覚る少女と覚りたい少女   作:ぽよよん

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更新大変遅くなってしまいました。
お待ちしていた(だいたかどうかはわかりませんが)皆様、本当に申し訳ございませんでした。
m(_ _)m

さとり様成分多めの回となっております。
少女の秘密が少しわかる?かも…。



管理人達の思惑

─────少し時を遡り、少女の地霊殿来訪の日の朝。

 

─────人間の里。

 

妖怪だらけの幻想郷で、一番安全な場所。人間の殆どが、ここに住む。

昼間は賑わい、夜は眠る、幻想郷でも珍しい場所。

時々、妖怪らが里を訪れることがある。それでも、幻想郷で、最も『争い』とは程遠い。

 

 

そんな平和な里は、今日はどうやら違っていた。

 

 

「あの馬鹿娘!どこへ消えた!」

 

「朝から五月蝿いよ、母さん」

 

母さん、と呼ばれた女は、見るからに機嫌が悪い。何せ、どう見ても頭に血がのぼっている。顔が天狗の面の如く赤いのである。

色褪せた茶色の着物を着、髪を結わえた女の手には、紙切れが握られている。

現代から見れば日常生活で着物を着ているというのは時代遅れにほかならないが、日本が『洋』を知る前に結界で隔離されたここでは普通である。

くしゃくしゃに丸められた紙を息子に投げ、母は台所へ向かった。

 

「ったく、あいつが勝手にどっかに行ったなんて稗田様に知られたら、私たちゃぁいったいどうなるこったね」

 

閉じない口から溢れた愚痴は、終わりを知らない。

 

「だいたい兄さんがあんなのと結婚するのが悪い。だから家があんなのを預かる羽目になるんだ。ま、厄介払いできて清々したがね」

 

居間で愚痴を聞く息子は、おもむろに母親の投げた紙切れを広げた。青の甚平を着ている、大人しそうな青年である。

 

「母さん!これはどういうことだ!?」

 

文を読むなり紙を投げ捨て、母の元へ駆け寄る息子。

残された紙には、辛うじて読み取れる程度の字で、これだけ、書かれていた。

 

 

『私は地底にいます。もう里へ戻ることはないでしょう。次に会う時は、あなた方が永遠に去ぬる時です。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

─────時を戻し、旧地獄。

 

太陽の見えない地底では、昼と夜との大きな違いはない。そのため、時を知らせるものといえば、地底では、地霊殿の壁掛け時計か地上と繋がる穴のみである。

今は真夜中。妖怪にとっては、丑三つ時だろうがどうでもいい。人間ともなれば話は別だが、ここでは関係ない。地底に住む者は皆、人間が恐れる妖怪だからである───ただ一人を除いて。

 

 

二人の少女が、地獄街道を駆けていく。一人はさとり妖怪、一人は人間。異色の二人は、地霊殿から十数分走った後、目的地へ到着したようである。

 

「こいしさん、、こ、ここは……?」

 

息も絶え絶えの少女は上を見上げ、隣の少女に問いかけた。

穴の先に見える月は、はっきりと、地上で見ていたものの何倍も美しく輝いていた。

 

「ヤマメー、私だよー!今いい?」

 

こいしは息を切らしながら、友人を呼ぶ。

明るい返事を返し、出てきた少女『黒谷ヤマメ』は、こいしの隣の少女を見るなり、

 

「そういう事だね、了解。じゃ、採寸とかしたいから、ちょっとこっちに来てよ」

 

と、困惑する黒髪の少女の手を引き、部屋の奥へ消えた。問答無用である。

一人残されたこいし…のはずだが、彼女もまた、ヤマメと少女を追いかけるように部屋へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

─────同じ頃、地霊殿。

 

自室のベッドの上でため息をつく少女の膝の上には、二股の尾を持つ一匹の黒猫がくつろいでいる。

 

「……あの娘の心裏が読めないなんて。こいし以外でこんな事は初めてね…」

 

さとりは、膝上の黒猫をゆっくりと撫でた。

 

「だけど、普通に考えたら、彼女は何かがおかしいわ…。素性はわかってきたけれど、里で嫌われる妖怪なんて、私は同族しか知らないし。……そんな事が、ありえるのかしら、ねぇ、お燐?」

 

「みゃぁ」

 

主人の問いかけに、お燐は鳴いて『答えた』。

 

『さとり様がそうなら、あたいもそうとしか思えないですよ』

 

「お燐、私の考えている事があなたにわかるの?」

 

『お客さんが、もしかしたら『さとり妖怪』の血を引いているかもしれないってことですよね?あたいでもわかります』

 

「その通りよ、お燐。…だとしても、やっぱり変ね……」

 

さとりに撫でられるのが心地よいのか、お燐は目を細め、喉を鳴らしている。さとりのぼやきは、お燐には届いていない。

 

 

───突然、空間が『裂けた』。

 

「もしもし、古明地さとり。人間のお嬢さんは今―」

 

「妹と外出中です。─ああ、『いつ戻るのかしら?』ですか。服の仕立てをしている最中でしょうから、まだかかりますよ。地上へ引き戻すつもりなら、どうぞお帰り下さい。彼女は、ここに住むと決めたようですし。『話を先回りしないで頂戴』とは、…ふふっ、さとり妖怪相手にそんなことをおっしゃいますか。ならば早く姿をお見せなさいな──幻想郷の管理人様」

 

散々話を先回りされたことやさとりの言葉に対し、少し苛立ちを見せる女性が、空間の裂け目から姿を現した。薄桃色の傘を片手に、さとりを鬱陶しそうに見下ろす。

 

「やっぱり、できれば貴女とは関わることをを避けたいわね」

 

金色の、腰まであろうかという長い髪と、どこか異国風のドレスを僅かに揺らし、傘の影から美しく整った白い顔と白の帽子のつばを少しだけ見せている。表情は涼しげだが、さとりに対する嫌悪を隠しきれるはずもなく、

 

「私だって、好きで貴女と会っている訳ではありません。お互い様でしょう?」

 

「案の定、読まれてるのね」

 

さとり妖怪には、全てお見通しである。

 

「お燐、悪いけど、少し外してもらえるかしら?大事な話があるから。───さて、八雲紫殿。話を戻しましょう」

 

さとりは膝の上でまどろんでいたお燐を部屋の外へ出し、 「八雲紫」に向き直る。

 

「そんなに改まらなくても、『紫』でいいわ」

 

「どうぞこちらへ。お茶は─── 「なくていいわよ」 …そうですか」

 

部屋の隅のソファーへ案内された紫は、傘を閉じ、音を立てること無く腰をおろす。紫が座ったことを確認し、さとりも座る。ちょうど、二人が向かいあう形だ。

真顔のさとりに対し、紫は少し微笑んでいる。

話を切り出したのは、紫からだった。

 

「それで、ここに来たお嬢さんの事なのだけれど」

 

「全て、彼女の意志です。私も妹も、ペットたちも誰一人として干渉していません。どうぞ、ご心配なく」

 

第三の目の瞳が、妖しく光る。それでも紫は余裕の表情を見せている。

 

「その子と、一度会ってもいいかしら?」

 

「私の『目』の監視下であれば。たとえ紫殿であろうと、怪しい者は私が見ます。式神で欺こうとしても無駄ですよ。私が見破れなくてもあの娘の『目』からは逃れられません───全てを見透かす『目』からは」

 

「あの子が『程度の能力』を持っているとでも言うの?……冗談なら間に合ってるわよ」

 

紫はとっさに顔を扇で隠すが、笑みが僅かに強張ったことはさとりには筒抜けである。

 

 

冷たく張り詰めた空気が二人の周りを、部屋を支配する。

しばらくの間無言の探り合いを展開する古明地さとりと八雲紫。

この二人の考える事は、今、蜘蛛の妖怪に新しい服を仕立ててもらっている少女の事ただ一つ。

 

 

───考え事を終え、先に口を開いたのは、さとりのほうだった。

 

「………さて、貴女にはもうお帰り頂きましょう。貴女は彼女とまだ会うべきではありません───いえ、彼女を貴女に会わせる訳にはいかないのです。…これが、私のできる『最善の策』です」

 

「……そう。なら、私からは会わないことにするわ。それでいいかしら?」

 

「私が何者か、その事をお忘れなく」

 

話を終え、再び空間が『裂け』る。

紫色の開かれた空間───『スキマ』と呼ばれている───から覗く多くの目は、さとりの思惑を見透かそうとしているかのように見続けている。

しばらくして、紫はさとりを一瞥し、無言でスキマの奥へ消えた。見送るさとりもまた、無表情で一言も発しない。

 

 

 

───スキマが閉じられ、さとりは無人の書斎で天を仰ぎ、ため息を零した。

 

開いた唇が紡いだ古明地さとりの独り言は、誰の耳にも届くことはない。

全てを知ったからこそ、苦悩を抱える。心を読める者が抱える苦痛は、他の誰とも共有できない。

さとりは今、唯一、『真実』を知る者である。八雲紫でさえ知らぬ『全て』を知り、心の底へ封印する。いや、そうせざるを得ないのである。

 

 

これはまだ、深い深い闇の入り口に差し掛かる程度。

『心の闇』とは、実に恐ろしいものだ。彼女だからわかる。

 

 

「………あの娘、まさかとは思うけど───。……………私の元へわざわざ来るなんて、ね…」




次回から「さとり妖怪」→「覚」の表記になるかもしれないです。
…………たぶん( ´-ω-)σ

あと、、次の投稿がいつになるかはわかりまs
さとり「次遅くなったら貴方のトラウマを全身全霊をかけて想起します(真顔)」
………できるだけ早くします。頑張ります。
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