~男女あべこべな艦これに提督が着任しました~   作:イソン

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注意、提督と龍田がいちゃいちゃしてるだけ。

誤字脱字報告ありがとうございます。

作者は思ったままに書いてるだけなんで、色々教えてくれるとありがたいです。




第十六話 あべこべ艦これ~提督と龍田③~

 市役所内にある一室、洋風の絨毯が敷き詰められた部屋には、非常に装飾的で複数の光源とその光を複雑で魅力的なパターンで散乱させるためのカットされたガラス――シャンデリアが天井に散りばめられ、煌びやかな世界を作り出している。中央には木製の机、上には純白の布が敷かれている。肌触りからするに絹だろうか。

椅子は四つ。会議で使うものにしては珍しい肘掛椅子だ。

 お茶請けとして出されたものを見れば、これまた洋風のかすていらに加え陶磁器のティーカップに注がれたものは紅茶と何から何まで西洋尽くしだ。ここに金剛型がいれば歓喜しているに違いない。

 

 別世界に来たようだと、正海は内心苦笑いする。

 

 「申し上げた通り、夏は何かと催しが多いのが現状です。呉市毎年恒例の海上花火、これは海軍のお力を借りて行うものなので惜しむことはありませんが、その他にも花祭りに加え陸軍が行った演習地の整備に加え、補助も行わなければなりません」

 

 「なるほど、通常であれば問題ないはずの人員が足りないというのは、陸軍が関係していらっしゃるのですね」

 

 「……ここでお話するものではないかと思ってはいるのですが。陸軍の軍都でもある広島市より少々の圧力がありまして」

 

 「……なるほど。しかし、そのような事を私に言っても宜しいので?」

 

 「町の住民も感じていることですので。どうにかできればと常日頃思っているのですが……」

 

 困りましたと、大きく肩を落としティーカップを口へと運ぶ。その様子に正海はなかなかの化け狸だと、相槌を打ちながら紅茶を飲む。そして、音を立てぬよう器を置くと先ほど会議が始まるまで生娘の様に初々しかった女性の姿を見た。

鈴木ミノ。いくつもの職歴を通し、青森や長野で活躍していると資料にはある。特に財源を確保する術に長けており、海軍にとっては油断ならぬ人物でありながらも信用できる人物とも書いてあった。

 確かに、市役所の玄関前では年齢にしては少々生娘の様な感覚であったが、いざ職務となると相手が男であろうとうろたえることなく対応するその姿は油断ならない。

 

 考える。

 

 彼女は遠まわしに『海軍に人を手配してもいいけど、代わりに陸軍なんとかしてください』とこちらに対して言っているようなものだ。

正海とて、上層部から命令が来ている以上なんとかしなければならないのだが、いかんせん予想外の強敵にどうしたものかと顔色はそのままで思考をめぐらせる。

 

 と、その時だった。

どこか影のある笑みを浮かべたまま正海の後ろで控えていた龍田が口を開く。

 

 「しかし、残念ですね~提督? せっかく町の皆さんにも喜んで貰おうと色々考えてらっしゃったのに」

 

 「ん、あぁ、そうだ……な?」

 

 龍田の言葉にそんな事言ったか? と疑問に思いつつも、笑顔で答える。

 

 「あら、そうなのですか?それは勿体無い事をしました」

 

 さも残念と肩を落としてため息をつく。その姿を見て、龍田は目を細めた。ぞくりと、正海の背中に何とも言い難い、まるで蛇が背中を這いずっているかのような感覚を味わう。

 

 そして。

 

 

 

 「せっかく提督が生足が映える際どい和服で接待しようと意気込んでたのに……」

 

 

 

 ぽんっと。爆弾を投下した。

 

 「な、なななななな生足和服ぅっ!?」

 

 ちょっと待てと。正海は龍田を見る。だが、私は悪くないとばかりにそっぽをむかれた。

 

 「それで皆さんに提督自ら作る料理を振舞おうと考えらっしゃったのに……。皆さんにお見せすることができず残念ですわ~」

 

 ため息をつく龍田。その顔を見れば、満面の笑みを浮かべている。これは爆弾なんて生ぬるいものなんかじゃない。延々と燃え続ける焼夷弾だ。それも正海に被害が集中するタイプの。

 

 「てててて、手料理ですかっっ!? だ、だ男性の!」

 

 出来る女性はどこへやら。先ほどまで手強いと思っていたはずのミノは、完全に龍田が出す蜘蛛の巣に絡め取られていた。

 

 「提督は料理が上手ですもの。きっと市長様も気に入ると思ったんですけど……」

 

 「いや、まぁ料理は学生時代からやっていたから得意ではあるが……」

 

 「わ、私も料理は好きなんです……!」

 

 「そ、それはよかった」

 

 鼻息を荒くし、目を爛々と輝かせるミノ。その姿に背中を背もたれに預け、気持ちを少しながら後ずさった。飢えている女性ほど怖いものはない。

 

 「しかし、残念ですわね~」

 

 くすくすと。口を手で押さえながら龍田が笑う。

 

 「人が足りないとなると、提督も裏方に回らなければ仕事が追いつかなくなっちゃいますわ。仕方ないことだけれど、このお話は私の独り言と思ってなかったことに……」

 

 なんて無茶な。正海は龍田が仕掛けた一発勝負に無謀だと焦る。

確かに、価値観が違って男性に対する耐性がなかろうと相手は仮にも一つの町を代表してこの場にいる存在。それが文面で起こしたものでもなければ、何か証拠として残るものがないこの状況で龍田の提案に対し許可を出すとは到底思えない。

 

 龍田を見れば、満面の笑みを浮かべ勝ち誇ったかのように目を細めている。どこにそんな自信が来るのだろうか。

 

 「龍田、少し後ろに下がってだな……」

 

 「……わかりました」

 

 「ほら、市長もこう言ってらっしゃるしな……。ん?」

 

 聞き間違いかと正海は首を傾げる。そして市長の方を向くと――。

 

 

 「私、鈴木ミノの名にかけてなんとか致しましょう!」

 

 娘がいるとは思えない、少女のように生き生きとした笑顔で鈴木ミノは高鳴る思いを止めることなくそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい?」

 

 市長は案外ちょろかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綺麗なものだと、正海は目に映る光景をそう思った。

太陽が東から西へ、その色を陽気な橙色へと変えつつある。天井まであるのではないかと思うほど大きな窓硝子は、降り注ぐ光を屈折させ店内へと誘う。

鏡にもなるほど純度の高い窓硝子の向こうには、街道を蟻の行進の様に行き来する車と光をその身に浴びて、見るものを落ち着かせる風景を作り出す川の姿があった。

 

 二河川。呉市の中心を流れる本流。周りの時が流れ変わっていく中、色褪せずその姿を残す様をみて、やはり自然とは素晴らしい物だと実感する。

だが、正海は綺麗だと思ったのは窓に映るもう一つの光景。

 

 光によって透明になれば、光によって鏡にもなる窓硝子。そこに写るのは桔梗の様に淡い紫色の髪をかきあげ、綺麗に切り分けたケーキの欠片を口へと運んで行く女性の姿があった。

口元へと運び、食べる。口元にクリームがついたのだろうか、艶やかな唇から出た舌の先で絡めとる。その光景に正海はなんとも言えぬ気持ちになる。

 

 「簡単だったわね~」

 

 甘味を堪能しつつ龍田は微笑んだ。その顔を見て、何も知らぬ者であれば簡単に騙されているだろうと苦笑いする。

 

 「まぁ、いい教訓になったよ。今回は助かったな」

 

 「あら~、その割には食事だけで終わらせようなんて賃金としては、も、物足りないと思うのだけれど~」

 

 そう言って、龍田は食事をする手を休め正海を見る。その言葉に正海はまだ足りないのかと呟いた。そして、どうしたものかと考える。

 

 もし、その顔をよく見れば気付いていたかもしれない。彼女の顔が微かに赤くなっていることに。

 

 (さ、催促しちゃったけど大丈夫かしら……)

 

 朝から正常ではなくなった自身の心に戸惑いつつ、龍田は高鳴る心を抑えながら目の前で悩む提督の姿を見る。

 

 新造らしい木の香り、そして窓から入る海の香り。店内は女性客で賑わっている。市長に聞いた今流行のお店。そこで龍田と一緒に食事をする提督の姿はまるで、自身とデートなるものをしているのではないかと思ってしまう。

 

 (でも、デートって何するのかしら……)

 

 本で見たことはある。男性と女性が窓際の席で仲良く食事をしている部分を切り取った天龍が意気揚々と見せこれがデートなんだと。

それを見て、今回の話があって。これはデートなるものをしなければなるまいと龍田は他の艦娘達より一歩先へ行くために今回の場を用意したのだ。

 

 だけれど。

 

 「何か違う気がするのよね~」

 

 そう、これだけじゃ何か足りないと。これ以外に知っているわけではない。だけれども違うのだ。これはデートではないと。

 

 「どうかしたか?」

 

 「あっ、い、いえ……」

 

 その何かがわからなくて。龍田は自分の頭の悪さに項垂れてしまった。その姿にどうしたのかと正海は考える。

 

 「何かわからないことでも?」

 

 「……笑わないでくれるかしら?」

 

 「言ってみるといいさ。心の中に仕舞い込んでしまうより、人に伝えて、分けたほうが楽になる」

 

 だから遠慮することはないと、正海は笑った。

その笑顔を見て、龍田もつられて笑う。不思議な人だと、龍田はもやもやとしたものを吐き出した。

 

 「提督は……で、デートって知ってますか?」

 

 精一杯の勇気を振り絞って。

 

 「……デート?」

 

 「そ、そうです」

 

 「それはまた、何故?」

 

 「い、いいから教えてくれるかしら!?」

 

 顔が熱い。やっぱり言うんじゃなかったと龍田は震える手を握る。

 

 大声で言ってしまったせいだろうか。先ほどからこちらをちらほらと見ていた他の女性客、いや、店員までもがデートという単語に興味を引かれ二人の流れを覗いている。

 

 「ふむ……」

 

 広がる沈黙。どうしたものかと額に皺を寄せ、考えている提督の顔を見て龍田は後悔する。

何故かはわからないけれども、手が震える。怖いのだろうか、提督に嫌われてしまったのではないかと。

 

 龍田の心が感染するかのように、手の震えにあわせて頭部の艤装が心許なく揺れ動く。

回りもそう。何分いや、何時間。無限のように感じられる空間が龍田の周りから広がって行く。誰一人として声を発することもなく、時が止まったように身体さえ動かず。

 その中で、正海は何か閃いた様に目を大きく開け笑みを零した。

 

 

 そして。全ての目が自身を見る中で。

 

 

 「ほら、龍田。あーん」

 

 正海は食べていたケーキを小さく切ると、フォークに乗せて龍田へ差し出した。

 

 

 

 

 「えっ?」

 

 誰が発した言葉だろうか。その光景に釘付けになる。お洒落なお店に男性と女性が食事という名の舞台に立つ。それだけでも他に喋れば眉唾物と言われてもしょうがないほど。

なのに、あろうことか小説や劇の中でしか見たことがない本物の場面。それが今、目の前で繰り広げられている。

 

 「あっ、あの」

 

 困惑する。提督にデートとは何かと聞いた筈なのに、帰ってきたのは食べていたケーキを差し出すその姿だけ。

 

 「ほら」

 

 催促するように提督の腕が揺れる。それはまるで目の前で最上級の獲物がぶら下がっているかのようで。気を抜いてしまえば今すぐにでも捕まえたいと心が揺れる。

 

 だが。

 

 「ほら、あーんだ」

 

 「て、提督あのね?その行為はよくわからないのだけれど、ひ、人前ではそういうのは……」

 

 「……あ、あのだな。俺も実は結構恥かしいんだ。頼むから……!」

 

 目の前で獲物をぶら下げた提督の、男の顔は気まずいように顔をほんの少しだが赤らめて龍田を見ていた。

 

 

 その光景に、いつの間にか龍田は口を開いていた。目の前で揺れる獲物を一瞬だが、戸惑いがちに口に入れるとゆっくりと口を閉じる。。スポンジで作られたケーキはとてもやわらかい筈なのに、口を閉じてみるとケーキとは違う、不思議な感覚が身体を満たす。

 瞬間、龍田は体が疼くのを感じた。何ともいえぬ感覚に声が漏れそうになる。けれど、提督の前では出したくないと我慢した。

 

 そして、ゆっくりと。最後まで、フォークについている粒子まで零さぬようにフォークから口を離す。

離れた瞬間に、窓から入る光によって妖しく輝く透明な糸が引いた。

 

 それはほんの一瞬。けれども、間近で龍田がケーキを食べる瞬間を見ていた正海はそれを目撃し息を止める。

 

 

 「んっ……」

 

 大事に捕らえた獲物を逃がさぬよう、両手の先で口を覆いながら飲み込む。そして、龍田は提督に向かって笑みを見せた。

 

 

 「これがデートなんですね」

 

 

 

 

 

 

 

 デートというものは、とても甘美なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、横特格で提督を粉砕する作業に入らなきゃ。

お待たせしました。

評価感想・誤字脱字・指摘等本当にありがとうございます。

作者は気の向くままに書いてるんで勉強になります。

とりあえず、後一話で龍田とのお話は終わりです。お次はお料理回で。

ツイッターで案頂いて出す人は少し決まってますが、ご要望あればどうぞ。

以下。

・催し物
広島市なら花祭り。呉なら花火大会。えっ、戦時中? キコエナイデス

・レストラン
一応、呉市のレストランを探してよさそうなものから出してます。こういうの探すの大好きです。

・あーんシチュエーション
あこがれるなぁ。あーんだけとは謙虚だなぁ。メイン提督。

・龍田さん
前にも言いましたけど、個人的にヒロイン。大好きです。自分の中では男性についてあんまり色々知らないイメージにしてます。


次回も宜しくお願いします


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