~男女あべこべな艦これに提督が着任しました~   作:イソン

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遅れてしまい申し訳ありません。
またぼちぼちと書いていきます。
久しぶりなので文章をいろいろ試しつつ頑張っていきます


第十四話 あべこべ艦これ〜提督と龍田①〜

 どうしてこうなっているのだろうと、龍田はなるべく息が荒くならないよう細心の注意を払いながら考える。

その顔は熟れたリンゴのように真っ赤で、紫がかった黒のセミロングヘアーは彼が歩くたびにふわりと揺れる。なるべく負担をかけないようにと重心を変えようとするたびに彼の口から吐息が漏れ、慌てて身体を預けた。

 だけれども、預けた瞬間に彼の鼓動を感じ取り、息が詰まりそうになる。

 

 初めて感じる、異性の音。

 

 あったかいと、龍田は迷惑だとは思いつつも彼の背中から伝わる熱や感触に喜びを隠せない。

 

 「足は痛まないか?」

 

 「は、はい。あの、やっぱり迷惑では……」

 

 だが、問題ないと一言で片づけられてしまい龍田は何も言えなくなってしまう。

 

 とても優しいのだと、熱で焼き切れてしまいそうな思考回路で考える。本や他の人たちから聞いた話のような存在ではなく、艦娘である自分でも優しく接してくれるんだと。

 

 だからこそ、龍田は震えている両腕で彼をそっと抱きしめる。はしたないと思われないだろうか、迷惑ではないだろうか。いくつもの考えが頭をよぎる。

 

 

 だが。

 

 見える横顔はとても笑顔で。

 

 その笑顔に龍田も、真っ赤になりながらも笑顔を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 軽巡洋艦、二番艦龍田。生まれて初めてのおんぶである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔、まだ見習い兵であった頃。夏真っ盛りのあの日、正海は事務仕事を行う人たちのことを羨ましがっていた時がある。こちらはお日様輝く炎天下の元、お国のためにと言葉通り血反吐を吐く思いで訓練をしている中、太陽が当たらぬ部屋の中で悠々自適に体を動かさない事務仕事をこなしているのを。

 それは正海だけでなく、他の者達も同様だった。

だからこそ、一度はやってみたいと思っていた。

 

 実際にやってみるまでは。

 

 「暑いなー」

 

 「提督? 腕が止まってますよー?」

 

 「暑いなー」

 

 「提督ー?」

 

 「熱い……」

 

 「提督ー。こっちも暑くなって来るのでやめてくれません?」

 

 「あぁ……」

 

 暑い。とてつもなく暑い。暑いではなく熱い。ただひたすらに体を動かさず、同じ場所にいることのなんたる苦痛か。これではまだ外で体を動かし、たまに海に飛び込んでいたほうがよかったではないかと正海は頭から湯気が出ていそうな錯覚を覚えながら淡々と書類に印を押していた。

 

 「まさか提督がここまで暑さに弱いなんて知りませんでした~」

 

 「いや、暑さは慣れてるつもりだったんだがな……。書類仕事をしてる時の暑さとはこう精神的に来るものかと。あれだ、龍田。司令室にもクーラーなど……」

 

 「執務室にクーラーですって? なにをふざけているのかしら?」

 

 どうやら微かな望みは潰えたようだ。ちらりと壁のほうに設置されている温度計を見てみると、水銀が見たくもないような数字に達しているのを確認しまた一つ、頬から汗が一筋流れた。

しかしと。正海は龍田と初めて会ったときの様子を思い浮かべる。

 そして笑みをこぼした。

 

 「……龍田は仕事の時は容赦がないな」

 

 「何か気になる事でも~?」

 

 言い方が気になったのだろうか。腕を止めずに書類を整理しながらも、龍田は正海の方を見た。その際に汗が頬から首筋、そして胸元の部分に入っていくのを見てしまい、身体温度が上昇してしまうのはご愛嬌。

 

 「いや、なに。初めて会ったときはとても可愛い声を出していたのにと思ってな」

 

 「なっ……!」

 

 何を、という前に正海は立ち上がった。

 

 「さて、時間もそろそろいい頃合だ。昼にでもしようか。早くいかねば食べ時を逃してしまうからな」

 

 そう言ってその場から逃げ去るように歩いていき、ドアノブに手を伸ばす。龍田が怒らせると怖いというのは、駆逐艦や潜水艦の子達からよく聞いている。自身の発言に顔を赤くした龍田を見て、そのような表情もできるのだと思いつつ雷が落ちないうちにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 「……っ!ふっ……!」

 

 正海が出て行ったのを見て、龍田は堪えていた息を吐き出した。しかし、一気に上昇した心臓の高鳴りはすぐには止められない。

 

 「や、やられた……」

 

 一番気にしていたこと。初めて彼と会ったとき、龍田は目の前で醜態をさらしてしまった。それ以降、なるべく顔を合わせないように過ごして来たものの、秘書艦選挙という全艦娘が行うくじに当たってしまい、彼と業務をすることになってしまった。しかし、忘れていたのだろうか。特にこちらに対して何かを言うでもなく、淡々と業務をこなす姿を見るうちに龍田は少し安心していた。

 

 胸が苦しいと、龍田は提督と会ったときから思っていた。

 

 ずっと、一緒に書類を整理しているときも。彼の顔を気づかれないように覗いて。そのたびに胸が苦しくなって。

 

 いけないと思いつつも、龍田はポケットから一枚の布を取り出した。それは派手な装飾がほどこされておらず、特別上等な布地で作られているわけでもない。無地のハンカチ。

だけれども、そのハンカチを手に持つと、先ほどまで激しかった心臓の高鳴りが落ち着いていく。

 

 自分に今起きているこの現象はなんなのか。一度体を診て貰った方がいいのではないかと何度か思ったが、嫌な苦しさではなくこれがなくなってしまうとなんだかいけないような気がして。

 

 息を吐く。心が落ち着いていく。彼がくれたハンカチ。ただそれだけで、不思議と龍田は元に戻れた。

 

 「でも……」

 

 ただ、龍田が思うのはたった一つ。

 

 「天龍ちゃんには、こんな姿見せられないな~……」

 

 彼のハンカチを両手で大事に包み込み、胸の辺り、自分の不思議な感情で一杯になった心に押し当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしたものかと正海は首を傾げる。

 

 食堂。昼時ともなれば、ここはとてつもなく賑わう場所だ。現に、何十人と入れる広さをこの場所には任務に出ているものを除いてほとんどの艦娘達が勢ぞろいしていた。本来であれば、勢ぞろいする事自体が稀なのだが、提督と一緒にご飯を食べたいが為に来ているという彼女たちの思いを正海は知らない。

 

 辺りを見回すと、艦娘達の間でも座る場所が決まっているのか大雑把に各艦種や姉妹等で座っているものが多い。食卓に置かれている料理も艦種によって様々なのも面白いなと思いながら、正海は再度どうしたものかと首を傾げた。

 

 彼の前に置かれているのは、『本日のお品物』と書かれた場所に存在する料理の数々。

食堂の入り口近くに設置された長机に置かれた料理は、名称のほかに使用している素材や、女性であれば嬉しいであろうカロリーまで名札にこと細かく記載されている。

 ふと触ってみると、本物の料理ではなく、柔らかい素材で作られた目の前の料理は食べ物でないことがわかる。

 

 正海は最初しらなかったが、この世界では彼がいた時代よりいくつもの事が進歩している。目の前にある物もそのうちの一つ。食品サンプルだ。

 

 本来、正海の時代ではこのようなものはなく食堂には料理の名札が置かれているだけか、本物の料理を見本として置いているかだった。

 

 「どうかされましたか、提督?」

 

 食堂の入り口で固まっている正海を不思議に思ったのだろうか。近くの机を水でぬらした布で拭いていた間宮が声をかけた。

 

 この食堂の看板でもある間宮。白い割烹着を身に着け、赤いリボンとヘアピンが特徴な彼女は朗らかな雰囲気の女性で、艦娘達だけでなく外でも人気がある存在だ。

かくいう正海も、彼女が作る料理が好きである。

 

 「いやなに、下らない事なんだが昼は何にしようか悩んでいてな」

 

 その言葉に間宮は笑顔を浮かべる。

 

 「まぁ、そうなんですか! 今日の気分はなんですか? 是非、この間宮にお申し付けください。なんでも作って見せますので!」

 

 「そうだなぁ。久しぶりに洋物というのもいいかもしれないな」

 

 その言葉に間宮はそうですねと、人差し指を顎に当てる。

 

 「今日の冷蔵庫にあるものでしたら、ハンバーグなどいかがでしょうか?」

 

 「そうだな。それにしよ……」

 

 「提督。お食事される所大変申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?」

 

 とその時、食堂に入ってきた大淀が正海に声を掛けた。よほど慌てていたのだろうか、目の前に立ち少し乱れた髪をかきあげる大淀は大きく何度も息を吐いている。

その右手にはバインダーに挟まっている二枚の紙があった。

 大淀はその紙を抜き出すと、正海に手渡す。

 

 「大淀、これは?」

 

 軽く目を通す。大まかに書かれているものを見て、この書類は本部からの通知状かとあたりをつけた。

 

 「はい。本部より届けられた物なのですが、来月に行われる鎮守府の一般解放行事に呉鎮守府周辺の町より交通の管理や敷地内での屋台等を委託する旨を記載した書類です」

 

 「ふむ。ならば、これは私ではなく町の代表に渡すものでは?」

 

 「どうやら、一度代表の下には届いているらしく……」

 

 その言葉に正海は疑問を浮かべる。

 

 「つまり?」

 

 「本部からの話によると、今回の行事で動員しなければならない必要人数が当初の予定より大幅に増えているらしく、先方より『軍の催促ではあれど、そちらが希望する人数は現状集めるのに困難』との返答を貰ったらしく……」

 

 「なるほど、それで私に話が回ってきたと」

 

 「そうなります」

 

 大淀の申し訳ありませんという言葉に、気にすることはないと伝え正海はため息をついた。

 一枚目の通知状、そして二枚目の書類を見る。これは正海個人に宛てられた書類。こちらも通知状なのだが、見覚えのある印と共にこれまた見覚えのある文字。

そこにはとても簡潔に、しかしわかりやすく一つの命令が書かれている。

 

 

 『呉鎮守府周辺の町を骨抜きにしてくれ』

 

 

 なんとも彼女らしい文だと正海は再度ため息をついて、書類を大淀に返した。

 

 「それで、これはいつまでに?」

 

 「今日中との事です」

 

 それはまた、と書類に追われているときに限って無理難題を押し付けるものだと正海は頭を抱えそうになる。

 

 「大淀、すまないが急ぎ車の手配を頼む。秘書艦である龍田にも同行するように伝えてくれ。そして間宮さん、申し訳ないが今日はこちらで食べれそうになくなったよ」

 

 その言葉に、大淀は頷きその場を後にする。そして間宮は仕方ないですねと厨房へ戻っていった。戻る前に夜はおもてなしさせてくださいと一言忘れないあたり、彼女の優しさが伺える。

 

 時計を見ると、短針と長身が12の数字を少し越えたあたりに位置している。代表がいる場所までは車でおよそ20分程度といったところか。

 

 思ったよりも着いてから時間を持て余すかも知れない。となれば、町についてからならば食事をすることもできなくはないか。

 

 「さて、せっかくだし龍田と一緒に食事でもして気合を入れていくか」

 

 そう呟き、正海は食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦娘達の聴力を侮り、その場で衝撃的な発言をする失態を犯して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒロインは龍田さんでいいと思う。

砂糖で作られたもの書いてると、なんだか虚しくなるのは気のせいだろうか(´・ω・`)

本当にお待たせしてすいませんでした。
仕事も忙しくなったのもあるのと、他のことばっかしてたのが原因です。申し訳ない。

またぼちぼちと書いていきますのでこれからも宜しくお願いします

執筆を怠らないようにツイッターでぼちぼち呟いてます。
@reiosu011

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