~男女あべこべな艦これに提督が着任しました~   作:イソン

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今回もギリギリ。ちょっと後半急いで仕上げたので、後日修正します……。




第九話 あべこべ艦これ~お風呂(中)~

 真上まで昇った太陽が肌を焼く。

 

 体に当たる潮風さえも茹だるような暑さのせいか、本来の涼しさを感じない。日の光を反射し万華鏡のように煌びやかな海原は見るもの全てを魅了する。しかし今はその風景さえも鬱陶しい。

 

 予想していた以上の暑さだと長門は思った。

 

 ちらりと、後ろを振り返る。

 

 戦艦陸奥、軽巡川内に神通、軽空母の飛鷹と隼鷹、みなこの暑さに参ってしまったのか口数が少なくなっていた。唯一の救いは被弾等がないのが救いか。もし被弾し損傷していれば、その分時間がかかり長門といえど参っていただろう。

 

 「さぁ、皆。もうすぐ鎮守府だ。少しは元気をださないか」

 

 その言葉に皆の顔が明るくなる。現金な奴等だと長門は苦笑いした。

 

 「はぁ、早く帰ってお風呂に入りたいわ。ねぇ長門、艤装を収納したら入らない?」

 

 「私も入るぅ……」

 

 「ほら、姉さん。元気をだしてください」

 

 「いいねぇ、風呂に入りながら一杯やるのも乙なもんかな~」

 

 「隼鷹、お風呂の時ぐらいやめなさいよね。前に提督に怒られたじゃない」

 

 皆違えど、大分疲れているようだ。長門もこの暑さのせいか、服の中が蒸れてしょうがない。元々体のラインに合わせ動きやすいよう作られた服は汗を吸ってうっすらと肌の肉色が見える。少し空気を入れようと胸元部分を引っ張れば、首元から垂れてきた汗が谷間に入ってしまった。これでは他の部分もぐっしょりだろう。陸奥の言うとおり、鎮守府へ戻ったら先に風呂に入るのも悪くないかもしれないと速度を上げる。

 

とそこで、長門は提督が新しく変わったのを思い出した。遠くへ出撃していたせいか、未だ顔合わせはしていないが敵との遭遇も少なく味方の損害も少ないため思った以上に早く戻ってくることができたのだ。もしかすれば会えるかもしれない。

 

 (妖精さん、時間を教えてくれないか)

 

 頭部に取り付けられている艤装を軽く揺らす。すると、こちらも暑さで参っていたのかなめくじのようにぬったりと体を前後に動かしながら妖精が現れた。そしてこれまたのっそりと腕を上げて空中に指で数字を描く。

 

 (12時過ぎか……。この様子であれば13時ごろには到着するか)

 

 暑い中済まないなと礼を言い、艤装の中に戻らせる。それを見届けると長門は再度号令をかける。たとえ鎮守府周辺海域に入ったとしても油断は禁物だ。

 

 「さぁ、あと1時間もあれば到着するだろう。皆、最後まで気を抜くな!」

 

 「元気ねぇ、長門は……」

 

 「あーづーいー」

 

 「姉さん。元気出さないと……」

 

 「はぁ、今日も鳳翔さんの所かぁ……」

 

 「新しい提督も酒好きだといいねぇ。それで男ならなおかつなんだけどなぁ」

 

 しかし帰ってくるのは気の抜けた返事ばかり、その様子に帰ったら新しい提督に指導してもらわねばと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂はもともと日本では神道の風習で、川や滝で行われた禊が始まりと言われている。遥か昔から行われた物が次第に大衆へと行き渡り、ついには冷たい水から暖かいお湯へと変わり煩悩等を洗い流すだけでなく、体の汚れや疲れを取り除くものへと変わっていった。

 

 また、種類も様々で蒸し風呂に岩風呂、釜風呂や五右衛門風呂、あげくにはドラム缶風呂などどのような方法を使ってでも風呂に入ろうという日本人の気概はなかなかに鬼気迫る物があるだろう。

 

 提督である長門はからすの行水と言われるほど風呂に対して執着があるわけではないが、だからといって一日に一回は入らねば落ち着かないのも事実だ。その証拠に今こうして汗ばんだ服を脱ぎだして目の前にある広い浴場に入りたいと思ってしまうのはやはり日本人の血が流れているせいだろうか。

 

 

 「私の計算であれば、この時間帯は誰も入ってくる人はいないはずなので安心して提督でも入れるはずです。……提督?」

 

 「ん。あ、あぁ。すまないな、思っていた以上に立派な浴場で驚いてな」

 

 まさか戦争の最前線である場所にここまで立派な浴場があるとは思っていなかったのだろう、霧島は驚いている提督を見て自分がほめられたかのようにふふんと鼻を鳴らした。

 

 それもそのはず、呉鎮守府の浴場は数ある中でも前提督による無駄遣いもとい邪な気持ちで作られた物だ。世間一般的にヒノキ風呂と言われるそれは資材に変えれば大型建造何回分の価値があるだろうか、維持費もばかにならない。この浴場の為だけに専用の妖精を配属させ劣化させないようにしているぐらいだ。気合の入れようが窺える。

 

 「しかし、いいのか?君達が使っている場所を私が使うなど」

 

 「問題ないデース! 逆に提督も今度からこっちに入ると皆ハッピーになりマース!そして、提督が入った後のお風呂に入ってぐふ、ぐふふふふ……」

 

 「これで……あれが手に入ります」

 

 「あぁっ! 金剛姉さまっ、後半から欲望が漏れてます!」

 

 「というか、君たちは何故ここまでついて来てるんだ」

 

 「まったくです、ムッツリ紅茶妖怪もほどほどにしてほしいですね提督」

 

 「いや、だからな……」

 

 「大丈夫ですよ提督。この夕張、提督が入浴中の間は誰一人として入らないよう見張っていますので!」

 

 だから安心してくださいと、金剛を一瞥し拳を握って気合を入れながら熱弁するそれは普通に考えればとても頼もしいものだ。しかし、夕張は気付いていない。自身の鼻から黄緑色の果物を切ったときに溢れる果汁のように赤い液体が漏れていることに。

 

 (これはもしかしなくてもだ。誰か他に頼もしい奴はおらんのか……)

 

 このままでは着任してから数日で自身の貞操が危うい、そう思った長門はこの場で唯一静かに浴場の入り口付近で待機していた榛名に目をつけた。戦艦榛名、見た目からして淑女のように落ち着きを持った彼女であれば姉の金剛達と夕張を抑えてくれるかもしれない。

 

 「榛名、君に頼みたいことがあるのだがいいだろうか?」

 

 びくっと、まさか声をかけられるとは思っていなかったのだろう。金剛と比叡のやり取りをほほえましく見ていた榛名は自身の名を提督に呼ばれてもらえたことに高鳴る心を抑えつつ、提督に向かって微笑んだ。

 

 「は、はい。榛名に御用でしょうか?」

 

 「なに。金剛達がこの有様でな?とりあえずここから違う場所に連れて行ってもらいたいのだが……頼めるか?」

 

 その言葉に榛名は浮き足立つ。榛名は金剛型の中では三番目に作られた艦娘だ。一番下の霧島も一日しか違わず、性格上榛名は何をするにしても姉妹達を優先してきた。今回の件についても一番上である金剛が提督に対しアプローチをかけている中、榛名が姉を置いて提督に積極的になるわけにはいかないと逸る気持ちを抑えていた。しかし、榛名は感激する。他の姉達がいるにもかかわらず、自分を選んでくれたことに。きっと今まで我慢してきたのはこのためだったのだろう。そんな彼女が長門からの頼みごとを断るはずもなかった。

 

 「は、はい! 喜んで! 榛名、感激です!」

 

 提督の期待に答えてみせる、そう意気込んだ榛名。その姿はまるでおあずけを食らっていたかのよう。長門は榛名のやる気に少し気圧されながらもこの様子なら大丈夫だろうとお礼を言った。その言葉に榛名が体を震わせたのを見ていなかったのは不幸中の幸いか。

 

 「勝手は! 榛名が許しません!」

 

 「ふふふ……、へっ!? は、榛名その手に持ってる物は何ですカ!? ひ、ひえええええええ!!」

 

 「あぁっ! 金剛姉さまが亀甲縛りされてる!? ってちょっとまっ、私なにもっ、んぎゃあああああ!!」

 

 「ひぇ……」

 

 しかし、なにやら物騒な事が起きている中、長門は考える。

 

 前の提督がここまで艦娘達の為に立派なものを作るとは少し見直すべきところがあるのかもしれないと。駆逐艦に手を出しかけたという話ではあったが、艦娘達の事を優先的に考える根は優しい提督だったのかもしれない。

 

 (幼女趣味だけどな)

 

 案外、実はこの浴場を作ったのも駆逐艦達の入浴姿を見るためだけに作ったのかもしれない。もしかするとどこかにカメラでも仕込んでいるのではなかろうか。ふと榛名が金剛達をどこからか取り出した縄で縛っているのを横目に見ながら、辺りを見回す。しかし、籠や体重計、洗面台等があるだけでこれといって怪しいものは見当たらなかった。ここではないとすれば、中だろうか。何があるかわからないが先ほどから誰かに見られているような、そんな視線を感じる。

 

 風呂場の扉を開けようと長門は歩き出した。それにあわせ感じる視線はつかず離れず、なんとも言えない気分を味わう。そして――

 

 「て、提督! お風呂に入るのであれば服を脱がなくてはだめですよ! いやだ私ったらつい、提督の動きを目で追っちゃってましたわオホホホホホホ!!」

 

 先ほどまで榛名に縛られていたはずの霧島がどう抜け出したのか、息荒々しく長門の手を掴んでいた。そして自分がどこを掴んでいたのか気付いたのだろう、頬を赤く染めながら手を離す。握った手をしきりにさすりながら。

 

 「す、すまないな。とりあえずだ、風呂に入りたいからそろそろだな……」

 

 視線を感じなくなっていた。ということは先ほど感じたものは霧島に見られていたせいだろうか。なんにせよ、このまま彼女達を放置していれば流せるものも流せない。そう思った長門は榛名に目配せする。長門の視線に気付いたのだろう、片手で縛っている金剛達を引きずりながらもこちらに笑顔を向けた榛名は抜け出した霧島の首根っこを掴み取ると、おまかせくださいと言って浴場を出る。その後姿になんて男らしいのだろうと長門は思いつつ、そこで足りないものを思い出した。

 

 着替えがない。

 

 これは致命的だ。たとえ汗を流せたとしてもその後に着るものが同じものでは入った意味がない。しかし、この後に執務が待っている身としては部屋に戻って取りに行く時間も惜しい。考える、どうすれば効率よく風呂に入れるのかを。そして見つける。今しがた浴場を出たばかりの彼女の存在を。彼女であれば他と違い、間違いは起こさないはず。

 

 急いで浴場を出る。そして右左と廊下を見れば、再度霧島を紐で縛っている榛名の姿があった。

 

 「すまない榛名! 何度も申し訳ないが、もうひとつ頼みごとがあるのだが」

 

 「ふぇっ!? は、はい! 榛名にお任せください!」

 

 提督が見ているとは思わなかったのだろう、無言の表情で縛っていた榛名は顔を向けた瞬間、瞬時に笑顔へと切り替える。

 

 

 

 

 

 

 「着替えを持ってきてなくてだな。すまないが、この鍵を渡すからシャツだけでも持ってきてもらえないだろうか?」

 

 

 その言葉に、榛名は提督から受け取ろうとした鍵を落とした。

 

 

 

 




というわけでお風呂中編。まとめて一つの話にすればいいかと思いつつ、細かく書こうとして話が進まず。なかなか難産。

だけど、書いてて楽しいので結局いいのだ。

以下。

・長門が率いる艦娘達
宴会のときに出てたローテーション組。人選は作者の趣味と知り合いの趣味。

・妖精さん
色んな妖精さんがいる二次創作だけどなるべくゲームに近いよう、喋らない感じでいきます。

・漏れる果汁
オイル漏れしてる夕張さんメロン熊。

・榛名
たぶん一番のはっちゃけキャラだと思ってます。おとなしい分、いざとなると恐ろしいことになりそう。

・着替え
ついつい頼んでしまうあたり、提督である長門も昔の感覚が抜けていない模様。というかこういう事って変わろうとしても無理そう。


感想、評価いつもありがとうございます。文がまだまだ安定していないですが皆様に楽しく見てもらえるよう頑張って行きます。

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