「ずっと好きだった」   作:エコー

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男同士の友情…もとい、ぼっち同士の友情。
いまや自称「ぼっち」の八幡と、ぼっち道を極めかねない材木座。
きっと、独り同士でしかわからないこともある、かな。

では、どうぞ。


12 材木座義輝と比企谷八幡はどこか通じ合う

12 材木座義輝と比企谷八幡はどこか通じ合う

 

 葉山邸スタジオからの帰り道。

 夜道で材木座と帰る方向が一緒とか勘弁して欲しい。せっかくならラブリー天使戸塚彩加と帰りたい。

 そんでもって寄り道なんかしたりして、人気の無い公園とか。そんで…えへへ。

「八幡よ、何か悩んでおるのではないか」

 俺の幸せいっぱいの妄想は、バカなんとか将軍により粉砕された。

「るせー、お前には関係ねーよ」

 非常に気分を害された俺は強い口調で答える。こんな口が利けるのは男子では材木座だけだ。

 そんなことより彩加を返せよ。全部妄想だけど。

「八幡よ」

「あ?」

 光の速さで強めに即答。しかし材木座は揺るがない。ダイヤモンドは傷つかない。それは嘘。

 つーか八幡よ八幡よって五月蝿い。名前聞かれたらどうするんだよ。どうもしないか別に。

「お主も我も、いわゆる『ぼっち』だ。正確にはお主はもう違うのかも知れんが…」

 こいつが俺に対してここまで口幅ったくなるなんて初めて見るかも。

「何がいいたい」

「つまりだ、我らぼっちとは常に『傍観者』なのだ。外郭から眺め見ているからこそ、その物事の本質が見えることもある」

 材木座は、変なヤツだしバカだが決して頭は悪くない。バカだが。「眺める」と「見る」は意味かぶってるし。あ、やっぱ頭も悪いのかな。

 でもこいつがこんな物言いをするからには何か理由がある。そう思わせる奴だ。

「…続けてくれ」

 こいつが何を思っているのか、何を考えているのか。聞いてみたかった。

「しかし今の貴様は…ゲフン、当事者の一人だ。三角形の中に組み込まれていては判断しかねることもあろう」

 ちょっと待て。何の話だ。

 こいつは何を語る気なのか。

「無論、貴様が今巻き込まれておる女人二人との問題よ」

 おお、いきなり核心を突いてきやがったな。

 しかもこいつ調子に乗ってやがる。俺の呼称が「貴様」になったのが証拠だ。後で肩パンチ決定っと。

 つーか材木座の目から見ても、俺の置かれてる状況はバレバレなのね。

「我の見立てでは、貴様は決断したくないように見えるのだが」

 こんな、俺と同レベルの恋愛(失恋)遍歴しか持たないような奴に言われるのは非常に癪だ。

 癪だけど…半分正解だ。

 こいつはこいつなりに、俺を気にかけ心配してくれているのだ。現に今も、俺の様子を伺いながら自分なりの考えを伝えようとしている。少々お節介だが、それは素直に有り難いと思った。

「では…俺はどうしたらいいと思う」

 俺は、答えの出ない問いを口にした。

「それは貴様が決めることだ。だが…」

 ゲフンホヌンとわざとらしい咳払いで言葉を区切って、奴は更に続ける。

「まず貴様自身が後悔しない選択をするべきだと我は思う。それがリア充に転生した者の背負う枷、カルマ、いや務めだ」

 言い回しは相変わらず気持ち悪いが至極まともな意見だ。まとも過ぎて面白みが全く無い。

 しかし、おそらくはこいつの言うことは正しいのだろう。だが今の俺には後悔をしない選択肢など用意されていない。

「どちらを選んでも後悔しそうなときは?」

 やっときましたかその言葉、みたいなしたり顔で俺を見る。ムカつく。

 が、恐らくはここから先が、本当に俺に伝えたいことなのだろう。

「…八幡よ。どちらかを選べばもう一方に後悔の念を抱くのは当たり前ではないか。ならばどうするか。その先は言わぬ。貴様はすでに解っておるであろうからな」

 立て板に水の如く、一気に吐いた後、ふふん、とばかりに腕を組むその姿は、正直むかつく。

 が、しかし。

 こいつ、すごいな。

 一方を選べば、選べなかったもう一方に対して後悔の念を抱くし抱かせる恐れがある。そんな当たり前のことがわからなくなっていたことを、こいつは気づかせてくれた。

 

 こういう時、以前の俺ならば迷わず「選択しない」ことを選択していた。だが以前のようなぼっちではいられなくなって、俺を取り巻く周囲も確実に変化している。そして俺自身も。

 ではどうするべきか。

 奴のいうとおり、俺の答えは決まっていた。

「一方を選んだ責任として、もう一方も不幸にしない、か」

 言葉にするのは簡単だ。でも、方法がわからない。そもそもそんな方法ある訳はない。

「八幡よ…お主は、我の手の届かない存在になってしまったようだな」

 言いたいことを言ってスッキリしたのか、材木座は満足気に笑う。

 でも、こいつのおかげで決意を口に出せた。

「ばかやろ、おまえのおかげでスッキリしたよ。サンキュ、愛してるぜ」

 こいつ、いいヤツだな。

 当事者となった俺に、傍観者の目から見たことを伝えてくれるなんて、さすが『ぼっち』だ。

 一方を選んだことによりもう一方が傷ついてしまうことが決定事項ならば、傷つけてしまう方に最大限の配慮をすべきだと思う。

 でも、それは俺には出来ない。俺がしていいことではない。

 俺は再び出口の見当たらない迷路の中で逡巡する。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
第12話、いかがだったでしょうか。
やっぱり書きたい、材木座。
とういうことで書いてしまいました。
材木座義輝は、いいヤツなんです。
何度八幡に馬鹿にされても虚仮にされても、ちゃんと手助けをしてあげる。
こんな良い奴、なかなかいません。

そんなこんなで、気がつけばUAが10000超えてました。
こんなにも多くの方々の目に留めていただけたことは、もう感謝の一言しかありません。
引き続きご感想、批評、エンディングのご希望など、活動報告のほうにお寄せいただけたら嬉しいです。
ではまた次回。

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