かなり久しぶりに小説書いたので、結構文が安定していない。
文章作成の向上のため、酷評も含め、どんどんお願い致します。
誤字脱字もありましたらご報告をいただけるとありがたい限りです。
がたんと、体に伝わる振動で青年は目を開けた。
「う、ん……」
寝ぼけまなこだったのだろう、なんとも情けない声が出る。
「だ、大丈夫でありますか?申し訳ございません、少し溝があったようで」
その声を聞いたのだろう、運転手である少女が申し訳なさそうにバックミラー越しにこちらを見ていた。
青年は大丈夫だと、少女に伝えた。それを聞いて安心したのか、青年を見ていた視線を感じなくなる。
(寝てしまっていたか……)
がたがたと、不規則に揺れる車の後部座席に青年はいた。少し寝てしまっていたせいか先ほどまで走っていたはずの木々に囲まれた山道は、開けた平野へと変わっており窓から見える景色の先には紅色に染まった陽の明かりが見える。
青年は少女に断りを入れると、車の窓を開けた。瞬間、車の空気とは逆の湿度を含んだ空気が入り込む。その中に微かにだが感じた匂いに青年は自然と笑みをこぼした。
「どうやら、そろそろ到着みたいだね」
「えっ、あっ、そうであります! この平野を少し越えた先に目的地があるはずであります。もうそろそろ見えてもいい頃……見えたでありますよ提督殿」
どうして目的地が近くだと気づいたのだろうか。青年の言葉に少し驚きつつ、少女は次第に見えてきた建物を指差した。
赤レンガで造られた建物だった。それを見た青年は過去に見た物と寸分違わない姿に再度笑みをこぼす。
呉鎮守府、それがこの建物の名称だ。レンガ石造の建築で、レンガと御影石との調和がとれた建造物。外壁はイギリス積みの積み方で、二階には柱頭に桜を彫刻した石柱が両側にあったりと日本人特有の細かな仕事が現れた美しさがある。
「美しいな……」
「へっ、うぇっ!? そ、それはどういう……」
「えっ? いや、夕日に照らされた呉鎮守府はとても美しいなと」
「あっ、そ、そういう……い、いえ! 大丈夫であります!」
青年の言葉に少女の顔は真っ赤になった。それを見た青年の大丈夫かとの問いに少女は問題ないと答える。青年から見えたということは耳まで真っ赤になっていたのだろうか、恥ずかしさのあまり変な汗が出てしまいそうだ。
もぞもぞと体を小刻みに揺らしながら運転をする少女をみて青年は不思議に思い首を傾げた。そして、別にいいかと意識を変え、紅色に染まり独特な雰囲気を出す鎮守府を見る。
(あそこが新しい職場か)
青年は前の職場で働いていたときにとある女性から言われたことを思い出す。
君に艦娘達の指揮を頼みたい。
神妙な顔で言っていたのを青年は覚えている。始めは冗談だと思っていたが、女性の重みが含まれた声にそれが冗談ではないのだと気づく。
女性は言った。まるで忌々しい記憶を思い出したかのように顔をしかめながら。
『いつからだろうか、空に飛行機等が飛ばなくなり翼をもがれたのは。いつからだろうか、海に船がなくなり代わりに魍魎が跋扈し始めたのは。いつから、といって答えられるものはいないだろう。それほど、奴らが現れてから世界の時計は針を進めている。君も資料を見ただろう?』
深海棲艦。それがこの世界の海を支配している魍魎。
深海棲艦が現れてから世界の情勢は大きく変わったと聞く。空と海という世界を繋ぐ生命線を奪われた各国は、通常兵器も効かない化け物に対抗する手段を見出せず、またたくまに孤立してしまった。
特に日本は周りを海で囲まれた島国ということもあってか、深海棲艦の影響を大きく受けてしまっている。
しかし、ただ滅び行く運命だったはずの日本を救った存在がいる。
艦娘。通常兵器もきかず、海と空を奪われ、ただ陸上へあがることのないようにと願うばかりで何もできなかった人類に手を差し伸べた存在。
初めは日本海軍が行った深海棲艦殲滅作戦、そのときだったろうか。彼女たちが現れたのは。意気揚々と日本海軍全ての戦力を持って始まった作戦は惨敗。またたくまに一つ、また一つと艦をおとされ敗戦確実と言われた中、彼女たちは現れたという。
まだ幼さの残る彼女たちは本来では考えられないような動きで敵を翻弄した。いわく海の上を滑り、いわく手や足に装備した人の身体に合わせたサイズの主砲などで深海棲艦を倒したという。
実際に青年は資料の中でしか見てはいないが。
「ついたでありますよ、提督殿」
到着を知らせる少女の声と共に、青年の意識は浮上する。考え込んでしまっていたのだろうか、車の速度が次第に緩やかになり停車する。
少女は鎮守府の入り口前に車を停めると、運転席を降り後部座席の扉を開けた。その動きをみて青年は苦笑いを浮かべる。
この世界では男性が少なく、女性がとても多い。そのせいだろうか、先ほどの少女の行動もそうだ。ここではレディーファーストなんて言葉はなく、女性が率先して男性をエスコートする。
(こればっかりはいつまで経っても慣れないな……)
男性保護法なんてものができるくらいだ、男女の割合の差がそれほどまでにあるのだろう。青年は罪悪感を感じながらも少女にお礼を言い、車から降りた。
瞬間、少女の体に電流が走る。ふらっと、足に力がはいらずよろけそうになる。しかし提督が、それも初めて見る男性がいる手前、心配をかけさせるようなことはあってはならない。すぐに力を入れなおし、体勢を立て直した。
運よく青年はこちらを見ていない。それを見て未だ高速で音を鳴らす胸を抑えた。
「こ、ここが提督殿の新しい職場、呉鎮守府であります。間もなく、迎えの者が来ますゆえ少々お待ちください」
「あぁ、ありがとう。……別にそんなに畏まらなくてもいいよ。提督といってもつい前までごく一般の兵士だったんだ」
「はっ! ありがとうございます。しかし司令官殿。その言葉、女性であるならまだしも男性は一般とは言い難いと思うのですが……」
「確かに、違いない」
話すうちになれてきたのだろうか、最初は強張っていた少女も柔らかい物腰になってきた。とそこで、青年は彼女の名前を知らないことに気がつく。この世界では女性が男性を敬うが、青年の頭の中では女性を敬うのが基本だ。
「そういえば、君の名前を聞いていなかったな」
その言葉に運転手をしていた女性はびくりと、身体を震わせた。それを見て青年は何かまずかっただろうかと首を傾げる。
「し、失礼いたしました!自分は、陸軍の特種船……その丙型のあきつ丸であります」
陸軍特殊船丙型あきつ丸。それが彼女の名前らしい。
「あきつ丸……?それって確か大日本帝国陸軍が開発したと言われる陸軍特殊船丙型船のことか?ということは君も艦娘……」
「そ、そうであります。司令官殿はとてもお詳しいのでありますね」
「ま、まぁ、これから艦娘達のケアに向かうからね。まずは会う前に色々知っておかないと」
「さ、さすがであります!そこまで考えてらっしゃるとは……」
(実はわけあって知ってましたとは言えないなこれは)
きらきらと目を輝かせながらこちらを見るあきつ丸に何とも言えない背徳感を覚えつつ、青年は苦笑いした。しかし、目の前にいる年端もいかない女性が艦娘とは……。いや、この場合あきつ丸は艦というより船か。
今は艦娘の象徴である艤装をつけていないのだろう、傍から見れば町で見かけるような少女と変わらない事に青年は艦が少女になるとはなんとも不思議なものだと思った。
「しかし、司令官殿も難儀なものでありますな。呉鎮守府の提督が艦娘に対するわいせつ行為で逮捕され、代わりに配属されるとは」
「ははは……。なってしまったことはしょうがないさ」
そう、そうなのだ。青年がわざわざ内地から戦線へと駆り出されたわけは、なんてことはない。現在深海棲艦に対抗する為に存在する前線基地―鎮守府の中でも比較的上位に入るほどの場所、呉鎮守府にいた提督が艦娘に対しセクハラ行為を行ったということだ。それも駆逐艦という見た目は幼女に対し。それも提督は女性だというのに。
(ホモか……!?とホモになるのか!?いや、百合なのかこの場合…)
「しかし、女性が女性に手を上げるとは……。同じ女性として風上にもおけないでありますな!」
(女性という単語がゲシュタルト崩壊を起こしかけてんな……)
「まぁ、だからこそ私が配属されるんだろうね。一応、男性だし艦娘達の士気向上も兼ねているんじゃないかな。なってくれるといいが」
しかし、よくよく考えればこの世界で貴重な男性を艦娘とはいえ、戦場の真っただ中、それも女性しかいないところに配属するというのは軍としてはかなり思い切った行動だと青年は思う。
「なっ、なるであります!絶対に!本当であればあきつ丸もそこにはいぞっ、げふん!」
「あ、あぁ。そうだといいな。ありがとう、あきつ丸」
「はひっ!」
大声で査定し、そして顔まで真っ赤になっているあきつ丸に対しなにかしたかと思いつつも、礼をいった青年に対しあきつ丸はなにやら不可思議な声をあげた。
のちにあきつ丸はこう言う。男性の、しかも青年からの「ありがとう」という言葉を聞いた瞬間、体中になんともいえぬもどかしい雷が走ったと……。
その時、青年とあきつ丸がいる場所に鎮守府の方からこちらへ向かってくる人影があった。どうやら鎮守府の入り口で止まっていたのを見てわざわざこちらへ来たのだろう。
青年の頭に少々おしゃべりが過ぎたかという思いが走る。後で謝った方がいいかもしれないなと。
人影が近付くにつれ、次第にその輪郭がはっきりしていく。
それは少女だった。それも青年からしたら美少女といっても過言ではないほどの。しかし、その少女の頭についている二つの機械のようなものが少女が艦娘なのだとわかる。
「はぁっ、はっ、はぁ……。ちょっと、なにやってるのよあきつ丸!到着予定から5分は遅れてるわよ!」
息も絶え絶えに少女は膝に手をつき、肩で息をしながらもあきつ丸に対し言葉を吐いた。
「も、申し訳ないであります。ですが、たった5分でありますよ?叢雲殿」
叢雲、それが彼女の名か。
白い、というよりは銀に近いその髪はさらさらとしていて腰のあたりまで伸びており、少し大人びた雰囲気をだしている。だが、表情はとても大人びたとはいえず、目はつりあがりあきつ丸を見ているその容姿はどちらかというと猫のようだ。
「ふん、まあいいわ。で、肝心の新しい提督ってのはどこにいるのかしら?まったく、せっかく新しい海域を攻略するって時にあの馬鹿提督があんなことするなんて……。まぁ、最初見たときからそんな雰囲気はしてたから嫌な予感はしてたわよ。他の子たちからの評判も良くなかったし……で、新しい提督は?」
前言撤回、外見美少女、中身は小姑だ。
「あ、こちらであります。どうぞ司令官殿、こちらが呉鎮守府で前提督の秘書をやっていた艦娘、叢雲殿であります」
ちょうど青年の姿をさえぎっている形で立っていたあきつ丸が横にどけ、説明する。すると、叢雲は青年の姿を見る前に目をつぶっていたのか、 こちらを鼻高々に……、背は低いが見ていた。
「ようこそ、新しい提督さん。私の名前は叢雲、特型駆逐艦、5番艦の叢雲よ。数々の作戦に参加した名艦の私が秘書を務めてあげるんだから、光栄に思いなさい!」
「はははは、なかなかに元気なことだ。こちらこそ、宜しく頼むよ叢雲。私の名は長門。恐れ多くも戦艦長門と同じ名字を持っているものだ」
「当り前でしょ!私をだれだとおも……って……」
「ん?どうした。私の顔に何かついているのかな?」
「あー、これは……」
次第に語気が弱くなり、しまいにはこちらを見て固まってしまった叢雲を見て青年―長門は首をかしげた。それを見たあきつ丸が一つ、鎮守府に対し伝え忘れていたことがあったのを思い出す。それは一番重要な事。
「やってしまったであります。新しく来る司令官殿を殿方と伝えるのをうっかり忘れていたであります」
その言葉に長門はあんぐりと口をあけた。
このあきつ丸、今何といいやがりました?
「おまっ、なんでそんな重要な――」
「おっ、おぅ、おっ、おぅ、おっ」
「叢雲さん?」
嫌な予感がする。その一瞬で耳をふさげたのはもといた世界から違う世界へと移動したことによる状況把握能力のおかげかどうかはわからないが、長門は自身の感覚とともに耳をふさいだ。
「おとこおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
新しい司令官が、呉鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮をとります。
かなり修正加えました。前半は正直別物です。だいぶましになったとは思うけど……
そして今まで三点リーダだと思っていたものが三点リーダじゃなかった。
初歩的なミスすぎて頭が沸騰しそう。