遊戯王デュエルモンスターズGX 伏臥する無限の竜 作:マンボウ
◆
とある市街地の外れに、一般家庭の家にしては大きい、豪邸と呼べるほどの大きさを持つ建物があった。
ただ、すでに長い年月を雨風に晒された木造の建物は、ところどころに劣化やひび割れ、傷があり、豪邸そのものと呼ぶには、違和感が残る。あちこちから響くどたどたとした音や、子供の騒ぐ声、それを諌める大人の声などが、それを助長させるだろう。
正しくは、この建物は孤児院。
かれこれ30年、身寄りのない子供達が生活し、大人になり、社会へ旅立つための支援を行っている。
そんな建物の正面を、二人の人影が歩いていた。
一人は白い衣服とローブを着た、六十を超えるだろう老婆――孤児院の院長である。
彼女は、隣を歩く少年を見て、つい頬を緩め、でも眉尻が下がるのを自覚した。
……なんだか、寂しいわねえ。理有君が旅立つとなると、とっても。
言いながら隣を歩いている円影理有の姿を見る。
先日、アカデミアから届いた試験合格通知が届いた時には、子供達も揃って驚き、そして盛大に祝ったものだ。
合格パーティの時も、この少年は控えめで大人しい性格のまま、恥ずかしそうに照れているばかりだった。
そんな彼を見て、老婆は思う。本当に、年月が過ぎるのは早いものだ。いや、早くなったのか。
子供達の成長を間近で見るようになって、時間の経過というものを常日頃感じるようになった。子供の成長速度はすさまじく、自分達があっというまに置いていかれるほどだ。
そんなことを考えていると、建物の敷地と道路の境まで歩いたところで、理有は老婆へと向き直った。
「ほ、本当に、お世話になりました」
理有は、老婆に対して頭を下げる。
老婆は、その礼儀正しさと自信のなさに、やはり理有はこういう人間だ、と再確認して、
「そのあがり性と自信のなさは、とうとう改善できなかったわねえ」
「す、すみません」
「いいのよ。その代わり、あなたにはいいところもたくさんあるんだから。それにしても、本当に、名残惜しいわねえ。あの幼かった理有君が、立派にここを旅立つ日が来るなんて」
「いえ、そんな、立派だなんて……」
「あら、立派なものじゃないかしら? デュエル・アカデミアに合格なんて。気弱な理有君にしては、随分頑張ったと思うわよ。よかったじゃない、未来に進むことが出来て」
「……運がよかったんですよ、きっと」
「じゃあ、その運もあなたの実力よ。理有君、あなたはいつも、自分の力を過小評価していたけど、もっと自信を持ちなさい。あなたはきっと、いつか大きな才能の花を開花させるわ」
「――――」
理有は、老婆の優しい言葉に返すものを思いつけないようだ。
老婆は理有の肩にぽん、と手を乗せ、しわのある温和な笑顔で言う。
「何かあれば、連絡を頂戴な。私はいつでも、あなたからの便りを待ってるわよ」
「……はい、院長。それでは、もういきます」
最後に、少年は精一杯の微笑を作りながら、院長と握手をする。
そこで院長と呼ばれた老婆は、空いた手で理有の前髪を上げて瞳を晒す。
驚いた理有に、老婆は最後に一言。
「あなたの瞳は魅力的だわ。綺麗で、見ていてとても落ち着く。その瞳を、いつかもっとたくさんの人に褒めてもらいなさい。そうすれば、きっとあなたは幸せになれるわ。……いつでも帰っていらっしゃい。たとえここを出て行っても、ここがあなたの故郷なことには違いないんだから」
「あ……ありがとう、ございます」
少年はいまいち実感を持てなかったのだろう、老婆の言葉に困惑の感情をもてあましているようだった。
「……じゃあ、これで」
「いってらっしゃい、理有君」
「……いってきます」
そう言い、理有は自分の身長に対して大き目のキャリーケースを持ち、老婆に背を向けて歩き出した。
ゆっくりと、だが確実に、その姿は小さくなっていく。
これから理有は、老婆が一切干渉できない、手助けできない領域へと足を踏み出していくのだ。
そこに、不安がないわけではない。
むしろ大有りだ。
彼が今まで歩いてきた人生は、常人にとっては十分に過酷だったと思う。老婆の人生観と眼で客観的に見ても、そう思う。
だからこそ、願わずにはいられない。
老婆は、胸に下げていた十字架のロザリオを手に持ち、祈る。
「……神様。あの子にいつか、幸福を与えてあげてください」
◆
それから数時間後、理有は、海上を飛行する巨大ヘリの中で、乗り物酔いにうなされていた。
「さ、最悪……」
つぶやくのも仕方ない。胃の底から湧き上がってくる不快感が、身体全体に鈍さとして広がっていく感覚は、いつまで経っても慣れないものだ。
ましてや、理有は酔い止めを持ってくるのを忘れていた。元々乗り物に弱い理有にとって、本当に手痛かった。
そんな自分を間抜けだと呪っていると、横に人の気配を感じた。
前の席に座っていた、理有と同じく小柄な少年だ。目はくりっと大きく童顔。眼鏡をかけていて、髪は緑色。
少年は、理有を見て、心配そうに訊ねる。
「どうしたっスか? もしかして、乗り物酔いとか」
理有は言葉で返事を返さなかった。返す気力もなかった。代わりに、ぐったりした様子でゆっくりと首を縦に振ることで、肯定した。
「よかったら、僕の酔い止めをあげるよ」
その言葉に理有は、再び翔を見て、わずかばかりの微笑とともに礼を言う。
「あ、ありがとう。えーと……」
「そういえば、自己紹介がまだっスね。僕は、丸藤翔っス」
「え、えっと、ボクは円影理有、っていうんだ。よろしくね」
「理有君っスね。よろしくっス」
挨拶を交わし、理有と翔は友達となった。
それから、二人は他愛ない話をしていた。
最近のデッキで強いのは何か。
デュエルアカデミアではどんな勉強をやるのだろうか、とか。
そうこうしている間に、海の真ん中にある孤島が見えてきた。孤島は活火山と思われる巨大な山が三分の一を占めており、その麓近くには幾つもの真新しい建物と、中央にそびえるタワーがある。
あれが、デュエル・アカデミアだ。
◆
アカデミアに着いてから、さっそくホールで開かれた入学式で、さっそく理有は憂鬱とした心境になっていた。
……本当、どうしてこう学校の校長って長話が好きなんだろう。
入学生全員で整列する中、理有はモニターに映し出された校長の話を聞かされていた。
ただ、昔から理有はこういう場が苦手だった。
別に立ちながら待つのは構わない。ただ、話がどうにも形式的になりがちで、つまらない。
小学校、中学校でも式典の度に通例行事として行われてきたが、本当にどうして、どこの学校でも校長の講話は興味がそそられないのだろう。
現に理有の隣にいる茶髪の男も、こっくりこっくりと舟を漕いでいるではないか。
気になり、横にちらりと視線を向けて、気づいた。
そういえば、この茶髪の少年、あの試験場でひときわ目立つデュエルをしていた二人のうちの一人ではなかったか。
……やっぱり、合格してたんだ。
それは当然だろう。あそこまで自分を――誰かを魅せることができるデュエルができる人間なんだ。合格していても不思議ではない。
ただ、校長の話の中で堂々と眠りこくっているのは、神経が図太いだけなのか、大物なのか。
と、そんなところで校長の話が終わり、件の少年が目を覚ます。なんとまあ、都合のいい耳だことだ。
◆
入学式が終わり、アカデミアの校舎前まで出たところで、理有は自分の寮の場所を、配布されたPDAで確認する。
理有が配属されたクラスは、オシリスレッド。
どうやらほかの二つのクラス――オベリスクブルー、ラーイエローと違い、オシリスレッドの寮は校舎から離れたところにあるらしい。
PDAを閉じて、荷物を持ち、歩き出す。
てくてくと自然豊かな空気を満喫しながらのんびりと歩くこと約10分。島の海岸にある、二階建てのアパートが見えてきた。
……割と、ボロい。
アカデミアの真新しい校舎に比べて、こちらは年季がかなり入った古さが感じられる。
建造は後者と同じ年代のはずだが、ここまで古さやボロさを感じさせるというのも無駄な金のかけ方ではなかろうか、と理有は思いながら閉口した。
とにかく、部屋は二階だ。
建物横の階段を上って、一つ一つ自分の部屋番号と見比べていく。
あった。
目的の部屋を見つけた理有は、さっそく配布された鍵で扉を開ける。
中を開けて最初の感想は、思ったより広いな、だった。
まるで一般家庭の子供部屋のようだ。4畳半ほどのカーペットが敷かれた床に、ベッドは一つ。押入れと、南向きの窓が一つ。
……ま。無駄に豪華な部屋よりはよっぽど落ち着けるかな。
もともと施設暮らしで多人数の相部屋が当たり前だったので、多少ボロい部屋でも別に構わなかった。いや、むしろ人が自分以外いないだけ、少しばかり寂しさを感じるところもある。
そんなことを思いながら、施設から先に送っておいた荷物を整理するため、ベッドの脇に置かれていた段ボール箱を開けはじめた。
筆記用具。
目覚まし時計。
夏冬の衣類。
色々と荷物を取り出していく中で、一つだけ他と比べて浮いているものがあった。
ペンダントだ。
意匠は、銀色のメビウスの輪。
リボンをねじって作ったような形をしており、さらに銀の輪には縞模様の溝が入っている。
これは、理有の父親が残した、数少ない遺品である。
外国の古美術商を渡り歩いた父が、おみやげとして買ってきたものだ。
父曰く、これは無限の可能性を束ね、己が力とすることを願うものらしい。
だが、今の理有にとっては、そんなことなど関係ない。
家族の温かみが感じられる、けれどもひんやりとした金属のネックレスを服の内側に隠すように首から下げる。
それから、片づけをもうしばらく続け、一区切りをつけたところで、気がつけば時刻は夕方七時。食事の時間なので、一回の食堂に移動することにした。
外に出て玄関の鍵を閉め、一階に降りてから食堂の扉を空ける。
そこにはすでに、大半のオシリスレッド学生が集まっていた。
中に入り、厨房と食堂の境目にあるカウンターへ行き、配膳された食事が載ったお盆を貰い、適当に見つけた空いた席に座る。
理有は自分のお盆を見た。
メニューは白米、味噌汁、めざし、たくあんだ。
……うん。豪勢な食事よりは、こういうやつのほうが好みかな。
周囲は明らかに他の寮より大きくグレードダウンしている食事を見て、意気消沈している。
というか、カウンターに居る猫が寮長なのか――と、周囲が唖然としているが、そこでキッチンの奥から誰かが出てきた。
黒くて長い髪で、細い寝込め。全体的にほっそりした身体で、衣服は白いシャツとスラックスに、ずぼらな感じで締めたネクタイ。白衣でも上に着込めば科学者が似合いそうな雰囲気だ。
出てきた男性は、猫目のまま、にこりと笑って自己紹介する。
「寮長の大徳寺なのニャー。これからみなさん、よろしくなのニャ」
◆
「星空が綺麗だ……」
時刻は夜中の十一時半。
理有は、部屋のベランダから夜空を見上げていた。
デュエルアカデミアがある島は、本州から離れているだけあって、空気が澄んでいて、夜空の星がよく見える。
細かなダイヤが散りばめられたような、不思議な光。
それが、理有はとても好きだった。施設に居た頃は、寂しさを紛らわせるためによく星空を見上げていたものだ。
……いつか、あの輝きのような、誰かに、なってみたいな。
あんな星々のように、溢れる神秘と光で周囲を魅了する、まさにスーパースターのような決闘者に。
そんなことを考えている途中で、扉の開け閉めする音が聞こえた。
「?」
気になった理有は一度部屋の中へ引っ込み、玄関から外へ出る。
そして見つけたのは、寮から学園方向へ向かって歩いていく人影二つ。
一人目は、ここに来るヘリの中で友達になった丸藤翔。
二人目は、寮の食事中の自己紹介で名前を聞いた。確か、遊城十代といったか。覚えているのは、入学試験の際にクロノス教諭を破ったE・HERO使いだ。
こんな夜中に何処へ行くのだろうか。気になった理有は、こっそり彼らについていくことにした。好奇心は猫を殺すというが、それでも気になるものは気になるということだ。
彼らはアカデミアの校舎の中に入り、エレベーターに乗って上層へと向かっていく。
行き先の階を確かめた後、理有も別のエレベーターに乗る。
エレベーターから降りてすぐ、理有が周囲を見回すと、十代達が通路の中ごろにある入り口から部屋の中に入っていく。そこは確か、オベリスク・ブルー専用のデュエルリングだ。
理有は静かに部屋に入り、物陰に隠れるように中の様子を見る。
リングの上にはすでに十代ともう一人、特徴的な黒髪をしたオベリスクブルーの青年が向かい合う形で立っている。他にも、近くのリング外に、オベリスクブルーの取り巻きが二人ほど立っている。
先攻を取った相手の男は《リボーン・ゾンビ》を守備表示で出し、伏せカードを一枚セット。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《リボーン・ゾンビ》
効果モンスター
星4/闇属性/アンデット族/ATK 1000/DEF 1600
自分の手札が0枚の場合、
フィールド上に攻撃表示で存在するこのカードは戦闘では破壊されない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後攻の十代がカードをドローし、メインフェイズで行動を起こそうとしたところで、理有は、自分の後ろに人の気配を感じた。
振り返れば、そこにいたのは一人の女性だ。
背は高く、オベリスクブルーの衣服を纏っている。
出るところは出て引っ込むところが引っ込んでいる体つき――特に主張の強い胸部――は、雑誌のモデルが務まるのではないかと思うほど。
金色に輝く長い髪の下には、すっと通った鼻筋と整った顔のパーツは、見たものを惹きつける魅力があるが、同時に完璧過ぎて、近寄りがたいものがある。
理有は思う。この女性を言い表すのに、いい一言がある。
女王。
どこか冷たさを感じさせる美貌は、まさに氷を統べる女王がふさわしい。
こちらを見る彼女の視線は強く、理有は思わず一歩後ずさる。
「あ。えと……どちら様、ですか?」
少しおびえ気味な理有に、何を思ったのか、くすりと小さく笑う。
「私は、天上院明日香よ。貴方は?」
「円影、理有です。あの、どうしてここに?」
「昼間のことが気になってね。十代君と万丈目君が火花を散らしていたから、もしかしたらと思ったけど、やっぱり……」
そこで理有は、十代の対戦相手の名が万丈目だということを知った。
「そう言うあなたは、どうして?」
「十代君と翔君が寮を出て行くのを見かけて、後をつけてきたんです」
「そう。それにしても、いきなり万丈目君と決闘だなんて……」
「知ってるんですか?」
「彼、中等部からの生え抜きのエリートなのよ。多分、一年生のオベリスクブルーではトップクラスだわ」
「そんな!?」
理有がリングを見れば、万丈目が《リボーン・ゾンビ》を生贄にして発動した罠カード《ヘル・ポリマー》の効果で、十代が融合召喚した《E・HERO フレイム・ウィングマン》はコントロールを奪われていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《E・HERO フレイム・ウィングマン》
融合・効果モンスター
星6/風属性/戦士族/ATK 2100/DEF 1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ヘル・ポリマー》
通常罠
相手が融合モンスターを融合召喚した時に発動する事ができる。
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、
その融合モンスター1体のコントロールを得る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それを確認して、明日香は物陰からゆっくりとリング脇にいる翔の側へ歩き出し、理有もそれを追う。
翔もこちらに気づいたようだ。
「明日香さん! 理有君!」
「彼、大丈夫かしら? 主力モンスターを万丈目君に取られて」
実際、十代は守勢に入らざるを得ず、苦しい状況だ。
「俺は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚! ターン終了だ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《E・HERO クレイマン》
通常モンスター
星4/地属性/戦士族/ATK 800/DEF 2000
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
十代 手札 :6枚 → 2枚
万丈目にターンが移行する。
「俺は《
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《地獄戦士》
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1400
このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、
この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手ライフにも与える。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いくぞ! 《E・HERO フレイム・ウィングマン》で《E・HERO クレイマン》を攻撃!」
クレイマンが撃破され、十代は《E・HERO フレイム・ウィングマン》の効果でライフを800失う。
十代 LP:4000 → 3200
「さらに《地獄戦士》がダイレクトアタック!」
「ぐうっ!」
十代 LP:3200 → 2000
「俺は伏せカードを1枚セットし、ターン終了だ!」
万丈目 手札:4枚 → 3枚
「アニキ!」
翔は思わず叫び、明日香は冷静に状況を分析する。
「これはまずいわね。彼の主力は奪われ、万丈目君のモンスターは2体」
「うん、確かにピンチかもね。でも、十代君の顔を見て」
明日香は理有の言葉に疑問を持ったようだが、次の理有の言葉で、彼女は納得した。
「十代君、楽しそうだよ……」
そうだ。理有の言うとおり、十代はちっとも絶望していない。
「感動だぜ。デュエル・アカデミアは楽しいな。お前みたいなのがゴロゴロしてるんだ。……楽しみだぜ! 俺のターン、ドロー!……俺は《E・HERO スパークマン》を召喚! 《地獄戦士》に攻撃!」
《地獄戦士》は撃破され、万丈目のライフに初めてのダメージが通った。
だが、
「ぐっ!」
十代のほうにもダメージが同じ値だけ入る。《地獄戦士》のモンスター効果だ。
十代 LP:2000 → 1600
万丈目 LP:4000 → 3600
「俺はこれでターン終了だ!」
十代 手札:2枚 → 1枚
「ならば俺のターン! ドロー!……バトル! 《E・HERO フレイム・ウィングマン》で、《E・HERO スパークマン》を攻撃だ!」
この攻撃が通れば、十代は負ける。
「罠カード発動! 《異次元トンネル-ミラーゲート-》!」
されど、十代は抜け目なく、万丈目に対して罠を張っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《異次元トンネル-ミラーゲート-》(アニメ版効果)
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO」と名のついたモンスターを
攻撃対象にした相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手の攻撃モンスターと攻撃対象となった自分モンスターのコントロールを入れ替えて
ダメージ計算を行う。その後、コントロールを入れ替えたモンスターのコントロールを得る。
(※ OCGでは、互いのモンスターのコントロールはターン終了時に戻る)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これで《E・HERO フレイム・ウィングマン》が十代のもとに戻り、代わりに《E・HERO スパークマン》が万丈目のところへ。
そのままバトルを続行し、《E・HERO フレイム・ウィングマン》が《E・HERO スパークマン》が破壊。
万丈目は一気に2100のライフを失った。
万丈目 LP:3600 → 1500
《E・HERO フレイム・ウィングマン》は他の上級モンスターに比べて攻撃力は低いが、最大の利点はその効果ダメージによる火力である。攻撃表示のモンスター同士で戦闘を行い相手を破壊すれば、結果的に《E・HERO フレイム・ウィングマン》の攻撃力分のダメージを相手に与えることができる。低攻撃力に見えて、実は高火力のモンスターなのだ。
これで万丈目の場にモンスターはいなくなった。しかし、万丈目はまだ手を残している。
「俺は《ヘル・ブラスト》を発動! 俺の場のモンスターが破壊されたターン、相手の場のモンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ヘル・ブラスト》(アニメ版効果)
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが破壊され
墓地へ送られた時に発動する事ができる。
フィールド上の攻撃力が一番低い表側表示モンスター1体を破壊し、
その攻撃力の半分のダメージを相手に与える。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
十代 LP:1600 → 550
「ここで永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《ヘル・ソルジャー》を特殊召喚! さらに《ヘル・ソルジャー》を生贄に《地獄将軍・メフィスト》を召喚!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《リビングデッドの呼び声》
永続罠
自分の墓地のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《地獄将軍・メフィスト》
効果モンスター
星5/闇属性/悪魔族/ATK 1800/DEF 1700
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の手札からカードを1枚ランダムに捨てる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
万丈目 手札:4枚→3枚
「どう転んでも、俺の勝ちは決まったようだな! アンティルールに従い、お前のトップレアを貰うぜ!」
万丈目の勝利宣言に、十代は不敵な笑みを返す。
「……それはどうかな?」
「フン。決闘は99%の知性が勝敗を決する! 運が働くのはたった1%に過ぎない!」
万丈目の言うことも頷ける部分はある。
されど、理有は思う。デュエルモンスターズで運の要素を低く見るのは禁物だし、そもそも万丈目の言う99%の知性自体に疑問がある。
……攻撃力1800程度なら、下級モンスターでも逆転はできるんだよねー。
《ブラッド・ヴォルス》や《ヂェミナイ・エルフ》なら十分逆転可能だ。もちろん、十代のHEROデッキには入っていないだろうが、何が起こるかわからないのがデュエル・モンスターズの醍醐味だ。まだまだ可能性はある。
それに思い至らない万丈目が、果たして本当にオベリスクブルーのトップなのか、と疑いも持ってしまう。
十代は当然ゲームを続行。カードを引き、それを確認したところで、明日香が突如声を上げた。
「ガードマンが来るわ! 見つかれば最悪、退学になるかも!」
それに十代や翔、理有は大慌てだ。十代がマジかよ、と明日香を見ると、彼女はため息をついた。
……そういえば、生徒手帳にそんなことが書いてあったような。
理有は、昼からの自由時間で読んでいた生徒手帳の内容を思い出した。
「チ……今日はここまでだ。俺の勝ちは預けておいてやる」
万丈目はさっさとリングを降り、取り巻きをつれて部屋を出て行った。十代が引きとめようとするが、聞く耳持たずだ。
「アニキ! 僕達もここから逃げるっすよ!」
「ぬー……いやだ! 俺は絶対ここから動かねえ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 相手はもう逃げちゃったんだから!」
「いーやーだーっ!」
翔と理有は駄々をこねる十代を連れ出すため、その背中を無理やり押すことにした。
◆
明日香が先導し、翔と理有が十代を引きずる形で、アカデミア校舎の前まで戻ってきた。
「まったく。世話の焼ける人ね……どう? オベリスク・ブルーの洗礼を受けた感想は?」
「まあまあだな。もう少しやるかもって思ってたけどな」
「そうかしら? あのままいけば、今頃アンティルールで大事なカードを失っていたところじゃない?」
「いや、今の決闘、俺の勝ちだぜ」
そう言って、十代が見せたのは魔法カード《ミラクル・フュージョン》。墓地に存在するモンスターを素材にして、融合召喚をするカードだ。
「こいつでもう一度《E・HERO フレイム・ウィングマン》を出せば、俺の勝ちだぜ?」
「へぇ……オベリスクブルーに勝つなんて、やるじゃない」
「へへ、ありがとな、えっと……」
「理有だよ。円影理有」
「おう、おれは遊城十代。よろしくな、理有。――じゃあな、明日香。行くぜ、翔」
「あ! 待ってよアニキー!」
我先にと歩き出した十代を、翔が慌てて追う。
「明日香さん、またね」
「ええ。また明日。――万丈目君と互角……中々面白い子だわ」
理有も明日香と別れ、オシリスレッドの寮へ歩き出した。
それにしても、と理有は思う。遊城十代という人物は、別れ際に明日香が呟いたとおり、本当に面白い人間だと。
常識や普通といった枠にとらわれない、破天荒な性格だ。おまけに決闘の腕もユニークなところがあり面白い。
でも、自分は違う。理有自信はそんな型に囚われない決闘など出来ない。
……ああいうの、憧れるなあ。
星空を見上げながら、届かぬと分かりながらもその輝きに手を伸ばす。
しかし、その手は空を切り、ふと自分の掌を見てから、ため息一つ。
また空を見上げながら、理有は明日の授業に備えるため、自らの寝床へと戻っていった。
えー、結局、理有は今回、決闘らしい決闘していません。色々皆さん言いたいことがおありでしょう。甘んじて受けさせていただきます。
ちなみに、融合召喚でしか特殊召喚できない、という件は、アニメ第一話で空気こと三沢大地が懇切丁寧に解説しています。
つまり、アニメ内でも本来は《死者蘇生》で《E・HERO フレイム・ウィングマン》を特殊召喚できません。
アニメスタッフが忘れていたのでしょうか……仕方ないことかもしれませんが。毎週同じテンポでストーリーを練って作っていくのは並大抵の労力ではないですし。
それにしても、理有が絡まない決闘は極力書かないようにするべきでしょうかね。
なんというか、面白みが欠ける展開になりそうなところもありますし、アニメの焼き直しになりますから。この話で特にそれを感じましたし。
ただ、理有の性格からして、積極的に決闘をするタイプの人間ではないので、そこをどうするかが今後の課題ですね。
いや、展開は見えているんですが、無茶苦茶になりそうな予感がひしひしと……色々考えて、何も思い浮かばなければ、当初考えたままで行こうと思います。どうせ最強系とタグで銘打ってるので。
ちなみに、私が投稿するスピードが遅いのは、これとは別に二次創作の小説を書いているからで、そちらがメインだからです。
ただ、その作品は、有名な魔法少女モノとオリジナル作品のクロスオーバーな上に、オリジナル作品は未公開。加えて、どっちの作品もかなりキワモノなので、公開する気は今のところありません。……オリジナル作品のメインキャラの一人が、最強を通り過ぎて、文字通りのデウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)なのも公開しない理由です。
――ワタシイガイノ、ダレガヨロコブ、コンナモノ。
それでは、今回はひとまずこの辺で。