~男女あべこべな艦これに提督が着任しました~   作:イソン

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お前があべこべ物を書かないのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が代わりに書くと思う?

「……」

「万丈だ」



第十九話 少女は恋をする

 彼女は空を見上げていた。空が泣いているかのように降り注ぐ雨が、彼女の体を伝いそして海へと還る。

 

 ――あの日も、こんな風だったかしら。

 

 そう言って、彼女は壊れていく身体を必死に支えながら思う。

生まれて、妹ができて、そしてお国の為に戦う。今思えば、妹のために何もしてやれなかった私は故郷から遠く離れた場所で消えていくのは仕方のないことだと、少し自嘲気味に思い、ため息をついた。

 

 金属が軋む音と共に、徐々に彼女の体は白波が騒めく海へと沈み始める。

 

 怖くはない。

 

 25年という、数ある同胞の中でも長い間海の上で戦い抜いた彼女の体はとても脆く、しかし、彼女と共に過ごしてきた者達のお陰で10時間という長い間を耐え抜いた彼女には軽巡という級の誇りがあった。

だからこそ、彼らの前で弱さを見せるわけにはいかない。

 

 身体が右に傾いて、海へと沈む。

 

 静寂の海。水を与えなければすぐに枯れてしまう花のように、徐々に光を失っていく世界。

 

 ――私は、これからどうなるんだろう。

 

 暗闇へ落ちていく中、彼女はふと思った。一緒だった人達が、死んでも魂は祖国へと帰ると言っていた。自身も生まれ育った場所へ帰れるのだろうか。そこには妹もいて、仲間もいて、そして。

 

 

 提督。

 

 

 そう呟いて、彼女は涙を浮かべた。鉄の体から涙など流れるはずないというのに、体から漏れた空気が涙のように暗闇から光ある場所、空へと向かっていく。

 

 ――ああそうだ。怖くなんかないわ。

 

 微睡んでいく中で、彼女ーー龍田は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの紅く輝く水平線の向こう側できっと提督が待ってくれているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、そうゆっくりと。冬が訪れ世界が静まり、そして春になり徐々に芽吹く新芽のように。

まどろみの世界の中で、龍田は意識がはっきりとしないままほっそりと目を開けた。右……左……右……左と規則的に揺れ動くシーソーのような感覚に、体の全てを預けたくなる、そんな錯覚に襲われる。けれども、そんな錯覚はいとも簡単に消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

体の前面で感じる、人の体温。提督の背中に自分が体を預けている事で。

 

 

 

 

 「……えっ?」

 

 素っ頓狂な声が出た。自分でも出したことがない類の声が。もしも、この場に他の艦娘()達がいれば頭の艤装が高速回転し穴があったら入りたくなっていたかもしれない。

 

 その声に気がついたのだろう。

 

 「あぁ、気が付いたか龍田」

 

 そう言って、提督がチラリとこちらを振り返った。

 

 「あ、あの……提督? 私は一体……と、というかこれは何故かしら!?」

 

 おんぶをされていた。それも、男性である提督に。顔が近い。少しの揺れ、そう、穏やかな波でも顔がくっついてしまいそうなほどに。

何故こうなってしまったのかと言う問いに、正海は苦笑いする。

 

 「あの後、龍田が階段から落ちた私を助けた後なんだがな? さらに一悶着があって、車のタイヤが破れていたんだよ」

 

 「タイヤの……あっ」

 

 思い出した。あの時、提督の体が不自然に揺れ動いた時、咄嗟に体に手を回したのだ。法律や周りの目など気にする間もない、提督を守らなければいけない思いが体を動かして。提督の話を聞いていくうちに、どうやらあの後にもひと悶着があったそうだ。

 

 ――そんな状況で、意識を失うなんて。

よくよく気付けば、右足に感じる鈍い痛みが徐々に龍田の頭に届き始めていた。骨までは折れていない、かと言って今すぐ提督の背中を降りて歩けるほど、軽い怪我ではない。

 

 「申し訳、ございません」

 

 その言葉に提督は首を傾げる。何故、そのような事を言うのだろうかと理解できない雰囲気で。

 

 「いや、元はと言えば私が大人気ないせいでもある。やはり、慣れない口喧嘩などするものではないな」

 

 「そんな……。あれは陸軍が」

 

 「まぁ、本質的にはあの女性の性格が引き起こしたものではあるかもしれないな」

 

 「なら……!」

 

 「けれども、提督という立場としてあの場は波風を立てず終わらせるべきだったのかもな。例え、相手がどんな理不尽を振りかざしたとしても」

 

 「なら、何故私を助けようと」

 

 龍田の疑問に、提督は正面を向くと気まずそうに小声で答えた。

 

 

 

 

 

 「デートだったんだろう?」

 

 「えっ?」

 

 

 デート。その言葉に自分の心が揺れる。

 

 

 「いや、ほら。言っていたじゃないか、デートだって。なら、パートナーを守るのは、だんせ……女性の役目かもしれんが、男性でも守りたいと思うのは普通だろう?」

 

 何を言っているのだろう、この人は。まさか本当にあの時言った言葉を信じていたと言うのだろうか。提督と一緒に食事をしていたひと時を邪魔され、なおかつ『部下』と強調されてよくわからない、もやもやとした黒い何かが彼女の頭を支配した。そこから口が言葉にした出まかせの、いたずらにもほどがある言葉。それをこの人は、真摯に受け止めている。

 

 「……提督は、お馬鹿なんですね~」

 

 あきれたように、ことんと提督の首元に頭を乗せた。はしたないかもしれない、けれども今の言葉で彼なら大丈夫だろうと、恥ずかしく思いつつ。

 

 

 夏の風、暖かい潮風が吹く。それは龍田の、彼女の髪を優しく撫でて提督の首元へ誘った。甘くて不思議な香り、そして首元に感じるこそばゆい感覚に提督は心穏やかにあらずと言った感じで、龍田の言葉に何も言い返せずそのまま歩き続ける。歩く度に背中から感じる彼女の柔らかく豊かな重みにドギマギしながら。

静寂が二人を包み、消えてゆく。道も半ば、空に散らばる星々が二人を照らす探照灯代わりとなって、道を照らし奥の方に見える鎮守府の明かりまで導いていた。

 

 「もう少しで着くぞ、龍田」

 

 「そうねぇ~」

 

 口数は少ない。いや、多くできないと言った方が正しいだろうか。

 

 片や初めてのデートに加え、初めてのおんぶを体験し。

 

 片や初めてのデートに加え、初めて女性をおんぶし。

 

 

 そう、なんてことはない。言ってしまえば、二人とも初心だった。だからこそ、初めての事ばかりで頭は回らなくなり、自然と相手の反応を待つしかない。只々、待つことしか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「提督は」

 

 口を開いたのは龍田の方だった。震える心で、火照る心で彼に問いかける。

 

 「提督は、何故そんなに優しいのかしら」

 

 一つ。

 

 「何故近くにいても嫌がらないのかしら」

 

 また一つ。

 

 「何故私達艦娘の為にそこまでしてくれるのかしら」

 

 それは純粋な言葉。この世界に再度生まれ、けれども彼女たちの知っていた人達はおらず、艦長という役職さえなければ提督さえも男性ではない。

そんな中現れた一人の男性、女性を嫌わず、昔の男性みたいに接する提督に投げつけるように、今まで問いかけることさえできなかった物を吐き出すように。

 

 「何故提督はこんなにも」

 

 こんなにも、こんなにも。心を掻き乱すのだろうか。

 

 ポトリと、提督の首元に何かが落ちた。それは川のようにゆっくりと流れて、消えてゆく。

 

 一瞬の静寂。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「君達の事が好きだから」

 

 

 

 

 「えっ」

 

 「どんな時でも最後まで共に戦って。そして暗い暗い海の底へ消えていって。けれども、それでも君達は戦ってくれてる」

 

 「……」

 

 「誇りなんだ。俺にとって、船に乗ることしかできなかった俺にとって」

 

 「提督は……」

 

 「だからこそ、君達の隣で一緒にいる事ができて。一緒に進む事ができるのが何より嬉しいんだ」

 

 なんとも臭い、映画や本でしか出てこないようなひどい言葉だろう? そう言って苦笑いする。その横顔に、龍田は自然と笑みを浮かべた。心は高鳴り、自身の悩みが霧が晴れるようになくなっていく。

 

 「確かに、とっても臭い言葉ね~」

 

 「ぬぐっ、人が気にしてる事を……。龍田は容赦がないなぁ」

 

 「あら~?これでも優しい方なんですよ」

 

 「となると、相方の天龍は大変だろうなぁ」

 

 「……」

 

 「ちょ、やめろ龍田!力を入れるな、胸……く、首が!」

 

 「天龍ちゃんは今は関係ないでしょ~」

 

 巻きつけるように、ゆっくりと両腕を提督の首に這わせる。はしたないはずなのに、彼ならば何をしても許されるような……いや、まるで龍田の記憶にある船だった時に見た男性のような。

夜道を進む二人。海沿いを歩き、言葉を交わしながら進むその姿はまるで恋人のよう、その光景を誰にも見られる事がなくて良かったと龍田は笑い合いながら思う。こんなに楽しい時間は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ、着いたぞ龍田」

 

 「……えぇ」

 

 けれども、楽しい時間は一瞬だ。海に咲く花、花火のように。

 

 おろして欲しいと龍田は提督に言った。その言葉に中まで担いで行こうと提案するが、龍田は笑顔で結構ですと一刀両断する。

溜息をしつつも、提督はその場でゆっくりとしゃがむ。龍田は頑固だからな、そう言う提督に対し軽く反論しながら足を動かす。足が地面に触れる瞬間、ピリッと痛みが走るが口から吐く事なく、足をつけた。

そして、体を提督の体から離す。感じていた温度、首に回していた両腕から感じていた彼の吐息、それが無くなることに名残惜しさを感じながら。

 

 「ありがと」

 

 無意識に、そう呟いた。誰に向けた言葉だろうか、提督? 神様? それとも。

 

 「天龍ちゃんには内緒にしてね? あの子すぐに拗ねちゃうから」

 

 はしたないだろうか、妹に姉の恥ずかしい所は見せたくないと言うのは。

 

 けれども。

 

 彼はこう言ったのだ。ゆっくりと、人差し指を口に当て笑いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうだな、次は自慢できるようにしとこうか」

 

 

 

 

 

 次は。

 

 その言葉に龍田はこう答える。

 

 

 「えぇ、次は……ね」

 

 鎮守府に入っていく提督を目で追いながら、龍田は空を見上げた。無数に散らばる星。今日はこんな星空なんだなと目に焼き付ける。そして深呼吸。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当は。

 

 

 

 

 

 

 

 本当は、もう一つだけ提督に伝えたい事があった。けれども、今回は胸の内にしまっておこう。まだ、言えるほどの勇気は持ち合わせていない。けれども、いつか必ずこの言葉を、伝えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたの事が、大好きです。

 

 




全く関係ないけれども、誰か万丈があべこべな なのはの世界に言ってマジヤベーイな感じの小説書いてください。なんでもしますから。



というわけで、ようやく龍田さん編終わりっ、閉廷!だいぶはしょった描写も多いですが、このあたりで一区切り。

次回から、しばらくは日常編をやっていきます。だいぶため込んだものや、アンケートしたときの物もありますのでお楽しみに。

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