「ずっと好きだった」   作:エコー

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葉山隼人って、イケメンで爽やかで能力が高くて面倒見が良くて、ホント嫌な奴。
でも、頼りになるんだよな。
望む望まないに関わらず。


3 葉山はリア充の本領を発揮し始める

3 葉山はリア充の本領を発揮し始める

 

「どうしてこうなった」

 放課後。俺は、いや俺たち四人は、市内の貸しスタジオにいた。

 確か…戸塚の願いをやんわりと諦めさせる会、だった筈だが。

 いきなりスタジオってハードル高すぎ。材木座なんてキョドりすぎて売り場のオカリナなんか手に取ってるぞ。それ責任持って買い取れよ。

 思い出した。ここに来た理由。

「とりあえず、スタジオの備品の楽器に触ってみないか。っていうことだよ」

 という葉山の前向きなおせっかいのせいだ。確かにここなら楽器はひと通り揃ってるけども。

「じゃあ、まずは戸塚から」

 椅子に腰掛けて重そうなベースをよいしょ、と柔らかそうな太ももに乗せて弦を弾くのは戸塚。

 お、意外と弾けるじゃん。何の曲かは判らないが、ちゃんとベースラインに聴こえる。

「それ、なんていう曲だ?」

「ん、えーっと…」

 なぜ曲名を言うだけでそんなにモジモジする必要がある戸塚よ。可愛いから2時間くらい見ていたいけど。

「それって、映画のアルマゲドンの曲だよね」

 葉山が代わりに答えてしまう。葉山、戸塚のモジモジ堪能タイムを返せよ。ほら早く。

「…ああ、ナランチャのスタンドか」

 空気が固まる音がした。ザ・ワールドかよ。つーかバンド名いう方が早いぞ葉山。色々問題あるかも知れんが。

「八幡よ。それは第5部を読んでいないと理解できんぞ」

 材木座に窘められた。なんか屈辱。つーか何の第5部かいえよ。第5部的にレクイエムでコイツを葬りたい。

「はは。じゃあ次は、ざい…くん?」

 材木座。さっき自己紹介しただろうが。さすがの葉山もこいつには優しく出来ないのか。

「わ、我か。そのう…実はドラムに触るのは初めてで…」

 恥らうな恥らうな。頬を染めるな。おまえには誰もキュンとしないのだから。何をやっても殺意しか芽生えないのだから。

「と、とりあえずやってみようよ。8ビートの叩き方を教えるから」

 リア充の空気に気圧されておどおどしている材木座は、恐る恐るであるが葉山がやって見せた簡単な手本通りにドラムを叩く。すると、これも意外なことに結構サマになっている。ゲームとはいえリズム感は養われるのか。

「へえー、本当に初めてなの?」

 葉山も感心している。戸塚は目をキラキラさせて材木座を見ている。よかったな材木座、これでもう何も思い残すことはないな。いつでも止めは刺してやるぞ。

「さて、最後は比企谷だな」

 あまりにもとんとん拍子で物事が進んで、面食らっている。あ、俺ですか。

「え、ああ。どんなのを弾けば良いんだ」

 スタンドに立てかけてあるアコギを掴む。あ、言っておくが、俺はアコギしか触ったことはないし、スタンドってのはスタープラチナとかじゃない。ジョジョ引きずり過ぎ。

「…もしかして、経験あるの?」

 ぼっちは、基本一人で出来そうなものには興味を示す。ギターを触る切っ掛けもそこにあった。

「少し、ほんの一瞬だけアコギを弾いたことがある。中学のときに親父のギターを」

 一番最初に弾けた曲は「あの素晴らしい愛をもう一度」なのは内緒。

「じゃあ、簡単なコードを弾いてみようか。ストロークで、C Am F Gの順番で」

 何か俺だけ難易度違わないか、葉山よ。悪意が透けて見えるぞ。それくらいなら覚えてるけど。

 ピックを持ち、ローコードでCを押さえ、かき鳴らす。Am、次はFっと。

「へえ、ちゃんとバレーコードも押さえられるんだ」

 何気なく弾くと、葉山から感嘆の声が漏れる。

 バレーコードっていうのは、ここでいうとFのコード。一本の指で6本の弦全部を橋を渡すように押えるコードだ。たいていの夢見るギターキッズ達はここで一度挫折する。俺も一度は挫折したが今年の春に突如出来るようになった。一週間かかったけど。

「はちまん、かっこいい…」

 ただのストロークだ。しかもダウンストロークだけ、初歩の初歩だ。それを誉めてくれるとはマジで戸塚ルートありえるな。逆にそれ以外の道は無しまである。

「みんな…思ったより出来そうだね。で、どんな曲をやろうか」

 葉山がリーダーシップを発揮し始めたが、あくまでこれは戸塚のバンド。

「戸塚、おまえがリーダーだぞ。発案者なんだから。曲もおまえが決めていい。あ、簡単なのな」

 そう。やりたい曲よりもやれる曲を選ぶこと。それが大事。

「うん、みんなはどんな曲がやりたい?」

 即座に材木座が「アニソ…」と言い掛けたので目で黙らせて、その目を葉山にスライドさせる。

「やっぱり、みんなが知ってる曲がいいかな。文化祭に来るのは同年代だけじゃなく、ご両親や先輩方、卒業生、それに近隣の方々も来るからね」

 優等生らしい、いかにも葉山がいいそうなことを葉山がいう。葉山っぽいな葉山。

「じゃあ、ドラマの主題歌とか、CMの曲あたりか」

「演奏時間は去年と同じなら20分だから、だいたい4曲くらいは必要だな」

「じゃあ、次のミーティングは明後日ってことで、その時各自2曲ずつやりたい曲を持ち寄ろう。」

 こういうときは葉山のリーダーシップが活きるな。嫌味とかじゃなく、マジで助かる。

 でも、あくまで戸塚彩加のバンドなのである。

 それだけは譲れない。

 

 




いかがでしたか?
まだまだ物語は動きませんw
それなのにオリジナルも書いてみたいな、とか思ったり。


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