かってるよ。だから穂乃果も二人の仲を応援しようって決めたんだ。もぅ、本当はことりちゃんは私と海未ちゃんのものなんだからね?」

「う、ごめん……」

 

 なぜかぷくっと頬を膨らませ、こちらに向けて指をさしてくる。

 

「いいよ! その代り、ことりちゃんを幸せにしてあげなきゃダメなんだよ?」

「……」

「どうしたの?」

「いや、分かってるよ」

 

 何やってる。

 今のはすぐに返事を返さなきゃいけない所だろう。

 

 俺は机の陰で強く拳を握りこんだ。

 

 いい加減慣れろよ。

 高坂さんが僕に何の興味もないっていう、その事実に。

 いつまでもウジウジと、彼女の一言一言に揺れ動く情けない心。

 

 それが恋なんだって、部外者はいうだろう。それが高校一年生の初恋なんだって。若くていいね、青春しているね。もちろん、その言葉に間違いはないって思う。でも、それはあくまで普通の恋愛の話だ。

 届くはずもない花に、手を伸ばす。

 しかも、僕を求める女の子を足場にして。

 

 吐き気がする。

 この状況に、自分自身に。

 

 でも、僕は再び口を開く。

 

 

 

「南さん……いや、ことりさんの事は任せてよ」

 

 

 

 諦めきれない。

 だからこそ僕は嘘を重ねるんだ。

 

「うんっ!」

 

 その笑顔をもっと近くで見たいから。

 

 一瞬、ハッとした顔で南さんがこちらを見た。急に名前で呼んだせいだろうか、ほんの僅かな時間嬉しそうな顔をした。が、思い出したように表情を暗くする。しかし、すぐにいつもの柔らかな笑顔へと戻し、微笑んだ。

 

 しかし。

 

 その一瞬の表情の変化を、園田さんは見逃さなかったみたいだ。

 

「ことり、あなたは……」

「海未ちゃん? どうしたの?」

「い、いえ……」

 

 だが、僕はその事に気が付かず、南さん同様きょとんと彼女を見る。

 園田さんは少しだけ考える素振りを見せた後、軽く首を振った。

 

 そして。

 

 

「それでは、次は貴方の話を聞かせてくれませんか?」

「ぼ、僕の?」

「えぇ。貴方は、ことりのどんな所が好きなのです?」

 

 ついに来たか。この質問が。

 僕と南さんはアイコンタクトをかわす。

 

 僕は思い出していた。南さんと立てた作戦。嘘な苦手な僕が、二人を騙す手段。

 

 

 

『ことりのことを、穂乃果ちゃんだと思って答えてくれれば上手くいくんじゃないのかな』

 

 

 

 彼女の、哀しい提案。

 本当はそんな事したくなかったけど……僕は、この気持ちをそのまま言葉にしよう。もし仮に、それが南さんを深く傷つけるとしても、それが僕たちの歩んでいくと決めた道だ。『本当』でもって『嘘』を成立させる。

 ……やっぱり僕は、僕の事が嫌いだ。

 

 

「僕が彼女を好きになった理由?」

「うん! 穂乃果も気になるなぁ」

 

 高坂さん。その『彼女』は君の事なんだけどな。

 僕は自嘲気味に微笑んだ。南さんは寂しそうに笑っている。

 

 一呼吸。

 

 園田さんは黙ってこちらの様子を伺っていた。

 下手な嘘をつけば……必ず見透かされる。

 

 もう一呼吸。

 

 僕はそっと口を開いた。

 

 

 

「笑顔、かな」

「笑顔?」

 

 高坂さんにオウム返しに問いかけられる。

 そうだよ、笑顔だ。

 

「心から明るい笑顔を浮かべてくれるでしょ? ……太陽みたいな」

「ふふっ、そうだね! 穂乃果もわかるよ、その気持ち。ことりちゃんの笑い顔って可愛いよね?」

 

 そういって彼女は素直に笑う。

 うん。……その笑顔なんだよ、高坂さん。

 

 

「優しいところも」

 

 親友の事を心から思いやれる君のその優しさ。

 

 

「元気なところも」

 

 久しぶりに会った僕に、変わらず笑いかけてくれる君。

 

 

「少し抜けてる所も」

 

 きっと、君は僕の行為に気付いてくれないだろう。

 

 

「全部」

 

 そう、全部。

 

 

 

「好きなんだ」

 

 

 

***

 

「それじゃ、穂乃果は店番があるから先に帰るねっ」

「うん、それじゃ」

「また皆で集まろうね!」

 

 時刻は六時を回ったあたりか。

 高坂さんは家の手伝いがあったらしく、足早に南さんの家から出ていった。彼女曰く、六時に妹と交代するはずだったらしいのだが、すっかり忘れてしまっていたようだ。なんとも彼女らしい失態。

 

 時間も時間なので、僕も園田さんもお暇することにした。

 二人そろって立ち上がり、玄関まで歩く。

 

「それでは、ことり、お邪魔しました。貴方もまた……」

「うん、バイバイ海未ちゃん」

 

 園田さんは言うが早いか、すぐに玄関のドアを開けて外へと歩いていった。どうせなら家まで送ろうと思っていたんだけど……近所だから大丈夫だろうか。僕はそう判断して、玄関先に腰を下ろし、ゆっくりと靴紐を結ぶ。

 

 ふわり。

 

 急に、首筋に柔らかな感触。

 同時に肩の上から腕を回され、後ろから優しく抱きしめられる。背中に伝わる暖かな体温と微かな吐息。優しい香りに、肌と肌の触れ合いを通して伝わってくる僅かな震え。

 

「南さん……」

「名前で、呼んでくれるんじゃないの……?」

「……ことりさん」

「うんっ……」

「ごめん」

「いいよ。分かってた事だもん。それに、辛いのはあなたも同じなんだから」

 

 そういうと、彼女はゆっくりと離れていった。

 僕はそれを合図に立ち上がる。

 

「それじゃ、また」

「うん。バイバイ」

 

 また。……か。

 きっと、これから何度もこういうことがあるのだろう。

 

 嘘を嘘で塗り固めていく未来。

 僕らはまた、嘘をつく。

 

 

 僕は静かにドアを閉めた。

 

 

 

「すみません。少しお話があるのですが」

「園田さん……」

 

 

 

 

 

 僕は、また……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして彼は嘘を重ねる――了

 

 

 

 

 

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