「まったく、大して繁盛していないくせに食材を切らすなんて…あの爺さんは店主失格だ」
商店街を弾、蘭と並んで歩きながら総司はキッパリ言い切った。
ことの発端は数分前に遡る。サバ味噌を食べ終わった総司はいつものように代金をツケにして自宅へ帰ろうとした。それを弾の祖父厳が呼び止めた。豆腐が足りないので商店街の豆腐屋で買って来いというのだ。
加賀美に行かせろ。総司は即答したのだが、そこへ弾の母、蓮が割って入った。蘭に良い豆腐の選び方を教えて欲しいのだという。
それから蓮が意味ありげな目配せをすると、蘭が是非と総司の手を取る。そうすると今度は弾が手を挙げた。必死の形相で俺も行くと熱望したのだ。
そして今に至るというわけである。
(もう、なんでお兄ぃまで付いてくるのよ)
(じいちゃんも母さんも余計な気を利かせやがって、天道が蘭と付き合うなんて俺は認めえねえぞ)
総司の両脇を固める蘭と弾はそれぞれの思惑を抱えて互いを睨む。同行する2人が何やら考えていることに総司も気付いていたが、俺には関係ないと我関せずを貫いた。
そうこうしているうちに3人は目的の豆腐屋へと到着していた。
「絹ごし」
「絹ごし」
店主の前に立ち、手慣れた様子で総司が注文を告げる。その声に重なる声があった。
ムッとむくれて総司が隣を見るとそこには総司より少し年上らしい男の姿があった。髪は多少茶色がかっていたが生真面目そうな雰囲気を漂わせている。
「ごめんね、残り一丁しかなくてさ」
同時に注文を出した2人に店主は申し訳なさそうに謝罪する。
「俺の可愛い部下に食べさせてやりたいんだが…」
真面目そうな男が語る。
「俺の可愛い妹分もこいつを必要としている」
すかさず総司も反論する。
「なら互いの大切なものをかけて、ここは公平に分けよう」
「断る、おばあちゃんが言ってたよ。二兎追うものは二兎とも取れってな」
「面白い事を言う。名前を聞いても良いかな?」
「俺は、天の道を往き、総てを司る男…」
「ほう、大きく出たね。だが果たして君に天を語る器があるのかな?」
真面目そうな男に言われ総司は蘭が持っていた手提げに入れていたボウルを取り出した。絹ごし一丁入れるのには過ぎた大きさの業務用のボウルである。
「器ならある、それもかなりデカイぞ」
どうだとばかりに総司は男にボウルを見せつける。そこで総司はハッとなった。周囲に複数の殺気めいたものを感じたのだ。それも、目の前男と自分を注視して発されている。
「お前…何者だ…?」
「気付いたようだね、天道総司。またの名を、太陽の神カブト」
「なんだと?」
「我々は以前から君をマークしていたんだよ。IS学園までは手が伸ばせなかったがね。穴倉から出てくるのをじっと待っていた」
「何が望みだ?」
「君の身柄の確保。我々の目指す未来のために君が必要なんだ。手荒な真似はしたくない。大人しく付いてきてくれないか?」
「断る、俺は誰からの指図も受けないし、よくわからんやつを信用したりしない」
「そうか、なら仕方ない」
パチンと男が指を鳴らした。その瞬間、周囲に複数の足音が響き、やがて総司達を取り囲んだ。
「天道、やばいぞこれ!」
「総司さん、これはいったい」
気付けば周囲に一般人の姿はなくなっていた。この中で何も知らない人間はと言えば弾と蘭、それと豆腐屋だけだ。
「やれやれ、人気者は辛いな」
肩を落とし、深いため息を吐いて総司はこの状況をボヤく。その直後、何かが総司の方をかすめ、残り一丁だった絹ごし豆腐を粉砕した。
「オータム!余計なことはするなと言っただろ!」
男が叱り付ける。オータムと呼ばれた女は蜘蛛を思わせるISを展開していた。
「うるせえんだよ矢車!こんな生意気小僧なんざとっとと捕まえリャ良いんだよ!」
「黙れ、スタンドプレーは許さんと言ったはずだ。俺のパーフェクトハーモニーを乱すな。まあいい、幾らでも修正は効く。シャドウ全隊員アラクネを展開しろ」
矢車が告げる。すると総司達を取り囲んでいた奴らはオータムと同じような蜘蛛型のISを展開し、アリのようなフルフェイスヘルメットを装着する。
矢車はそれを確認すると空に手を掲げた。
「来い、ザビーゼクター」
直後、空に光の穴が開く。その穴を通って、一匹の蜂が、機械の体を持つ蜂が、矢車の手に止まった。
「変身」
『HENSHIN』
機械の蜂、ザビーゼクターを矢車は左手のブレスレットへセットする。矢車の体をたちまち六角形が覆い、装甲が展開する。
“マスクドライダーザビー”カブトに続く新たなライダーである。
「観念しろ、天道総司。我々とともに来るんだ」
「おばあちゃんが言っていた…」
総司にザビーが宣告する。しかし総司の意識はそこにはない。彼の目線の先には先ほどオータムが砕いた豆腐の残骸がある。
「男がやってはいけないことが2つある。女の子を泣かせることと、食べ物を粗末にすることだ。矢車とやら、部下の不手際の責任、キッチリととってもらうぞ。変身!」
総司の手には知らぬ間にカブトゼクターが握られていた。総司はそれをベルトにセットし、カブトへと変身する。
「あくまでも戦うということか、面白い。それも想定済みだ」
ザビーは構えを取りカブトを迎え撃つ。それに合わせ彼の部下であるIS部隊、シャドウもそれぞれの動き出した。
「A小隊は援護射撃、B小隊は退路を断て、C小隊、このままF地点へ追い込む。人払いを!」
ザビーが支持する度々5、6人1組の集団が周囲で動き、カブトに発砲。ザビーとの格闘戦の邪魔をする。弾や蘭を人質に取らない事を安堵しつつもカブトはザビーとシャドウの連携に苦戦していることを如実に感じていた。取り囲んでいるISからの銃撃が鬱陶しい。ならば取るべき手は一つ。カブトは隙を見てザビーに拳を打ち込むと一旦距離を取りカブトゼクターのゼクターホーンを軽く弾く。警告音をあげ、マスクドフォームの巨大な装甲が浮き上がった。
「やる気か、ならば俺も。各員クロックアップに備えろ」
カブトの様子を見てザビーも動く、ブレスレットにセットされたザビーゼクターの羽を可動させるとザビーの巨大な装甲もカブト同様浮き上がった。
「「キャストオフ」」
『『cast off』』
ほぼ同時、カブトはカブトゼクターのゼクターホーンを引き、ザビーはゼクターを反転させる。2人の装甲が弾け飛び、互いにライダーフォームへとチェンジする。
『change beetle』
『change wasp』
巨大な装甲が弾け飛び、スマートで軽そうな装甲があらわになる。それから2人はすかさずベルトを操作した。
「「クロックアップ」」
『『clock up』』
音声を合図に時の流れが変わる。カブトとザビーは周囲のISも引き連れてスローモーションの世界へと飛び込んだ。
「クロックアップ中の銃撃はスローになる。周囲に被害が出ないよう攻撃を控えろ。格闘は俺に任せて退路を断つことに集中するんだ」
銃撃が無くなり、多数の蜘蛛型ISアラクネに囲まれたリングでザビーとカブトの一騎打ちが始まる。ザビーの拳と蹴りを多用する格闘術にカブトとは得意のカウンターで対処する。戦況は互角、否、少しずつではあるがカブトが押し始めていた。
(俺が追い詰められている⁉︎馬鹿な俺の独力ではカブトに勝てないと言うのか?そんなことはない。所詮高校生の子供じゃないか、シャドウがいなくとも、俺の力さえあれば)
「うっ」
ザビーの頭に邪念が浮かぶ。その隙を突かれ、カブトの鋭い蹴りがザビーの胸を打つ。
「くそっ。こんなガキに負けるわけにはいかん。ライダースティング!」
一発逆転の切り札、劣勢を覆すためザビーはそれを切った。ブレスレットのザビーゼクターのスイッチを押すとゼクターの先端にエネルギーが充填される。
『one、two、three』
「ライダー…キック…!」
必殺の構えを取るザビーを迎え撃つめカブトも備える。2人のライダーの必殺技がぶつかる。…かに思えたその時だった。
「カブト!」
クロックアップ中の世界でカブトを呼ぶ声が聞こえる。不意に振り返ると、茶髪のロングヘアの女、ザビーの部下で一人だけヘルメットをつけていないオータムが、クロックアップの中で動けない弾と蘭に銃口を突きつけている姿があった。
「クロックアップ中とはいえ、ゼロ距離ならこいつらの頭を弾き飛ばせるよな」
させるか!カブトは意識を一瞬だけオータムに向け、人質作戦への対抗策を講じた。しかしこの空間においてその一瞬は勝敗を左右するほど大きなものだった。
『rider sting』
「せいっ!」
「ぐうっ!」
ザビーの必殺ライダースティングがカブトを貫く。カブトは背後へまっすぐ吹き飛び、装甲がダメージ超過で強制解除される。
『clock over』
決着と同時に時の流れは元に戻った。それにより、ザビー達の姿を弾と蘭は再度視認することが出来たのだが、彼らが見たのは投擲されたクナイで顔を切られ、顔面からおびただしい血を流すオータムと、ザビーに担がれてどこかへ連れて行かれようとしている総司の姿だった。
「総司さん⁉︎」
「天道に何するつもりだ⁉︎やめろ!」
立ちすくむ蘭を置いておき、弾は総司を連れ去ろうとするザビーに殴りかかろうとした。しかしそれをヘルメットをつけたIS部隊が阻む。
「うわっ」
弾はあっさりと放り投げられた。弾が全身打撲の痛みに悶えている間にザビーはアラクネの一機に捕まり、さらに怪我をしたオータムも仲間に連れられ、悠々と空を飛んで現場を後にした。
「天道おおおおおおおお!」
現場に残された弾はただただ叫ぶ事しか出来なかった。