あの日、数多の流星が降り注ぐ世界の終わりの日…
絶望する人々を救うため、救世主が立ち上がった。
救世主、天を舞う白き騎士は降り注ぐ流星を悉く撃ち落とし、世界は救われた。
でも…それだけじゃなかった…白い騎士の小さな落し物が世界を動かす大きな物語の始まりになったんだ。
※
「待て!待て!」
息を切らしながら、
男の正体は遡ること数分前、実家の定食屋の買い出しを任されて弾の前に現れたひったくりだった。
犯行を目撃しため弾は生来の正義感の強さにかられ、迷わず追い掛けた。しかし、ひったくりが走るのを止めて振り向いた時、弾は後悔した。
「しつこいぞ!」
怒鳴り声をあげるひったくりはその手にナイフを輝かせ、弾に刃先を向けた。
「来るな!来るな!」
「お、落ち着け」
血走った目のひったくりに圧され、上ずる声で制止する。運動神経に自信もあり、喧嘩も強い方だったが、自分は所詮、中学入学直前の小学生であることを痛感した。たかがナイフ一本見せられただけで動けなくなる自分が不甲斐なかった。くっ、息を漏らし歯をくいしばる。その時だった。
カランコロンという渇いた足音が弾の耳に入った。音の方を向く。癖がついてカールした黒髪と整った顔を持った弾と同じくらいの少年だった。しかしその出で立ちはどうにもシュールだった。グレーの作務衣に足下は下駄。手には銀のボウル。目線はまっすぐ前を見据えられ、弾とひったくりのことなどまるで目に入っていないような様子だった。
「おい、危ないぞ!」
思わず、弾は作務衣の少年を呼び止めた。しかし少年は目線すら変えずひったくりと弾の横を通り抜けようとする。
「なんだクソガキ!オイてめえ!来るな!来るんじゃねえ!」
興奮したひったくりはナイフの刃先を弾から少年に変える。
「危ない!」
ひったくりの行動に弾は絶叫し、目をむく。それとは裏腹に少年はまぶた一つピクリとも動かさず、前進する足を止めない。そんな少年の首元スレスレをひったくりのナイフが通り過ぎる。その直後、ひったくりの体がグルンと空中で一回転し、コンクリの地面に叩きつけられた。
「えっ⁉︎」
目の前で起きた光景に弾は絶句する。見えなかったが、作務衣の少年は目にも止まらぬ早業でひったくりは投げたのだ。それだけではない。左手はボウルでふさがっている。つまり少年は右手一本で事をなしたことになる。
自分と同い年くらいの少年が、ナイフを前にまぶた一つ動かさず、一瞬で大人を倒した。自分に出来なかった事を平然とやってのけた少年に弾は悔しさと憧れとで震えた。
「おい、随分と可愛らしい物だが、これはお前に返せば良いのか?」
地面に伸びたひったくりからハンドバッグを奪い取った少年が弾に聞く。
「あ、ああ…」
呆然と答えるとハンドバッグが投げ渡される。そうすると少年は再び歩き出した。
「な、なあ」
「どうした」
自分の横を通り過ぎていった少年に弾が聞く、少年は振り返ることはせずに立ち止まった。
「なんで立ち止まらなかったんだ。相手はナイフを持っていたんだぞ」
「なんだそんなことか」
「なんだとはなんだ。本当に危なかったんだぞ!」
「一つ、俺の道は俺が決める。二つ、あんななまくらじゃ俺は殺せない。そして三つ、下手に動けば豆腐が崩れる」
そう言うと少年は愛おしそうに左手のボウルを見た。真っ白な豆腐が一つ浮かんでいた。
「豆腐⁉︎そんなもんのために動かなかったってのかよ。お前、いったい…」
「おばあちゃんが言っていた。世の中で覚えておかなければならない名前はただ一つ、天の道を往き総てを司る男。俺の名は天道総司…!」
そう言って作務衣の少年は天を指さす。少年には後光がさしていた。