「はっ!」
「うっ!」
ザビーの巨大な装甲で覆われた腕のパンチが襲い来る。千冬は両腕でそれをガードするが、気休めで、骨がひしゃげるかと思うほどのダメージが来る。
「生身でライダーに対抗しようとする努力は褒めてあげよう。だが無駄だ。あなたならわかるでしょう」
「がっ、ぐっ」
ザビーは千冬のガードを強引に払いのけ、彼女の首を掴んで持ち上げた。千冬の足が床から離れ、バタバタと空を切る。ザビーの手をなんとか引き剥がそうとするが人間の力ではどうにもならない
ここで終わりか?
本格的にその言葉が頭をよぎった。しかしその時、雄叫びをあげて迫り来る何かが千冬を救った。
「うおおおおおおおおお!」
ガン!鉄同士がぶつかる音がする。見ると、どこで拾って来たのだろうか鉄パイプを二本持った弾がザビーに殴りかかった。
「くだらん」
ザビーは千冬を放り投げると弾を迎撃する。鉄パイプの一本を受け止めて捻じ曲げ、一瞬ガラ空きになった胴に拳をねじ込む。
「うっ」
「素人だな、本能で戦おうとする勇気は褒めてやるが。非力過ぎる」
そう言うとザビーは腹を抑えて倒れ込んでいた弾の頭を踏みつけた。
「このまま踏み潰してやる」
ザビーは足に力を込めた。その時だった。
ガンッと凄まじく速い“青い何か”がザビーの足を弾き飛ばす。
「なんだ⁉︎」
ザビーが周囲を見やる。自分の足に当たった何かは見当たらなかった。しかしその代わりに今度は赤いカブトムシがザビーに突撃してくる。
「お前か。面白い…」
踊り場に立つ総司を見てザビーは奮えた。どちらが強いか。有耶無耶になった戦いに決着がつけられる事が嬉しかった。
「総司!」
「天道!」
「救出成功。まあ、勝手に逃げてたんだけどね」
総司を見上げる千冬と弾を鈴が助け起こす。それを見下ろして笑みを見せると総司はザビーに啖呵を切って見せた。
「おばあちゃんが言っていた、明けない夜は無いってな。俺という太陽がこの夜を照らす。その輝きを見せてやる。変身…!」
『HENSHIN』
「キャスト・オフ」
『cast off』
変身と同時にゼクターを操作し、カブトはライダーフォームへとチェンジする。それに続き、ザビーもライダーフォームへ。カブトは踊り場から飛び降り、互いにスマートな小型の装甲の状態で相対する。
「「クロックアップ!」」
向かい合った刹那、互いにベルトのスイッチを叩いた。千冬、弾、そしてISを展開していなかった鈴を放って2人は加速した世界へと跳んだ。
「ふっ!はっ!でやっ!」
ボクシングスタイルで構えたザビーが積極的に攻撃を繰り出す。カブトはバックステップで下がりながらなるべく攻撃を避ける。左肩の傷のせいで全力が出せない。余裕を持って構えながらもカブトはいつも以上に集中力を動員し、右腕だけで最大限の反撃をする。そうしながらカブトは勝負を決める瞬間に備えた。
「うっ」
寄せ来るザビーの怒涛の攻撃、バックステップでの回避と右手だけでの最低限のパリィでは防ぎきれず、腹部に重い蹴りが打ち込まれる。
「もらった!ライダースティング!」
距離が空くと同時にザビーがゼクターのスイッチに触れ、必殺の構えを取る。ここだ。
大きなピンチ、しかし同時に最大のチャンス。カブトはクナイを投擲する。投擲されたクナイをザビーは避ける。お前のやり口などわかっているとばかりだった。
しかしそれは大きな間違いだ。カブトは仮面の下でほくそ笑んだ。
『three』
「ライダーキック!」
クナイの投擲、それを避けるためにできたザビーのわずかな隙。それがカブトに最大のチャンスをもたらした。いつものように振り向きざまのカウンターキックをみまう余裕など無かったがそれは確かにザビーの左腕を捕らえていた。
「うわっ!」
『clock over』
ゼクターへの大ダメージでザビーの変身が解除される。それと同時に両者のクロックアップも解除された。
ライダーキックで蹴り飛ばされた矢車と堂々と立つカブトを確認し、千冬達もカブトの勝利を確信した。
「おのれ…まだだ…」
蹴られた腕を庇い、痛みに顔を歪めて矢車はカブトを睨む。
「お前は強かった。命運を分けたのは“未来に続く今を守る”という意思だ。その思いがある限り俺は誰にも負けない」
ボロ切れのようになった。矢車にカブトは告げる。その言葉に嘘はない。1度目は人質、2度目は肩の怪我。確かにカブトの不利になる要因はあった。だがしかし、自分の本気と言えるこのライダーフォームを見せてなお、ギリギリまで自分と渡り合う。そのことがすでにカブトにとって感嘆にあたいすることだった。
「もうやめておけ、これ以上はお前の…」
「黙れ!」
カブトの言葉を矢車は突っぱねる。それはそうだろう。カブトが内心どう思っていようが矢車のプライドはズタボロだ。
女尊男卑となった世界、男と言うだけでたくさんの不利が襲いかかって来る世の中。矢車もその被害者の一人だった。幼い頃から努力を続け名門の大学に入った。だが卒業して待っていたのは男と言うだけでエリートコースから外される現実。悲嘆にくれ荒れ果てた。そんな時に拾ってくれたのが亡国企業だった。組織に入った彼はザビーを手に入れた。女性優位の根本となっているIS、それを凌ぐ力を…
「負けられない、もう負けない。俺は強い。俺こそ最強なんだ!来いザビーゼクター!」
怒号にも似た叫びをあげ、矢車は一度自分から離れたザビーゼクターを呼ぶ。しかしザビーゼクターは矢車に体当たりをくらわせるとそのまま空間に穴を開け何処へと行ってしまった。
「おい!おい…おい!戻れ、戻れ!戻れえええええええええ!」
「お前は己の道を外れた…」
ブレスレットを握り締め悲痛な叫びをあげる。矢車にカブトは静かに告げると再度クロックアップして千冬と鈴と弾を連れ出した。
その直後、通報を受けたパトカーが現場に到着した。
※
「大丈夫、僕がそばにいるよ。僕が…そばに…」
スケッチブックに書かれた妖精に後ろから抱きしめられる少女のイラスト。自分が書いたその絵を眺めて少女は呟いた。昔大きな事故にあった時、少女の兄は少女に言って聞かせてくれた。少女は途中で気を失ってしまったが、その言葉のおかげで最後まで希望を失わずに生きていけたのだと今でも信じて疑う事はない。
「ひより」
ふと、名前を呼ばれて少女、ひよりは顔を上げた。
「お兄ちゃん!」
世界で一番大好きな、自分の希望を見つけひよりは駆け寄った。
「総司お兄ちゃん、遅かったね。ぼくずっと待ってたんだよ」
「ごめんごめん、叔父さんに会っていたんだ。大事な物を渡したいからってさ」
「その通りだよ、ひよりちゃん」
総司が答えたのを見計らうように叔父さんが姿を現わす。後ろには金髪の女性が控えている。聞くところによるとどこかの会社の社長のようだがひよりは叔父さんを好ましく思っていなかった。ついでに言うなら叔父さんの側近という金髪の女性も好きではない。
ひよりは総司の上着の裾を掴んで後ろに隠れた。
「おいおい…ひより…すみません。
「良いんだよ、総司君。そんなことより、私がプレゼントしたベルトの方は気に入ってくれたかい?」
「はい、始まるんですね。戦いが…僕達の過去を、この間違った今に続く“過去を変える”戦いが…」
「そうだ、近々君のゼクターも完成する。その黒き太陽の力で世界を変えるんだ」
「はい、日下部総司として、そして亡国企業の一員として僕は日下部家の悲願を叶えます」
胸を張って誇らしげにひよりの兄、日下部総司は宣言する。背中に隠れたひよりは不安そうに兄を見上げていた。