「では天道総司、尋問を始める。お前に黙秘権は無い」
IS学園の空き教室、向かい合って座る千冬の研ぎ澄まされた剣のような眼差し、久し振りに見たなと総司は佇まいを直す。
「天道、このベルトをどこで手に入れた?」
「愚問だな、姉さんは太陽になぜ輝くのかと聞くか?」
「ふざけるな。正直に答えろ」
「はあ…そうだな、ならカツ丼」
「お前な」
「尋問と言えばカツ丼だろ?試合の後で腹も減ったしな」
こりない総司を千冬が睨みつける。ぶん殴ってやろうか。そう思って総司の目を見ると彼の目は出入り口に見張りとして立たされている山田先生をチラチラと見ていた。
なるほどそう言う事か、彼の言いたいことを理解して千冬は山田先生にカツ丼を持って来るよう言い付けた。
「さあ、邪魔者は退かしたぞ」
「なら安心だな。質問に答えよう」
そう言うと総司はゆっくりと語り出した。あの日、千冬に拾われた10年前のあの日を…
あの日、日下部総司は6回目の誕生日を迎えていた。仕事場においで。両親に言われ、総司は3歳だった妹を連れ両親の仕事場である研究所へ来ていた。
そこで、両親のラボで家族四人ケーキを食べていた時、ある事件が起きた。今では白騎士事件と呼ばれる世界的な大事件だった。
世界中の軍事コンピューターが同時にハッキングされて数百のミサイルが勝手に発射された大規模テロ。世界の終わりかと思われたその時、世界初のIS白騎士が迫り来るミサイルの悉くを撃墜した。ただ一発を除いて…
撃ち落とされなかった一発が落ちたのは総司と家族がいる研究所だった。研究所は一瞬で瓦礫の山となった。総司は父に庇われなんとか軽傷で済んだが盾になった父はもうボロボロだった。そんな父から渡されたのが今日まで持ち続けた機械のベルト“ライダーベルト”だったのだ。
「ベルトをつけた俺は一時的に超人的な筋力を発揮した。そのおかげであの場でただ一人瓦礫の中から這い上がって来れたんだ。後は姉さんも知っての通りだ」
「そうか…」
そうその後は千冬もよく知っている。あの日、白騎士を操縦してミサイルを撃ち落としたのは自分なのだから。千冬は打ち損じたミサイルが落ちた先に生存者を探しに行ったのだ。そこで総司を見つけ、自分を育ててくれた天道のおばあちゃんとともに今まで総司を育ててきたのだ。
「このベルトが何なのか、なぜ俺の父さんがこんな物を持っていたのか俺は知らない。父さんも母さんも仕事のことは俺に話さなかったからな。で、姉さんはどうする?俺からベルトを回収してどこかの研究所に渡すか?」
試すような挑発するような総司の言葉に千冬は苦笑いを浮かべた。
「侮るなよ、クソガキ。生憎同じおばあちゃんから教育を受けているんだ。私もお前と同じで世間よりも自分のルールを優先するクチなのさ。お前のそれのことは私が隠し通してやる。その代わり、お前はそのベルトの謎を必ず解明しろ。なにお前なら出来るさ。私の弟なんだからな」
ニヤリと笑う千冬に今度は総司が面食らう。
「姉さんには敵わないな…」
総司がおどけて見せると、山田先生がカツ丼を持って到着した。
「カツ丼持って来ました。天道先生、何かわかりましたか?」
「ああ、あれは総司の専用機だ」
「はい⁉︎いや、そんなおかしいですよ。だって」
「総司の専用機だ。疑問反論は許さん、納得しろ」
「えええええええ⁉︎」
「天道、カツ丼を食べたらさっさと帰れ。山田先生は私の許可なくこの件を口外しないように。以上、後は好きにするがいい」
千冬の宣言で尋問は終わった。
※
「では天道総司君のクラス代表就任を祝して乾杯!」
騒がしい奴らだ。食堂で開かれたパーティの中心に入込まれた総司は内心で呆れた。カツ丼とついでの尋問を処理して寮の自室へ帰ろうとするとたちまちクラスメイトたちに囲まれてこうして食堂に連れてこられたのだ。
「まったく、人気者は辛いな…」
思わず声も出てしまうという。そうすると横についていた箒が総司をギロリと睨んだ。
「楽しそうだな?」
「勘違いだ。祝われるのはガラじゃない。かと言って誰かを祝ってやる気も無いがな」
「そうか、なら良いが…」
「総司さん!」
とそこへセシリアが現れ、なんとも自然に総司の腕を取る。箒が威嚇の視線を飛ばすがセシリアはお構いなしだ。
「先生に心配されていて私心配していましたのよ。大丈夫でした?」
「ああ、なんともない。尋問は慣れっこだ。ISを動かした後にウザいほどされたからな。まあどいつもこいつも大したことはない。煙に巻いてやったがな」
「まあ、頼りになりますわね。そう言う男性、私、好きですわ」
「なっ!」
セシリアの電撃告白に箒は絶句する。しかしそんな箒とは裏腹に総司はいつものごとく冷静だった。
「そうか、気持ちはわかるが俺に惚れるなよ。他の女が寄ってきて毎日気が気じゃないだろうからな」
「まあお上手」
ほざく総司をセシリアがおだてる。それからもひっきりなしに女生徒達が総司に色目を使い、箒は毎分気が気じゃなかった。
※
「ここにあいつがいるのね。待ってなさい天道総司」
次の日の朝、学園の正門前にツインテールの小柄な少女が仁王立ちしていた。
総司の前に新たなトラブルが起ころうとしていた。