遊戯王デュエルモンスターズGX 伏臥する無限の竜   作:マンボウ

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――誰もが抱く欠損は、自覚できず埋没の中。


デュエル・アカデミア入学試験

 そこは、野球ドームのように巨大なホール――海馬ランドのドームの中だった。

 野球ドームと違うところがあるとすれば、リング内の形が違うこと、ドーム全体の形が縦長なこと、そしていくつものリングがあることだ。

 ハンドボールのコートを連想できるような広さのリングだが、実際は違う。

 ――デュエル・モンスターズ。

 世界で大流行のカードゲームを立体映像(ソリッドビジョン)を用いて対戦するためのリングだ。

 試験官と受験生が決闘(対戦)を行っている。彼らは互いに腕に装着した決闘盤(デュエルディスク)にカードを置き、その立体映像同士でバトルを繰り広げていた。

 そんな中、とある一つのリングが空き、次の受験生の入場が促される。

「次! 受験ナンバー51、円影(まどかげ)理有(りう)!」

「は、はい……」

 覇気のない声でデュエルリング状に上がったのは、一人の少年だった。

 背は中学三年としては平均より少し低い160cmほど。

 髪は前に長く伸びて瞳を隠しており、細い声とあいまって、おどおどした印象がさらに際立っている。

 髪のおかげで顔の輪郭もわかりづらく、どことなく性格の暗さも印象として相手に与えているだろう。

 対して試験官は、30代そこそこの男だ。細身で眼鏡をかけ、黒い髪をぴっしり整えた彼は、落ち着いた口調で理有と呼ばれた少年に言う。

「君の対戦相手となる試験官はこの私だ。この決闘では勝敗は当然、決闘の中での経過も試験結果に結びつく。決して無様なデュエルはしないように。それだけが私からの助言だ」

「は、はい!」

 そして二人は、互いにリング中央まで歩み寄り、デッキをシャッフルし始めた。

 途中、不正がないように互いのデッキを交換してシャッフルし、また交換。それをディスクのデッキホルダーに装着。

 二人は背を向け合って、リングの両端へと戻っていった。

 指定位置についたところで、彼らは振り返り、向かい合って、叫ぶ。この闘いの開始の合図を。

決闘(デュエル)!」

 もっとも、それが闘いと呼べるかどうかは別として。

 

 試験官は、デュエルディスクから引いた自分の手札五枚を見て、それから少年――理有を見る。

 このデッキは試験用デッキであり、当然試験官自信の全力ではない。

 なぜなら、そんなことをしては学生では試験官に太刀打ちできない。

 よって、ある程度は手心を加える必要もあるが、それはデッキ構成の段階まで。カードのタクティクス、プレイングの類に関しては、本気で行くつもりだ。

「私のターン、ドロー!」

 デュエルモンスターズでは、まずターンプレイヤーがドローを行う。今回の先攻プレイヤーはデュエルディスクが自動判定したため、試験官となっていた。

「《魔法剣士ネオ》を攻撃表示で召喚!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《魔法剣士ネオ》

通常モンスター

星4/光属性/魔法使い族/ATK 1700/DEF 1000

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「カードを1枚伏せ、ターン終了だ!」

 ……伏せカードは《炸裂装甲》。さあ、どう出てくるかな?

 

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《炸裂装甲》

通常罠

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃モンスター1体を破壊する

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 試験官 手札:6枚→4枚

     LP : 4000

 

 相手がネオの攻撃力の低さを舐めてモンスターで攻撃してきたら、裏の罠カードを発動するという算段。

 まずはこの陣形で試験官は様子を見ることにした。

 理有にターンが回る。

「ボクのターン、ドロー。……ボクはライフを2000支払い、《終焉のカウントダウン》を発動します」

「なんだと!?」

 ここに来て、予想外のカードが登場したのに、試験官は大いに慌てた。

 ……ま、まさか、そんなデッキで挑んでくるとは!?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《終焉のカウントダウン》

通常魔法

2000ライフポイント払う。

発動ターンより20ターン後、自分はデュエルに勝利する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 理有 LP:4000 - 2000 = 2000

 

 この時点で、すでに理有のデッキは攻撃ではなく守備型。しかも20ターンを守るという目的に特化したデッキ構成だと把握できる。

 面倒なことになった、と試験官は眉間にしわを寄せる。

 ……私のデッキに入っている10枚の攻撃反応型罠カードは、すべて死に札になった!

 加えて、こうなった場合、理有は何が何でも自分と相手合わせて20ターンの間、自分のライフポイントを守ろうとするだろう。

 つまり、

「ボクは守備モンスターをセット。そして伏せカードを3枚セットして、ターン終了です」

 徹底的に全カードで守備に入る。

 

 理有 手札:6枚→1枚

    LP:2000

 

 これを崩すのは骨が折れると、試験官は心の中でごちりながらカードを引く。

「私のターン、ドロー! 私は、《ヂェミナイ・エルフ》を攻撃表示で召喚!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《ヂェミナイ・エルフ》

通常モンスター

星4/地属性/魔法使い族/ATK 1900/DEF 900

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「バトルフェイズ! 《ヂェミナイ・エルフ》で伏せモンスターを攻撃!」

「攻撃前に伏せカードオープン。《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》発動。すべてのレベル4以上のモンスターは攻撃ができません」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》

永続罠

フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……予想通りといえば予想通りか。私はターンを終了する」

 

 試験官 手札:5枚→4枚

     LP:2000

 

「ボクのターン。ドロー……モンスターを1枚セット。そしてカードを1枚伏せ。ターン終了です」

 

 理有 手札:2枚→1枚

    LP:2000

 

 厄介だ、と試験官は舌打ちする。

 こちらのデッキは、基本的にレベル4以上のモンスターで構成されている。そして相手ライフポイントに直接ダメージを与えるカードは入っていない。《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》をどうにかしない限り、試験官に勝ち目がないことを意味する。

 最悪の相性だ。

 だが、勝機がないわけではない。

 勝負は第20ターン。こちらに回ってくる最後のターンに、どこまで少年の牙城を崩すことができるか、だ。

 

 時間は経過して、《終焉のカウントダウン》発動から20ターン目。

 試験官の手札は、さきほどドローしたものを含めて7枚。手札上限枚数を越えるまで抱えていた。

 フィールドには、モンスターゾーン5つが全て埋まっていた。

 《魔法剣士ネオ》、《ヂェミナイ・エルフ》から追加した3体のモンスターは、《ランプの魔精・ラ・ジーン》、《ゴブリン突撃部隊》、《スピア・ドラゴン》だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《ランプの魔精・ラ・ジーン》

通常モンスター

星4/闇属性/悪魔族/ATK 1800/DEF 1000

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《ゴブリン突撃部隊》

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/ATK 2300/DEF 0

このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になり、

次の自分のターンのエンドフェイズ時まで表示形式を変更する事ができない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《スピア・ドラゴン》

効果モンスター

星4/風属性/ドラゴン族/ATK 1900/DEF 0

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了時に守備表示になる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 理有の場にはセットモンスターが合計3体。そして《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》と伏せカード4枚

 その正体は、依然不明のままだ。

 試験官は、理有に矢で射抜くごとき視線を向ける。

「それでは、このターンが勝負だ。私は手札から《サイクロン》を発動! 《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》を破壊する!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《サイクロン》

速攻魔法

フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 試験官のフィールドに立体映像として映し出されたカードから青い竜巻が発生し、理有の場にあった《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》のカードを巻き込んで破壊した。

「ここで攻撃……したいところだが、君の場の伏せカードは残り4枚。ここで攻撃宣言をしたところでまた《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》を発動されれば、その時点で攻撃が出来なくなり、私の負けだ」

 試験官は一息、

「だから、こうさせてもらう! 魔法カード《大嵐》を発動! フィールド上の魔法・罠をすべて破壊する!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《大嵐》

通常魔法

フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 理有は驚いた様子を見せると、試験官はにやりと笑みを一つ。

「先ほどの反応からして、君の伏せカードに私の魔法を無効化するものはなかったようだからね」

「!?」

 理有の驚きがより一段と大きくなるのを見て、試験官は更なる一手に出る。

「私は《魔法剣士ネオ》を生贄に捧げ、レベル5《サイバティック・ワイバーン》を召喚する!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《サイバティック・ワイバーン》

通常モンスター

星5/風属性/機械族/ATK 2500/DEF 1600

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 機械仕掛けの翼竜の出現に、リング外からのざわめきが大きくなる。

 それはそうだろう。この《サイバティック・ワイバーン》は《デーモンの召喚》に匹敵するステータスを持つレアカード。学生たちでは滅多にお目にかかれない代物なのだ。

「さらに魔法カード《シールドクラッシュ》を発動! 君の場の伏せモンスター1枚を破壊する!」

 ドームの天蓋から雷が一つ、理有の伏せモンスターに直撃。

 モンスターが破壊されるのへ、理有はおろおろと焦っている。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《シールドクラッシュ》

通常魔法

フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「行くぞ! 《サイバティック・ワイバーン》で、伏せモンスターを攻撃!」

 ワイバーンの攻撃により、伏せモンスターの正体が露となり、破壊された。

「ふ、伏せモンスター! 《墓守の偵察者》の効果発動! リバースしたとき、ボクのデッキから《墓守の偵察者》を守備表示で特殊召喚します!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《墓守の偵察者》

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/ATK 1200/DEF 2000

リバース:自分のデッキから攻撃力1500以下の「墓守の」と名のついた

モンスター1体を特殊召喚する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ならば《ゴブリン突撃部隊》で《墓守の偵察者》を攻撃!」

 戦闘により、墓守の偵察者は破壊された。

「続いて、《スピア・ドラゴン》で、最後の伏せモンスターに攻撃!」

 スピアドラゴンには貫通ダメージ効果がある。そして、ここで伏せモンスターを破壊できれば、残りのモンスターで理有のライフポイントを0にできる。

 そして、スピアドラゴンの体当たりが伏せモンスターに直撃した。

「ぐううっ!」

 理有がデュエルディスクからの衝撃に悶えている。貫通ダメージが通った証だ。

 ならば、理有の場はがら空きになり、プレイヤーへのダイレクトアタックが可能になる。

 そのはずだが、

「ば、馬鹿な!?」

 モンスターが破壊されていない。

 どういうことだ、とモンスターの正体を確認した試験官は、愕然とした。

「ま、まさか、《魂を削る死霊》!?」

「は、はい。このモンスターは、戦闘では破壊されません。も、もちろん、貫通ダメージは通ります」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《魂を削る死霊》

効果モンスター

星3/闇属性/アンデット族/ATK 300/DEF 200

このカードは戦闘では破壊されない。

このカードがカードの効果の対象になった時、このカードを破壊する。

このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

相手の手札をランダムに1枚捨てる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

理有 LP:2000 - 1700 = 300

 

 この時点で、試験官の場に《魂を削る死霊》を除去できるモンスターは居ない。手札にもない。

 バトルフェイズを続ける意味は、なくなった。

 そして、バトルフェイズを終了してしまえば、試験官に勝てる手段はない。

「……私は、このままターン終了だ」

「こ、この時点で、20ターンが経過しました。――ボクの勝利です」

「……そうだな。君の勝利だ」

 試験官は、その一言で肩の力を抜き、訊ねる。

「ちなみに、もう一枚の伏せモンスターは何だったのかね?」

「え? あ、はい。これです」

 そう言って理有が墓地から取り出したカードを見せる。

 《薄幸の美少女》だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《薄幸の美少女》

効果モンスター

星1/光属性/魔法使い族/ATK 0/DEF 100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

このターンのバトルフェイズを終了する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 なるほど、と試験官は納得した。

 仮に《魂を削る死霊》を《シールドクラッシュ》で破壊したとしても、戦闘時に《薄幸の美少女》のせいでバトルフェイズが強制終了してしまうため、結局は理有の勝ちになる。

 その事実を確認した試験官は、言う。

「おめでとう。とりあえず、本日の試験はコレで終了だ。結果は後日郵送で送るから、今日はもう帰宅して構わない」

「わ、分かりました。それでは、ありがとうございました」

 少年は試験官へお辞儀をしてから、リングを降り、去っていく。

 それにしても、と試験官は思う。

 確かに、今回のデュエルは彼の勝利だ。それは間違いない。

 だが如何せん、戦い方が消極的だったところが気になる。プロデュエリストを目指す者として、あの戦法は如何ともし難い。

 無論、それだけで不合格にするわけにはいかない。筆記試験の結果は全体の中位。その上で試験官に勝利したのなら、合格は8割がた決定だ。

 だが、あの性格にあの戦法。それを考慮して、試験官は一抹の不安を覚えた。

「あの少年、これからデュエル・アカデミアでやっていけるか、心配だな……」

 

 理有はすぐに変えることなく、観客席へ移動して、席に腰を下ろし、

「な、なんとか勝てた……」

 腹の底どころか、胆の底から息を吐いた。

 ……プロデュエリストになるには通らなきゃいけない関門だけど、辛いなあ。

 どうにも、こういう緊張する闘いは昔から苦手だった。

 プロデュエリストになるのは、やはり今現在の花形職業であるためであり、今後の将来を考えてのことだが、理有はいまいち決闘を楽しむことができないでいた。

 やはり、自分はこういう闘いの世界には向かないのだろうか。

 そう思って、頭と心が鉛のように重くなった。

 気晴らしに、理有はしばらく下のリングで行われている戦いを眺めていた。

「……やっぱり、みんな頑張ってるなあ」

 見れば、どのリングでも受験生は試験官に対して、勇猛果敢に挑んでいた。自分のように消極的な戦い方は、まず見かけない。

 そんな中で一際、輝いている試合があった。

「……あ」

 その決闘は、理有にとって眩しいものばかりで溢れていた。

 立体映像で作り出された、夜の摩天楼。

 天を貫くようなビルの群れは、まるで月まで届くようだ。

 ビルの頂点。

 避雷針の上。

 月と重なるその位置に、一つの人型が居た。

 人型は翼を持っている。

 星夜と月を背にした異形の英雄(ヒーロー)の名は、《E・HERO フレイム・ウィングマン》。

 彼は、摩天楼の上から飛び立ち、ビル街の中で仁王立ちする巨大な機械巨人――《古代の機械巨人》へ襲い掛かった。

 竜を模した右手から吐き出された炎を身体にまとったヒーローが、歯車仕掛けのゴーレムに体当たり、その身体を焼き払っていく。

 その姿は、何故か心躍るものがあった。

 理有の中で欠けている何か。その何かに訴えるものが、このデュエルにはあった。

 そして、立体映像とはいえ、崩れ落ちたゴーレムに押しつぶされている教諭。

 反対に、ヒーローを操り勝利して、大喜びをしている茶色い髪の少年がいた。

 そんな彼の無邪気な姿を見て、理有の心に一つの想いが過ぎった。

 

 ……あんな風に、思い切りデュエルをしてみたいな。

 

 ちなみに、理有は後から知ったが、そのデュエルで敗れたのはアカデミア最高実技担当者クロノス・デ・メディチ。

 そしてクロノスを破った少年は、遊城十代という名だった。




はじめまして、マンボウです。

見切り発車ではじめてみました本小説。

インターネットの小説投稿ははじめてで、色々と拙いところはありますが、生暖かい目で見守っていてくださいますよう、よろしくお願いします。

また、何か本作品についてアドバイスや意見などがありましたら、感想をどしどし寄せてください。――批判の場合、数が積もりすぎれば潰れるかもしれませんが。
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