私はある日。
一輪の花を授かりました。
------どうだ?
------生まれたわ! 可愛らしい、女の子!!
------おお、そうか……でかした、でかしたぞ鏡華!!
その日、私達は泣いて喜びました。結婚してから時が経つのは早いもので、既に三年が経った今日。ついに、子供を授かりました。
私達は決して裕福ではありません。毎日自分達が食べられるものを調達する、その程度の財産しかない、どちらかと言えば貧しい方の暮らしです。正直な話、子供の分をまかなえるかどうかちょっと心配。
それでもいい。
そんな未来の事はどうでもいい。
今は家族が増えた事を精一杯祝福して、この子が何も苦労しないような、そんな世界を私達が創ってあげよう。
そう、思っていた。
それが普通だと、思っていた。
一年が経った頃だろうか。
それが間違いだと気付いた。
ここは「幻想郷」。人も、妖怪も、妖精も暮らす場所。妖怪とは、我々人間の敵。妖精とは、私達人間を惑わす者。
共存なんて出来なかったんだ。
そう、それは……。
------トントン。
「鏡華さーん。お届け物でーす」
「あ、はーい。……ふう、ねぇ、麗華ちゃん。お野菜が届いたみたいだから、ちょっと一人でいい子にしててねー」
そう言って私は抱っこしていた麗華を畳の上に優しく下ろし、お届け屋さんがいる玄関へ足を進ませていった。
「鏡華さん、いつも大変ですね」
「あら、そうかしら? 私はいつでも幸せよ。夫も、麗華もいるし」
「まあそれはそうなんですが……ほら、家計的に。最近野菜とかの被害が多くて値上がりしてるじゃないですか」
「あぁ……えぇ。どうせ、妖精の仕業でしょう? 最近は悪戯が多くて。ちょっと困りますね」
苦笑い混じりに答える。
するとお届け屋さんはちょっと顔をしかめて、
「野菜被害だけなら自分も別に文句はないんですがね。しょうがないって言えばそれで終わりですから。ただ、この、ほら」
そう言いながら、持ってきたお野菜を私にグッと、強調するように近づけた。
その動作に、私はお届け屋さんの伝えたい事を察する。
「お届け物が盗られちゃうとか、ですか?」
「胸が痛いですよ、まったく。……おっと、あなたといるとつい長話をしてしまう。そろそろ自分は行きますね。次の届け物を運ばないと」
「はい、分かりました。道中、お気を付けて」
お気遣いありがとうございます、と告げて彼は去って行った。いつもこんな感じで長く話してしまうのが私の悪いところだと、ほんのちょっとだけ自重する。
さて、そろそろ麗華のところへ戻らなければ。
そう思い玄関の扉を閉めようとした瞬間だった。
テクテクと流暢に軽そうな足を動かしながら、さらに手を振りながらこちらに向かって来る男性を確認した。
最愛の夫である、清也さんだ。
「あら、今日は随分と仕事が早く終わったのね」
「色々あったらしくて、今日はもう終わりなんだとさ。ところで麗華は?」
「奥にいるわ。一緒に行きましょう?」
「そうだな。……って、泣いてないか!?」
そう言われたので軽く屋内に耳を傾けてみる。すると、おぎゃーおぎゃー!と勢いよく泣いている麗華の声を聞いた。
「ほんと! 早く行ってあげないと!!」
慌ただしく答え、家の中に走る。
その途中で異変は起こった。
麗華のいる部屋の前に来て障子を開けようとした瞬間、泣き声がピタリとなくなったのだ。違和感を覚えるも、そこは親である。何かあったのではないかと心配になり、障子が外れてしまうような勢いでガラガラッと開ける。
すると、どうだろう。
何もないではないか。
たった数秒前まで『生』の音がしていたのに、まるで一人、夜に竹林の中へ飛び込んだかのような。静寂の恐怖に襲われる。
予想もしていない展開に時間、身体、全てが止まった。
「おい、何があったんだ……?」
凍り付いたかような状態から私を目覚めさせたのは、清也さんだった。
最愛の夫へ縋るかのように、
「いない…いないの。麗華が、どこにも」
「なっ……」
この日、私は。
一輪の花を、奪われました。
今回は東方キャラとか出ませんでしたが、次回は出ます
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