IS学園地下、IS学園の中でも一握りの人間しか入れない秘密の部屋があった。
「解析の結果、侵入者の正体は完全自動制御の無人機であると判明しました」
地下の秘密の部屋、モニターに映し出されるたくさんの資料を指し示しながら、山田先生が千冬に告げる。
「遠隔操作でもなく完全自動制御か…」
「天道君わかっていたんですかね…」
モニターの映像をカブトの戦闘に切り替える。あの時、カブトが装甲を外しライダーフォームにチェンジした直後、千冬達が視認できなかった戦闘の様子が映し出されている。時が止まっているかのように感じてしまうような高速の世界で戦うカブトと無人機の様子だ。
「甲龍と無人機のレコードから見るに、最初の銃撃で大方の予想をつけていたんだろ。ああ見えて総司は加減を心得ているからな、人が入っているかもしれないものをここまで容赦無く破壊したりはせんよ」
「そうですか…。でも天道君はもう少しルールを守る事を覚える事をしたほうがいいと思います。敵を追って市街戦なんて、一歩間違えば大変なことになってましたよ」
「ああ、それはな…なんというかすまん」
耳が痛い。総司がああなったのは十中八九育ての親である千冬とおばあちゃんのせいだ。総司自身、驕っているわけではないのだがいかんせん色んな事が出来すぎてルールや何かに合わせるという事を軽視している節がある。親として潔癖なまでにモラルというものを叩き込んでいるから、他者を理不尽に傷付けることはしないが、ルールとは自分を守る為にある。このままルールを軽視すれば他でもない総司自身がやられてしまうのだ。それはあってはならない。
「あいつにはきつく言っておくよ」
「お願いします。副担任ではありますけど、私も自分の生徒を失いたくないですからね」
「そうだな、では山田先生は引き続きクロックアップやタキオン粒子を使った技術について調べてくれ、もちろん極秘で頼むぞ」
「了解です」
※
5月の頭、世間と同じようにIS学園にもゴールデンウィークの大型連休がやって来ていた。外出の許可が出た総司は先日手に入れたバイク、カブトエクステンダーの調整も兼ねて実家の方へ帰省していた。
たった一ヶ月いなかっただけなのに、地元の風景がなんだか懐かしく覚えた。
そうだ。
不意に思い立って、総司はバイクをとある定食屋の前に止めた。
“加賀美食堂”
中学時代から世話になっている総司の行きつけの定食屋だった。アホみたいに不味い定食しか出さない店なのだが、一部美味しいものもあるのである。
「いらし…げっ!天道⁉︎」
「失礼な店員だ、俺は客だぞ。いらっしゃいませはどうした?」
店の玄関を開けて早々、総司と同じ年頃の少年が総司を出迎える。彼の名は加賀美弾、総司とは腐れ縁の仲である。彼との馴れ初めは、とある事件があり、その後同じ中学である事が発覚したという感じだ。
「それはそうと久しぶりだな、IS学園に通ってんだろ?」
「お前に答えてやる義理はない。それよりいらっしゃいませだ」
「なんだよつれないな。じゃあ、いらっしゃいませ。ご注文は何にしますか?」
「まかないを出せ。それ以外は食わん」
「はいよ、ラーン!ラーン!まかないつ食ってくれ!」
弾は二階にある居住スペースに繋がる階段を見上げると、そう叫んだ。
「お兄ぃうるさい。まだ昼時でしょ!まかないには早いよ!」
怒鳴りながら呼ばれた主が隙だらけの部屋着姿で店舗へ降りてきた。加賀美蘭、弾の妹である。
「蘭、まかないを出せ」
蘭の姿を視認した総司はすかさず、命令する。その瞬間蘭はフリーズした。
「そ、そ、そ、そそそそそ総司さん⁉︎うわああああああああ!お兄ぃの馬鹿っ!」
泣き出すように叫ぶと蘭は脱兎の如く階段を駆け上がった。するとそれから数分も経たぬうちに、目に見えたおめかしをして再び舞い戻ってきた。
「いらっしゃいませ、いつものまかないですね。ちょっと待っててください。今日は総司さんも絶賛したサバ味噌ですよ」
そう言うと、鼻歌を歌いながら蘭は厨房へ引っ込み、そそくさとサバ味噌を作り始めた。
「まったく蘭のやつ、天道が来るといつもあれだよ」
「蘭のやつ俺に惚れてるようだな。義弟にしてやってもいいぞ」
「ふざけろよ、戸籍上はお前が義弟だ。いやそうじゃなくて…お前と親戚なるなら死んだほうがマシだ」
「俺もだ、それに蘭は俺の妹分だしな。手は出さんさ」
「それなら良い」
と言いつつ弾は蘭を見る。決して報われない恋をしている妹が少し哀れに思える。だが、初恋とは実り難いモノなのだ。ゆえに蘭にはそれを乗り越え、強い女になって欲しい。しかも自分は天道と親戚にならずに済む。蘭は総司とくっつかない方が良い事が多いのだ。
そうこうしているうちに蘭が出来上がったサバ味噌を持ってきた。蘭の笑みを見るに今の話しは聞かれていないようだ。弾はホッと胸を撫で下ろした。
「赤味噌白味噌、信州味噌のブレンドだな。、美味い。料理の腕じゃ、俺は蘭には勝てないよ。早く店を継いだほうがいい。おばあちゃんは言っていた。不味い飯屋と悪の栄えたためしは無いってな。お前の爺さんが厨房を仕切っている限り、この店は繁盛しない」
「天道‼︎テメエなんか言ったか‼︎」
厨房からデカイ声が聞こえる。加賀美厳、弾と蘭の祖父で料理人なのだが、彼の料理はどれもこれも不味い。この店に来る度、総司は彼に隠居する事を促しているのだが、御歳80。まだまだ元気に鍋を振るっている。
「こりゃまだまだ続けそうだわ」
呆れたように弾が呟くと、総司も深いため息を吐いた。
※
とある雑居ビル、表向きは広告会社のオフィスが入っていることになっている。だがそれは嘘だ。亡国企業、このビルはそう呼ばれる集団の隠れ家の一つである。
「なんでだよスコール。なんでオレがあんな奴と仕事しなきゃならねえ!」
「良い子だから言う事を聞いて、オータム。“蜂”はあなたではなく彼を選んだ。ライダーでない者にワガママは許されない。あなたも社員ならばわきまえなさい」
ビルの廊下、長い茶髪の女性オータムが金髪の女、スコールに詰め寄っていた。乱暴な言葉遣いのオータムにスコールは母の優しさと厳しさを持ってそれをなだめている。そんな所に1人の男がやって来た。
「ご機嫌麗しゅう。スコールさんオータム」
「ご機嫌よう矢車君」
「矢車っ…!」
矢車、そう呼ばれた男にスコールは社交的に挨拶し、オータムは敵意をあらわにする。矢車はオータムを一瞥すると自慢気に語り始めた。
「社長から改めて仕事の指示が出ましてね。その挨拶に参りました」
「そう、とうとう始まるのね、ようやく“蜂”に選ばれたあなたの実力を拝む事が出来るわ」
「そういうことです。社長の指示通り、サポートにオータム君を借ります良いですよね?」
「誰がテメエの下なんか…」
「社長命令だよ、オータム君。逆らうのか?」
「くっ…」
「オータム君、君には落ち着きが足りない俺を見て学ぶといい。俺の“パーフェクトハーモニー”を見てね」
「そうよ、オータム。パーフェクトハーモニーを学ばせてもらいなさい」
「スコールまで…くそ…今回だけだ…次はねえ…」
「よく言ったオータム君、では始めよう、“カブト捕獲計画”をね」