これがIS学園か…思ったよりも雰囲気が緩いな…
腕組みして不遜に構えながら総司は教室を見回していた。
一ヶ月程前、IS学園の試験会場に不法侵入した挙句、男でありながらISを動かすという暴挙をやってのけた総司にその後待っていたのは秘密警察に引き渡されてからの尋問の嵐だった。しかし総司は持ち前の機転と傲岸不遜さでそれらを躱し、なんとかベルトの存在を隠しきったのである。だがそれでもISを動かしたという事実は当たり前のように曲げられず。監視対象としてIS学園に強制入学となったのであるが…当の本人はどこ吹く風、曲がりなりにも軍事兵器の扱い方を学ぶ専門学校なのだから。もっと殺伐としていると思っていたのだが、生徒達の顔付きは女子校のそれと変わらないな。などと考えながら、まるで他人事のように堂々と最前列の中心という最も目立つ席でふんぞり返っていた。
その威風堂々とした佇まいは周囲の女子生徒達にもしかしてこの空間の異物は自分なのではないかと錯覚させる程であった。
「は〜いホームルームを始めまーす」
総司という巨大で強大な異物を孕んだこのクラス1年1組はこうして始まった。
※
「おばあちゃんが言っていた。世の中で覚えておかなければならない名前はただ一つ。天の道を往き総てを司る男。俺の名は天道総司」
入学式の後、クラスの教室で集まっての自己紹介、そこでぶちかまして涼しい顔をしていた少年に篠ノ之箒は懐かしさを覚えた。
箒にとって総司は小学1年から4年までを共に過ごした幼馴染だった。
変わらないな。総司はいつもああだった。偉そうで一見腹の立つ奴なのだが、気付くといつの間にかみんなの上に立っているのだ。素っ頓狂な挨拶でみんなを引かせてしまったが、一ヶ月もしない内に学校のカリスマになっているだろう。
そんな総司を思うと箒も幼馴染として鼻が高い。いや、待てよ。総司が学校のカリスマになったら…それだけライバルが…それはダメだ。
箒は休み時間を待ち、時が来ると一目散にふんぞり返って腕を組む総司に突撃した。
「ち、ちょっと良いか?」
「なんだ、箒か?お前、さっきから俺を見てただろ?」
「な⁉︎うるさい、いいから来い」
強引に腕を引っ掴み箒は総司を廊下へ連れて出た。のだが…
どうしよう。
箒は迷った。何しろ久し振りにあった憧れの男子である。よもや再び会う事など無いかもしれないとすら思っていたので、この状況にはもはや運命めいたものを感じる。しかしだ、それゆえに箒は気恥ずかしい。うまく言葉が出てこない。
「そういえば、剣道の全国大会で優勝したらしいな。おめでとう」
「なぜそれを!」
緊張でしどろもどろになる箒を見かね総司が口を開いく。慌てて返答したことで声のボリュームが大きくなってしまったのを箒は恥じた。
「毎日欠かさず新聞を読むからな。目に入ったんだよ」
「そ、そうか。なら良い…その、呼びたててすまなかった。知らない仲じゃないし、同じクラスになったのも何かの縁だ、仲良くしよう」
「そうだな」
おずおずと差し出した箒の手を総司が取る。久方ぶりの握手に箒は内心有頂天だった。
※
「これからお前達にはクラス代表を決めてもらう」
教壇に立つ総司のクラス担任総司の姉、千冬は凛として宣言した。実は千冬、IS操縦者の世界大会優勝者である。前人未到の大会連覇も夢ではなかった程だが、引退し、どこぞの軍の教官を経てIS学園の教諭となっている。世界最強の生ける伝説とあってか千冬の影響力は凄まじく、担任として紹介された時は黄色い声援が上がっていた。
凄いものだ。総司は弟として鼻が高かった。
と他人事のように考えていた時である。
「天道総司君をクラス代表に指名します。なんか凄いらしいし」
のほほんと能天気そうな、制服の袖を大きく余らせた女子生徒がマイペースな様子で総司を指名した。
「見込みのあるやつだ。俺はどの道を行ってもトップに立つ男だからな、お前の選択は間違ってないぞ」
後ろの席にいる能天気な女子生徒に総司が言ってのけると他のクラスメイトからも頼りになりそうだと期待の声が上がる。
このまま総司にクラス代表が決定しそうになった。しかし、一人の生徒がそれに異議を唱えた。
「納得できませんわ、私、イギリス代表候補生セシリア・オルコットを差し置いてこのような大口だけが取り柄の男をクラス代表にするだなんて。だいたい、偶然ISを動かしただけの男が図に乗りすぎです。見ていて不愉快ですわ!」
金髪縦ロールの小柄な女子セシリアが立ち上がり、オペラでも演じるかの様に演説する。気まずそうな周囲の様子をよそに総司は静かに反論した。
「セシリア・オルコット。お前は間違っている」
「なんですって?」
「俺に偶然という言葉はない。あるのは一つ、俺が選ばれし者だという必然だけだ。それにクラス代表とかいうのは他クラスと試合をする機会があるんだろう。それなら俺をおいて相応しい人間はいない」
「あなた言うに事欠いて選ばれたエリートである代表候補生である私より自分が強いとでも?」
「当然だろ?一番強いのは俺だからな」
「良いでしょう。天道先生!」
漫画なら額に血管が幾つも浮き上がりそうな程に引きつったセシリアが千冬に向き直る。千冬は一つ大きなため息を付きセシリアと総司を交互に見て言った。
「よろしい、では明日の放課後、オルコット、そう…天道の両人に模擬戦を行って貰う。勝った方がクラス代表だ良いな?」
「もちろんですわ」
「天道は?」
「俺の方も問題無い。すでに結果は見えているがな」
今にもブチギレそうな鋭い視線をセシリアは総司に向ける。当の総司は涼しい顔してそれを躱す。副担任の新米教師山田先生が明日からの連絡事項を伝え終えるまで教室には張り詰めた空気が漂っていた。
※
「総司!」
ホームルームが終わって解散すると箒はすぐに総司の元へ向かった。先程のセシリアへの態度を戒めるためだった。
「騒がしいぞ、お前には落ち着きが無いと前から思って…」
「そんなことはどうでもいい!それよりもオルコットへのあれはどういうつもりなんだ。代表候補生がなんなのかなんてお前がわからないはずはない。まさか本気で勝てるとでも思っているのか?だとしたら今回ばかりはお前の失態だぞ」
勝てるはずはない。そもそも一ヶ月前初めてISに触れて動かせただけの総司では厳しい訓練を積んで国から認められる程になった代表候補生と勝負になるはずがない。だというのになぜ目の前のこの男は平然としている。自分の素行を悔いる素振りもない?まさか自分の力量もわからない程馬鹿になってしまったのだろうか?箒は分からなくなってしまった。
するとそこへ幾つか資料や冊子を小脇に抱えた千冬が苦笑いを浮かべて箒達にに歩み寄って来た。
「総司、今回はしくじったな」
「今彼女にもおなじことを言われた」
「そうか…なら話は早いが、模擬戦を棄権する気は?」
「無い。なぜ勝てる勝負を放棄する必要がある?」
「お前なぁ…まあいいさ、たまには負けることも学べ。お前の将来のためだ。まったく少しは心配させろと思っていたが、ISを動かしたことといい…限度ってものがあるだろうに…お前と言う奴は…ああ、そうだ。総司、お前にはしばらく自宅からの通学を命じていたが、今日からうちの寮で生活してもらう。荷物は私の方で用意しておいてやる。お前のよく使う物なら大抵わかるしな」
「そうか、で、何号室を使えばいい?」
「篠ノ之と同じ部屋を使え」
「ええええええええっ!」
千冬の言葉に箒は思わず声を上げた。なぜ自分が総司と同じ部屋に?嫌なわけでは無い。むしろ嬉しい。しかし理由がわからない。戸惑って箒がワタワタしていると千冬が続けた。
「篠ノ之、総司を頼む。最近のこいつの行動は予測不能でな、面倒見切れん程にぶっ飛んだことをされると困る。私の代わりに見張っておいてくれ」
総司を頼む…義姉からの公認⁉︎
「はい!任せてください!」
敬礼でもしそうな威勢の良さで箒は返事した。