DEAD OCEAN 【dead space×艦これ】 作:焼酎ご飯
『警告。反応炉の圧力が不安定です。反応炉が破損する危険性があります。全職員は速やかに避難してください。これは訓練ではありません』
「……はぁ…」
けたたましいアラートが反響する。
最早ただの石塊と化した悪夢は、コロニー全体を巻き込みながら崩壊を始める。
心身ともに憔悴しきった一人の男は、自らが作り、そして殺した悪夢の前で重いため息を吐き、ゆっくりと腰を下ろす。
最早立ち上がる気力も意味も失われ、背中の赤く点滅したリグを回復することさえ億劫になっていた。
『補助電力供給システム、作動』
「…やっと…終わるのか…ははっ…」
『警告。生命維持システム停止。直ぐに防護服を着用してください』
(エリーは無事に脱出できただろうか?……いや、彼女ならそうそうのことでは死なないだろう……マーカーも破壊できたんだ、幻覚の心配も無いはずだ)
崩壊したマーカーから降り注ぐ石塊が自分の目の前に突き刺さる。
破損した床から粉塵が舞い上がり、視界と呼吸を阻む。
「ゲホ…ゲッホ…」
『警告。コロニーの多数崩壊を確認。直ぐに脱出ポッドへ向かってください』
(もう十分だ…やり残したことはない。俺は…マーカーを殺し、ニコールを陳腐な妄想から解放することができた。死ぬ前にそれができただけで十分だ…そう死ねるのなら幸せだ)
『Sprawl、システム完全停sーーーーー』ブツンッ
鳴り響いていたアラートの音が止み、施設とマーカーが崩壊する轟音が押し寄せる。
粉塵がより一層強まるが、それを振り払う気にもなれない。
手の力が抜け、指からこぼれ落ちたプラズマカッターを地面を滑る。
エンジニアとして落ち着き始めてきた時から愛着のある工具で、今の今まで共に戦い続けてきた心強い相棒だ。
(いや…そうだな。やり残したこと…)
バキィッッ
マーカーに致命的な亀裂が走り、完全な崩壊が始まる。
彼が座り込むそこに、巨大な岩陰が現れる。
(もしもあの時…エンジニアスクールで学べていたのなら…)
頭上からの圧力に耐え切れず、仰向けに倒れる。
そして眠るように瞼を閉じ、彼は呟く。
「いつか…いつか自分で…船を作ってみたかったな…」
凄まじい質量を持った石塊が降り注ぎ轟音と粉塵を撒き散らす。
隔壁は内側からひしゃげ、そこから覗く宇宙の闇が全てを飲み込みながら、破壊の限りを尽くす。
破壊に伴う轟音は最早耳には届かず、コロニーの崩壊に伴い宇宙空間へと溶けていく。
大量のデブリと共に、リグの放つ微かな光が宇宙へと投げ出される。
そして間もなく光は失われ、完全に宇宙の闇へと溶けていった。
◇◇◇
「ガッ!ガグッ!ガッ!」
雲一つない晴天の下、ただただ青く広がる海が波の音を奏でる中、耳障りな異音がそれを遮る。
青と波が移す微かな白以外何もないそんな空間に、一点だけ異様な存在が浮かび上がる。
一隻の漁船が半ば沈没状態で漂っており、エンジンと思われる部分から黒煙が上がっている。
周囲の海水は微かに赤く濁っており、無数のサメが群がっていることから、船員の安否は火を見るより明らかだった。
しかしそれよりはるかに異様で巨大な物体が船体にかじりついており、断続的に耳障りな異音を発し続けている。
漁船を沈め現状を作り出したソレは、異常に発達した頭部と、砲身が一体化したような歪な顎で船底を噛み砕き、緑に発光する目を細めてそれを飲み込んでいく。
「ガッガギ!ガグッ…ゴフ」
バキバキと音を立てながら船体は食い破られ、瞬く間にその形を失っていく。
それに満足したのか、巨大な魚のような形をしたソレは、漁船の残骸を体で押しのけ、周囲のサメを追い払うようにその場で大きく頭を振る。
「ガァ!…グガァ!」
ヒュルルルルーーーーーーーーーー
「…ンガ?」
グシャァズドオォォォォォンッ!!!!!
威嚇のような唸り声を上げた瞬間、ソレの頭部と上半分は、巨大な水柱と共に木っ端微塵にはじけ飛ぶ。
辺りに肉塊と金属の破片のようなものが飛び散り、残された下半分はビクビクと痙攣している。
水柱によって打ち上げられた海水が降り注ぎ、先の衝撃によって大量の空気を含んだ海面がボコボコと泡立つ。
静寂が訪れる。
波の音だけが支配する荒廃した風景の中、海中から微かな赤い光が浮かび上がる。
ゆっくりと浮上する金属に包まれた人型の何か…背中の一部と顔の前面が発光している人型のそれは、ただされるがままに波の間を漂っていた。
まさに死屍累々。
のどかな空の下…青く広がっていた海はその一部を赤く濁らせ、肉塊や人型の何かが漂う地獄と化していた。
だがそんな目を覆いたくなる惨状に、またも変化が訪れる。
魚の化物だった下半分はその痙攣を止め、淡い光を放ち始める。
やがてその光がその地獄を包み込み、一つの形を作り出し、収束する。
◇◇◇
水底に沈んでいるかのような冷たさが払われ、全身を包むような暖かさが私という存在を形作っていく。
あぁ、私は艦娘として目覚めるのか…
一体どんな艦隊が迎えてくれるのだろうか?
姉達はその中にいるのだろうか?
私を指揮してくれる提督はいい人だろうか?
様々な考えを巡らせながら、ついに私の足が水に浮かぶ感覚を得る。
期待を緊張が入り混じる中、自身を紹介すべく瞼を開く。
「暁型駆逐艦、電です。どうかよろsーーーーー
ーーーーーっひゃわ!!!???」バシャッ
目の前の惨状に驚き、尻餅をついてしまう。
当然海上なので衣服が濡れてしまうが、最早それどころではなかった。
私が浮かぶ周囲には何かの残骸や赤黒いブヨブヨとした気味の悪い何かが無数に漂っており、その異臭に思わず口元を押さえる。
おそらくは深海棲艦の骸なのだろうが、あまり深くは考えたくない。
「うぅ……だ、誰か…いませんか?」
振り絞るように声を出しながら辺りを見回してみるも、艦隊の姿はな少し遠くに島が見える以外は水平線が広がるばかりだった。
「な、なんで艦娘がいないのに深海棲艦の残骸が…と、とにかくここを離れるのです!」
こんな海の真ん中で漂っていれば、それこそ深海棲艦に襲われ、自分もそうなってしまうだろう。
何より、生理的にこの場に留まりたくないというのが非常に強かった。
足の艤装の稼働率を高め、この場を後にする。
ゴンッ
「わわっ…………っ!!」
金属音が響く。
足に残骸でない何かがぶつかり、少し体制を崩す。
足にぶつかったものを認識した瞬間、反射的に艤装を構える。
「も、もしかして…敵……でしょうか?
そこには人型の何かが浮いていた。
その何かは全身を金属の鎧で覆ったような外見をしており、海面から突き出ている背中には赤い筒のようなものが光を放っていた。
どういう仕組みなのか、その赤い筒のすぐ横には、光で浮かび上がっているような数字が映し出されており、徐々にその数字が減少していることがわかる。
「……」コンコン
『nnn…n…』
一見すると深海棲艦に見えるそれを、逆向きに持った魚雷でつつく。
頭と思える部位が完全に沈んでいるのになぜか聞こえるくぐもった声に疑問を覚えるが、ひとまずコレが生きているということが分かり、魚雷をしまう。
「…よいしょっと……ふわっ!か、顔も光ってるのです…」
その人型の上半身を起こすと、後ろ側から脇の下に手を通して支える。
見た目通り、かなりの重さを感じられるが、海上で艤装を装備している艦娘にとっては運べない重さではなかった。
「…もしあなたが敵だったら、やっぱり怒られちゃうかな?」
それを持ち上げて運ぶとなると自分の倍以上の大きさがありそうなので、下半身を水上で引きずるような形で、後ろ向きに艤装を出力して進み始める。
「とりあえず陸を目指すのです!何処かに軍港があればいいのですが…」
大海の青の中、白い水しぶきをあげる点が一つ…
今陸を目指して一本の白線を描き始めたのだった。
~~~~~
「はぁはぁはぁ…お、思ったより…はぁ…時間がかかるのです…」
『…』
汗をぬぐい、息を整える為に立ち止まる。
陸を目指してはや一時間、最初に見えていた陸は小さな港のようなものがある島だったことが分かり、そこを目指して航行を進めていた。
本来島ではなく、本土を目指すべきなのだろうが、水上で重荷を引きずっての航行というものは、思いのほか消耗が激しく、そして何より海上での航行経験が無い今の私には中々に厳しく、最寄りの島を目標とすることとなった。
「うんしょっと…もう少し」
敵か味方か未だにわからないソレを再び支え直し、目前の島目指して航行を再開する。
『muu……nnn……』
「…」
随分長いあいだ航行してきたようにも感じるが、この間に少しわかったこともあった。
コレの性別は、時折あげるうめき声から察するに、男であるということ…
…人間という前提ではあるが……
そして全身にまとっている鎧のような何かは、ひどく傷だらけにも関わらず出血のようなものが見られないことから、これが皮膚そのものではなく着衣の類であるということ。
手にはグリップと引き金がついた銃のような機械を握り締めており、鎧同様にたくさんの傷がついていることから、この人はあの場で戦っていたのではないだろうか?
そうなれば、周囲に艦隊がいないのに、形を得ることができた私自身の説明もつく。
…とはいえ、なんだかよくわからない武装をしているとしても、人間が深海棲艦を倒すことが出来るだろうか?
「せめて目を覚ましてほしいのです…」
自分を自覚してから短時間とは言え、たった一人で行動し続けるというのは内心とても恐ろしかった。
せめて彼が味方であって、意思疎通をはかることができたのなら、どれ程気が楽だっただろうか。
いずれにせよ、彼を介抱するには陸に上がらなければならない。
「鎧さんも、もう少しなので頑張って欲しいのです…ふぅ」
ザバァッーーーーー
ーーーーーガコン
「……へ?」
再び島に進み始めた直後、私の数メートル前の界面が大きく盛り上がる、黒い何かが現れる。
その黒い何かは巨大な顎を開くと、黒い筒状の棒をこちらへ向ける。
まるで私の艤装に装備されているような…砲のようなそれを…
「ガァァァァアアアァァァァ!!」
ッズドォォォォォォン!!!
「キャァァァァァァァッッッ!!」
突如眼前が赤く染まり、凄まじい衝撃とともに海上を数メートル滑る。
「あ、あぐ…けっほけっほ…」
『ga...nn..n....』
なんとか転ばずに体制を立て直して理解する。
あの黒い筒はまさしく砲であり、その砲が私の艤装に備え付けられた装甲を抉り、吹き飛ばしたのだ。
そしてその砲撃を行った正体…
「し、深海棲艦……」
「ガグァァァァァァアアアアァァァァアァ!!」
ザバァァァァァァァ!!
「っ!?」
砲撃の正体は、小型と思しき深海棲艦だった。
そしてその深海棲艦が耳障りな咆哮を上げるやいなや、周囲の海から同型の深海棲艦が何匹も浮上し、一様にに緑に光る目でこちらを捉える。
「「「……」」」
ーーーーーガコン
「ひぃっ……」
無数の深海棲艦は、ジリジリのにじり寄りながら、口に収納された砲を前に突き出す。
全身から汗が噴き出し、震えが止まらなくなる。
艤装からは一部黒煙が上がっており、先ほどの衝撃の痛みと極度の緊張からか、胃酸が逆流しそうになる。
何故生まれたばかりの自分がこんな目に…
私はこんなところで沈んでしまうのか…
『mu...a...aa...』
惰弱な考えがに打ちひしがれているところを、彼の声によってハッと呼び戻される。
…私が諦めれば、彼のことは誰が守る?
本当ならば戦いたくはない。
だが私は艦娘なのだ。
艦娘は敵艦と戦い、人々を守らなくてはならない。
それは艦娘の存在意義であり、誰かを助けるというのは私の意思でもある。
そう、それが例えどんな状況にあっても変わることはない。
それにまたあの海の底で、孤独に震えるような感覚に支配されるのは真っ平御免だ。
震えと涙を押さえ込み、自分の使命を再び胸に宿し、現在の艤装と救うべき彼を再確認する。
(装甲と魚雷管が片方損傷、12.7cm連装砲も角度調整に不具合が……そもそも私の練度ではあの数の敵を一人で倒すことなんて到底できないのです)
状況は最悪だった。
これは戦闘ですらないただの地獄だった。
だが…現状を脱する算段は既に頭に描かれていた。
(外側艤装のダメージは大きいけど、機関部はなんとか無事…艤装には無理をさせちゃうけど、彼を抱えて全力で港に向かえばきっと間に合う…はず…ーーーーーそうと決まれば!)
考えは決まった。
そこからの行動は彼女の名の如く、まさに電光石火だった。
「なのです!!」
ズドォン!!
「ガグァ!?」
艤装の砲が火を吹き、正面の敵艦に命中する。
「「「グォォォォォォォォォォォォ!!」」」
ズガァァァァァァンッ!!
「くぅ…っ!」
敵艦の一体が黒煙を上げて叫ぶや否や、無数の耳障りな絶叫と砲弾が飛来する。
だが私はそれを自身の砲撃の反動をもってして後方に回避する。
相手の砲撃は命中こそしなかったものの、全身を圧迫されたかのような衝撃が走る。
「電の本気を見るのです!!」
そしてその勢いを殺さぬまま、彼を抱き抱えて一気に加速する。
彼を支える腕は想像以上の重さに悲鳴を上げ、一気にトップスピードまで加速したがために足の骨が軋むように痛む。
だがそんな痛みに構っている暇もなく、とにかく港目指して加速し続ける。
ズドォン!!
ズバシャァ!!
すぐ隣や後ろではいくつもの水柱が立ち上り、着弾音が鼓膜を揺らし、更なる恐怖を掻き立てる。
(もう少し…!!もう少しで港に…!!)
港までの距離はみるみるうちに縮まり、目と鼻の先の距離まで近づく。
目の前の希望に、艤装の負荷によって出血し始めた足さえ気にせず加速を続ける。
ーーーーーだが
「ガァァァァァアアアアアッ!!」
ーーーーーバキンッ
「かっ……はっ……!!??」
突如背後から襲った衝撃に呼吸が止まり、前のめりにバランスを崩す。
支えていた彼を手放してしまい、私と彼は衝撃を殺すこともできず海面を転がる。
されるがままに海面を転がり、勢いが緩まったところで立ち上がろうとする。
「っつ……あ、あれ?…力が入らない…それに艤装が…」
立ち上がろうと足に力を込めても上手く力が入らず、そしてどういうわけか、足の艤装が半分水に浸かっており、上手く海面に立ち上がることができない。
そこで自分の背中からもうもうと吹き出す熱と黒煙に気が付く。
艤装は機関部と思われる部分がむき出しになっており、装甲と砲台が大きく抉れ飛び、最早起動しているのが奇跡に近い状態だった。
「ま、まだ…なのです」
それでもなんとか姿勢を崩しながらも立ち上がり、自分が手放してしまった彼を探す為に振り返る。
ーーーーーガコン
「あ…」
振り返った先には無数の砲が突き出されており、その全てが私に照準を合わせていた。
「あぅ……うぅ…」
足の力が完全に抜け、海面にへたりこんでしまう。
引っ込んでいたはずの涙が、堰を切ったかのように溢れ出す。
ぬか喜びだった。
陸はすぐそこなのに、私の体はもう言うことを聞かない。
私はここで沈み、あの人を助けることも叶わない。
自分が沈むことに対してなのか、人を助けられなかったことに対してなのか、あるいはその両方なのか、私の涙が止むことはなく、迫り来る死に目を背けるかのように視界が霞む。
「うぅぅぅ…うえぇぇ…グスッ……」
「ガグァァァァァァァァァァァァァ!!」
深海棲艦の咆哮が響き、今まさに私は殺されようとしていることを理解する。
何の意味もないことはわかっていたが、ギュッと目を閉じ、腕で頭を覆う。
そして最後にポツリと呟く。
「うぅ…グスッ…今度生まれるときは…もっと平和なsーーーーー
ーーーーーバシュンッ!!
「オゴァァァァァ!!!!????」
「……ふへ?」
突然響いた先ほどとは異なる深海棲艦の声と、聞こえるはずの砲撃音が聞こえず、それとは別の何かが射出される音に思わず目を開ける。
『F○ck! Shit! Die!Die!Die!!!!!』
バシュンッ!!バシュンッ!!バシュンッ!!
「オゴァ!?オゴッ!?ガッ…アガッ……」
目に飛び込んできたのは、光の刃のようなもので砲身ごと体を切断されていく深海棲艦の姿だった。
「あ…え…?」
バシュンッ!!バシュンッ!!バシュンッ!!
私が短い悲鳴をあげている間にも、何体かの深海棲艦が細切れになり、私の方に向いていた砲の全てが私の背後へと向けられる。
カチッカチッ…
『Darn it!!!』
「「ガァァァ!!」」
ズドォン!!ズドォン!!
ついに砲撃が始まり、砲撃の爆音が耳をつんざく。
その砲撃が私に降り注ぐことはなく、私の後方へと放たれていく。
ーーーーーヴゥン
グシャァッッッ!!!!!!
突然、深海棲艦の一匹が木っ端微塵に爆散する。
「ガg」ーーーーーグシャァッッッ!!!!!!
そして一匹、二匹と深海棲艦は悲鳴をあげることもなく爆散していく。
「グガg」ーーーーーグシャァッッッ!!!!!!
先の砲撃は一瞬で止み、正体不明の攻撃かもわからない何かによって深海棲艦は一方的な蹂躙を受け続け、最早数える程にまでその数を減らす。
「ガァ!」
ある一匹が短い声を上げると、その数を著しく減らした深海棲艦は唐突に踵を返してこの場を離れ始める。
「…た、助かった…の?」
カシュッーーーーバシューーーー
全速力で逃げ去る深海棲艦が更に数匹粉々になったところで、私は後方から聞こえた何かを吐き出すような音で、ようやくそちらに注意が向く。
「…よろいさん…です…か?…んっ…立てない」
おそらく彼だろうと思うのだが、それを確認しようにも立ち上がることはおろか振り向くことさえできず、艤装の出力が下がり、沈み始めていることが分かる。
『Hey!!Are you alright!?』バシャバシャ
「へ?…な、なんて?」
おそらく彼の声なのだろうが、意識が朦朧とし、最早相手が何を言っているのかの理解もできなくなる。
体は腰辺りまで沈み、目を開けていることすら億劫になってくる。
「は~…助かったと思ったんだけどなぁ…けほっ…」
ガシィ!
「あう!?」
目を閉じようとした瞬間、艤装を何かに持ち上げられるような衝撃に驚き目を開く。
「Can you hear me!?」
目を開いた先には、見覚えのないおじさんがいた。
首元まで覆った金属の鎧に、先程までは装着されていたであろうヘルメットのようなものが取り払われ、短く刈り上げられた髪と、青い目が特徴的な外国人のおじさんがこちらを不安げに覗き込んでいた。
「そっか…外国人さんだったのですね…無事でよかった…」
彼が無事だという事実がわかった瞬間、ドッと体が重くなるのが分かり、猛烈な睡魔が襲ってくる。
「陸は…すぐそこにあります…私は…もう動けません…けほっ…すみませんが、あとはお一人で上陸してください………あ、そ、そういえば…言葉が通じなかったんだっけ…えへへ…けほっ」
だが彼も陸がここまで近いのならなんとか自力で上がってくれるだろう。
生まれてからすごく短い間だった…だが艦娘としての本懐、そして人を助けることができたのだ…
体は悲鳴をあげているが、私の心はとても満たされており、このまま沈むことにもすんなりと覚悟することができた。
私は襲い来る睡魔に身を任せ、ゆっくりと目を閉じる。
「…さよう…なら」
ーーーーーカシャン
ーーーーーバシュゥッ!!
『いいや、さよならじゃない。上がるのはお前も一緒だ』
泥のように沈む意識の中、彼の声で何かが聞こえた気がした。
…日本語?
なんだこの男前な電は…
最初の艦娘が電なのは最初に選べるからです。
決して他意はありません…ホントダヨ
ガラスのハートですが、コメントいつでもお待ちしております。