「ずっと好きだった」   作:エコー

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ついに己の本心を曝け出すことを決意した比企谷八幡。

彼が導き出したその解とは。

ではどうぞ。


20 祭りのあとは始まりでもある

20 祭りのあとは始まりでもある

 

 打ち上げの片付けが粗方終わった。

 残るモップがけや机の整頓は奉仕部が受け持つことになり、他の連中は一足先に二次会のカラオケに向かった。

 部室には、奉仕部の部員だけが残った。

 

 俺の鬱屈とした物語は、ここから変わり始めた。

 最初に出会ったのは、氷の女王、雪ノ下雪乃。

 あの時は、どうなることかと本気で思った。俺の人生詰んだとまで思った。

 程なくして依頼人として現れた、由比ヶ浜結衣。

 彼女は、俺が毛嫌いしていたトップカーストの一人だった。

 その時は全員が入学式当日に俺が轢かれた事故の関係者だとは知らなかった。

 そして全てが発覚。

 思い返せば、それからの俺は最低で最悪だった。

 由比ヶ浜の優しさを疑い存在を遮断し、雪ノ下の高潔さを疑い存在を否定しようとした。

 それでも、二人は俺の居場所で在り続けてくれようとした。

 少なくとも俺にはそう思えたんだ。

 

 そして去年の文化祭。

 そして修学旅行。

 俺は二人を傷つけ、三人は一人ずつになった。

 それは生徒会選挙で如実に現れた。

 それでも由比ヶ浜結衣は、この場所を守るために必死だった。

 

 去年のクリスマス。

 海浜総合高校との合同クリスマスイベントで、雪ノ下雪乃は俺と一緒に泥を被ってくれた。

 ディスティニーランドで雪ノ下雪乃が呟いた言葉。

 『いつか私を助けてね』

 

 海浜総合を巻き込む形で催したバレンタインのお菓子作り教室。

 バレンタイン当日にひとつの結論を求め、自身を卑怯と断じた由比ヶ浜結衣の言葉。

 『あたしは全部ほしい』

 

 全てが俺を構成する要素となっている。

 空虚だった俺の内心を埋め尽くしている。

 それは憂いと望みを内包し、時に癒しをもたらし時に牙を剝く。

 苦しみと喜びはいつも表裏の如く存在し、喜びだけが胸中に書き留められる。

 得ることは失うことと同位相で在り続け、裏切られたくないくせに期待をする。

 そんな問答は幾度と無く自分の中で繰り返してきた。

 我ながら全く厄介である。

 考えて考えて漸くひとつの解を導き出せても、その検証が済むまで、或いは確証が得られるまで動けない。

 仕方がない。俺はこの方法しか知らなかったのだ。

 今から選択する方法は未知なのだ。

 

 片づけが全て終わり、後は施錠して帰るだけ。

 しかし、俺にはまだ為すべきことが残っていた。

 それは、この場にいる三人が傷つくであろう事。

 だがそれをしなければ前に進めないのなら、通過儀礼として必要ならば、するしかない。

 たとえ、共に自分以外の誰かを傷つけることになっても。

 由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃に伝えなければ。

 

「話がある。聞いて欲しい」

 

 俺の緊張感が伝わったのか、いつも和やかな部室の空気が重苦しい。

 

 俺は、静かに、努めて冷静に、前置きを話し始める。

「まず、今からいうことは俺の自惚れかも知れない。だが今日、今、答えられるだけの解を出そうと思う」

 由比ヶ浜と雪ノ下の、緊張が伝わる。

「まず今日のライブだが、アレは何だ」

 二人は顔を見合わせて俯いている。

「あんなやり方はもうしないでくれ。嬉しかったが、それ以上に恥ずかしいから」

 二人は気まずそうにしていたが、嬉しかったと伝えたことで安堵の顔になってくれた。

 そして、本題。

 由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃、そして俺、比企谷八幡。その三人をそれぞれ頂点とした三角形。今日、俺はその三角形を崩そうとしている。

「俺は今まで、おまえたち二人の気持ちに気づかない振りをしてきた」

「あら、あなた私達に好かれているとでも…」

 重苦しい空気に耐えかねたのか雪ノ下が割り込むが、手で制す。

「悪い雪ノ下、今は茶々を入れないで聞いてくれ」

 そう、とだけ呟き、真剣な表情となる。

「さっき葉山に怒られた。二人の為に答えを出してやれ、とな」

 この二人も部室のドアの隙間から見ていた、だろう。

「云って置くが、葉山に言われたから答えを出すわけじゃない。俺が、答えたいと思ったからだ」

 そうだ、これだけは他人の責任には出来ない。あくまで自分の意思による、自発的な行動でなければいけない。意味がない。

「とはいっても、今まで俺に向かってそんなことを言ってくれる奴はいなかったし、また、俺自身が再び誰かを好きに…誰かから好かれるなんて、考えもしなかった」

 要領も要点も得ないまま、見切り発車の状態で言葉を搾り出す。

「俺は卑屈で、根暗で、人を避けてきた人間だ。その俺が、誰かを選ぶなんて、おこがましいとずっと思ってきた。でも、このままではいられないのも事実だ。卒業すれば疎遠になるかもしれない。また、新しい人間関係の中で生きていくことを強いられたりするだろう」

 ああ、と呟いたのは由比ヶ浜だった。これから何を告げられるかを悟ったのだろう。

「だから、今この俺が出す答えが本物なのか。それは未来の結果でしか答え合わせは出来ない」

 自分でも解っている。今ほざいているのは言い訳だ。

 だが、怖いのだ。こうでもしないと自分が保てなくなりそうで、だから要らぬ話を延々としてしまっている。

 

 だが、覚悟は決まった。解も決まっている。ならば後は。

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます
第20話、どうでしたか?

この物語も次回で最終回になる予定です。
比企谷八幡が選ぶのはどの結末か。
雪ノ下雪乃か。由比ヶ浜結衣か。まさかの戸塚彩加なのか(笑)

それは次回のお楽しみ。
でも…一日だけ考えさせてください。迷わせてください。
まだどの結末が良いか、正直決めかねております。

次回の更新は明後日となります。

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