大丈夫、僕がそばにいるよ。ずっとそばに!だからひより…死んじゃダメだ!ひより!ひより!
「ひより!」
5月の頭の大型連休も終わった初日、IS学園の寮の自室で総司は跳ね起きた。昔の悪い記憶を夢に見てしまったのだ。
隣のベッドを見る。人影は無い。それはそうだ。同室だった箒は先日、ちょうど鈴との対抗戦が終わった後に別の部屋へ移った。総司の素行が落ち着いて千冬も安心したということらしい。
こんな姿を見られないで良かった。総司はホッとして胸を撫で下ろした。
※
なにやら騒がしいな。自室で朝食をとって、校舎へ向かうと生徒達がヒソヒソと話し込んでいた。しかし総司には盗み聞きの趣味も無ければ同級生のヒソヒソ話しに割って入るほどの興味も無い。総司は誰にも何も聞かずそそくさと教室へ入って行った。
「ねえねえ、天道君。転校生が来るんだって!」
「先月も聞いた気がするが?それとも俺が過去に戻ってきたのか?」
教室の自分の席に座って踏ん反り返るやいなや、電光石火の勢いでやってきたクラスメイトが告げた言葉に総司は怪訝な顔を浮かべた。まだ5月の連休明けである。転校というのは春休み夏休み冬休みのような節目節目の時期に行われるべきである。その方があらゆる方面の混乱が少ないからだ。それはどうしても、という事態はいくらでも想定することは出来る。しかし、それは稀にあるというレベルのことだ。
「変わってるなIS操縦者ってのは…」
自分のことは棚に上げて総司が呟くと、生徒達に席につけと言いたげに予鈴が鳴り響いた。
「フランスから来ました。シャルル・デュノアです。皆さんよろしくお願いします」
そいつの挨拶に総司のいる1組は揺れた。シャルル、フランスの発音であるこの名前を英語にするとチャールズと読むことが出来る。つまり総司以外に男でありながらISを動かすことの出来る人間ということになる。
「2人目、2人目の男子がウチのクラスに⁉︎」
「しかも守ってあげたくなる系!」
「天道君の突き抜けた俺様ぶりもそそるけど私はこっちかも」
千冬が眉間にしわを寄せていることにも気付かずクラスメイト達がはしゃぎ回る。しかし、総司は気が気ではなかった。
やつも俺と同じようにベルトを持っているのか?いや、矢車のようにブレスレットということもあり得るか…なんにしても、ライダーの力の副産物としてISを動かしているとするならば、先日俺をさらった組織の一員である可能性が高い。どうする?鎌をかけるか?
「天道君だよね?噂は本国でも聞いてるよ。男同士仲良くしようね」
自問自答していた総司にシャルルが握手を求めて来ていた。怪しい動きをすればすぐさま始末する。総司は覚悟を決めて握手に応え、シャルルと手を重ね瞬時に警戒を解いた。
「デュノアの席は後ろだ」
千冬に指示されシャルルは総司の横を横切る。シャルルの去り際、総司は小さな声でシャルルに告げた。
「Vous, je suis un homme」
「えっ…⁉︎」
彼の中性的な顔が歪む。してやったりと総司は笑い、席に着くシャルルを見送った。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツから来た」
シャルルが席に着くともう一人、小柄で銀髪そして大仰な眼帯をつけた女子が教壇に立つ。無愛想が板についた少女で、身のこなしがどこか千冬を想像させる。本国はドイツだという。
「ボーデヴィッヒ、お前の席はあっちだ」
「わかりました教官」
ラウラは千冬にうやうやしく頭を下げた。なるほど総司は全てを察する。そうすると総司の前に腕を組んだラウラが仁王立ちになった。
「お前も個人的な挨拶か?やれやれ、人気者は辛いな…」
総司が言った瞬間、彼の方に鋭い、張り手が見舞われた。別に躱すことも出来た。先ほどからラウラは総司に対し凄まじい殺気を放っていたのだから、しかしラウラが自分にどんな気持ちを抱いているか。なんとなくだが気付くことが出来た。ゆえに総司は甘んじてラウラの一撃を受け入れた。
「私はお前を認めない」
首筋にナイフを突き立てるような鋭さを持ってラウラは総司に告げる。どうやら総司がビンタを受け入れたことで調子付いたらしい。お前を断罪するとでも言いたげだ。お遊びに付き合うのも馬鹿馬鹿しくなって総司は言った。
「これ以上、俺とと関わりを持とうとするのはやめておけ。でないと…俺に惚れるぞ」
ポニーテールと金髪の小さな悲鳴が聞こえるが総司は気に留めず、正面のラウラを見据える。先ほどよりも強く殺気を放つラウラだったが、千冬の注意を受け渋々といった体でその場は退いた。