遊戯王デュエルモンスターズGX 伏臥する無限の竜   作:マンボウ

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――幸運を求めるもの、幸いを逃す、愉快を求めるもの、幸いを掴む


試験と試練

◆

 唐突ながら、理有はただひたすらに引っ込み思案なわけではない。

 緊張しやすく、滑舌もよくない。深い思考に入り込みやすい上に、人前では口数がそんなに多くないのだが、気の許せる友人の前では話が違う。

 特に十代と翔の前では。

 同じオシリスレッドの隼人という人物とも機会があって少し話すが、とりわけ先に上げた二人のほうが会話は多いのだ。

 そして二人の前では、割と気楽に話せてしまうのが不思議なところだ。

 特に十代なのだが、彼は決闘バカなところがあり、同時にムードメーカーである。勉強は苦手だが、頭の回転は速い。そして、会話をしていると面白いぐらいに話が膨れ上がる。

 そのくせ、時たまヘンテコな方向に話を持っていく。それがまた面白い。

 理有はそんな十代を、早くも気に入っていた。

 ……まぁ、十代君をアニキって呼んでる翔君のほうが親しそうなんだけど。

 一番の友達、とまでは、流石の理有もうぬぼれていないが、一緒にいて楽しい人間であるのは間違いない。

 それが、理有の十代に対する評価だった。

 

◆

 そんなことをぼんやり思う理有が、現在何をしているかというと、十代達の部屋で、明日に控えた試験勉強である。

 学生と言う身分である以上、常に付きまとうこのイベントだ。

 ……うーん、どうしよ。ぶっちゃけ、面倒くさいなー。

 理有は白い目を、とある方向に向けた。

 勉強はそんなに嫌いじゃないから、まだいい。二段ベッドの一段目でぐーすか睡眠かましている十代も、ぶっちゃけまだいい。そんなことより天井ぶっちぎりで面倒なのが、

 

「おねがいしますデュエルの神様仏様死者蘇生様ー! どうか僕をお助けくださいー!」

 

 とかなんとか訳の分からんことをほざきながら、《死者蘇生》のカードを全力フルスロットルで間違った方向に崇めている翔である。

 確かに不死鳥の如くよみがえるというのは、聞こえとしていいのだが、忘れてはいけないのはアレは死者を蘇らせるカード。つまり、現在の翔は死者。実際、成績的に生きていない。ラーイエローへの昇格を必死に祈っているのだが、そんなことをしていて赤点のゴッドフェニックスで焼かれて門前払いされるのは自分である。

 ノリとしては、もはやゾンビ同然に思考停止して宗教のベクトルへ突っ走っているあたり、本気で彼は将来大丈夫なのだろうか。下手すると全財産毟り取られて自殺するタイプなのでは。その時は間違っても巻き添えにしないで欲しい、と思ったり、そのうち《墓場からの呼び声》でも使って打ち消してやろうか、などと本気で考えていた。

 ……まぁ、成績的には死んでるよねー。頭が悪いわけじゃないのに。

 自分と一緒で緊張するタイプのくせに、肝心なところでは勝負のツメを誤るタイプだから救いがない。人生、神頼みは最後の最後にやるべきことなのに、最初にやってるあたりダメダメだ。

「で、隼人君は勉強しないのー?」

「ベッドの上で一応してるんだなー」

 二段ベッドの上から声が聞こえた。顔がコアラに似ている、体格がいい彼が、オシリスレッド1年を絶賛流年中の前田隼人である。

「それにしても、わざわざ僕達の部屋にきて勉強するなんて、珍しいんだなー」

「一人でやっててもつまんないから来てみたんだけど、この様子じゃあなんだかねー……」

 やる気が0でぐーすか寝ているの約一名。そして間違った方向でマイナスへ突っ走っているのが約一名。最初は一緒に勉強やろうと誘ったのだが、十代は起きる様子がなく、そして翔が始めたのは悪魔儀式の真似事のような祈りごと。ぶっちゃけ放っておいて自分への被害最小なほうがいい。

 大人しいタイプの理有だが、施設で暮らしていて灰汁が強い人間には慣れているため、こういう場ではあまり慌てない。大人の前や横柄な人間の前に出ると、あがってしまうのはご愛嬌だが。

 と、そこで十代のベッドからけたたましく目覚ましが鳴った。試験開始の一時間前だ。そろそろ校舎へ行く準備を始めるのが普通だろう。

 それを合図に、さて、と理有はちゃぶ台の筆記具を鞄にまとめて立ち上がる。

「じゃあ、僕は行くから、十代君をよろしくね」

「え!? ちょ、ちょっと、理有君!?」

 後ろからなにやら呼び声が聞こえるが、理有は無視した。ぶっちゃけあの状況だと十代は起きる様子がない。すでに昨晩試したが駄目だったので、そこはもうさっさと諦める。

 そんな薄情さで理有はさっさと玄関に向かい、靴を履いて、扉を開け、寮を出る。

 時間はまだまだ余裕があるから大丈夫だ。腕時計を見ればまだ8時。教室に着いて最後の教科書のポイントを押さえるぐらいの時間は十分にある。

 ……いい天気、だねー。

 うん、と理有は一つ頷いて空を見る。活火山から昇る煙も今日はなく、すがすがしい青空が広がっている。

 こういう開放感は、悪くない。とりあえず道端で一度立ち止まり、深呼吸をして、それからまた歩き出そうとして、後ろから足音が聞こえてきた。そこまで大きくはないが、早い感覚で地を蹴る音だ。

 走っている。

 誰だろう、と理有は背後を振り返る。まだまだテストが始まるまでには時間がある。だったら遅刻した人間の線はまずない。

 そう思いながら走ってくる誰かを見ると、それは翔だった。

 翔は理有に気づいていないのか、猛スピードで校舎へ向かって走っていく。そんな後姿を見送った理有は、再び背後を振り返ってみる。

 誰も来る気配がない。兄貴分であるはずの十代の姿は、寮からここまでの道中のどこにも見えない。

「……もしかして、十代君を置いていった?」

 兄貴と呼んでいる人間を、こんなにあっさり見切りをつけて置いていくとは。

 自分と同じくらい――それ以上に薄情な後姿を再び見て、理有は心が白けるのを感じた。

 

◆

「あ、三沢君」

「やぁ、理有」

 廊下を歩いていて、知り合いの姿を見つけた。

 三沢大地。

 見た目はそこそこ顔立ちのいい青年だが、その実はアカデミア生きっての頭脳派。数式でデッキを構築して決闘を行うあたり、その頭の良さは人並みはずれたものがある。

 黄色い制服――ラーイエローのクラスでトップの実力者である彼は、理有とそこそこ話のうまがあった。まぁ、彼も十代と同様でけっこなくせを持った人間なのだが、それは割愛。

「あのさ、勉強どう?」

「フフ。すでに今回の試験範囲がどこになるかは分析済みさ。結果はかくもご覧じろ、ってね」

「やっぱり三沢君は頭の良さが段違いだねー」

「これぐらいしかとり得がないからな」

 そうは言うが、三沢の頭の良さは実際頭一つどころか三つは抜けている。話を聞いた限り、文字通り決闘の戦略を数式で組み立ててデッキを組むとか、ソフトウェア工学顔負けである。

 ……翔君もこういうところを見習ったほうがいいのになー。

 理有はそう頭の片隅で思いながら、三沢と会話をつづけているうちに到着した教室の中に入り、荷物を机に置いて隣同士に着席する。

「そういえば、今日は新しいカードパックが本土から到着するらしい」

「ふーん」

「理有もそういう反応か」

「欲しいっていえば欲しいんだけど、そういうのって倍率高いだろうからねー。それに絶対買占めとかあるし」

「まあ、そうだろうな。それに、俺の場合は自分のデッキを信用してるからな」

「実際、三沢君なら大丈夫だと思うよ。それよりさー、ここ教えてほしいんだけど」

 そう言って、理有はカバンの中から教科書を取り出して、三沢に見せる。

 三沢はふむ、と教科書の内容を軽く眺めて、すぐに破顔した。

「あぁ、これぐらいならすぐ教えられる」

「ホント!? じゃあ、いいかな。ここ、なんか出そうな気がしてて」

「その読みは俺も同じだな。間違いなく、クロノス先生ならここを出してくる」

「うわー、三沢君の断言してもらった安心感がすごーい」

 半分茶化すように、でも事実を言って、それから二人は顔を見合わせて笑った。

 

◆

「うーん! 終わったー……」

 テスト時間が終わり、答案が回収された後、理有は自席で大きく背伸びをした。それから首から上を右に左に振ると、軽く首筋の関節が鳴る音がする。

 それから彼が席を立ちあがり、階段状に席が配置されている教室の下のほうに行く。

 そこには、うつぶせに倒れて頭の先から足先まで真っ白になっている翔の姿があった。

「はろー、はろー、翔君。大丈夫?」

「……あ、理有君」

「どうしたの? なんか見るも無残な感じだけど」

「――試験開始前まで読んでた教科書の内容、試験範囲と全部ズレたところだったっす……」

「あー……」

 本当に無残だった。この分だと、翔の筆記試験結果はズタボロだろう。

 頭は悪くないのに要領が悪いというのは、こういうところで損をするのだ。無駄に頭が回りすぎる人間とか、ある特定の分野になると頭と気が全く回らなくなるとか。

 とりあえず俯せに戻って燃え尽きている翔に、理有はネタ半分、本心半分で合掌した。

 三沢もそれにならって、灰を通り越して仏となりそうな翔に合掌したところで、十代がやってきた。

「ふぁー、よく寝たぜ」

「寝た、って十代君。遅れて来て、ささっと答案書いたらすぐに寝たのは知ってるけどさー……」

 この分だと、筆記の結果は知れているだろう、と理有は思う。

 十代はそれを気にした様子もなく、灰になっている翔を見つけて不思議そうな顔をする。

「……お? どしたんだ、翔?」

「実は、かくかくしかじかで」

「ふーん。ま、気にするなよ翔! そんなの、実技で取り返せばいいんだよ!」

 とか言って十代は翔の肩を叩くが、そんな風に筆記ゼロでも実技で取り返せる人間は十代くらいだと、理有は心の中でツッコミを入れてから、訊く。

「そういえば十代君、遅れたのってやっぱり寝坊?」

「それもあるんだけどさー、途中の坂道で車が故障してて、おばちゃんが必死になって車押してたからさー」

「あー、十代君そういうの弱そうだもんねー。困ってる人を放っておけないおせっかいさん?」

 理有はくすり、と笑う。

 からかうように、でも嫌みのない声色に十代は、おうよ、と相槌を打つ。

 三沢はそんな十代に、同じく嫌みのない笑みを見せてから、そういえば、とある話題を切り出す。

「そういえば、知ってるか二人とも? もうすぐ購買部に、新しいカードパックが入荷するって話」

「新しいパック!?」

 なぜかそれに翔が反応した。

 十代と翔が周囲を見まわすと、いつの間にか他の学生の姿はない。すでに購買部へ向かったようだ。

「三沢君は大丈夫なの!? いかないで!」

「俺は自分のデッキを信じているからな、問題ない」

 翔が慌てて問うが、自信を持ちながらも自然体な三沢の安定感はブレない。

 対して翔はブレまくりで、続いて十代に問うと、

「新しいカード……興味ある! 行ってみようぜ!」

 十代はワクワクを抑えきれずに、ダッシュで教室を飛び出した。慌てて翔もずっこけそうになりながら追う。

 

◆

「えぇー!? もう売り切れー!?」

 購買に辿り着いた十代と翔は、店員の

「残ってるの、これ1パックだけなのよ」

 がカウンターの上に出したパックを、二人してまじまじと見る。そして、十代は言い出す。

「翔、お前買えよ」

「え!? いいのアニキ!?」

「ああ、俺はまだ何とかなるからさ」

「そんなこと言って十代君。本当にいいの? ぶっちゃけ翔君より君が買ったほうが望みありな気がするんだけど」

 と、ついてきた理有がそんなことを言い出した。

 なぜか翔も全力で頷くが、十代はいつも通りの笑顔で翔に譲ろうとする。

 と、そこで店の奥から、一人の恰幅の好い女性が出てきた。

「あ! おばちゃん!?」

「あら! アンタ、今朝はどうもありがとうね」

「へへ、いいってことよ!」

 二人の間で会話が成立しているので、理有は首を傾げる。

「……十代君、知り合い?」

「ああ。今朝の登校中にちょっとな」

「登校中?……あー、十代君が助けたおばちゃんって、この人のことだったんだ」

「やーねー! おばちゃんじゃなくてトメって呼んで!」

 中年の女性――トメは人の好い笑顔で言ってから、カウンターに出ているパックを見て、察した。

「あら。そういうことなのね。ふふ、坊や。ちょっとこっちにいらっしゃいな」

「?」

 トメが、愛嬌のある笑みで十代を手招きした。十代は首を傾げるが、トメは店の奥からあるものを持ってきた。

「うっふっふ。いいのがあるのよ、いいのが」

 そしてトメが手渡したものを見て、十代は驚きと喜びの声を上げた。

 

◆

「……えーと、なんでボクの相手がオベリスクブルーの人なんでしょうか」

 

 リングに上がる前から、理有の心境は困惑の一言だった。

 いきなり目の前にあるのが、オベリスクブルーの制服、というか学生なのだが、その人物が理有の対戦相手なのだ。

 これはおかしい。理有のクラスは最下層のオシリスレッド。普通、実力が近い者同士が試験では当たるはずなのに、どうしていきなりオベリスクブルーの学生と対戦なのだ。しかも見るからに上級生っぽい。

 そこで近くにいた試験官――響みどりに問い合わせると、

「ごめんなさい。クロノス教諭が作った組み合わせ表で、ちょっとハプニングがあって、オシリスレッドの人間が一人余っちゃったのよ。で、オベリスクブルーも一人余っちゃって、仕方ないから今回はこの組み合わせで進めさせてもらうわ」

「えー……」

 うなだれる理有。いきなり何ランクも格上の人間と対戦しろとか、かなり無茶である。

「まあ、今回に関してはこちらのミスだから、貴方が負けても減点はしないであげるわ。だから、安心して全力で決闘しなさい」

「ま、まあ、損にならないなら、構いませんよ」

 理有は内心渋々だが了承した。

 で、その対戦相手を見て、理有は思う。

 ……なんか、暑苦しそうで苦手なタイプだなー。

 ハンサム顔ではあるが、スポーツ選手特有の暑苦しい感じがする。うん、そういうのはコートの中でお願いします。

 後で知ったがこの人、綾小路ミツル、アカデミア最強の決闘者カイザーと同等の実力を持つと言われているらしい。

「よろしく頼むよ、一年生君!」

「よ、よろしくお願いします」

 互いに礼をして、デュエルディスクを起動する。

 そして、互いにカードを五枚ドロー。

「――決闘!」

 先行は理有だ。

 理有はカードをドローして、6枚の手札から戦術を考える。

「ボクは《終焉のカウントダウン》を発動! ライフポイント2000を支払います!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《終焉のカウントダウン》

通常魔法

2000ライフポイント払う。

発動ターンより20ターン後、自分はデュエルに勝利する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「場にモンスターを1枚、カードを2枚セットして、ターン終了です」

 

理有 手札:6枚 → 2枚

   LP:4000 → 2000

   場 :裏側守備モンスター×1

      伏せカード×2

 

 とりあえず、立ち上がりはいつも通りだ。いや、初手に《終焉のカウントダウン》があるから、普段より言い回りだろう。

 問題は相手――綾小路のデッキだ。さあ、伸るか反るか大博打。デッキの相性というおみくじの結果は、

 

「僕のターン、ドロー! ……ボクは魔法カード《サービス・エース》を発動!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《サービスエース》

通常魔法

自分の手札からこのカード以外のカードを1枚選択し、

相手にそのカードの種類を当てさせる。

当たった場合はそのカードを破壊する。

ハズレの場合はそのカードをゲームから除外し、

相手に1500ポイントのダメージを与える。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「げ」

 外れどころか大凶を引いた。真っ先にお祓いに行くレベルだ。

「さあ、このカードの種類を当ててみたまえ!」

 綾小路が手札から1枚、絵柄を隠して理有に見せる。

「え、えっと……じゃあ、魔法カード!」

「残念! 罠カード《レシーブ・エース》だ。よってプレイヤーに1500ダメージを与える!」

 魔球レベルの一撃で、理有は側頭部を撃ち抜かれた。それはもう、ワインのコルクが抜けるがごとく軽快に。

 

理有 LP:2000 → 500

 

「あいたー!?」

 ソリッドビジョンなのに痛みを感じるとか本当に理不尽と思いながら、理有が頭を撫でていると、綾小路はさらにもう1枚魔法カードを発動した。

「さらにもう一度! スマッシュエースを発動する」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《スマッシュエース》

通常魔法

デッキの一番上のカードをめくる。

そのカードがモンスターカードだった場合、

相手に1000ポイントのダメージを与える。

めくったカードは墓地へ送る。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「やっぱりバーンデッキ! しかもテニス!?」

「さあ、僕のデッキのトップのカードは……モンスターカード《メガ・サンダーボール》!」

 宣言と同時、テニスボールが理有の頭、先ほどボールが撃ち込まれたのとは反対方向の側頭部に撃ち込まれ、爆発した。

「ぎゃーす!?」

 ソリッドビジョンのエフェクトなのにどうしてこうリアリティがあるのか。特に痛みが。痛い。おまけに爆発エフェクトまであるから、髪型がパーマにでもなっていそうで、嫌だ。

「だ、だからボクのデッキはバーンとか全体破壊とかそういうのダメなんだってば……」

 悪い当たりをしたー、と理有は二重の意味で落ち込んだ。ボールの意味でも、対戦相手の意味でも。いや、対戦相手の性格が苦手なのを含めれば三重だが、そこまで気にすると落ち込みが酷くなりそうなのであえて無視する。

「ふっ……気にしないでくれたまえよ、理有君。この僕にあたったのが運の尽きさ」

 実際、運の尽きだった。というか運勢なんて最初から底辺だ。

 気障っぽい台詞も気にはならないぐらい、今の理有は落ち込んで下を見ると、自分の影が見当たらなかった。

 いや、違った。天井からの光を、何か巨大なものが遮っているようだ。

 そして理有は、隣のリングを見てみると、光を遮っているものの正体はすぐに分かった。

「……ロボだ」

 巨大ロボだ。

 理有の目線から見て、天井がロボの姿で隠れている。青、緑、黄、赤、さまざまな色のパーツで構成された合体ロボは見覚えがある。確か、今回の新しいパックで再版されたカテゴリ――《XYZ-ドラゴン・キャノン》関連のカードシリーズの最終進化系、その名も《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》だ。

 確かレアリティは最上級に位置するカードで、そんなものをどこで手に入れたのだろうか、と理有は思う。確かほとんどの新弾は、正体も分からない学生が買い占めたらしい。

 見れば、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》のコントローラーは万丈目だ。そして、その対戦相手は十代だ。

 その組み合わせに、理有は作為的なものを感じた。自分と同じ、本来は対戦することのない人物二人と、その二人を対戦するようにした人物。そして、万丈目が持っているレアカード。

 理有は、ピンときた。

 ……あー、ボクがこんな悪い当たり方したのって、クロノス教諭の策略のとばっちりかな?

 

◆

 状況は、理有の目から見ても圧倒的に十代が不利だった。

 万丈目の場にはモンスターが1体だが、そのモンスターは《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》。5体のモンスターを素材として特殊召喚した融合モンスターの効果は、召喚コストに見合うだけの効果がある。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》

 

融合・効果モンスター

星8/光属性/機械族/ATK 3000/DEF 2800

「VW-タイガー・カタパルト」+「XYZ-ドラゴン・キャノン」

自分フィールド上に存在する上記のカードをゲームから除外した場合のみ、

融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードを必要としない)。

1ターンに1度、相手フィールド上のカード1枚をゲームから除外する。

このカードが攻撃する時、攻撃対象となるモンスターの表示形式を

変更する事ができる。(この時、リバース効果モンスターの効果は発動しない。)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 すでに十代のライフポイントは1000.あと一撃でも万丈目の攻撃を受ければ敗北する。しかも表示形式を変更させられるため、守備表示にしたところで意味がない。

 だが、そんな程度で諦めるような遊機十代ではない。いや、むしろ遊機十代なら、この程度の逆境などひっくり返す。

「俺のターン、ドロー!……俺は《ハネクリボー》を守備表示で召喚! 伏せカードをセットして、ターンエンドだ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《ハネクリボー》

 

効果モンスター

星1/光属性/天使族/ATK 300/DEF 200

フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。

発動後、このターンこのカードのコントローラーが

受ける戦闘ダメージは全て0になる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

十代 手札:4枚 → 2枚

   LP:1000

   場 :《ハネクリボー》×1

      伏せカード×1

 

 天使の羽の生えた、つぶらな目ともふもふな体を持つ丸っこいモンスターに、観客――特に女性たちが黄色い歓声を上げる。

 だが、万丈目はそんな事を構いはしない。むしろ、そんな愛嬌あるモンスターを踏みつぶす未来に、毒味のある嗜虐の笑みを浮かべている。

「俺のターン、ドロー! 《ハネクリボー》の効果で戦闘ダメージを0にする魂胆だろうが、そんなものは無駄だ! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果で《ハネクリボー》を除外だ!」

 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果は、対象に取れるなら無条件にモンスターを1体を除外できる効果だ。

 ここで《ハネクリボー》を除外されれば十代の負けだし、攻撃表示に変えられて攻撃されても負けだ。

 一見十代にとって絶望的な状況だが、理有はこの状況を見て、まだ十代に勝ちの目があることを思い出した。

 それは、今日の朝、購買のおばちゃんことトメを助けたお礼に渡された、たった1パックに詰められた新シリーズのカード。その中で最も強力かつ、最も発動条件が厳しいカード。

 

「リバースカード、オープン! 速攻魔法《進化する翼》を、手札二枚を捨てることで発動するぜ!」

 

 それを、見事に前のターンで十代は引き当て、そして発動に成功した。

「な、なに!? 《ハネクリボー》の姿が!?」

 掻き消えた。

 そして、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果砲撃を避けて現れたのは、巨大な翼と兜をまとったハネクリボー。

「このモンスターは、フィールド上のモンスターをレベルアップさせる! 今、《ハネクリボー》はLV(レベル)10だ!」

 これで勝負が分からなくなった。仮にもし、万丈目が慢心して攻撃を仕掛けようものなら、形勢がひっくり返る。

「そんな雑魚モンスター程度、蹴散らしてやる!」

 万丈目の攻撃宣言と共に、VtoZが胸部のキャノンで攻撃を仕掛けるが、これは致命的なまでに悪手だ。《ハネクリボー LV10》の効果はバトルフェイズにしか発動できない以上、次のターンに移行して効果で除外すればよかった。

 だが、弱小モンスターだと決めつけた万丈目への代償は、

「《ハネクリボーLV10》の効果! 攻撃されたこのモンスターを生贄に捧げ、相手フィールド上のモンスターを全て破壊し、その攻撃力の合計分のダメージを相手に与える!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《ハネクリボー LV10》

 

効果モンスター

星10/光属性/天使族/ATK 300/DEF 200

このカードは通常召喚できない。

このカードは「進化する翼」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。

自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げる事で、

相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊し、

破壊したモンスターの元々の攻撃力の合計分のダメージを相手ライフに与える。

この効果は相手バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ぬおおおおおおおぉぉぉおぉっ!?」

 手塩にかけて強化したモンスターの全滅と、自分のライフポイントの3/4だ。

 このターン、万丈目はバトルフェイズを行ってはいけなかった。改めて次のターン、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果で《ハネクリボー LV10》を除外するべきだった。弱小モンスターだと甘く見た判断ミスが、ツケとして回ってきたのだ

 自分の優勢をひっくり返された万丈目は、腹立たしい表情のまま十代をにらむが、手札にモンスターもないようだ。

「……ターン終了」

 そう、宣言するしかなかった。

 

万丈目 手札:2枚

    LP:1000

    場 :《機甲部隊の最前線》×1

 

十代 手札:2枚 → 0枚

   LP:1000

   場 :なし

 

 この場面で、十代は笑っている。不敵に、楽しそうに――どこまでも真っ直ぐに。 

「万丈目! ここで俺が攻撃力1000以上のモンスターを引いたら面白いよな!?」

「何を馬鹿なことを!?」

 万丈目は、そんなことありえない、と否定するが、十代は心底今の状況が楽しそうな顔で、

「でも引いたら面白いよな!?」

 そう言って十代はカードをドローしようとした瞬間、理有は十代の顔を見て確信する。あ、引くな、コレ――と。

 十代は、ドローしたカードをちらりと見て、破顔した。

 

「おっしゃー! 《E・HERO フェザーマン》召喚!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《E・HERO フェザーマン》

 

通常モンスター

星3/風属性/戦士族/ATK 1000/DEF 1000

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ……やっぱり引きやがりましたよ、この豪運決闘バカ。

 しかも攻撃力は1000ジャスト。よくもこのタイミングでぴったりカードを引き当てるものだ。

「ば、馬鹿な!?」

 万丈目が驚く様は、まさに驚天動地なのだが、こんな程度、十代の豪運だったら当たり前。この男、麻雀、ルーレット、スロット、なんでもその気になったら大当たりを狙えるのではないかと思わせるほどの、異常な豪運なのだ。

 十代のこういう運は、おそらくデュエルモンスターズでしか発揮できないのだろうが、それにしても反則級の運勢。このイカサマクラスの運勢がジャッジキル(反則負け)を食らわないとか理不尽だ。

「《E・HERO フェザーマン》で万丈目にダイレクトアタック!」

「ぬあああぁあっ!?」

 《E・HERO フェザーマン》の攻撃がまともに決まり、万丈目のライフポイントが0になる。

 その瞬間、場内からダムが決壊したように歓声がこだました。

 ……ヒーローだなー、十代君。

 オベリスクブルー1年男子のトップに立つ万丈目に対して、僅差ながらも勝利をしたのだ。しかも、最上位のオベリスクブルー対最下位のオシリスレッドという下馬評すらひっくり返した。

 この状況は、オベリスクブルーの専横を許していたラーイエロー、オシリスレッドの学生にとっては歓喜の一言だろう。逆に、一部のオベリスクブルーの学生は面白くなさそうな顔をしているが、それも一部だ。半数以上のオベリスクブルーの学生は、この状況に驚き、そして面白い試合を魅せた十代に完成を送っている。

 絶望的な状況をはねのける強さを見せた十代に、観客も魅せられたのだろう。

 それはまさに、ヒーローと呼ぶにふさわしい活躍だ。

 見れば、観客席から降りてきた翔と三沢が十代に駆け寄り、彼の勝利を祝福している。

 十代の姿を見て、理有は思う。

 

 ……いいなー。

 

 十代はおバカなところもあるが、型破りで、何より人を引き付ける魅力がある。多くのものを巻き込みながら先へ進めるのは、理有にとってまさに憧れだ。

 眩しそうに目を細めて十代を見ていた理有の耳を、わずかにエコーかかった、体ごと打つような声が聞こえてきた。

「見せてもらいましたよ、遊城十代君」

 鮫島校長だ。

「君のデッキへの信頼感、モンスターとの熱い友情、そして勝負をあきらめないデュエル魂。それはこの場にいる誰もが認めることです。遊城十代君――君は、ラーイエローへ昇格です」

 その一声で、ドームは歓声のるつぼと化した。

 

◆

「この部屋も寂しくなるね」

 理有は、翔と隼人の自室にいた。

 そこには、先日まで住んでいた十代の姿はない。

「不思議なものなんだなー。オシリスレッドから這い上がるような男がいるなんて……」

 しきりに首を傾げているのは、三段ベッドの最上段から理有と翔を見下ろす隼人だ。その仕草が動物臭くて、コアラのような顔と非常にマッチしている。

 理有はいやいや、と隼人に首と手を振って答える。

「隼人君。十代君に関して言うと、不思議でもなんでもないんだよ」

 何回も十代の決闘を見てきた理有にとっては、言葉通り不思議でもなんでもない。扱うカードカテゴリーこそマイナーだが、その場その場で最適な選択を行える判断力と、あの異常な引き運。その二つを兼ね備えた十代の実力は、オベリスクブルーに匹敵する。

 ああいうのを見て、理有は思う。勉強のできる、できないだけじゃ、測れないものは世の中多そうだな、と。

「アニキ、もう戻ってこないっすね……」

「翔君。落ち込むのも分かるけど、あまり引きずらないようにね?」

 そう声をかけると、翔は小さく苦笑する。翔がアニキと慕っていた十代がいなくなって、一番寂しそうなのは翔だった。

「でも、アニキ、ラーイエローに行って大丈夫かなー、上手くやってるかなー」

「んー、ボクはいいと思うよ? ラーイエローなら十代君を受け入れられる度量はあると思うし。オベリスクブルーは別だけど」

 理有は内心、オベリスクブルーを毛嫌いしていた。

 万丈目やその取り巻きを見ていて思うが、どうもあの寮の連中は傲慢なのが多い。

 中には明日香や雪乃のように、寮の区分けによる差別なしに人に接する人間もいるし、カイザーと呼ばれる人間は寮の区分関係なしに慕われ、畏れられているらしい。

 とはいえ、明日香の取り巻きであるジュンコやももえを見ていると、人間としてデキているのは本当に数少ないのかもしれない。

 その点、ラーイエローはまだ差別意識が薄く、実力がある人間や、人間的に優れいているなら受け入れる度量がある。

 中でも代表的な人物が三沢だろう。彼は十代とは対極の、理詰めの決闘バカだから、息が合うに違いない。

 そんなことを考えていると、いきなり部屋の扉が開いて、見覚えのある人物が入ってきた。

「ただいまー」

「って、なんで戻ってきてるの十代君!?」

 しかも制服はオシリスレッドのままだ。十代はへへ、と頬をかきながら、いつもの笑みで、

「へへ、やっぱり俺はオシリスレッドのほうが向いてるや! 情熱の赤! 最高じゃねーか!」

「そんな理由で!? いや、確かにそういうところが十代君らしいけどさぁ!」

 理有のツッコミも、十代は褒めていると勘違いしたらしく、また笑っている。

 ……こういうところが十代君らしいんだよなー。

 とことんポジティブに物事を考えられる十代なら、オベリスクブルーだろうと、オシリスレッドだろうと、どこにいても問題ないだろう。なら、彼の好きにするのが一番いいはずだ。

「アニキー!?」

「って翔! こらひっつくな!?」

 十代が帰ってきて一番うれしいのは翔だろう。彼が十代に抱き着いてきて、慌てて十代は翔を引っぺがそうと必死になっている。

「なんだか、寂しがって損したんだなー」

 ベッドの柵から身を乗り出して言う隼人の表情は、言葉とは裏腹に嬉しそうだ。

 理有は、そんな隼人の顔を見上げながら、笑って言う。

 

「そうだね。でも、いいんじゃない? 十代君らしくって」 




終焉のカウントダウンデッキ、ロックパターンであれかかしなどの攻撃封じパターンであれ、バーンにはめっぽう弱いです。
というか、ここまで相性差が激しいデッキはそうそうないのではなかろうか。

そして理有の地はこんな感じ。大人の前では緊張しい。ですが、しなければ割と砕けてドライです。

とりあえず、とある方の指摘もあり、トップページにオマージュ元の作品名を載せました。
なかなか時間が取れず挨拶も断りの連絡もできていない状況で、作者の方々には申し訳もありません。

では、次の話まで、しばしお待ちください。


2014年5月末。夜の通勤電車の中より。
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