インフィニット・ストラトス 天の道を往く者   作:JB・jb

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高速のビジョン

4月末のIS学園は祭りの装用をていしていた。クラス代表対抗戦。食堂のスイーツ無料券をかけた大行事だ。

1年の部2年の部3年の部に分けられたトーナメント戦を勝ち残れば、賞品をゲット出来る。

その中に今日一番の注目カードがあった。1年の部第1試合。

天道総司VS凰 鈴音だ。

 

「いつも以上の盛り上がりですね」

 

アリーナの管制室、試合のモニタリングを任された山田先生が困った声で自分の背後で仁王立ちする千冬に言った。

 

「どうした、困りごとか?」

 

「その…天道君のISのことがどうも…クラス代表対抗戦って各国からIS関係の企業や軍の方が視察に来られますよね。そんな場であれを見られたら…」

 

「なんだそんなことか…それなら既に外部の立ち入りを禁止した」

 

「えっ⁉︎そんな、どうやって納得してもらったんですか?」

 

「どうやっても何もない。校長先生を通してそれっぽい説明をしてもらっただけだ。元々、外部から視察に来るということは自国のISを他国の技術者に見られるということだ。もちろんその逆で他国のISを見ることも出来るが、そのあたり彼らにとってジレンマだったのだろう平等に禁止にすれば苦い顔をしながらも納得したらしい。あとで代表候補生達が戦闘記録なり何なりを本国に送ればデータ取りぐらいは出来るわけだしな」

 

「なるほど…そうだったんですか…あ、試合が始まりましたよ」

 

山田先生がアリーナに生身で出てくる総司と戦闘態勢を整えてISを展開して出撃してくる鈴を指差す。それとほぼ同時に総司を見送って来た箒とセシリアが管制室に入って来た。

 

「始まりますわね」

 

「ああ、凰のISは見たところ近接格闘型だが…」

 

「あれは中国が作った最新鋭機“甲龍(シェンロン)”だ。近中距離戦に特化したハイパワーな機体だ。さて総司、お前のあれがどれほどの力があるのか見せてもらうぞ」

 

『変身!』

 

モニターの向こうでカブトゼクターをキャッチした総司がカブトへ変身する。セシリアと箒は祈るように手を組んで、千冬と山田先生は冷静に観察するような目をモニターに向けていた。

 

 

『HENSHIN』

 

機械音声がなるとたちまち小さな六角形が連なり総司の体を包む装甲になる。

 

「これがあんたのIS」

 

変わった形だ。誰もがそう思うであろう感想を鈴は抱いた。そもそもISなのだろうかとさえ思う。それぐらいカブトの形状は異様だった。

 

「まあ良いわ、なんであれアタシはあんたを倒す。行くわよ総司!」

 

回線のブザーが鳴る。鈴は2丁の青竜刀、双天牙月を構えカブトへ襲いかかって来た。

カブトはそれを真正面から受けて立つ。両腕でガードを取り、双天牙月を受け止めたのだ。カブトの分厚い装甲が双天牙月の斬撃を止める。

 

「はっ!」

 

カブトはすぐさま双天牙月を押し返し、徒手格闘を挑んだ。インファイトの強力な連打が鈴を打つ。

 

「くっ」

 

息を漏らした鈴はたまらずスラスターを使い、カブトと距離を取った。

 

「初撃をかわした上に反撃だなんてやるじゃない。でもね…」

 

ニヤリと鈴の口元が上がる。その直後ガゴンと鈴のIS甲龍の肩部装甲が開いた。

なんだ?

カブトはその現象の意味を理解する間も無く、次の瞬間見えない何かに吹き飛ばされた。

 

「うっ」

 

「へえ、衝撃砲を耐えるなんて、その不恰好なゴツい装甲も無駄じゃなかったみたいね」

 

自慢気に語る鈴、しかしその時には既にカブトは見えない何かの正体に気付いていた。

 

「“衝撃”砲か。なるほど、もう一度撃って見ろ、次は当たらん」

 

カブトが挑発する。鈴がこう言った挑発にすぐに乗ることはよく知っていた。

その予想通り、鈴はもう一度は肩部装甲を展開してカブトにそれを打ち出した。

“衝撃砲…名前と見えないという現象から考えるにあれは恐らく圧縮した空気を打ち出して相手を吹き飛ばしているのだろう。笑えない威力の空気砲というわけだ。それゆえ砲弾を視認出来なかった。だが、見えないだけで実態がないわけではない。圧縮されているということはそれほどの塊になっているのである。ならば”

 

カブトは右手にカブトクナイガンというハンドアックスとしても使える万能武器を展開し、発射された衝撃砲、その空気の塊を叩き切った。

 

「なっ⁉︎見えない砲弾を見切った!へえ、さすがは総司、やるじゃない。でもね…!」

 

そう言うと鈴は2丁の双天牙月を合体、双刃刀にすると一気にスラスターを吹かしカブトへ突撃した。しかし、その時…鈴の目の前に衝撃と砂埃が発生し、彼女の行く手を遮った。

 

 

「なんだあれは!」

 

管制室、一瞬にして非常用の真っ赤なランプが光りだしたそこで箒は叫んだ。

 

「何者かがアリーナのエネルギーシールドを破壊した模様、数は2機!」

 

「IS学園に襲撃なんて、いったいなぜ⁉︎」

 

「目的など知ったことか!客席に非常隔壁を下ろし生徒を退避させろ。それから教師陣を応援に回せ!」

 

「やっています。しかし最初の一撃でシールドが破られたためにあらゆる隔壁がオートで閉じたようで、身動きが取れないそうです。天道君と凰さんのいるアリーナも逃げ場がない状況です」

 

「ならば、3年生をハッキングに向かわせろ、隔壁を開けさせるんだ。それとマイクを貸せ」

 

山田先生の返事も聞かぬまま千冬はマイクをひったくると共通の回線を開く。プライベートなどまどろっこしい、どうあれ当人達に聞こえれば良いと判断してのことだった。

 

「総司、凰、教師陣は身動きが取れない。応援が来るまでの間、耐えろ」

 

 

『応援が来るまでの間、耐えろ』

 

スピーカーから千冬の声が響く、カブトと鈴の目の前に2機の正体不明機が降り立った時だった。

嘘でしょ…

背中を冷や汗が伝うのを鈴は感じた。奴らが破ったアリーナのバリア、それはISが操縦者を保護するために展開しているものと同じものなのだ。それを破ると言うことはすなわち命をかけて戦わなければならないということなのだ。

もちろん鈴とて、軍に所属しているIS操縦者だ。戦争ともなれば戦わなければならないし、そのための訓練も受けてきているが、実際にここでやれとなると恐怖を感じずにはいられない。

でも、と鈴は踏み止まる。目の前にはカブト、総司がいる。自分の攻撃をやり過ごしていた彼だが、ISでの戦闘経験は浅いし特殊な訓練を受けたわけではない。そんな人間がいきなり実戦に放り込まれたのだ。自分が守らずして誰が守るのだろうか、こんなときのための訓練だったのではないのか?自分に言い聞かせて鈴は奮い立った。

 

「総司、あんたは隠れてなさい。アタシが食い止める」

 

覚悟を決めて告げる。しかし

 

「自分を犠牲にして誰かを助ける。戦士のする事じゃないな」

 

カブトはそう返答し、あろうことかクナイガンで敵を銃撃、先制攻撃を浴びせたのだ。

 

「バカ!」

 

鈴の言う通り、銃撃を当てられると2機はカブトに狙いを定め、バーニアを吹かせると凄まじい速さでカブトに体当たりの波状攻撃をぶちかました。衝撃でカブトは宙を舞い、そこから地面に叩きつけられる。

 

「総司!」

 

「生きてるよ」

 

攻撃が止むとカブトは片膝を立てて立ち上がり、鈴に答える。どうやら装甲のおかげで助かったらしい。

 

「この馬鹿、あんたの“それ”じゃ歯が立たないってわかんないわけ!」

 

「知ってるよ」

 

無謀な攻撃を行ったカブトを叱責する鈴、カブトはそれになんの悪びれもなく答えて見せた。それが鈴には腹立たしかった。

 

「何言ってんのよあんた!それがわかっていながらどうして⁉︎」

 

「悪いがベルトとの付き合いは長いんでね。いざ使いこなすとなればそう時間はかからない。“この姿”でどこまでやれるか試していたのさ」

 

「この姿?あんた何言って…」

 

鈴の言葉に応えず、カブトは直立するとベルトにセットされたカブトゼクターの角を軽く跳ね上げた。すると周囲に警報のようなアラームが鳴り響き、カブトの上半身の大きな装甲が続々と浮き上がる。

 

「キャストオフ」

 

カブトは宣言し、カブトゼクターの角をレバーのように引いた。

 

『CAST OFF』

 

ベルトから電子音声が流れた直後、浮き上がった上半身の装甲が一斉にパージされた。巨大な装甲に隠されたスマートな真紅のアーマーがあらわになり、下顎を起点にカブト虫のような巨大なツノが起き上がる。

 

『change beetle』

 

ツノが起き上がるとカブトの青い瞳に光が宿る。これによりカブトは巨大な装甲に覆われたマスクドフォームから真の力を発揮するための高機動形態、ライダーフォームへと変身した。

 

「クロックアップ」

 

『clock up』

 

ここからが本番とばかりに総司は2機の敵と相対するとベルトの右側についているスイッチを叩いた。

そしてその瞬間、世界が止まった。

 

「何⁉︎」

 

辺りを見回し、鈴は声を上げる。自分の見ている世界がまるでスロー再生のようにゆっくりとしか動いていないのだ。

舞い落ちる砂埃、チリの一つ一つが異常なほどにゆっくりと動く。そんな世界で装甲を外した真っ赤なカブトと敵が殴り合っていた。いや、殴り合っていたというと語弊がある。殴りかかる敵機にカブトがカウンターを当てて一方的にボコボコにしているのだ。

さすがに敵機も殴り合いは不利と見て距離を取る。そして腕についたレーザーの銃を発射した。しかし、発射された瞬間、レーザーは停滞する世界に飲まれた。通常とは比べものにならないほど、その気になれば小学生でも避けれるほど遅くしか前に進まない。

何が起こってるの?わけもわからぬまま、状況を把握しようとしていると甲龍が鈴に異常を告げた。

“コアにタキオン粒子の干渉あり、PIC機能不全”

タキオン粒子⁉︎知識が広い方ではない鈴にとっては甲龍が何を言いたいのかちんぷんかんぷんだった。ただ一つ言えるのはISの浮遊を司るPICは働かない。つまり今は飛べないという事、そしてさっき見た通りレーザーなどの飛び道具はゆっくりしか動かない。レーザーであれなのだ実弾など目も当てられないだろう。つまりあの敵たちはカブトを相手に近接格闘を挑むしかないのだ。

 

「はっ!」

 

鈴がここまでを理解するまでに1つの戦いが終わった。カブトが逆手持ちのクナイを敵の一機の胸に突き立てていたのだ。

 

『clock over』

 

その音声を合図に世界は再び元に戻る。胸に大穴を開けて倒れる敵機と何事もなかったように堂々と立つカブトがいた。

 

 

「何が…起こった…」

 

モニターでカブト達の戦闘を観察していた千冬は唖然として呟いた。彼女だけではない。山田先生も箒もセシリアも目の前の事態にただただ絶句していたのだ。彼女達は先程まで総司を助けに行くと言って聞かなかったセシリアを宥めすかしていたのだ。そうするとカブトが装甲をパージし、ライダーフォームへと二段変身を遂げる。すると、その直後、カブトは敵機の胸にクナイを突き立てて勝負が付いていたのだ。

 

「天道先生、私、長い瞬きでもしていたんでしょうか⁉︎何が起こったか全く把握出来ないんです!」

 

「私も同じだ…お前らは⁉︎」

 

「私も何も…」

 

「同じく…」

 

「ええい!教師陣はまだか!」

 

そう言う事が千冬の精一杯だった。

 

 

「総司、もう一機が逃げちゃう!」

 

時間が元に戻って飛行不能から解放されたのか、生き残った一機がぶち開けたバリアの穴を通って外に出る。

見たところカブトに飛行機能は無い。なんとなく鈴にはわかった。なら自分が追うか?しかし千冬からの指示はあくまで防衛であるならばここは逃そう。鈴は判断をまとめた。だがその時、ガン!と隔壁を突き破るほどの猛スピードでカブトと同じ色で同じくカブトムシを模したスポーツタイプのバイクが無人走行でアリーナへ突っ込んで来たのだ。

 

「何このバイク⁉︎」

 

次から次へとなんだ!と心の中で怒りを堪える鈴を尻目にカブトはさも当然のようにやって来たバイクに跨るとその場でターンし、校舎の内部を経由して敵機を追跡しはじめた。

 

「いた」

 

校舎を飛び出し、正門を飛び越え、IS学園に続く巨大な吊り橋の上空を飛んでいる敵機をカブトは捕捉する。あいにく吊り橋の交通量はほぼ無い。やるならここだ。カブトは再び、腰のスイッチを叩いた。

 

「クロックアップ」

 

『clock up』

 

それを合図に時の流れが遅くなり、タキオン粒子の干渉を受けたISが飛べなくなって落ちてくる。カブトはバイクから跳んで、空中戦を仕掛けた。数度殴り合いカブトは敵機を蹴り飛ばして地面へ叩きつける。そして遅れて着地したカブトは敵機にラッシュを加え反撃を許さなかった。しかし、

 

『clock over』

 

唐突な時間切れにより、時の流れが元に戻る、敵機はこの機を見逃さなかった。腕についたレーザー放ち、カブトを銃撃する。高速で2発放たれたレーザーは爆炎を上げてカブトを飲み込む。

だが、カブトは倒されてはいなかった。レーザーを済んでで躱し地面に着弾させていたのだ。モクモク上がる白煙の中からゆっくりとカブトが姿を現し、敵機へと歩み寄る。

ズンズンと早歩きで距離を詰めるカブトに敵機は近接戦を仕掛ける。バーニアを使って加速し、カブトを迎撃する。カブトをそれを身を翻して躱した。回転を加えた裏拳もオマケして、敵機を自分の背後に殴り落とした。

 

『one two three』

 

敵に背中を向けたままカブトはカブトゼクターのスイッチを順に押し、レバーを1度戻す。そして戻したレバーにそっと手をかけた。その時背後では殴り落とした敵機が起き上がっていた。敵機はもう一度近接攻撃をしようと構えていた。

カブトは今までの戦いから敵の行動を全て読んでいた。敵は相手との距離を判断して遠距離と近接を使い分けていることを、さっきカブトが殴り落とした敵機の位置は絶対に近接攻撃を仕掛けてくる距離だったのだ。

 

「ライダーキック…!」

 

『rider kick』

 

敵機が向かって来るのを背後で感じ、カブトはゼクターのレバーを倒す。特徴的な巨大なツノ、カブティックホーンを経由して、エネルギーがカブトの右足へ溜まっていく。

 

「はっ!」

 

ここだ!振り返りながら背後の敵を蹴り抜く。カウンターキックは敵の頭を捉えた。強力なエネルギーの衝突を受けた敵機はカブトの背後で爆散した。

後に残ったのは爆発で散った破片とその余波で上がる白煙。そしてれらを背後にゆっくりと天を指差すカブトの姿だった。

 

 

「カブトが目覚めました」

 

薄暗いビルの一室、スーツを着た金髪の女性が偉ぶった男性に報告する。

 

「そうか、生きていたのか…ところで君はフクロウは好きかね?」

 

「はい?」

 

「例え、獲物が暗闇に紛れても、息を殺して潜んでいても、鋭い爪で仕留める。我々と同じだよ。わかるね」

 

「はっ、必ずやカブトを仕留めます。亡国企業(ファントム・タスク)の名にかけて」

 

 

 

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