黒子のバスケ ―Illusion―   作:謎な腐女子

2 / 2
第2話 理由

「おい、篠原! 今のは桑野のボールだろ! 少しは考えて打てよ!」

「外野は引っ込んでろよ」

「なんだと!?」

 

 帝光中の体育館に怒号が響き渡る。

 その中心となっていたのは、バスケットボール部、三年二軍エースの篠原和樹と、現在は怪我によって安静にしている、同じく三年の斉藤竜馬だ。

 その周囲で活動している部活動の生徒は、不満げな声を上げている。

 

 この場に来たばかりであっても、その異変を即座に見抜いた三年、二軍マネージャーの紺野志穂は愛用のクリップボードを片手に、その中心へと急いだ。

「篠原君、斉藤君! やめてください! 何があったんですか!」

 志穂はいつになく強い口調で二人を咎めた。

「だって、志穂! コイツが――!」

「俺は何も悪くない。次の練習試合に勝てるように、普通にミニゲームをしていただけだ」

「んだと! 篠原!! あれは絶対に桑野のボールだったはずだ! 味方の桑野を突き飛ばしてアイツのボールを盗ったくせに!」

「どういうことですか?」

 志穂の大きく黒い目が驚きに見開かれる。

「さっき言った通りです! 桑野が――」

 

「やめてください!」

 

 斉藤の言葉を遮るように放たれた言葉は、体育館を沈黙させた。

 それを発した声の主は、斉藤の供述によると被害者である、二年の桑野信二だった。

「僕は何ともありません! それに、僕が勝手に尻餅をついただけです! お願いですから、事を荒立てないでください! 斉藤先輩!」

「でも――」

「桑野の言った通りだ、斉藤。これ以上事を荒立てるな」

 斉藤の反論を遮るように、この二軍のキャプテンである三年の秀叶の冷静な言葉が重なった。

「……! キャプテン!」

「その呼び名はやめてほしいといったはずだが……。まあいい」

 秀叶は隣の真剣な表情で何かを必死に呟いている志穂に視線を向けた。

「志穂、今日の練習メニューは組み立て終わったか?」

「あ、うん! ばっちしだよ! まっしー!」

「じゃあ、今日の指導はお前が行ってくれ。俺は事情聴取をしてくる」

 自信ありげにしっかりと頷いた志穂に、秀叶も頷き返す。

「篠原、斉藤、桑野は練習を抜けろ! その他の二軍メンバーはマネージャーの指示で明日の練習試合に備えて練習!」

『はいっ!』

 秀叶の的確な指示により、不満そうだった部員たちは言われた通りの動きをする。

 その光景を目の当たりにして、志穂は「やっぱり、まっしーはすごいな」と感嘆の声を上げるのだった。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「……」

 部室にて事情聴取を終えた秀叶は、深刻そうな表情をしたまま、眉一つ動かさない。

 この状態で、おそらく五分は経っただろう。

 そんな秀叶の雰囲気に押されてか、彼を中心にうつむく、篠原、斉藤、桑野はこの沈黙に我慢の限界を感じていた。

「……なあ、まし――」

「罰として、外周二十周。加えて、筋トレ合計二百回」

 恐る恐るといったように口を開いた篠原を遮ったのは、秀叶の冷静な言葉だった。

 三人は秀叶のその言葉に驚いたように、言葉を失った。

「……キャプテン、そんな軽い罰でいいのか?」

「罰は俺が決める。それに、もしわざとやっていたとしても、俺はどうこうできる立場じゃない。さらに、明日は練習試合だ。いくら二軍といえども、帝光(最強)の名を背負っているんだ。手を抜いておいて負けるわけにはいかないだろう?」

 秀叶の意見に、斉藤と桑野は賛同するように頷いた。

 そんな二人とは対照的に、篠原は秀叶をにらみつけるように言った。

「真白。前から聞きたいことがあったんだが、今聞いていいか?」

「なんだ?」

「お前、なんで二軍にいる?」

「どういうことだ、篠原」

 いぶかしむような表情の篠原に、斉藤は意味が分からないというように首をかしげた。

 それを気にする様子もなく、篠原は続ける。

「お前、レギュラーの黄瀬と()ったんだろ? 1on1(ワンオンワン)。さつきさんによると、お前が圧勝したらしいじゃねーか」

「なっ!?」

「どういうことですか!? 真白先輩!」

 桑野は詰め寄る形で勢いよく立ち上がる。

 秀叶は篠原の言葉に、無表情で沈黙を続ける。

「……もう一度聞く。なぜお前は、二軍に埋もれているんだ?」

 篠原は真剣な表情でもう一度問う。

 斉藤と桑野は一瞬顔を見合わせると、篠原と同様に秀叶へ真剣なまなざしを向けた。

 そして、秀叶はゆっくりと口を開いた。

「大した理由はない。ただ、つまらない」

「つまらない?」

「そうだ。いずれ、一軍の奴らは才能を開花させ、他の者は寄せ付けないような、そんなチームになる。すると、アイツらがやることは、チーム戦なんかじゃない。それぞれの個人技だけを生かした、チーム戦とは名ばかりの、個人プレイだ」

「何が言いたい?」

「分からないのか? 一軍にチームとしての存在意義がなくなる、と言っているんだ」

「!」

「すでに黒子は気付きはじめているようだが、まだ、青峰(アイツ)を信じているようだしな……」

「黒子?」

 少し遠い目をしながら呟いた秀叶に、斉藤が首をかしげる。

「ああ、影薄すぎて分からん奴だから、別に気にしなくていい」

「そうか」

 秀叶のその言葉に斉藤は興味をなくしたのか、肩をすくめた。

「私語はここまでだ。さっき言った罰をこなして、さっさと練習に合流しろ」

 秀叶が立ち上がったのに便乗して、篠原と斉藤も立ち上がる。(桑野は先ほどからずっと立ちっぱなしだった)

「先輩はどうするんです?」

 去り際に、秀叶がその場から動かないのを不審に思ったのか、桑野が尋ねる。

「俺はまだやることがあるから、先に行ってろ。すぐに追いつく」

 桑野はこくり、と頷くと斉藤に続いて部室を立ち去った。

「篠原、まだ何かあるのか?」

「……いや」

 篠原は、不満そうな表情を見せながらも、部室を立ち去った。

 

「理由……か……」

 秀叶のため息交じりの呟きは、誰にも聞かれることはなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。