とらなのVRMMO ~魔法はゲームの中だけなの~   作:戯言紳士

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ご愛読ありがとうございます。

ファルコムさんの最新作、東亰ザナドゥの公式ページを今日初めて見ました。最近新しいゲームを
買っていないのですが、なんか面白そうですね。
世界観の説明文みてたら、デビサバぽいなと思ったのですが、悪魔召喚するわけじゃあないし、シ
ステムは全く違うものですね。
ファルコムさんは奇跡シリーズしかやった事がないのですが、発売以降のレビュー次第では購入し
てみようと思います。

前回のあらすじ。
リニス召喚。そして早速クラスチェンジ。帰り際に刻也もクラスチェンジ。(完)



第32話   6月21日 日曜日①

 

 本日も前日と同様に、早朝から高町家の道場に木刀同士がぶつかり合う音が響いていた。しかし

1点...いや2点ほど、昨日と違う事が起こっていた。

 

「トキヤ!ミユキに負けちゃダメだよ!」

「刻也さん!お姉ちゃんなんか瞬殺するの!!」

 

 前日から日本に療養のために来日し、高町家に住み込み、翠屋で働くフィアッセと、普段は鍛錬

の終わり頃に呼びに来る、朝に弱い高町家の末っ子のなのはが、早朝にも関わらず見学というより

応援をしに道場に訪れていた。

 フィアッセには前日に見に来れば?とは言ったが、次の日に来るとは思わなかった。応援するそ

の姿を見る限りでは、昨日の疲れは残っていないようだが、悟られない様に我慢する傾向があるの

で、今日も出来る限り自然なフォローを心掛けよう。

 なのはは、普段寝ている時間なのだが、フィアッセと約束していたのか?それとも偶々早起きし

て下に降りてきた所で、遭遇したのかどちらかだろう。

 何にしても、昨日より大分賑やかになっているのは事実だ。

 

「ちょっと、2人共!トキ君だけじゃなくて、私も応援しようよ!」

 

「ミユキもガンバッテー。」

「お姉ちゃん、現実は残酷なの。」

 

「何でフィアッセは、今更カタコトな日本語なの!なのはは応援ですらないよ!!」

「無駄口叩ける余裕はまだあるんですね。美由希さん。」

「ちょっ!トキ君。打ち合うには支障が出るくらいに徹籠ってるよ。」

 

「そこなの!今の内に叩きのめすの!」

「トキヤ、チャンスだよ。大技で決めちゃえ!!」

 

「もう!なんで家の道場でやってるのに、こんなにアウェーな状態なんだろう。」

「人望の差じゃないですか?御神流奥義之弐"虎乱"!」

「"神速"――トキ君も奥義使わないでよ。さっきお父さんが奥義禁止って言ってたじゃん!」

「応援席の要望に応えたまでです。そう言う美由希さんだって神速で避けたじゃないですか。」

「その前に奥義使ったトキ君の反則負けだから。」

 

「そんな判定したら、観客がシラケますよ?」

「ちょっとお父さん!」

「そうだねぇ。今日は初めて見学するフィアッセも居るし、このまま続けようか。」

「いいもん。フィアッセとなのはの前でトキ君に恥をかかせてあげる!」

「美由希さん、それ負けフラグです。」

「仮想現実に入り浸っているトキ君に、現実にそんなフラグはないって教えてあげる!」

「うん。美由紀も良い感じに氣が漲ってきたね。これは楽しみだ。」

 

 

 

 

 

――そこまで!良い戦いだったね。時間切れの引き分けだよ。

 

 中盤からなのは達の声も聞こえないくらい、戦闘に集中してしまったが結果は引き分けに終わっ

てしまった。やっぱり本気になった美由希さんにはまともに攻撃が当たらないな。

 

「トキヤ、お疲れ様。はい。タオルだよ。」

「Thank you。」

「今の発音綺麗だったね。意外と英語も話せたりする?」

「That's impossible! You can speak to only the degree learned at school。(まさか、学校で

 習う程度にしか話せないよ。)」

 

「刻也さんは私の知ってる限り5ヶ国語は話せるの。」

「トキヤって頭も良かったんだ。」

「学校じゃ、手を抜いてるけど、それでも成績は上位なんですよ。」

「なんで、なのはが俺の個人情報を暴露してるんだろうっな!」

「うにゃ!ひょっへた、ひっぴゃるのふぁ、ひゃんしょくにゃにょ!」

 

 なのはの弾力性のある、柔らかい頬っぺたを縦横無尽に引っ張り堪能する。こんな素材がグリッ

プになった、筆記用具は発売されないかな?

 

「トキヤはナノハにはそういう事もするんだね。」

「にゃにょはだけの、ひょっけんにゃにょ!」

「何でなのはが誇らしげになってるのか、分からないけど、まあ距離が一番近いのかな。どこまで

 なら不機嫌にならないか分かるし。」

「距離感がつかめれば私にもやる?」

「やって欲しいのか?」

「ん~。一度だけなら受けてみたいかも。」

 

「ダメなの!フィアッセさんにこんな事はさせられないよ!」

 

 フィアッセの発言で、俺から抜け出したなのはは強めの声で否定した。言われなくても、フィ

アッセになのはと同じような事は出来ないからな。

 丁度良いので、この発言に便乗させてもらおう。

 

「お嬢様の許可が下りないので、俺には出来ないな。」

「じゃあ、――私がトキヤにやる分には問題ないね♪」

 

 そう言うと、フィアッセの両手が俺の顔目掛けて伸びてきた。身長の差があるので、ちょっと背

伸びした状態で体勢は不安定なので、避ける事は容易なんだけどなぁ。

 

「にゃにをする。」

「凄い弾力性だよ。それに肌もスベスベだし、化粧のノリも良さそう。」

「誰が化粧なんかするか!」

 

 一度は甘んじて受けてみたが、すぐに手を払いのけ、仕返しにデコピンをした。

 

「――イタッ!軽くやられたはずなのに、すっごく痛いんだけど!」

「変な事を言ったフィアッセが悪い。」

「だって本当に思ったんだもん。」

「尚更、悪いわ!もう、絶対にさせないからな。やるなら、なのはにしろ。」

「わ、私!今まで二人でイチャイチャしてたのに、いきなり私を巻き込むの!――ふぎゅ。」

「う~ん。ナノハも違った感じで気持ちいいけど、私はトキヤの方がいいかな。」

「フィアッセさんも、いきなりやったくせに、失礼なの!」

 

 

「三人ともそこまでにしようか。そろそろ朝食の時間だよ。トキ君もシャワーを浴びないと、汗臭

 くなって、女性に嫌われてしまうよ?美由紀ならもう出ているはずだから、行って来なさい。」

 

「「はーい。」」

 

「それじゃあ、行って来ます。んじゃ、また後でな。」

 

 士郎さんの言った通り、結構良い時間で、いつの間にか美由希さんは道場から消えていた。浴室

に向かう時にリビングでストレッチしていた美由希さんの姿も確認したので、浴室から裸で出て来

る美由希さんと鉢合わせになるなんて、展開は起きずに汗を流す事になった。

 

 

 汗を流し、いつも通りに着替えてリビングに入ると、もう朝食を作り終えてテーブルに並べると

ころだった。

 

「おはようございます。すみません。手伝いもしないで。」

「おはよう。良いのよ。それにトキ君がシャワー浴びている間に、フィアッセちゃんとなのはが手

 伝ってくれたから。」

「そうだったんですか。」

 

「えぇ。さて、みんな!席に着きましょうか。トキ君の席はフィアッセちゃんとなのはの間ね♪

 美由希は私達の方に来なさい。」

 

 言われるがままに席に着いたが...そうか、フィアッセが来たから朝食も6人になるのか。元々

6人で食事をしていたから、テーブルの大きさは問題ないし、3人並んでも圧迫感はないのだが、

この席順には何か意図があるのだろうか?

 少しだけ、席を指定した桃子さんの言い方とその後の笑顔が引っかかったが、気にし過ぎか?

 

 フィアッセが加わった初の朝食だが、別に気になる事はなく賑やかな食事になった。ただ、席順

と今日限りだと思うが、やたらと両隣の2人が自分の作った(手伝った)料理を食べてと促された。

 俺に拒む理由はなかったので、2人に差し出された料理を口にして簡単な感想を述べたのだが、

その感想に納得がいかなかったのか、なのはが「もっと食べて。」と俗に言う"あーん"で食べさせ

ようとした所で、隣でこのやり取りを見ていたフィアッセが横から掻っ攫って食べてしまった。

 その後は、俺を挟んでのフィアッセとなのはの食べさせ合いが発生したのだが、テーブルを挟ん

だ向こう側の人達は止める素振りも見せず、士郎さんと桃子さんに至っては、同じように食べさせ

合いを始めていた。未だに新婚気分で仲の良い夫婦ですね。

 しかし、このままでは朝食が食べられないので「俺となのはかフィアッセの席変えた方が良いん

じゃないか?」と提案をすると、2人はピタッと止まり自分の目の前に用意された食事を何事もな

かったかのように食べ始めた。

 

 

 そんな朝食を食べ終えて、洗い物くらいはと使った食器類を洗っていると、桃子さんがこの後の

スケジュールについてみんなに話し始めた。

 

「今日の予定なのだけど、9時頃にフィアッセちゃんの荷物が届く予定なのは聞いてるかしら?」

「はい。昨日フィアッセから聞きました。結構あるんですか?」

「えっとね、衣類と化粧品だけまとめたから段ボール箱4つくらいだよ。」

「私もそう聞いたわ。そこでトキ君、男の子の貴方の出番よ。」

「悪いけど、僕と桃子はお店に行かないといけないからね。手伝ってあげてくれないかい?」

「そういう事なら、構いませんよ。」

 

「ごめんね。そこまで重くはないはずだから、私一人で大丈夫って言ったんだけど。」

「運ぶだけなら大した事ないしな。その後の整理は流石に無理だけど。」

「分かってるわ。その後は美由希となのはが手伝ってあげてね。フィアッセちゃんも男の子に衣類

 を物色されるのは抵抗あるだろうから。」

 

「「はーい。」」

 

「私、トキヤなら別に物色されても良いよ♪」

「ですってよ。どうする?トキ君♪」

「...2人共同じ様な顔してますよ。俺は荷物を運び終えたら翠屋に向かいます。フィアッセが本

 当に良くても、俺の方が良くないんで。あと、なのはの顔が2人と対照的で怖いし。」

「私怖い顔なんてしてないの!」

 

「残念だったわね。トキ君の弱み握れるチャンスだったのに。最近まったく隙を見せてくれなく

 なっちゃったのよ。アナタのせいかしらね?」

「僕はただ紳士としての心構えと女性の対処法を教えただけだよ。」

「それなら、一緒に女心も教えて欲しかったわ。」

「僕は桃子の心しか理解出来ていないからね、千差万別な女心を教授する事なんて出来ないよ。」

「もう♪」

 

 その後は、士郎さんと桃子さんの惚気話が始まってしまったので、各自解散して自分の部屋へと

戻っていった。

 

「それで!どうして、刻也さんはなのはの部屋で寛いでるの!!」

 

 そんななのはの声が聞こえたが、無造作に散らばった漫画の山から適当に見繕い、宅配便の人が

来るまで時間を潰した。

 しかしディープな少女漫画だったな。今は普通に情事も描かれてるモノなのだろうか。細かな制

限は知らないが、年齢規制した方が良いと思う。

 なのはがこんな漫画を呼んでるなんて士郎さんが知ったら、ぶっ倒れてしまうんじゃないか?

 

 

 

 その後、荷物に指定された時間通りにやってきた、生真面目そうな宅配便の人から荷物を受け

取って、フィアッセの部屋まで運び終えた俺は翠屋へやって来た。

 他にも来ていた従業員の人にも挨拶をして、すっかり慣れてしまった執事姿に身を包み、今日の

スイーツ製作を開始した。

 

 今日作るのは、季節の果物を使ったパイ。冷蔵庫の中に結構な量のさくらんぼが入っていたので

それを使わせてもらった。

 作り方は単純。種を取ったさくらんぼを砂糖や蜂蜜を加え丁寧に煮詰めて出来たモノを、パイ

シートに乗せて、盛り付けた上に更にパイシートで格子状に乗せて卵黄を塗り、後はオーブンで焼

くだけ。細かく言うと焼き作業にも色々しなければならない事があるのだが、割愛する。

 

 製作から約40分で2ホールのチェリーパイが完成した。これを切り分けて、もっと甘さが欲し

い人用にホイップクリームを添えれば盛り付けも終了。

 ここまで作っておいてなんだが、これで合格点が出れば商品として出せる。

 

「うん。合格よ♪」

「本当ですか?ここしばらく作り直した記憶がないんですけど。」

「それだけ腕を上げたって事よ。専門学校に通ったわけでもない、高校生がこれだけ作れれば問題

 なし。あと2,3年続ければ私に追い付けるんじゃないかしら。」

「それは言い過ぎかと。でも、ありがとうございます。」

「それじゃあ、このチェリーパイをあと6ホールと昨日のタルト1ホールお願いね。」

「了解です。それでは失礼します。」

 

 桃子さんからOKが出たので、厨房に戻って量産に入る。その途中で、衣類の整理を終えたフィ

アッセとなのはが加わり作業を再開した。

 それからしばらくして、翠屋の開店時間となり、なのははホールの方へと出ていった。なのはの

メインの仕事はフロアでの接客だからな。

 今日はフェイト達も来ないらしいので、普段途中で抜けるなのはにも、フルで働いてもらおう。

 

 

 

 

「つ、疲れたの...。」

「昨日よりお客さんの数が多かったね...。」

 

 昼のランチタイムが終わり、多少客足が少なくなった所で休憩となった。確かに、以前より忙し

かったし客足も多かったと思う。

 

「お疲れ様。お昼時で今年一番の売り上げだわ。どうも、先週トキ君がお休みしたのと、昨日フィ

 アッセちゃんがフロアに出ていったのが影響してるみたいなんだけどね。」

「モモコ、私なにかしちゃった?」

「違うわよ。フィアッセちゃんを見たさに来たお客さんが多くいたって事よ。後は先週食べられな

 かった執事様のスイーツ食べたさに来たお客さんもね。」

「トキヤのスイーツは分かるけど、私の事、こっちじゃあそこまで浸透してないと思うけど?」

「フィアッセちゃんが光の歌姫だって気付いているお客さんは少ないでしょうね。でも、」

「フィアッセさん綺麗だから一目でも見たいって思う人は大勢いると思うの。」

 

「えっと...。そういうもの?」

「大半の男性ならそうでしょうね。普段より男性客も多かった訳だし。という事で、今日フィアッ

 セちゃんがフロアに出ると、大騒ぎになるかもしれないから厨房の方をお願いね。

 なんなら、今後の生活必需品の必要でしょうから今日は上がってもいいわよ。まだ、まともに街

 も見てないでしょ?」

 

「でも、いいの?これからまだ沢山のお客さんが来るんだよね?」

「大丈夫よ。今日はなのはも居るからね。」

「.....ここは私に任せて、フィアッセさんは買い物でも観光でもしてきて下さい。」

「行って来いよ。確かに碌に街も案内してなかったしな。」

 

「何言ってるの?トキ君も行くのよ。」

 

「「「えっ!?」」」

 

「いや、桃子さん。この状況で俺抜けたら厳しくないですか?」

「全然平気よ。それよりも、異国の地でフィアッセちゃんみたいな綺麗な娘を一人で野に放つ方が

 不安で仕事に集中できないわ。」

「いくらなんでも、そこまでしてもらえないよ。」

 

「だーめ♪これはオーナー命令ね。トキ君はフィアッセちゃんをちゃんとエスコートする事!いい

 わね。」

「...わかりました。」

「えっ、トキヤは良いの!?」

「覚えておくんだ。こういう時の桃子さんには何を言っても無駄なんだ。」

「そうなんだ...。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。」

 

「それじゃあ、頼むわね。トキ君がいれば変な男は近づかないし、どんなに荷物が多くなっても文

 句は言わないから。ほら、なのはは二人の分まで頑張るのよ。いつもは途中で抜け出すんだから

 今日くらいは、しっかり勤め上げなさい!」

「お母さんは、誰の味方なの!!あぅ...引っ張って行かないで!なのはにはアリサちゃん達に与

 えられた使命があるの!」

 

 

 問答無用と引っ張られていくなのはを見ると、申し訳なく思ってしまうのだが仕方がない。隣で

同じ光景を目撃し、俺以上に申し訳なく思っているであろうフィアッセに気休め程度に「これが高

町家のヒエラルキーである桃子さんだ。なのはには何か買って帰ろう。」と声を掛け高町家へ戻り

恭也さんの残した衣類から、フィアッセに見合うそれなりに良い服に着替えて街へ出掛けた。

 

 いくら自分の格好に頓着がなくても、エスコートする相手がいる場合は俺だって気にする。

 

「その服、キョウヤって人が残していった服なんだよね。勝手に着ちゃって良かったの?」

「好きにして構わないって言ったんで問題ない。それに恭也さんもファッションに拘りとかなかっ

 たから、無断拝借しても「一言言え。」くらいにしか咎められないよ。」

「だからって全身黒色で統一するなんて、他になかったの?」

「残念ながら、俺自身も拘りとかないから、良さそうな服を選んだらこうなった。」

「トキヤもキョウヤも無頓着すぎるよ。まずは、トキヤの服から買わないとダメかな。」

「そこまで変なのか?」

「変...ではないけど、トキヤにはもっと似合う格好があるはずだから。」

 

 残念ながら俺のコーディネートはフィアッセには不評の様だ。

 

「変じゃないなら別に良いだろ。金も勿体ないし。」

「だ~め。お金なら私が出すから、トキヤは大人しく私に従いなさい。」

「それこそフィアッセに悪いだろ。俺の服を買うなら俺が出す。親からは生活費としては異常な額

 を毎月振り込まれるし、要らないって言っても士郎さんと桃子さんがバイト代だって言って、渡

 してくれるから金には困ってないんだ。」

「却下。それじゃあ、トキヤへのお礼にならないじゃない。良いから行こう♪」

 

 結構、街に近付いて来ているので人通りも大分多くなってきているのだが、フィアッセは全く気

にせず、自分の腕を俺の腕に絡めグイグイと引っ張っていく。

 その様子はさっき程、桃子さんに連れていかれたなのはの姿を彷彿とさせる光景だったのだが、

そんな事を知る由もない、通行人は一同に「イチャついてんじゃねぇよ」と男性は刻也に、女性は

フィアッセに対して呪詛を唱えていた事を本人達は知る由もなかった。

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 そのままの勢いで街まで来てしまったのだが、本当に俺の服から買う羽目になるとは...。

 3年ほど前にオープンした海鳴ショッピングモールの一角にある、メンズ用のトップスからボト

ムスまで、とりあえず男性はここに来れば必要なモノが揃うと謳われている店にやって来た。

 

「本日はそちらの彼氏へのプレゼントですか?」

 

 俺達を出迎えてくれた、客受けの良さそうな笑顔を浮かべている女性店員が、俺達の関係を勘違

いしたらしく、そう聞いていた。こういった店だと店員があれこれと口出しをしてくるから嫌なん

だよな。

 

「そうです。彼があまりにもこういう事が無頓着なんで、似合いそうな服を私が選んであげる事に

 したんです♪」

 

 フィアッセも同意見らしく、付きまとうなよと牽制の意味で否定せずにそう対応した。確かにこ

う言っておけば、よほど空気の読めない店員でもなければ付きまといはしないだろうな。

 俺もさりげなく、フィアッセを引き寄せる事で仲の良さを見せつけておく。

 

「なるほど。大変仲の良いカップルですね。私はお邪魔にならない様に控えておりますので、ご自

 由にご試着下さい。(けっ、魅せつけてんじゃねぇよ!)(さっさと買って出てけ!)

 

「そ、それじゃあ、行きましょう♪折角トキヤは元が良いんだから、ちゃんとしないと勿体ないん

 だからね。」

「もうここまで来ちゃったし、全部任せるよ。」

 

 店員の呟きが聞こえてしまったのだが無視して、この後の展開は全てフィアッセに任せた。

 

 俺はフィアッセに言われるがままに、差し出された服を試着していき、かれこれ1時間くらい経

過した所で、夏物のトップスを6点、ボトムスを3点ほど見繕い購入した。

 ここでも、一応俺が自分で支払うと申し出たのだが、フィアッセの言い分と会計を担当していた

さっきの女性店員の呪詛もあり、フィアッセの支払いで1着をそのまま着た状態で店を後にした。

 結構な額だったのだが、こんな事になるなら自宅に戻ってよく考えて着替えてきた方が良かった

かもしれない。今回はフィアッセの好意という事で、ありがたく今後も着させて貰うけど、俺もな

んか贈った方が良いよな。

 

「やっぱりトキヤはこういう格好の方が似合うね。さっきまでとは受ける印象がまた違うよ♪」

 

 当のフィアッセは出費とか関係なしに、自分が選んだ服を着ている俺を見てまた嬉しそうに腕を

組んで来る。こういう状況を何の事情も知らない学校の友人(小恋)に見つかると面倒なんだよな。

 

 

 なんてそれっぽいフラグを立ててはみたが、その後に案内を兼ねたショッピングモール巡りの最

中に知り合いに出くわすようなことはなく、フィアッセの必要なモノを買って街から海鳴自然公園

にやって来た。

 海鳴自然公園はそこらの公園に比べとは規模がとてつもなく大きく、とにかく自然が豊富で小さ

な泉から大海原の海にも面しているため、夕方になると夕日が沈む様子が見え海鳴市で1,2を争

うの絶景スポットとして有名で、学校の新聞部が調べた結果によれば彼氏・彼女にプロポーズした

い・されたい場所では、堂々の1位に君臨するらしい。信憑性は定かではないけどな。

 この季節はまだ太陽が天高く昇っているため、その風景を見せる事は出来なかったが、偶々広場

でフリーマーケットが開かれていたので、覗いてみる事にした。

 

「フリーマーケットって初めて来たけど、本当に色んなモノが出てるんだね。値段も売り手の言い

 値っていうのは本当なの?」

「値札が付いてないのは、その時の気分だったり買い手によって変わるんだ。俺も最近は来てない

 から、ルールも変わって来てるかもしれないけどな。」

 

「へぇ。あっ!このロケット可愛い。ねぇ、これは貴方が作ったの?」

「...はい。私の手作りです。趣味でこういったモノを良く作るので、こういう場で沢山の人に見

 てもらおうかと思って並べているんです。」

 

 話しながら歩いていたのだが、ふと目に付いたのだろう。フィアッセがシートの上に装飾品が並

べられていた所で店を開いていた出品者と話し始めた。

 

「本当に手作りなんだ。私こういうのってどうやって作るのか知らないけどやっぱり手先が器用

 じゃないと、出来ないんだよね?」

「今は簡単なキットの様なモノも出回ってますから、簡単なモノなら誰でも作れますよ。」

「でも、これとか..あれも細かな所まで丁寧に作られてる感じがするよ。」

「えっと...、ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。」

 

「何か気に入った物でもあるのか?」

「...彼氏さんですか?」

「ちg「そうです♪ねぇ、トキヤ。このロケットペンダント可愛いと思わない?」..いや、まあ、

 手作りにしては綺麗に仕上がってると思うぞ。」

「だよね!」

「えっと......。」

「すまない。それでこれはいくらなんだ?見た所値札も付いてないし。」

 

「良いの?私、自分で出すよ?」

「まあ、服のお礼とは言わないけど、記念になるだろ。」

「...買って頂けるのでしょうか?」

「彼女が気に入ってるみたいだしな。それに俺も悪くはないと思う。もっと自信を持っても良いん

 じゃないか?これだけの技術があるんだから。」

「はい、ありがとうございます。正直売れるとは思ってもいなかったので、値段は考えてなかった

 んです。なので差し上げます。」

 

「いや...。まあ、キミがそれで良いと言うなら、それで良いんだけど...良いのか?」

「はい。私はお二人に自分の作ったモノを褒めて頂けたので、それだけで十分です。どうぞ、これ

 も良かったらご一緒に貰って下さい。全く同じという訳ではありませんが、金メッキと銀メッキ

 で、それぞれ同じように作ったモノです。是非お二人で持っていて下さい。」

「そ、そうか?それじゃあ、折角だから貰っていこうか。」

「うん。大切にするね。ありがとう♪」

「こちらこそありがとうございました。」

 

「それじゃあ、他も見て回ろうか。」

「はーい。」

 

 素材の違いはあれど、ほとんど同じ形のロケットペンダントを謙虚な出品者から頂きフリーマー

ケット探索はもうしばらく続いたのだが、結局これ以外手にした物はなかった。

 

 

 海鳴自然公園も大方見て回り、ここまで歩き詰めだったので、ここで何十年も営業しているたい

焼き屋で、それぞれ好きな味のたい焼きを買って海の見えるベンチに座り食べる事にした。

 しかし、このたい焼き屋は中身の具が豊富で、普通餡子やカスタードクリーム、場所によっては

お好たいという、たい焼き型のお好み焼きを出している所もあるが、ここは何でもあると言っても

過言ではない。メニューには3,40種類載っていて、載ってない具材をあるか聞くと「あるよ」

と言って、作ってくれる寡黙な店主がいる。

 フィアッセもそのメニューの豊富さに戸惑いを表していたが、無難にカスタードクリームを選ん

だが、俺は買う時は必ず注文する俺の中の№1であるチーズカレーを迷わず注文した。

 

「ねぇ、トキヤ。トキヤは迷わずにそれ頼んだけど美味しいの?」

 

 潮風を浴びながら他愛無い話をし、たい焼きを頬張っていたのだが、フィアッセが唐突にそんな

事を聞いてきた。あれだけあったのだから、やっぱり他の味も気になるのだろうか?

 

「気になるなら食べてみるか?」

「ホント!じゃあ、一口だけ頂くね♪」

 

 俺がフィアッセの方にチーズカレーのたい焼きを向けえると、フィアッセはそのたい焼きにパ

クっとかぶりついた。

 

「んっ!!これ、美味しいね。たい焼きって感じはしなくなるけど、トキヤくらいの男の子にはこ

 れくらいで丁度良いんだろうね。」

 

 そう食べた感想を言ってくれたフィアッセだが、その口元にはカレーが付いていた。

 

「はぁ...。ちょっとじっとしてろ。」

「えっ!?ちょっ...トキヤ!?」

 

 片手でフィアッセの顔をやんわりと固定して、逃れられないようにしてからもう片方の手で口元

に付いていたカレーを拭い、そのまま自分の口に入れた。昔...なのはにやっていた様に。

 

「あの...。そ、それは流石に私が恥ずかしいんだけど。言ってくれればいいのに。」

「ん?あぁ...悪い。昔、なのはも良く口回り汚してたから、その時の癖でやっちまった。」

 

 改めて今の自分の行動を振り返るが、フィアッセの様な年上の女性相手となるとまた別の恥ずか

しさがある。

 

「ふーん。それじゃあ、トキヤも私と同じ思いを味わうといいよ♪」

「何を...ふがっ。」

「ダメだよ。そんなに口元汚しちゃ。私が取って上げるからトキヤはじっとしててね♪」

 

 仕返しとばかりに、フィアッセは自分が手にしていたカスタードクリーム入りのたい焼きを俺に

押し当て、無理矢理汚した上で、同じように拭い最終的に舐めとった。

 

「ど、どう?少しは私の気持ちがわかった?」

「いや...。明らかにフィアッセの方がダメージ受けてるだろ。」

「うぅ。まさか、意識してやってる方が恥ずかしいなんて思ってなかったよ...。」

「まさに、策士策に溺れるってやつだな。」

 

「.....なにそれ?」

「日本の諺の一つだ。今みたいに策略や思惑を持って行動したんだけど返り討ちや失敗したって意

 味。英訳すると、The deceitful man falls oft into the snares of deceit.なんて言われてい

 るみたいだな。」

「策略家は策略の罠にかかることが多い...か。」

 

 フィアッセはその言葉になにか思う所があったのか、しばらく考え込むように残りのたい焼きを

食べていた。

 

 

 時間もいつの間にか16時を過ぎていた。あと案内しておきたい場所は、八束神社くらいかな。

この辺りで祭りが行われるとしたら、そこくらいしかないし。

 という事で、たい焼きを食べ終えた所で、気持ちを入れ替えたのか、調子が戻ったフィアッセを

連れて、石段を上がり八束神社までやって来た。

 

「ここまで来ると、藤見町が見渡せるだね。」

「あぁ。あの辺に翠屋が在って、坂を下ってあの辺りが高町家だな。」

「あの山に見える屋敷は?」

「すずか..昨日会った、紫色の髪の子の住んでる家だな。そこから視線を右に移していくと見える

 豪邸は双子じゃない金髪の子(アリサ)が住んでる所だ。」

「みんな凄い所に住んでるんだね。トキヤの住んでる所はどの辺なの?」

「俺か?俺は...あっちに高層マンションが何棟か建ってるだろ?あの辺だ。その更に奥にそびえ

 てる高層高級マンションには金髪の双子が住んでる。あと関西弁のやつは隣町で暮らしてるから

 ここからだと見えないな。」

 

「滅多に両親は帰ってこないんでしょ?寂しくないの?」

「そこまで知ってるのか。まあ、こうして士郎さん含め、みんな居るからな。寂しいとは感じない

 な。それに自由が効くから一人暮らしも良いもんだぞ?」

「...そっか。それじゃあ、今更だけど連絡先交換しようよ♪」

「本当に今更だな。」

 

 そしてお互いの連絡先を登録して、おまけにLink'sのIDも登録した。

 

「良し。トキヤが寂しく感じたら遠慮しないでお姉さんを呼び出してくれてもいいよ♪」

「そっちこそ、ネガティブ思考に走る前に俺に連絡入れろよ。」

「あぅ。あの時の事、絶対他の人に言っちゃダメだからね。」

「はいはい。(俺は良いけど、桃子さん、あれ聞いてたよな?)」

 

 その後、しばらくの間ただ藤見町の景色を見てから八束神社を後にし高町家へ帰った。

 

 

 玄関には完全燃焼した様子のなのはが鎮座していて、そんな状態であるにも関わらず、俺の服装

がいつもの感じと違うと気付き、どこで何をしていたのかを事細かく説明する事になったのだが、

話し始めてしばらく経つと、後はフィアッセから聞くから俺はもう不要だと言うような事を言われ

たので、3つセットになっていたマグカップと、今日読んだ漫画の最新刊が書店を覗いた時に本日

発売と出ていたので買ったモノをなのはに渡し、俺は自宅へと帰った。

 

 何か俺の説明に問題があったのか気にはなったが、帰り道の途中でフィアッセから、なのはがプ

レゼントを喜んでいたという報告と、しばらくしてなのは本人からも、ありがとうというメッセ―

ジが届いたので、考え過ぎだったかな?と思い自宅に辿り着いた。

 

 そこで、昨日小恋にメッセージを送っていた事を思い出して、1日以上空いてしまったが返信を

してから、いつもの日課へと移っていった。

 その小恋とのやり取りだが、フィアッセには悪いが餌にさせて頂き、その交渉の結果、一度だけ

なら顔を出すという事になった。

 なんせ小恋こそが俺にフィアッセの曲を聞かせた張本人だからな。最初は翠屋で働くことになっ

たと言っても信じなかったが、許可を取ってから撮った写真を送ったら信じ交渉の席についた。

 

 

 

 と言った感じで充実した時間を過ごしたわけだが、ここからはまたSLOの時間だ。なんせ明日

には、初の運営主催のイベントが始まる。

 

 俺の装備の補強と姫達の装備品を作ったら、また狩りへと出かけよう。今回は前よりも作るモノ

は少ないし、設備も充実しているので、作業時間もより短縮できるから、多くの時間を狩りに回せ

るはずだからな。

 

 まずは最速で南下して、リニスのクラスチェンジを第一目標にしていきたい。召喚枠が2つ空い

ているが、その後でも良いだろう。4体同時召喚も可能になったので、集中育成枠として使っても

良いしな。

 

 

 夕食を食べ終えた俺は、早速SLOを起動し仮想現実の世界へログインした。

 

 




如何でしたか?

フィアッセとのデート回となりました。そして、なのはは二人のデートの為に生贄に捧げられてし
まいました。とりあえずこれで、フィアッセ回は当分ないです。だって刻也は平日学校で翠屋にも
高町家にも来ないので。
それでも、来週は小恋と一度は翠屋に訪れるかな。それが何曜日になるかはまだ決めてませんが、
月曜日の昼休みには楠葉に霊力の扱いを習い始めますからね。
平日学校組で休日はフィアッセになるのかな。3章での日常パートどうするかまだ定まっていませ
んが、これまでに登場させたキャラクターが死なない様に頑張ります。

次回は、SLOでの生産からのレベリング回になるかと。構想は出来ているのであとは文章にして
いくだけなので、明日も更新出来ると思います。

※スキル解説&ステータス更新なし
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