篠ノ之箒が寝坊する事は無い。なぜなら毎朝決まった時間になるとクラシック音楽と共に朝食を作ってくれるルームメイトがいるからだ。
「おはよう、箒」
満面の笑みで作務衣を着て総司が箒を起こす。テーブルにはすでに朝食が用意されていた。いつも何時に起きているんだ?そこそこ手間のかかりそうな朝食の内容に箒は疑問を浮かべたが、まあ、総司だし。という言葉でなんとなく納得出来てしまう。
「さっさと食え、今日も学校だ」
総司の言葉に頷き、箒はテーブルの朝食に箸をつけた。
※
「ねえ、ねえ天道君聞いた?転入生が来るんだって」
なるほど、どうりで騒がしかったわけだ。教室に着くと生徒たちがどうにも浮ついていた理由を総司は察した。
「しかし、なぜこの時期なんだ?中途半端が過ぎるだろ」
総司は解せなかったなぜこの時期に?普通なら2学期が始まってすぐだとかそう言う区切りの良いところで来るはずだ。まだ4月の半ばである。なぜ普通に入学してこなかったのか。という疑問があった。
「今さらながらにイギリス代表候補生の私を危ぶんでの転入かしら」
違うと思う。話に割って入ったセシリアに総司が心中でツッコム。するととても懐かしい顔が総司の前に現れた。
「このたび1年2組のクラス代表になった中国代表候補生
小柄な体にサイドアップのツインテールの少女、凰 鈴音と名乗る彼女は総司の知らない顔ではなかった。
「なんだ。お前もIS操縦者になっていたのか、鈴」
「その通り、て言うかその言葉、あんたにそのまま返すわよ。なにIS動かしてんのよあんた」
「忘れたのか?俺は天の道を往き…」
「はいはい、それは耳にタコができるぐらい聞いてます。いちいち長くなるんだからやめてよね」
呆れた。本当に何も変わらない。総司と離れ離れになったのは1年程前、中学三年に進級する前に両親の都合で母国中国へと帰ったのだ。あの時程両親の決断を恨んだことはない。自分と憧れの少年総司を引き裂いたのだから。
でも、こうしてまた会えたってことは、もしかして運命?
1人妄想に花を咲かせて鈴は顔を赤らめる。周囲が彼女に向ける懐疑の目も気にならない。
「あの、総司さんこの方とはいったいどういう関係で?」
不快感を隠すこともせずセシリアは割入った。しかしその時、彼女達にとって恐怖の担任教師千冬が現れた。SHRを始めるという彼女の鶴の一声でその場はお開きとなった。
「じゃあね、総司。また仲良くしてよね」
ニッコリと笑って出て行った鈴にセシリアと箒は敵意をあらわにしていた。
※
「総司!あいつは何者なんだ!」
「総司さんあの方は誰ですの!」
昼休みの食堂、テーブルの両脇を固められた総司にセシリアと箒の怒声が襲いかかった。
「やれやれ、大きな声を出すな。おばあちゃんが言っていた。食事の時間は天使が降りてくる時間だってな」
「そんなことはどうでも…よくはないが…これをはっきりさせておかないと私は気になってちゃんと食事がとれん」
「なるほど、それなら仕方ない!」
「ナイスですわ箒さん!」
以前付き合いのある箒だからこそ出来るファインプレーだった。こと食事に関して総司はかなりの哲学めいたこだわりがある。箒は感情的になるのをなんとか堪え、そこにつけ込んだのだ。
「あいつは凰 鈴音は、箒と同じ俺の幼なじみの一人だ」
「なに⁉︎私はあんなやつ知らんぞ!」
「当然だ。ちょうど箒とは入れ違いだったからな。彼女と出会ったのは小学4年に進級した時だ。中国から来たということで好奇の視線にさらされていたのを俺がなんとかしてやったというわけだ。それ以来どうにも懐かれてな…」
ああ、惚れられたんだな。詳細についてはわからなかったが鈴音が総司に対してどういった感情を抱いているのかは理解できた。そして同時に同情もした。自分達と同じくこの変態に惚れてしまった仲間なのだと。
「あら総司じゃない」
噂をすればだ。お盆にラーメンを乗っけた鈴である。総司から聞いた話で同情したのかセシリアが席を譲った。
「えっ?ありがと…。あ、そうそう1組のクラス代表ってあんたよね総司」
一瞬戸惑ってセシリアに礼を言うが本当に一瞬だった。すぐに切り替えて総司に向き直る。
「そうだ、俺はどの道を行こうともトップに立つ定めだからな。当然と言えば当然だろう」
「それもそうよね、あんたが人の下に甘んじてるのなんて想像出来ないし、見たくもないもん。それはそうと話なんだけど…今月末にクラス代表対抗戦があるのは知ってる?」
クラス代表対抗戦、IS学園の生徒達が日々の成果をお披露目する場である。というのは建前で、クラス代表対抗戦にかける彼女達のモチベーションはかったクラスの生徒に配布されるという食堂のスイーツ無料券だ。
くだらない。それぐらい俺が作ってやるのに…と総司は常々思っているのだが、勝負に負ける理由も無い。対抗戦とやらが始まればとりあえず優勝を持って帰ってやるかと考えていたのである。
「知っているがどうした?」
「その…アタシが勝ったら、アタシと付き合って欲しいの!」
「「「「ええええええええええええええ」」」」
食堂内に激震が走った。まさかの電撃告白である。生徒達の悲鳴にも似た声が上がる。
そして怒りで目尻を釣り上げたセシリアが鈴に詰め寄った。
「ちょっとあなた!どういうつもりですの?」
「べ、別に良いじゃない!アタシが誰と付き合おうが関係ないでしょ?文句あるわけ?」
「文句って…そんな…あ、あるわけではありませんけど、総司さんはダメです!」
「その通りだ凰 鈴音!勝手に総司に手を出すな」
セシリアに箒も続く、そんな二人を見て鈴も気付いた。彼女達は自分のライバルだと、しかしそれで抜け駆けは良くないと引き下がらないのが鈴という少女だった。勝負には勝たなければ満足出来ないのである。
「だあ!あんた達がなんと言おうと関係ないわ。対抗戦でアタシがかったら総司はアタシと付き合う。良いわよね総司?あんたなら勝負から逃げないわよね?」
「当然だ。俺に敗北という文字は無いからな」
「な、総司さん⁉︎ズルイですわ!幼馴染みだからって、総司さんの気性につけ込んで!」
「なんのこと〜?本人が了承したことになんであんたが口を出してくるわけ?」
「ぐぬぬぬぬ…!」
ギリギリと歯を食いしばり歯噛みをするセシリアと箒、さらには修羅場の匂いを嗅ぎつけて沢山の生徒達が総司達のいるテーブルを取り囲み食堂はカオスの様相を呈してきていた。しかし、
「うるさいぞ小娘ども!食事の時間は天使が降りてくる時間だということを知らんのか!」
鬼教官千冬の怒声が響き渡り、事態は沈静化した。
※
「どうした箒、機嫌を直せ」
「お前なんて知らん!」
夜、寮の自室に戻った総司はすっかりへそを曲げた箒に手を焼いていた。シャワーを浴びて浴衣に着替えたきりベッドに潜り込んでまともに口を聞こうとしないのだ。
「まったく、怒ったり喜んだり、忙しいやつだ」
そっとしておこう、明日になれば少しはましになるのが箒の定番パターンであることを総司は知っていた。とりあえず明日の朝食の仕込みでもしておくか、思い立って総司はキッチンへと足を運ぶすると、誰かが部屋のドアをノックした。
「誰だ?」
ドアを開ける。ドアの前にはどうにも気の抜けた顔をした着ぐるみの寝間着の少女が立っていた。
「お前は確か…」
「ああ、私、同じクラスの
言い得て妙なアダ名だ。総司は心の中で納得する。
「で、その布仏が俺になんの用だ?」
「あ、そうそう、総司君。次の対抗戦は絶対負けないでねって言いに来た。まあ負けないだろうけど、一応って事らしいよ。後、勝ったとしても泣き落としで結局付き合うことになりましたって言うのも認めないって、自分の立場をわきまえなさいだって。それだけ、じゃあね」
「何?おい」
総司が止めるのも聞かず本音はのらりくらりとして自分の部屋に戻ってしまった。
「なんだったんだ?」
残ったなんとも言えない空気の中、総司は呟くことしか出来なかった。