~男女あべこべな艦これに提督が着任しました~   作:イソン

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かなり遅れてしまって申し訳ないです。

違うんです、イベントが始まったのがいけないんや。

パ○ドラの降臨プラスイベントとか、モ○ストの塔とか……。

とりあえずイベントはE-3までは。


第十三話 あべこべ艦これ〜束の間の休憩〜

 開け放たれた窓から入る風は空から降り注ぐ太陽の光を浴びどこまでも穏やかで、涼むにはあまりにも頼りない代物だ。

 

 まして、提督である正海は性別上、どうしても上着を脱いでしまうと周りが阿鼻叫喚の図となってしまうのでいかんせん服を脱ぐことができず、額に汗粒を作りながら書類処理に追われていた。

 

 汗ばんだ手のせいで、一部分がふやけた書類を見る。

 

 本部から新しく届いたそれは、今後この呉鎮守府で行われる催し事に必要な経費、備品、催し内容、使用する艦娘等々。細部に至るまで事細かく記入する項目がある。

 

 その書類が机の上に文字の通り山の如く置かれている。本部は自身を蒸し焼きにする算段か。

 

 「今日は暑いですね……」

 

 「まったく……っ!?」

 

 「どうかしましたか、提督?」

 

 「い、いや、なんでもない!」

 

 そして正海を悩ませている物がもう一つ。

 

 ちらりと、気づかれぬよう同じく書類の処理に追われている本日の秘書、加賀を見る。絹のようにつややかな黒髪を横で束ねた姿は、彼女なりの控えめなお洒落心が表れており、背筋を伸ばし凛としたその光景は他の艦娘にはない独特の雰囲気を醸し出す。

 

 和の姿と言えばいいのだろうか、加賀の姿は……本来であればだが。

 

 正海の目に映るのは、暑さのせいか汗がしみこんだ白いうなじに髪が乱れ、弓道着の様な白色の上着は胸元部分が大きく開き、時折手を休めては手で風を送っている。その胸元に首筋から流れる汗が入り込むのを見るたび、正海の頭の中で警報ががんがんとなり響く。

 

 (心頭滅却だ。どんな状態でも邪気を持つからそういう心になるんだ。そうだ、無の心で見れば問題な――)

 

 心を無にし、見る。そして――

 

 

 「提督。こちらの書類、確認が終わったので確認をお願いしま……どうされたのですか? 鼻など押さえて」

 

 「いや、なんでもない。うん」

 

 「はぁ……」

 

 正海は思う。男性が少ないこの現状、大変なことは色々あるが役得ではあると。そして加賀は着やせするタイプだと。

 

 鼻を押さえたままの正海を見たせいだろうか、加賀は少しの間、顎に手を当てて考え、思いついたように立ち上がると司令室の備品類を置いてある棚まで歩いていき、紙箱を取り出した。そして一枚、二枚と服の袖がずり落ちぬよう片手で押さえながら薄紙を取り出す。

 

 「どうぞ、提督」

 

 「むっ、あぁ、すまな……っっ!」

 

 「大丈夫ですか? 暑さのせいで血が昇ったのでしょう。垂れる前にこちらを」

 

 「あっ、あぁ……」

 

 こちらに薄紙を差し出す加賀の姿を見て体が文字通り固まる。こちらを心配そうに見ながら差し出すその姿、まだ弛みのない皮膚、艶と真珠のような白さが際立つ胸元が近くにある。気付いていないのだろう、いや、気づかないだろう。艦娘達、女性しかいなかったこの場所でしか生活してこなかった彼女には。もしこれが逆であればすぐさま憲兵が正海をどこぞの宇宙人よろしく二人で抱えたまま連れて行かれたに違いない。

 

 なるべく下を見ないよう注意しながら、薄紙を受け取る。

 

 それを見て加賀は笑みを浮かべると、少し休憩しましょうかと提案した。その言葉に正海も首を縦に振り了承する。この動悸は少し休ませねば落ち着かないだろうから。

 

 そうと決まると加賀の動きは速かった。

 

 瞬く間に机と椅子を用意すると、あらかじめ用意していたのだろう冷茶と、開いていた司令室の窓から艦載機が羊羹を上に載せて飛んできた。それを取り、机に並べる。

 

 艦載機をこのような使い方で運用していいものかどうか迷うところではあるが、一連の動きから見るに慣れているに違いないと若干暑さで働かない頭で思いながら、加賀が座るのを見て正海も書類の山から離れ用意された椅子に座った。

 

 「こちらの羊羹、間宮さん特製なんです。是非、提督にもと思いまして」

 

 「へぇ、それは楽しみだ」

 

 「是非。……殿方と一緒にこうやって食事をするのは初めてで、こんな粗末な物で申し訳ありませんが」

 

 「そんなことはない、とてもありがたいよ」

 

 その言葉に加賀の頬が朱色に染まる。それを見て正海の口に笑みがこぼれる。

 

 「そうだな、せっかくこんなおいしい羊羹をご馳走してくれたんだ。今回とは別に食事、というかディナーでもご馳走しようか」

 

 「へっ、そ、それはどういう……!」

 

 「えっ、言葉の通り……」

 

 「ほ、本当なんですねどっきりとかじゃないんですね他の艦娘にそんなこと言っていないですよね絶対他の方には言わないでくださいね」

 

 「わ、わかったわかった!」

 

 獲物を狩る目とは正にこのことだろうか。ご馳走しようかと言った瞬間、こちらを問う加賀の目は猛禽類のように研ぎ澄まされこちらを見つめていた。

 

 後半から目から光が無くなりかけているあたり、一度怒らせると怖そうだと暑いはずなのに冷や汗を感じながら正海は査定する。

 

 その言葉に加賀はほっと息を吐くと、竹楊枝で器用に羊羹を切り分けていく。だがしかしだ。正海は加賀が用意している羊羹の多さに驚いた。3本はある。まさか、これを全て食べるんじゃないのかと加賀を見ると、顔に笑みを浮かべたまま物凄い速さで置いてあった羊羹3本を切り分けている加賀の姿があった。

 

 (ま、いいか……)

 

 あまり深く考えないようにしよう。暑さと胸元の相乗効果の威力がまだ頭に残ったままそう思う。

 

 とそのとき、生ぬるい空気が頬をなでた。それにはて、と正海は切り分けられた羊羹を一つ口に放り込み考える。司令室の窓は開けているがこの机付近まで風の通り道などできていたかと。

 

 そこで正海は自身に向けられた視線を感じ、風が通っていくほう、扉のほうに顔を向けた。すると、微かに開いた扉の隙間からぴょこんと犬耳のように垂れた髪と尖晶石の様に赤く澄んだ瞳が特徴的な艦娘がこちらをじーっと見ていた。その口元には透明な液体が漏れている。

 

 「確か……夕立、だったか?」

 

 「っぽい!」

 

 その言葉に扉を開け放ち、飼い犬のように正海の元へと駆けてゆく。

 

 「夕立? 確かあなた、今日は遠征だったんじゃ」

 

 正海の言葉に夕立に気づいたのだろう。羊羹を口に入れようとしていた加賀が不思議そうに机の端で顔を半分だけ出し、卓上の羊羹を凝視する夕立に問いかけた。

 

 「終わったっぽい!」

 

 答えながらも卓上の羊羹を凝視したまま、夕立が答える。その姿におあずけを食らったわんこのようだと正海は思った。

 

 「終わったって……。あなた、そんな馬鹿なことがあるわけ……!」

 

「夕立だってわかんないよ……。今日は何故かいつもより早く資材の積込みが終わったり、帰りの間敵に会わなかったり……。とにかく、早く終わったっぽい!ちゃんと報告書も出してきたよ!」

 

 「そんな馬鹿な事が……。ところで、夕立。あなたは何故ここにいるのです?報告書を提出したなら補給に向かいなさい。提督の報告も旗艦が来るでしょうし」

 

「夕立、お腹すいたっぽい! ねぇねぇ、加賀さん。この机の上にあるのって、確か間宮さんの限定羊羹だよね!?」

 

 「っ! 何故それを……」

 

 夕立の言葉にまずいと加賀は内心舌打ちをうつ。確かに、この羊羹は提督にも言ったとおり間宮の羊羹だ。だが、通常の羊羹とはわけが違う。厳選された小豆、砂糖、寒天、水飴といった自然の素材のみで作られたこの羊羹は素材の少なさから一ヶ月に約十本ほどしか作られない貴重な羊羹だ。カロリーも通常の半分で食べるものにとってもありがたく、これを手に入れるには根回しによる根回しをしておかなければ普通では口に入れることなど出来る筈もない代物。

 

 そして特筆すべきは、その舌触りの滑らかさと、素材の風味を活かした上品な味わい。しっかりと適度な硬さがありながら、するりと喉に入るスムーズなその食感、すっきりとして上品な甘さは、「究極の羊羹」と呼ぶに相応しい。

 

 加賀自身、この羊羹を手に入れるために同部屋の赤城と共に多大なる労力を費やしたのだ。それも全て、提督と一緒に食べてもらうため。

 

 そんな貴重なものを食べさせるわけにはいかない。その考えが加賀の体から滲み出たのか、そろーりと一切れつまもうとした夕立が体をびくっと震わせて縮こまる。

 

 さすがは一航戦と言ったところか、その迫力は。

 

 だが、加賀は知らない。提督の優しさを。本来であれば女性に何かをあげるなど普通はない筈、そこを見落としていることを。

 

 しょぼくれた夕立の前にそっとお皿が置かれた。夕立が不思議そうに顔を上げると、そこには提督が切り分けられた羊羹を夕立に差し出している姿が。

 

 「遠征お疲れ様だな夕立。加賀、そう邪険にしないでくれ。女の子は甘味が大好きだからな」

 

 「て、提督……!」

 

 「うっ、も、申し訳ありません」

 

 その言葉に嬉し涙を浮かべる夕立と、対照的に提督に諭され落ち込む加賀。その光景に正海はなかなか難しいなと一人苦笑いする。

 

 「じゃあ、いただきますっぽい! あっ、楊枝がないっぽい……」

 

 涙を拭いた夕立が羊羹を食べようとするが、そこに楊枝がないことに気づく。それに落ち込んでいた加賀が仕方ないかと頭を振り、気合を入れなおす。

 

 そして夕立に竹楊枝を差し出そうとした。

 

 だが、提督は彼女をまたもや混乱させる。

 

 「ほら、夕立。私が使っている楊枝で悪いがこれを使うといい」

 

 「なっ!?」

 

 その言葉に加賀が驚愕する。

 

 「わぁー! ありがとう提督さん! 感謝感激っぽい!」

 

 夕立が嬉しそうに提督から楊枝を受け取る。だが、

 

 「夕立、これを使いなさい。この後も執務があるから急ぎなさい。後、先に洗いものを片付けるからその楊枝を渡しなさい」

 

 「え、えぇ? わ、わかったっぽい」

 

 突然、加賀が先ほどの獲物を狩るような目で夕立を見る。一瞬おびえるものの、別にこの楊枝でなければいけないわけではないと思い、素直に渡した。

 

 瞬間、楊枝を受け取った加賀が消えた。先ほど使用した皿等と共に。

 

 「あ、あれ? 加賀さんが消えたっぽい?」

 

 一瞬の出来事に混乱する。だが、と。別にいなくなったところで目の前の羊羹がなくなるわけではないとわかると、すぐに先ほどの出来事を忘れた夕立は満面の笑みを浮かべながら羊羹を食べ始めた。一口ごとに、両目をつぶり頬を押さえるその姿を見て笑みを浮かべながら、正海はいなくなった加賀の事を思う。

 

 

 

 「夏だなぁ」

 

 深く考えないようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その鬼気迫る様子に、明石はいつぞやの光り輝く眼鏡を思い出し体を震わせる。

 

 「あ、あの、どういったご用件でしょっ、ひぃっ!」

 

 言葉を発した瞬間に、板と板とを打ち合わせたような音が響く。その音に明石は反射的に両目を瞑った。

 

 「何も聞かないでいいの。とりあえず、今から言うことを迅速に実行していただけるかしら?」

 

 明石の目の前から聞こえるその声は、凛とした響き渡る声。だが、その声に若干ながら不機嫌だとわかる低音が混じっている。

 

 「あ、あの加賀さん? ひぃっ!」

 

 「はいか、はいか。二択よ」

 

 「は、はいぃぃぃっ!」

 

 それはもう『はい』しか言えないですよねと涙目になりながらも、明石は『はい』と言った。

 

 それに満足したのか、その豊満な胸元から薄紙に包まれた物を取り出す。それは見た感じ細い棒状のような物で、緑色だというのが見て取れる。

 

 これはいったい何なのか、目の前の机に置かれた物を見て不思議に思いながら加賀を見ると、

 

 「いい、これを今すぐ妖精さんの手を借りて特殊コーティングを施しなさい。その後は赤い敷物を入れたクリアケースに入れて他の誰にも気づかれないよう私に持ってきなさい。わかったかしら?」

 

 「へっ?」

 

 至って真面目な表情で薄紙を開いて取り出したのは一本の竹楊枝。何故かはわからないが、それを持つ加賀の手は小刻みに震えている。

 

 「いや、あのそれって」

 

 「わかったかしら!?」

 

 「イエッサー! すぐに取り掛からせていただきます!」

 

 ただの竹楊枝を何故、と考えたまではいいが明石は考えるのをやめた。触らぬ一航戦になんとやらだ。

 後ろの棚から新しい白手袋を取り出すと、明石は竹楊枝を受け取り裏の工房へと入っていた。

 

 その後姿を見て、加賀は憑き物がとれたように大きく息を吐く。

 

 「やりました。さすがに気分が高揚します」

 

 提督が使用した竹楊枝、それを手に入れた加賀の姿は他の者たちが見ればこういったに違いない。

 

 キラキラ輝いていたと。

 




更新があいてしまい申し訳ありません。

ちゃんと書いています。そしてイベント海域いってます。

燃料と弾薬がなぜか異様に減ってなきそうです。さぁ、遠征にいこう遠征に(オリョクルも

今回は休話的な。こういうの書くの楽しいです。

水着回も今回実装されている艦娘書きたいので、資料としてちょめちょめした物もゲットしとかないと(

次回もよろしくお願いします。

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