遊戯王デュエルモンスターズGX 伏臥する無限の竜   作:マンボウ

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 未知とは輝きか。それとも、奈落か。



未知の始まり

「ぎゃーっす!」

 

 夜半のオシリスレッドの寮から、情けない悲鳴が響き渡った。

 

「なんで理有君そう恐い話ばっかり知ってるんすかー!」

「孤児院で一緒だった女の子がいて、怪談大好きでちょっと電波入った性格だったんだよ。で、夜になるとしょっちゅう怪談話を披露して、皆を震え上がらせててさ。それで慣れちゃった」

「り、理有君見た目オドオドしてそうなのに、割と神経太いっす……」

「まだまだレパートリーはあるよ? っていうか、これ、僕の中ではレベル2ぐらいの話なんだけど」

「あれでレベル2なんすか!? 引いたカードレベル4だよね!」

「次はレベル7ぐらい引けたらいいなー」

 

 翔は部屋の隅でがたがた震え始めた。

 隼人も寒気が止まらないらしく、必死に自分の肩を抱いて両手でさすっている。肝試しの趣旨としては、まずまずだろう。

 

 理有は十代、翔、隼人と一緒に、レッド寮の食堂で肝試しをしていた。その趣旨は、シャッフルした山札からカードを1枚引き、引いたモンスターのレベルに応じた恐い話をするというもの。

 現在、ダントツで皆を震え上がらせているのは理有である。何しろさっきの話も、ただの怪談ではなく、怪談を聞いた人間まで巻き添えを食らって死んでしまう類の怪談なのだ。ただの恐い話だと思っていたら、もっと恐い二段落ちがある、ジャパニーズホラーの王道を聞かされた翔と隼人は、真冬の雪山に放り込まれたがごとく震え上がっていた。

 理有は、隣に座る十代を見ると、流石の彼も話のディテールの細かさと怪談としての恐さに苦笑していた。

 

「理有って案外、そういうところ肝強いよなー。年上の人間とか、対人関係だと結構おどおどしてる印象強いのにさ」

「僕に言わせれば、何がどうなるか大体パターンが決まってる怪談話より、何が出てくるか分からない年上の人間のほうが恐いんだよ。特に経験積んだ人間って、何が飛び出してくるか分からないし」

 

 そう言ってから、理有は机の上で一本だけ、か細く燃えているロウソクを、隼人と翔に悟られないよう息を噴きかけて、消した。

 

「ぎゃーっ! 恐いっス! 真っ暗っス!」

 

 またも悲鳴を上げる翔。

 と、そこで何かが焦げるような擦れる音が聞こえて、灯りがついた。

 理有がマッチに火を点けて、ロウソクにそっと火を灯す。

 

「隙間風でロウソクが消えちゃったのかな」

 

 悪びれず理有が言いながらマッチの火を消して、燃え殻をロウソク皿に載せてから十代を見る。

 彼は、理有が何をやったか理解したらしく、苦笑の色合いがさっきより濃い表情をしている。それに、理有は人差し指を口に当てて、沈黙の合図を送る。

 十代も頷いてくれたのを確認してから、理有は翔に声をかける。

 

「でも、翔君もそこそこの怪談話してたでしょ。泉に欲しいカードが映って、手を伸ばしたら突如泉の中から腕が出てきて引き込まれるって話。ほら、それでさっき、隼人君が震え上がってたじゃない」

「い、言わないで欲しいんだな……」

 

 恥ずかしそうに左右の人差し指をつついている隼人。

 と、そこで、いきなり十代と理有の背後から声が聞こえてきた。

 

「ほほー、皆さん一体なにしてるんですかニャー」

「ぎゃーっ!?」

 

 翔と隼人が脱兎の如く部屋の隅へ逃げる。

 十代も驚きながら後ろを振り返ると、そこにはロウソクの光で顔が不気味に浮かび上がった大徳寺が、丸々とした体の猫――ファラオを抱えていた。

 

「び、びっくりしたー、大徳寺先生! 驚かさないでくださいよー!」

「え……?」

 

 十代の言いがかりのような言葉に、大徳寺は困惑気味だ。

 

「ほら、こういうののほうが心臓跳ね上がるんだよ……」

 

 と言うのが理有。彼も驚きで椅子をがたっと揺らすぐらい驚いていた。見れば、隼人は周りの机を倒す勢いで後ずさりしながらがくがく震えている。

 そこで、翔が自席に戻りながら、言う。

 

「先生。今ね、引いたカードのレベルの分だけ恐い怪談話を披露する、ってゲームをやってるっすよ」

「ほほー、それは面白そうですニャー。では、私も一つ」

 

 大徳寺が山札からカードを引くと、

 

「わお、レベル12じゃん!」

「おぉー、これはこれは。じゃあ、とっておきのお話を披露するニャ」

 

 そうして大徳寺が語り始めたのは、とある廃寮にまつわる、怪談とは少しばかり趣の違う話だった。

 

 この島の奥――大徳寺が言うには、オシリスレッド寮の裏手をさらに奥に入っていったところには、ひとつの建物がある。

 すでに廃墟となったその建物は、かつて特待生の寮だった。

 そこでは、闇のゲームについて研究されていて、何の因果かは分からないが、何人もの人間が行方不明になっているらしい。

 

 そんな眉唾ものの物語を話、皆がごくりと唾を飲んだところで、大徳寺が抱えていたファラオが大あくびをした。

 

「ふむ……じゃあ皆さん、今日は遅いのでもう寝るニャ。おやすみなさいニャー」

 

 自室へ引き上げていく大徳寺。

 彼の姿が部屋から見えなくなったところで、十代は子どもっぽい悪戯の笑みで、

 

「なあ、みんな。明日、探検に行こうぜ」

「え!?」

 

 そんなことを言ってきたので翔と理有は驚くが、 

 

「こ、怖いけど、俺も行くんだな」

「えー!?」

 

 隼人が乗り気なのでもっと驚いた。

 

「じゃあ、明日の深夜に出発だー!」

「おー!」

「おー……」

 

 十代と隼人が握り拳を天に突き出すので、翔は雰囲気に流されてしぶしぶ手を上げるが、

 

「あ、ボクはパス。黙っておくから、巻き込まないで」

 

 あっさり理有は、空気を読まず流れをぶった切った。

 

「え!? ちょ、理有君!?」

「いや、だってあそこに入るの、校則違反だし。さすがに処罰を受けるリスクがあるのに行くのは、ちょっと気が引けるよ」

 

 う、と翔や隼人は身を固くした。今更ながらにそれを思い出したのだ。

 それに、と理有は続ける。

 

「明後日、出さないといけない課題があるの、忘れてないよね?」

「あ」

 

 三人してそれを今、思い出したらしい。

 

「ボクはほかにもやりたいことあるから、ちょっと時間を作るのが難しい、っていうのもあるんだ。だから、ゴメン」

 

 そういって理有は両手を合わせる。

 十代は、そっか、とあっさり一言つぶやき、

 

「仕方ねーな。さすがに無理強いはできないからな」

「あのー、アニキ、僕も、やっぱり……」

「さっき一緒に握り拳を上げてたのはどこの誰だよ。翔は行くの決定だからな」

「えー……」

 

 機を逸してしまった翔。まさに、覆水盆に返らず、である。

 

 翌日。

 クロノスは担当の授業を終わらせた後、ウキウキとした心で、職員室への廊下を歩いていた。

 なぜなら昨日、十代達がレッド寮の食堂でしていた会話を、外壁越しに盗み聞きをしていたのだ。

 これを利用すれば、にっくき遊城十代をアカデミアから追放することができる。

 今日、居眠りどころか堂々ぐーすかと寝ていたのは少しイラついたが、それも今日までだ。明日からの彼の困り顔を見るのが、本当に愉しみだ。

 

「あ、あのー、クロノス先生」

 

 と、そこで後ろから、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

 なんナノーネ、と後ろを振り返って視線を下げれば、そこにいたのは、一人の学生だ。自分にとっては忌々しきオシリスレッドの学生。

 

「何ナノーネ、シニョール……エート」

「り、理有です。円影理有」

「シニョール理有。私に何か用ナノーネ?」

「え、えっと、ちょっと、ここを教えていただきたくて」

 

 と、ここで理有は持っていた教科書を開いて、あるページを指さしたままクロノスへ差し出す。

 

「……チェーンについての説明、ナノーネ?」

「は、はい。どうしても、ここのところが分からなくて」

 

 それは、練習問題の中では一番難易度が高いところである。そして、その周囲にシャーペンで書き込まれた文字を見て、

 

 ……ホホーウ。感心ナノーネ。ここ以外の問題を全て自力で解くトーハ。

 

 ならば、その努力に応えるのが教師の務めだ。

 

「……というわけナノーデ、この場合は罠カードはチェーン終了まで残り続けマスーノ」

 

 クロノスが問題の解説を終わらせると、理有は何度も頷いて、教科書を指でなぞっている。今の説明を頭の中で復唱しているのだろう。

 

「あー、なるほど。だから《非常食》の発動コストにできるんだ」

「ちなみに、カウンター罠についてはスペルスピードが高いので、先に発動はできないーノ。覚えておくといいノーネ」

「はい、分かりました。ありがとうございます」

「いやいや、このぐらいならいいノーネ。それにしても不思議ナノーネ。オシリスレッドの学生なのに、勉強熱心ナノーネ」

 

 心底不思議そうなクロノスに、理有は力ない苦笑で答える。

 

「ボクは弱いから、いろいろ知恵を絞らないと勝ち目がないんです。だから、ルールはできるだけ理解しておきたくて」

「シカーシ、このレベルの問題が理解できるナラーバ、実技でももっと戦えるはずなのに、どうしてナノーネ?」

「……ボク、攻撃する戦術が苦手なんで」

「?」

「ご、ごめんなさい。ボク自身、どうしてか分からないんです。……ただ、決闘で誰かを攻撃しようとしたら、どうしても、その、……声が、出なくて」

「ハ?」

 

 クロノスにとっては、意外な一言だった。

 

「お、おかしいですよね。アカデミアに来てるのに、攻撃できない決闘者、なんて」

「普通は攻撃しないと勝てないですカプレーゼ」

「は、はい。だから、ここへはどちらかと言えば、決闘者じゃなく、その裏方志望なんです。技術者とか、審判とか、先生とか」

「なるほどナノーネ……」

 

 確かに、それなら実技よりは、どちらかといえば座学が優秀であるなら、多少は進みやすい進路だろう。

 と、そこで理有は手元のPDAを覗いた。

 

「あ、次の授業が始まる」

「おや、いけないノーネ。早く教室に戻って準備をしてくだサーイ」

「はい、わかりました。お忙しいところ、ありがとうございました」

「構わないノーネ。勉強熱心な生徒に応えるのは当然デスーノ」

 

 それから、理有はクロノスに頭を下げてから、いそいそと教室へ入って行った。

 後ろ姿を見送ったクロノスは、もともと向かうとした職員室へ足を勧めようとして、ふと思う。

 

「……ほかのオシリスレッドの学生も、あんな風に勉強熱心ならよかったノニーネ」

 

「ふぁー、やっと終わったー……」

 

 同日の夜遅く、月が南の頂に達する頃。

 自室の勉強机での勉強が終わった理有は、大きく背伸びをして、力を抜き、ほっとする。

 近くに淹れていた、冷めた緑茶を一気に飲み干し、背もたれにかけていた上着を取って、理有は玄関へ歩き出す。

 靴を履き、外へ通じる扉を開く。

 

「んー、いい風ー」

 

 耳元、口元を絹のように撫でる風が、頭の中を回転させて摩擦した知恵熱を、クールダウンしてくれる。

 

 ほ、と一息。

 

 牌の中に冷たい空気を取り込んで体を冷ます。

 自分の息がうっすらと白くなるのを見る。まだ今は四月のはじめ、少し寒さが残る時期だ。その冷たさが、今はありがたい。

 いい感じに今日は眠れそうだな、と思ったところで、星空を見ながら理有は思う。

 

 ……父さんと母さんの夢、ここ最近見てないなー。

 

 昔はしょっちゅう見ていたものだ。

 こんな涼やかな夜に一家で団らん。父さんは日本酒を飲みながらいい心地で、母さんも父さんに甘えて。自分は、そんな二人を見ながら苦笑。

 あの二人はいつまでたっても新婚のようなおしどり夫婦だった。

 でも、そんな二人なのに、不思議と疎外感はなかった。ちゃんとそこには自分の居場所があって、だからこそ、

 

 ……世界で二番目に好きな息子、か。

 

 愛情のそそぎ方をよく知っている二人だった、と思う。

 たまに愛情注ぎ過ぎてとんでもない方向に行くこともあったが。運動会などでカメラ撮影ならまだしも、自作の応援用の大きな旗やマジの番組撮影に使うようなテレビカメラまで担ぎ込んできた時は、さすがに恥ずかしかったものだ。

 そんな愉快で、楽しくて、暖かい二人だったのに。

 

 ……どうして、ボクの目の前から、いなくなったの?

 

 もう二度と、自分の目の前に現れることはない二人の姿を、ここ最近は思い出せなくなってきてる。

 それが、どうしようもなく悲しくて、気が付けば、周りが暗くなっていた。

 月が雲の影に入ったようで、夜光の失せた周囲に、理有は感傷にふけっていた思考を切り上げ、部屋に戻ろうと踵をかえす寸で、

 

「あれ?」

 

 視界の端、寮の近くを通る道を、見知った女性が歩いていた。

 理有はそちらへ向かうため、金属製の板でできた階段を下りていく。

 駆け降りる音であちらの女性も、理有に気付いたらしく、こちらに近づいてくる。

 

「あら、こんばんは、ボウヤ」

 

 それは、以前理有が対戦し、完膚なきまでに叩き潰してきた女性――アカデミアの女帝、藤原雪乃。

 

「こんばんは、藤原さん。こんな夜更けにどうしたの?」

「ボウヤに会いに来た、って言ったらどうする?」

「……あー、一瞬考えちゃったけど、ないね。絶対ない。だって藤原さん、男に突っ走るタイプじゃなくて、男を誘って惑わせて遊んでポイするタイプでしょ」

「ふーん……ボウヤの中で私が悪女認定されてることが分かっただけでも、収穫ね」

「悪女って言うより小悪魔かなー」

 

 理有の目には、悪魔の耳としっぽが雪乃に生えているように見えるのだが、それはそれで似合っているうえに可愛いから困る。

 

「それで、無駄話はそこそこにして、真面目にどうしたの? いくらオベリスクブルーでも、深夜に出歩くと先生に注意されるよ?」

「ブルー寮で、明日香の姿が見えないのよ。だから、もしかしたらこっちに来てないかしらと思ってね」

「こっち? 明日香さんが夜中にわざわざレッド寮に来ることってある?」

「違うわ。目的地はオシリスレッド寮の奥にある、廃寮よ」

「あそこに!?……あー、もしかしたら、十代君達と鉢合わせてるかも」

「あら。十代のボウヤたちも廃寮に? それって、何のためかしら?」

「探検だって」

「あら、探検なんて、子供の遊びね」

「ホントそれ」

「ボウヤは行かなかったの?」

「勉強してたし、行く気は乗らなかったけど……さすがに女性一人で夜道歩かせるのはアレだし。廃寮の中に入らないなら、一緒に行ってもいいよ」

「あら、ボウヤ。エスコートのつもり? 送り狼にならないでよね?」

「エスコートって言うより《スケープ・ゴート》?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《スケープ・ゴート》

速攻魔法

このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)

4体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンはアドバンス召喚のためにはリリースできない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「食べられるほうじゃない」

「いざとなったら盾にできるよ?」

「じゃあ遠慮なく。取っ手はどこかしら」

「ちょ、ちょっと!? からだべたべた触らないで!?」

「じゃあここでいいわ」

「とか言ってちゃっかり腕組まないでよ!?」

 

 本気でこの女性には勝てない、と理有は顔を赤くして叫びながらも、色々と諦めた。

 

 

 理有と雪乃が廃寮近くに到着した時点で、時計の針はすでに両方とも天辺を過ぎたところを指していた。

 周囲はすでに真っ暗闇で、

 

「やっぱり街灯がないから、足元が見えないぐらいだねー」

「そうね……」

 

「あぶないから気を付けてね」

「そうね……」

 

「それにしても明日香さんも廃寮に行くなんて、どういう理由なんだろう」

「そうね……」

 

「明日香さんのあの性格からして、肝試しってことはないだろうし」

「そうね……」

 

「さっきからそうね、しか言ってないね」

「そうね……」

 

 雪乃がさっきから腕を組んだまま、周囲を見回している。その態度は、普段の堂々とした様子と比べて小動物っぽい。

 そういえば、孤児院にいたころの肝試しで、今の雪乃に似た状態の女の子を見たことがある。

 

 ははーん、と理有はを察知した。

 

「藤原さん、おばけとかミイラとか怪談とか、そういうの、ダメでしょ?」

「っ!?」

 

 雪乃の肩が跳ねた。

 

「い、いけないボウヤ。女の秘密を暴くなんて。……どうして、そう思ったのかしら」

「だって、そわそわしながらあっちこっち見て回ってるし、僕と組んでる腕に力は言ってるし、見るからに『私お化けダメなんです』光線出してるから」

「――なんなの、その光線」

「紫外線だからよく分からないなー」

 

 雪乃の髪、紫色だし。

 

「……貴方、決闘や授業だと消極的な割に、こういう雑談だとズケズケ言うのね」

「授業はともかく、なんでか、昔から決闘で攻撃、ってなると、物怖じしちゃってね……あと、見た目しっかりした大人も苦手。慣れなくて」

 

 はぁ、と小さくため息。

 もう数年来の癖というか、習性になってしまっているので、どうにもならない、と半ば理有は諦めている。

 

「不思議なボウヤ」

「不思議ってほどでもないよ。単純な話、何かトラウマがあるみたいなんだけど、その原因がわからなくて」

「トラウマ?」

 

 首をかしげる雪乃に、理有はうーん、と少し考え込んでから、何かを決めたようだ。そのまま話を続ける。

 

「小さい頃、両親が生きてた頃は、デュエルモンスターズがもっと大好きで、友達とかと決闘してても、攻撃できたんだけどね。ちょうど、両親が死んだぐらいからかな。決闘で攻撃、って叫ぼうとしたら、どうしてか呼吸困難になってしまって」

 

 一息。

 

「たぶん、攻撃って行動そのものに何かのトラウマがあったんだろうけど、それがどういうことか、分からないんだ」

 

 もしくは、思い出せないのか。

 そのあたりが分からない以上、理有は攻撃という戦法そのものを取ることができない。

 

「ま、仕方ないけどね」

「仕方ないって……ボウヤ、随分とあっさりしてるのね。普通は悲嘆に暮れるのに」

 

「施設の仲間がね。口は悪いけど人情に厚い連中だったから、ほかのことで気を紛らわせてくれたよ。――たまにおふざけが度を越えてキャンプファイヤーに五尺玉ぶち込んだ挙句地上至近距離でたまーやー、危うく山火事になるところだったけど」

 

「……たまに?」

「うん、年に一回」

「……アクティブなボウヤたちだったのね」

「ううん。当時の主犯はシスター。しかも一番年上がヒャッハーしてました」

「……その施設の在り方を、激しく疑うわ」

 

 雪乃にしては珍しいジト目を見せる。

 

「だろうねー。むしろボクより精神年齢低いんじゃないかなー。そのあとボクは仲間たちと一緒に頭を大噴火させて土下座二時間コースだったけど。そして翌年には園長が十尺玉を三つぶち込んできたから、もっと大変だったよ」

「どっちが年上なのよ……」

「ホントそれ。だから逆に、ここの人達みたいな、割と見た目がしっかりした大人の教育者って初めてだから、慣れなくて……」

 

 はぁ、と理有はまた溜息。あのシスターや園長ぐらい悪ノリできれば人生楽しいのだろうが、そこまでいくと人として大事な何かが遥か彼方に行ってしまうので、やっぱりやめておく。

 それに、見た目まともだけど、頭の中が本当にまともなのかどうかは分からないのだが。

 

「ま、ボクの身の上話はこのぐらいにしようか。で、そろそろ腕を組んでるの、放してくれないかな? もうすぐ寮に着きそうだし、会話で遊んでたから、怖さも紛れたでしょ?」

 

 その一言に、雪乃はえ?――と目を丸くした。

 

「……ボウヤの癖に気を使ったの? 生意気ね」

「ははは。そのぐらい調子を取り戻したなら、もう大丈夫かな」

 

 理有が前を向くと、雪乃は面白くなさそうな顔で、腕を放す。普段男をリードしていた彼女にとって、苦手なお化けや幽霊が絡むからとはいえ、こんな形で主導権を握られてしまうのは不服だったのだろう。しかも見た目幼さが残る理有になど、屈辱だったかもしれない。

 

「……でも、私が腕を組んだ時は、割と慌ててたわね」

「そりゃあまあ、ボクだって男の子ですし。美人に腕を組まれたら、意識せずにはいられないよ」

「あら。じゃあさっきの会話、ボウヤも私の体から集中をそらしたかったのね」

「……バレちゃったか」

 

 理有は少しばかり、頬が火照るのを感じた。

 雪乃は同学年どころか、全校生徒・教師を含めて、アカデミアでもトップランクの容姿を持つのだ。そんな女性が遊び半分どころか遊び十割とはいえ、腕を組んできたなら意識せずにはいられない。

 

 雪乃はふふ、と妖艶な笑みを見せる。すっかり余裕を取り戻したようだ。

 

「ふふ、ならボウヤ、私の体のお味はどうだったかしら?」

「……ぶっちゃけその胸、反則でしょ」

 

 高校一年で明らかにDを超えているとか、どう見ても発育が良過ぎる。反応しないのは本気で鈍感などっかの決闘バカぐらいだ。

 

「ふふ。ボウヤ、どう反則なのかしら? ほら、言ってごらんなさい?」

「そ、それはその……あーもう! どうしてそう藤原さんは男の煩悩を掻き立てるようなことばっかり言うのかなぁ!」

 

 ぷいっと顔を背けて、理有は先へと歩き出す。

 くすくすと背後で笑う声が聞こえてくるので、理有は恥ずかしく思いながらも、雪乃がいつも通りのペースを取り戻したのを感じて、口の端が自然と上がる。

 そう思った矢先、

 

「っ! ボウヤ!?」

 

 唐突な雪乃の叫びを後ろで聞き、理有はすぐにただ事ではないと察知。

 振り向くと、そこには、黒色の人影。

 すぐさま、視界が白黒した挙句、全身が強烈なショックに痙攣した。

 

「が!」

 

 電気ショック。おそらく、スタンガンの類だろう。強烈な電圧に体が耐えられるわけもなく、視界が意識ごとぐらつく。

 そのまま平衡感覚も失って前方に、全身から倒れこむ。

 

「……っ」

 

 全身に力が入らない。

 視界が、瞬く間に闇から更なる闇へと染まっていく。

 とうとう意識が消える寸前、最後に見たのは、何者かに羽交い絞めにされ、口元に布を当てられている雪乃の姿だった。

 

「チ。タイタンの野郎、こんなツマンネエ役どころを寄越しやがって」

 

 理有を襲った大男は、雪乃を両肩と膝を抱えて、俗にいうお姫様だっこの要領で持ち上げていた。

 それは、彫りの深い顔をした、いかつい大男。極道の人間にも勝るとも劣らないいかつい体格。全身は黒ずくめの衣服。

  はたして、この世界の中で誰が知っているだろう。

 ある意味では有名人。

 決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)でペガサスの部下として、武藤遊戯と闘った男。

 

 ――闇のプレイヤーキラー。

 

 闇属性の使い手である決闘者は、この島に来ているもう一人の男とタッグを組んで仕事をしていた。

 決闘者の王国以降、この男とペガサス――I2(インダストリアル・イリュージョン)社の契約は切れた。

 それ以降、裏社会で決闘者として戦っていたこの男は、いい金づるを提供してくれる相棒を見つけた。

 

 闇の決闘者――タイタン。

 

 仮面をかぶった、同じく黒づくめのデーモン使いは、千年パズルの使い手を名乗っている。

 もちろん、そんな話が嘘だとプレイヤーキラーは知っている。千年パズルの本当の持ち主だった人間は、武藤遊戯ただ一人なのだから。

 だが、あえてプレイヤーキラーはタイタンの商売に乗った。なかなかに実入りのいい仕事だったし、闇の決闘者としてのスタイルがタイタンのそれと合致したのだ。

 

「楽して金が手に入るから、まあいいっちゃいいんだがな……」

 

 ぼやく男は、つまらなそうな顔をしてから、抱えている雪乃の顔を見る。

 

「……おいしい役どころがあっても、罰は当たらねえよなぁ」

 

 笑みで雪乃の肢体を見回す。整った顔立ちに、学生とは思えないボディライン。大きな胸に、ミニスカートから覗く、生足。

 下劣な笑みには、品性の欠片もない。

 下心を隠そうともしない男は、さっそく雪乃の体を味見するために、彼女をどこかに持ち去ろうとし、

 

「……ん?」

 

 背後から、草を踏みしめる足音を聞いた。

 振り返ると、そこには先ほど頭を殴って昏倒させたはずの少年――理有が立っている。

 

「……チ。当たり所が良かったのか」

 

 もう一発スタンガンをぶちかまして黙らせようかと考えたところで、異変に気付く。

 理有の胸元が、ぼんやりとした薄明りを照らしている。月の光ではない。明らかに熱を連想させる橙色(オレンジ)の光だ。

 光に照らされる理有の顔には生気がない。光の加減で不気味なのもあるが、目は半開きで、視線に力はない。

 それでも、理有は左腕を上げ、ひじを横に曲げて、構える。

 すると、肘から先、二の腕、体の正面に、光が収束を始める。はじめは球状に集まっていた光は、やがて板のような形になる。

 光は、腕の下側を覆う月形の板――決闘盤となった。 

 

 男は不可解な現象に驚きはしたが、慌てふためく様子はない。不可思議な力といえば、すでにかつての雇用主――ペガサスの読心術で体験済み、免疫も当に獲得済みだ。

 

「……妙な力を使いやがる。だが、その様子だと決闘をしてぇらしいな。いいだろう、暇つぶしに相手になってやる!」

 

 凄みを効かせながら、決闘盤を構える男。

 対して、理有の動き、立つ様子には、力がない。ゆっくりとした動きで決闘の準備をする。

 理有は腰にあるデッキホルスターからカードを取り出す。

 そして、デッキを懐に仕舞った。

 む、と訝しむプレイヤーキラーに対して、理有は反対側の懐から、別のデッキを取り出して、シャッフル。腰のホルダーにセットする。決闘盤のデッキホルダーの代わりに使うようだ。

 プレイヤーキラーもデッキを決闘盤にセットして、構える。

 

「いくぞ! 決闘(デュエル)!」

「……決闘」

 

 宣言と同時、理有の胸元の輝きが強くなった。

 

 そのころ、十代は闇の決闘者、タイタンと決闘を行っていた。

 

「くそっ! 力が入らねぇぜ……」

 

 十代は、体を襲う理不尽な現象に苦しんでいた。

 目の前にいる黒いコートに黒いシルクハットと黒づくめ、顔上半分を隠す銀色の仮面を着込んだ、いかにも怪しい風体の男。彼こそがタイタンである。

 その男が、十代達と別口で廃寮近辺に来ていた明日香を気絶させて、連れ去った。

 十代は、一緒に探検していた翔と隼人を観客として、明日香の身柄をかけてタイタンと決闘を開始した。

 だが、タイタンが繰り出してくるデーモンモンスターのルーレット効果に、十代のカードはたびたび無効化され、倒され、不利を強いられていた。 

 そして、タイタンが持つ逆四角錐型の金色の物体――千年パズルのウジャド眼を十代に向けた次の瞬間、十代の体が、失ったライフポイントに応じた分だけ消えたのだ。

 

「フフフ。どうした? 先ほどまでの威勢はどこに行った?」

 

 タイタンの愉悦に満ちた黒い笑みが、不気味だった。

 その後も十代は防戦一方。なんとか罠カードや《E・HERO フレイム・ウィングマン》で《ジェノサイドキングデーモン》を撃退したが、タイタンの手札から繰り出されるモンスター効果で何度も復活された。

 タイタンのライフポイントも削れ、十代と同じように体の一部が消える現象こそ起こったが、タイタンはひるむことなく攻撃の手を休める気配がない。

 結果、今の盤面は以下のような状況になっている。

 

理有

   手札:1枚

   LP:1000

   場 :《E・HERO フレイム・ウィングマン》 攻撃表示

      《ダーク・カタパルター》 守備表示

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《E・HERO フレイム・ウィングマン》

融合・効果モンスター

星6/風属性/戦士族/攻2100/守1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《ダーク・カタパルター》 

効果モンスター

星4/地属性/機械族/攻1000/守1500

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが守備表示だった場合、

このカードにカウンターを1つ置く。

カウンターと同じ数のカードを自分の墓地から除外する事で、

その枚数と同じ枚数のフィールド上の魔法・罠カードを破壊する。

その後このカードのカウンターを全て取り除く。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

タイタン

   手札:5枚

   LP:1900

   場:《ジェノサイドキングデーモン》 攻撃表示

     《万魔殿-悪魔の巣窟-》 発動中

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《ジェノサイドキングデーモン》 

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500

自分フィールド上に「デーモン」という名のついた

モンスターカードが存在しなければこのカードは召喚・反転召喚できない。

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に800ライフポイントを払う。

このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、

その処理を行う時にサイコロを1回振る。

2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《万魔殿-悪魔の巣窟-》

フィールド魔法

「デーモン」という名のついたモンスターはスタンバイフェイズにライフを払わなくてよい。

戦闘以外で「デーモン」という名のついたモンスターカードが破壊されて墓地へ送られた時、

そのカードのレベル未満の「デーモン」という名のついたモンスターカードを

デッキから1枚選択して手札に加える事ができる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 そして、ターンは十代からタイタンへと移る。

 

「私のターン、ドロー! 私は《ジェノサイドキングデーモン》を生贄に、《迅雷の魔王-スカル・デーモン》を召喚!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《迅雷の魔王-スカル・デーモン》

効果モンスター

星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に

500ライフポイントを払う。

このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、

その処理を行う時にサイコロを1回振る。

1・3・6が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「《迅雷の魔王-スカル・デーモン》の攻撃! 『怒髪天衝撃』!」

 デーモン東部の角から発せられる雷は、あっという間に《E・HERO フレイム・ウィングマン》に届き、その肉体を焼却・爆散させる。

「ぐううっ!?」

 

 十代 LP;2000 → 1600

 

「ふふふ、さあ闇に落ちろ、遊城十代」

 

 再びタイタンが千年パズルを掲げ、そのウジャド眼から放たれる光のせいか、体の一部分がさらに消失していく。

 

「貴様はそのまま、全身の力を失い、やがて臓器も活動を止め、その命を終えるのだぁ!」

 

 膝を曲げ、屈しようとしていた十代。そのまま、体が崩れて倒れてしまうのでは、と思ったところで、

 

『クリクリーっ』

 

 何か、鳴き声のようなものが聞こえてきた。

 それが何か確かめようと思って目を開いた、その一瞬だけ、確かに見えたのは、自分と同様に消失しているタイタンの肉体が、何事もなかったように元に戻っている姿だった。

 

 瞬きをしたら、すぐに元のように肉体の一部が消失しているタイタンの姿があったが、同時に先ほどまで全身を襲っていた脱力感が消えている。

 

 ……これって、もしかして!

 

「……隼人! やつの右腕は消えているか!?」

 

「いや、逆だと思うけど」

「え!?」

 

 リング外の隼人と翔に確認を取ると、予想通りのリアクション。

 十代は隼人の答えで結論を出し、立ち上がる。

 

「なにぃ!?」

 

 驚くタイタン。おそらく、自分が立ち上がれないという何か根拠があったのだろうが、そんなものに嵌ってたまるか。

 

「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズに《ダーク・カタパルター》にカウンターが1つ乗る! そして、メインフェイズに《ダーク・カタパルター》の効果を発動! このカードの上に置かれているカウンターの数だけ、墓地のカードを取り除いて、フィールド上の魔法・罠を破壊する!  俺が選ぶのは《万魔殿-悪魔の巣窟-》だ!」

 

 宣言と同時、《ダーク・カタパルター》の背中にあるカタパルトから、光の弾丸が放たれ、《万魔殿-悪魔の巣窟-》のオブジェである悪魔の骸骨を砕いた。

 連鎖して崩れていくフィールド魔法に、タイタンは歯噛みして、千年パズルを掲げる。

 

「……くそっ! これを見ろ!」

「そうはいくか! お前には除外したカードを確かめてもらうぜ!」

 

 十代は除外した《E・HERO フェザーマン》をスローイング。手裏剣のように飛来したカードは、タイタンが手に掲げた千年パズルのウジャド眼を貫いた。

 

「しまった!」

 

 タイタンの叫びと共に、十代とタイタンの肉体が元に戻る。

 

「思った通りだな。お前の闇のゲームはインチキだ! お前はマジシャンか何かで、暗示やトリックで闇のゲームを演出していたんだ!」

「な、何を言う。私は本当に闇の……」

「なら、千年アイテムがいくつこの世にあるのか、お前は答えられるか? 千年アイテムの使い手なら、そのぐらい知ってて当たり前だぜ」

「……それは、な、なな」

「!?」

 一瞬、十代の表情がこわばった。それを見て取ったタイタンは、余裕の表情を取り戻す。

 

「ふ、ふふふ、なーなだぁ。そう、私は七つの千年パズルの一つを持つ、闇の決闘者なのだ!」

 

 その言葉に、リング外の翔と隼人が何かに気付いた。

 

「せ、千年アイテムは七つだけど、千年パズルは1つしか存在しないんだな!」

「な、なんだと!?」

「この建物、千年アイテムを研究していた形跡があって、そこではすべての千年アイテムがどんなものか、しっかり記録されているんだな!」

 

 隼人の言葉で、タイタンは自分がドジを踏んだと悟ったようだ。 

 

「隼人の言う通りだ! お前は今、自分がインチキ野郎だと認めたぜ!」

「ぬぅ……このゲームのからくりがバレた以上、もうこのゲームを続ける意味はない!」

 

 タイタンが地面に、手にころがせる程度の球を地面に投げる。

 炸裂し、黒煙が瞬く間に周囲に立ち込める。

 

「やっぱりインチキかよ! 待て!」

 

 黒煙の先で、十代はタイタンが遁走するのを見た。

 逃がしてはならない。ここで逃がしては、後々取り返しがつかない事態になるかもしれない。

 

 ……それどうこう以前に、明日香に謝らせるまで逃す気はないぜ!

 

 追いかける十代は、走っている途中で気が付いた。リングの周囲、円を描くような外壁のすべてに灯のような光が点っていることに。

 そして、自分とタイタンがいるリング全域に、巨大なウジャド眼が現れていることに。

 

 ――真の闇のゲームが、幕を開けた。

 

 一方、その頃。廃寮近くの茂みにて。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 プレイヤーキラーは、ありえない現実に恐れ戦慄いていた。

 目の前にいるのは、ただの小僧だ。デュエルアカデミアでも最弱らしいオシリスレッドの、パッとした特徴もない、たった一人のガキ。それがいま、プレイヤーキラーにありえない現実を突きつけている。

 

「貴様! そのモンスターは何だ! なぜ、そんなモンスターを従えている!? どうやって召喚した!?」

「……」

 

 叫びに、無視することのできない疑問に、理有は答えない。

 その理有が従えているのは、プレイヤーキラーの見たことのないモンスター。背中にジェットを背負い、赤いマフラーを巻いた、機械仕掛けの戦士だ。

 モンスターの出力元となっているのは、理有の決闘盤にセットされている、白いカード。

 得体のしれない力が、目の前にある。

 闇を従え、闇に隠れるプレイヤーキラーにとって、これ以上ない恐怖の具現。

 

 未知のカードを従える理有は、冷静なまま、決着をつける宣告を下す。それは、声での宣言ではない。ただ、闇のプレイヤーキラーに拳を突き出すだけで、速やかに決着はついた。

 

「ぐおおおぉおぉっ!?」

 

 突き出した拳を合図に、機械仕掛けの戦士が繰り出す、たった一撃のナックルで、プレイヤーキラーのライフポイントは根こそぎ刈り取られる。

 加えて、立体映像としてしか存在しないはずのモンスターは、確かな力を持ってプレイヤーキラーに害をなす。

 殴り飛ばされ、肉体が紙切れのように宙に舞い、しかしすぐに質量を取り戻したように地面に落下した。打ち所が悪かったのか、そのまま意識だけを飛ばしたプレイヤーキラーを見届けた理有もまた、ふらりと前のめりに倒れて、意識を失った。

 光でできた決闘盤も輝きと実体を失い、あたりに理有のカードが散らばる。

 

 こうして、観客のない戦いが終わり、未知の顕在化が始まった。

 

「……ん」

 

 雪乃は、真っ暗だった意識を自分に取り戻した。

 ゆっくりと目をあけると、自分は木を背中にして地面に座るように眠っていた。

 

「……私、あのとき」

 

 誰かに、黒づくめの大柄な人間に襲われたのだ。

 口元にあてられたハンカチ、その直後に落ちる意識。

 眠り薬をしみこませていたのだろう、あっさりと眠りに落ちた自分は、しかし無事に目を覚ました。

 体に異常は、ない。少し気だるいぐらいだ。

 そして周囲を見ると、そこには一人の人影が倒れていた。

 

「……理有の、ボウヤ?」

 

 それは、以前自分が圧倒した、気にもしなかった一人の少年。

 自分と一緒に友人を探すため来てくれた、弱弱しくも心強かった誰か。

 周囲を見回しても、誰もいない。

 もしかしたら、彼が必死にかばってくれた、もしくは撃退してくれたのかもしれない。

 雪乃は立ち上がり、理有のそばへ近よって、膝を地面につけるように屈んで、彼の容態を見る。

 うつ伏せだった理有を仰向けにして、全身を見て、傷がないことを確認する。

 それから、口元に手を近づけて、呼吸があることも確認、無事を確信。

 ホッとした雪乃は、それからどうしようか、と考える。いくらなんでも、自分一人で理有を寮まで運ぶことはできない。彼が目を覚ますまでは、ここに留まったほうがいいだろう。

 ならば、と理有は、自分の膝に理有の頭を乗せた。

 

「ふふ……がんばったボウヤに、ご褒美よ」

 

 よくわからない、ちょっとした悪戯心と、感謝を込めて。

 まあ、絶対に目を覚ましているうちに、してあげるつもりはないけれど――と、雪乃は小さく笑う。

 それから、雪乃は何となく周囲を見回し、そこであるカードを見つけた。

 紙でできているはずのカードが、風化していく、その様をわずかに見ることができた。

 

 ……白い、カード?

 

 見たこともない白地のカードだ。

 それを手に取ろうとする雪乃だが、触れるより前に、テキストと絵柄をじっくり見る間もなく、カードは塵となり、風に消えた。

 

「……何かしら、今の」

 

 雪乃の疑問は残り続けるが、今のカードは、幻のように消えてしまった。

 だが、ただの錯覚でもない。あれは一時だけ、確かに現実に存在していた。

 

 幻でありながら、現実である矛盾。

 それを説明できるだけの理屈を、雪乃は持ち合わせていなかった。

 雪乃はしばし考えて、しかし答えにはたどり着けず、風化した現実を思うことに虚しさを感じて、自分がいま感じる足の上の重みを見る。

 

 理有はまだ意識を取り戻さない。この分だともうしばらくはこのままだろう。

 そこで雪乃はなんとなしに、理有の普段前髪で隠れている前髪をかき上げ、

 

「あら……意外と、いい顔立ちしてるわね。その目、隠すのは損よ? ボウヤ」

 

 そのつぶやきと、笑みに合わせて、そよ風が吹く。

 近くの茂みが、ざわついた。

 




長らくお待たせしました。マンボウです。

いろいろ職場がドタバタしていた&ネタが思いつかない&遊戯王の最近のカードを知らない
そんな状況で色々とネタを考え、プロットを考え、仕事は忙しい、転勤だー、といろいろあったので、こんなに遅くなってしまいました。

あ、ちなみに、アニメ本編と同じ構成の決闘は、基本的にダイジェスト式、ないし一部の描写のみにして、基本的にはスキップの方針でいきます。アニメと同じ話、ここで書いてもあまり意味があるとも思えないので。

話は変わって、最近ネタ集めも兼ねてタッグフォースSPやってて、脳筋エンタメイトとジャンドデッキでヒャッハー(物理殴打)してます。マジタノシー
この作品ももっとテンション上げれれば、作風明るくできるんですけど。。。
まだまだ序盤と終盤しかイメージができておらず、プロット練り切れてないのもあって、もうしばらく鈍足更新で、まだ話に面白味が欠けることになりそうです。
皆さまには大変お待たせ&退屈させてしまうことになると思いますが、どうか平にご容赦願います。

では、本日はここまで。また次の話をお待ちください。

     
      2月中旬、出張中の宿屋より
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