目を閉じると、電車が目的地に近づく音だけが聞こえる。電車内には、僕以外、誰もいない。外には、延々と続く田園。僕は、偶には、都会の喧騒を離れ田舎に来るのもいいかもと思ってみたりする。
僕が今、こんな電車が片道しか通っていないような片田舎に向かっているのは、祖父母の家に向かっているからだ。なにやら、父さん達が今頃になって結婚旅行をするとかで夏休み中は祖父母の家に預けられることとなったのだ。かれこれ、3時間は乗り換えやなにやらで電車に乗っている。しかし、人気がないところにぽつんといるのは気持ちがいい。そんなことを思っていると、電車が目的の駅に停車した。
降りてみると、無人駅だった。当たり前かと思いつつ改札口に切符を通し、駅を出た。駅前は一面、田園だった。駅の前、一つ通っている道路に立つ僕を夏の容赦ない太陽が照りつけている。僕は一息つくと祖父母の家へと歩き出した。
歩いている途中には、よくある「飛出し禁止」の看板や、地蔵などが散らばっていた。車も一回見たかどうかぐらいでここの田舎レベルを物語っていた。祖父母の家までは保育園時代に一度訪ねたことがあるらしいが、記憶にはなかった。しばらく歩いていると、ガードレールが途切れ階段が見えてきた。今まで、ずっと左は森、右は田園の繰り返しだったのでその階段に、興味が湧いた。
目を細めてみると奥の方に鳥居が見える。財布を取り出し五円玉があるのを確認しまるで誘われるように階段を登った。
鳥居までは距離がかなりあり、僕は汗でシャツを濡らすほどかいてしまった。やっとの思いで鳥居に辿り着き、鳥居の外から神社を見てみると、今にも想像していたのよりももっと危うくて崩れそうな神社がぽつんと建っていた。
「なんだよ、潰れてるじゃないか」
がっかりだ。これでは、骨折り損のくたびれ儲けだ。改めて見渡してみると境内には名前もわからない植物が氾濫し、神社の賽銭箱にまで絡みついていた。
流石に疲れたと、神社の縁側でお茶でも飲もうかと鳥居の中に足を踏み出した途端に、僕は何か違和感を感じ取った。何か、神聖な場所に入った時のような緊張感で鼓動が早くなる。
顔を上げてみると、その違和感の意味かわかった。ついさっきまで、境内を埋め尽くしていた植物が全くとは言わないものの格段に減っていたのだ。もちろん、賽銭箱にも絡みついていない。まるで、鳥居の外から見ていたものは幻だと思わせる程に風景が変わっていたのだ。まさか、タイムスリップでもしてしまったのか。と、心の中で思ってもみたが、
もちろんそんなことはあり得ないので、疲れで風景を見間違えたのだろうと答えを出した。
気を取り直し、賽銭箱の前に立つ。財布から、五円玉を取り出し放り投げる。カランと小意気の良い音がし、まぁ両親の結婚旅行の安全でも祈ろうかと考えている矢先に、神社の奥の方から大きな物音がした。
まさか、此処に人が住んでるのか、と驚愕し僕は賽銭箱の前で突っ立ってしまった。
バンッと勢いよく開けられた障子のすぐそこには巫女服に身を包んだ少女が立っていた。彼女は、震える指を賽銭箱に向け、
「あなた、今、賽銭箱にお金を入れた?」
「は、はい」
僕は若干きょどりながら答えた。まさか賽銭箱にお金を入れてはいけなかったのだろうか?と考えていると、
「本当に!?この神社に御賽銭が入るなんて何年ぶりかしら~」
と、参拝者の前で賽銭箱の蓋を開け始めたのだ。目の前の光景に唖然としていると、
「本当にありがとう!!奥でお茶でもご馳走するわ」
と、彼女が僕の服の袖を引っ張る。はっと、意識を取り戻し、
「い、いえ。唯の参拝者なのでそこまでして貰うのは、」
「参拝者そのものが希少だから、唯の参拝者なんてこの神社には存在しないのよ」
と返され、無理矢理、神社の奥に連れ込まれてしまった。
奥には、いたって標準的な和室が広がっていた。しかし、機械類のものが無いのは気のせいだろうか。
「そういえば、あなた見慣れない格好をしているわね」
唐突に彼女が聞いてきた。見慣れない...?
「ちょっと待ってください。見慣れないってどういう事ですか?今の時代
、シャツにジーパンなんて普通でしょ?」
そう言うと、彼女は思案し始めた。
少しの間、僕らの間には蝉の音しか
聞こえなかった。
「あなた、外来人ね?」
「外来人?」
「そっ、この幻想郷には偶に外のものが入ってくるけど、人間が入ってくるのは初めてね。それも、博麗神社からなんて。あなた、どうやって入ってきたの?」
「どうやってって、普通に鳥居から入ってきました。」
「鳥居から?そんなわけないわこの博麗神社には私が結界を張ってるもの」
結界...?もしかすると、僕は物凄く痛い人と話しているのかもしれない。
「そう、自覚はないのね。取り敢えず、紫を呼びましょうか。紫、どうせ、そこらへんにいるんでしょ」
彼女は、何もない空間に呼びかけ始めた。早く逃げなければ、変な宗教に勧誘されるかもしれない...。
「酷いわ、霊夢。『どうせ』だなんて」
その瞬間、僕は目の前の光景を疑った。なんと、空間に裂け目ができそこから女性が出てきたのだ。
「紫、あなたがいきなり出てきたせいで、彼、茫然自失になってるわよ」
「あら、ごめんなさい。私は、八雲紫。この幻想郷の管理者よ。」
「あっ、僕は木本 境也と言います」
どもりながらも、何とか返した。なんなんだ、僕の目の前で何が起こっているんだ!?
「あぁ、そうそう。私は博麗霊夢。ここの巫女よ。」
博麗さんは、何事もなかったように足を放り出している。思い切って、聞いてみる事にしよう。
「あの、色々と、聞きたい事があるんですが。八雲さんは今、どこから来たんですか!?
それと、幻想郷って!?」
「落ち着きなさいよ、木本君。幻想郷の管理者として全部、答えてあげるわ」
八雲さんは一息つき、話し始めめた。
「今、私は『境界を操る程度の能力』でここにきました。そして、幻想郷とは忘れられたものが集う場所よ。」
簡潔に答えてくれた。
「もう一つ、聞いてもいいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「能力って?」
「能力は幻想郷にいる、者たちが持つ得意技のような物よ。そんなにびっくりしないでよ。あなたにも能力があるんだから」
僕に、能力だって?
「それは、どのような能力なんですか?」
尋ねた。鼓動が早くなっている。そんな、漫画の世界のような能力が僕にあるのだろうか。
「あなたの能力は、私の天敵となる能力。つまり、『境界を超える程度の能力』よ」
「それでなのね。木本君が堂々と博麗神社の鳥居から結界を超えて入ってこれたのは。」
「そう、彼には結界は全くと言っていい程聞かない。幻想郷にも出入り自由という訳よ。こちらからすればかなり危険な存在よ。幻想郷の存在を外の世界でばらされる可能性がある」
八雲さんの目が細くなり、僕の方を見る。その目には、殺意がこもっているように見えた。
「ちょっと待ってください。この世界の事は絶対にばらしません。だから、どうか殺さないでください!」
必死に訴える。
「紫、そこまでにしてあげたら?彼、土下座までしてるわよ」
「そうね。見たところ、企みを持っているようにも見えないし。でも、この幻想郷の事を少しでも外に感ずかれるような事をしたら、その時は、どうなるかわかっているわよね?」
「は、はい。ありがとうございます。」
良かった。祖父母の家にたどり着く前に殺されたんじゃ無念すぎるよ...
祖父母の家?
そうだ、早く家に行かないと!
「すみません!この神社にきたのはほんの偶然でこれから祖父母の家に行かなければならないんです。いってもいいですか?」
「えぇ、いいわよ。どうせ能力でこの幻想郷には出入り自由だし。暇があったら遊びにきなさい」
「またね、木下君。御賽銭ありがとう。」
「はい、博麗さん、八雲さん。」
鳥居の前に立つ。ここから出ればまた普通の世界に戻れる。鳥居に足を踏み出す。また、違和感を覚える。
後ろを振り返ると、古びた神社と雑草が氾濫している境内があった。
「また、面白い子がきたものね」
「そうね」
「まさか幻想郷に自由に出入り出来る子がいるなんて。次来た時は、宴会でもしましょうか」
「そうね」
「霊夢?」
「でも、幻想入りっていうのは、そんなに簡単な物なのかしら...
まぁ、いいわ。奥でお茶でも飲みましょう、紫」
「はーい」
二人は神社の奥へと姿を消した。
to be continue...
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