高潔、清廉、冷徹。そんな言葉で形容される彼女。
そんな彼女は、彼女に、彼に、何を想うのか。
7 雪ノ下雪乃は回顧する
雪ノ下雪乃Side
由比ヶ浜さんとの通話を終えて小一時間。
とりあえず参考書を広げた私は、何も手につかなかった。
「まさか…由比ヶ浜さんがあんな事を言い出すなんて」
一時間前。
私、雪ノ下雪乃は…由比ヶ浜結衣に宣戦布告された。
私達奉仕部の中で、一番「和」を重んじている由比ヶ浜さん。
その彼女が、言い放った言葉。
『そろそろ決着をつけようよ、ゆきのん』
その言葉が、意思が、今も耳に残響している。
彼女の中で私が彼を好きなことが確定事項というのは、少々腑に落ちないのだけれど。
でも、事実だから仕方が無い。隠し遂せなかったのは悔しいけれど。
私は確かに「彼」を愛している。
これは、何度も自問自答を繰り返して導き出された、揺るぎ無い私の真実。
けれど、戸惑っているのも、また事実。
私は、人を好きになったことが無かった。
今までは、誰もが上辺だけで関係を結び、その薄っぺらな関係を保とうとして嘘を塗り重ねているのが見え透いてしまって、人を遮断していた。
ひとりでいると「寂しそう」と言われ、友達がいないとわかると蔑んでくる。
そして、勝てないと解ると排除しようとする。
その繰り返しにうんざりしていた。
そんな中だったわ、彼を知ったのは。
彼は、私の目の前で我が身を挺して車に轢かれそうな犬を救って見せた。
そこには、打算や欺瞞の存在しない、彼の純粋な行動だけがあった。
結果的に彼を轢いてしまったのが家の車だったのが心苦しいけれど。
その彼が、平塚先生に連れられて奉仕部に来た時は本当に驚いたわ。
その時点では私は彼のことをよく知らなかった。
実際の彼は、捻くれていて、卑屈で、人との接し方が下手で。
でも、純粋で、純真で。
性格も性質も違う筈の私との共通項をたくさん抱えていた。
理由は違えど、私も…ひとりだったから。
あなたはどう思っていたのかしら。
私との共通項なんて、歯牙にもかけないのかしら。
高飛車で、いけ好かない女の戯言とでも思っているのかしら。
彼は、今までの誰とも違った。
私が罵倒しても言葉を返してくれた。
それは新鮮で、すごく嬉しかったのよ。
そして、彼…あなたに惹かれたわ。
仕方ないじゃない。心が躍ってしまったのだから。
自分ではどうしようもないくらいに。
同時に、由比ヶ浜さんとも出会った。
彼女は人の顔色を伺っている人で、正直あまり好きではなかったわ。
けれど彼女も、私の辛辣な言葉を受け止めて、応えてくれる人だった。
そのうち彼女も段々と私に遠慮をしなくなって、時には彼女に怒られる時もあったわ。
そして、彼女の優しさを理解した。強さを知った。
彼女を友達と呼びたい。彼女の友達でありたい。そう思ったわ。
でも、気づいてしまった。
彼女が彼に抱く好意に。
彼はといえば我関せずで、一人で汚名を被るようなことを平然とした顔でしていた。
そんな彼を見て、寂しくなったわ。
本当は傷ついているのに、切ないのに、強がってしまう彼。
そして、誰よりも悲鳴を上げている筈の彼の心を垣間見てしまう。
彼の妹さんは本当に可愛いわ。
小町さんは、いつも甲斐甲斐しく、時には厳しく、彼に甘えたり、叱咤したり。
彼の小町さんに対する異常とも言える愛情は、きっと今まで唯一の理解者だったからね。
これからは、
私は、彼の本物でいたい。
彼には、私の唯一であって欲しい。
彼に守られたい。
彼を守りたい。
傍らで一緒に過ごしたい。
ずっと。
そして私は、由比ヶ浜さんの宣戦布告を受諾した。
お読みいただきありがとうございます。
第7話、いかがでしたでしょうか。
由比ヶ浜の独白があったら雪ノ下も独白しなきゃ平等じゃない。
ということで書いてみました。
完璧超人の「雪ノ下雪乃」も、最近原作やアニメで目にする「だめのん」も、等しく好きです。