遊戯王デュエルモンスターズGX 伏臥する無限の竜 作:マンボウ
◆
翌日。
沈んでいた意識が浮かび上がる感覚と共に、理有は目覚めた。
天井、そして周囲を視線だけ動かして見回すと、自分の部屋のベッドの上だと気が付いた。
のっそりと起き上がり、ゆっくりと背伸びをして、はて、と理有は疑問を覚えた。
「……なんでボク、自分の部屋にいるのかな」
えーっと、と理有は昨晩のことを思い出す。
確か、雪乃が近所を通りかかって、それから一緒に廃寮の近くまで行って。
「あ」
そうだ。何者かに襲われたんだ。スタンガンを当てられて、気絶する間際、雪乃が誰かに口元にハンカチを当てられているのを見た。
そこで、記憶は途切れている。
「まず」
い、と発音する前にベッドから飛び起きた。それから大急ぎで外へ出ていこうとして、ふと視線を動かすと、机の上に見慣れない何かがあった。
「ん?」
机の前まで行ってみると、それは書置きだ。
品のいい、丁寧で、丸みを帯びた文字。文末には雪乃の名前がある。
『ボウヤへ。
まずは一言。私は無事よ、安心なさい。
私達を襲った不審者も、私が目を覚ました時にはどこかに消えてしまったようだから。
私が目を覚ましてから、寮から出てくる十代のボウヤ達、それに明日香と合流したわ。
アカデミアの中で、どうもきな臭い動きがあるみたいだから、今度父さんに頼んで、知り合いの探偵に調査してもらおうと思うわ。
また何かあったら連絡するわね。
追伸――また今度、私と腕を組んだ時の感想を聞かせてね。もっと細かく』
「……最後まで男を弄ることを忘れないなあ、藤原さんは」
呆れ笑いにも似た感情だが、悪い心地はしない。こういう
まあ、日ごろからかわれるのは勘弁してほしいが。
と、そう思ったところで、建物の音からエンジン音が聞こえてきた。そこそこ排気量のある車だろうか、だんだんと音が大きくなる。オシリスレッド寮に近づいてきているようだ。
理有は玄関へ歩いて、靴を履き、扉を開けて外を見る。
と、
「アカデミア倫理委員会だ! 今すぐこの扉を開けろ! 開けないと扉を爆破する!」
「――――」
激しく常識を疑う言葉が聞こえてきたので、理有は閉口する。
黒い軍服とベレー帽を着込んだ人間が数人、十代達の部屋の前で大声を張り上げる。あんな格好をした人間がアカデミアにいることに疑問を覚える。
と、その中の一人、大柄な男がこちらに気付き、近づいてくる。
「円影理有、だな」
「え? あ、あの、いったいどういったご用件でしょうか……」
理有の質問に、男は表情を変えないまま、言う。
「進入禁止区域である廃寮に忍び込んだ嫌疑がかけられている。査問会議まで、ご同行を」
◆
「退学ぅ!?」
アカデミアのホール、そこに集められた十代と翔、理有の三人は、ホール上側内壁の巨大ディスプレイに映し出された校長、クロノスをはじめとした面々から、下した決定を伝えられて驚愕した。
『本日未明、遊城十代、ならびに以下二名は、特別寮に不法侵入し、内部を荒らした。調べはついているぞ』
三人を連行してきた中でのリーダー格の女が、厳しい視線でモニター越しに三人を見る。
「……あ、あのー」
『何か?』
「廃寮の近くに行ったのは事実ですが、ボク、廃寮の中にまでは入り込んでいませんよ?」
実際、理有には身に覚えがない。確かに雪乃と一緒に廃寮の近くへ行ったのは事実であり、そこまでは咎められるのも仕方ない。
だが、廃寮の中に入り込んでなと、断じていない。正確には、理有ではなく隼人なのだ。
『恍けるな』
一刀両断。
理有の言葉を嘘と断じた女は、さらに続ける。
『円影理有。貴様が寮の中に入ったのを目撃したという証言がある』
「……な、なんですって?」
理解不能なことを言われ、パニックになる理有に、女はさらに言葉を続ける。それこそ、糾弾するような口調で、
『聞こえなかったのか。貴様が廃寮の中に足を踏み入れたのを、見たという人物がいるのだ』
「そ、そんな馬鹿なことが! だって……」
『言い訳無用!』
否定を許さぬ女の断定に、しかし、理有は一切覚えがない。
だが、下手なことは言えない。うかつなことを言えば、現在疑いがかかっていない明日香と雪乃まで巻き添えを喰らってしまう。
何を言い返そうか、それを少ない思考時間で必死にひねり出そうとすると、
「待ってくれ! 確かに俺と翔は廃寮に入ったけど、荒らすようなことは俺達してないぜ! それに、理有は確かに俺達と一緒に来ていない!」
横で十代も反論をしてくれる。それはありがたいのだが、ここで鮫島校長から、予想外な言葉が出てきた。
『それがですね。十代君たちと理有君は、別々に目撃されたです。別行動で廃寮の中に入った、というのが倫理委員会の見解です』
「そ、そんな……!」
『証言もある以上、言い逃れは許されない! 三人とも即刻退学。これが、アカデミア倫理委員会が出した結論だ!』
いくらなんでも横暴ではないか、と理有は反論しようとするが、言葉が出てこない。ただでさえ、年上の人間の視線に囲まれて思考が止まり気味だというのに。
それを見て取ったのか、十代がなんとかしようと声を上げる。
「頼む! なんでもするから、俺達にチャンスをくれ! ああいや、ください!」
『ならば、「制裁デュエル」ナノーネ! 方式はシングルデュエル1回と、タッグデュエル1回。各デュエルの決闘者はこちらが用意するノーネ! 勝てば処罰は減免、負ければ退学は確定! これが、こちら側が提示できる譲歩ナノーネ』
「チャンスはデュエルでつかめ、ってか……それしかないみたいだし、やってやろうじゃねえか! なあ、翔! 理有!」
「う、うん……」
翔は十代の勢いに押されて頷いたが、どうやら完全に納得してはいないようだ。
他方、理有は十代が作ってくれた合間に考える。
こうなってしまうと、自分が廃寮に入っていない証拠を挙げないといけないが、おそらくそれは難しい。廃寮の近くに行った時点で校則違反なのもあるが、廃寮に入っていない証拠として、具体的なものが何か、と問われると、どうしても思い浮かばない。
証言がある以上、相手の主張が通る公算が大きい。
「……仕方ないね。その提案、受けるしかないよ」
ひとまず、いい方策が思い浮かぶまで時間を稼ぐしかない。だから、理有は制裁デュエルを受けると同時に、受けないで済む方法も考えることにした。
『では、日時などは追って伝えるノーネ! 組み合わせは任せるカーラ、連絡が行った時点でタッグデュエルとシングルデュエルのメンバー構成を教えるノーネ!」
やけに乗り気なクロノス教諭の声が、耳障りだった。
◆
校舎の外へ出た三人の中で、先頭を歩いていた理有は、力ない苦笑でつぶやく。
「厄介なことになっちゃったなー……」
はぁ、とため息。
「まあいいんじゃねえか? 勝てばいいんだろ?」
「そういうことをあっさり言えるのは、アニキぐらいなもんっスよ」
「だよねー……」
翔と理有は、お気楽な十代の思考にため息。十代自身は勝率はそんなに悪くないが、理有は勝率が悪い部類だ。同じ反応の翔も、同様。
「それにしても不思議だよなー。寮の中に足を踏み入れたってなら、隼人も制裁デュエルの対象になるはずだろ?」
「それに、あのタイタンって決闘者に連れ去られてた明日香さんも、お咎めなしっすね。まあ、こっちは不可抗力だからいいっすけど」
「へ?」
十代と翔、二人の会話は寝耳に水だ。
「ちょっと待って。それ、どういうこと?」
それから理有は、二人から事件のあらましを事細かに聞きだした。
なんでも、明日香がタイタンに浚われて廃寮の中で人質になり、彼女を助けるために闇のゲームなるものをやっていたらしい。もっともそれはインチキで、十代が無事に勝って撃退したが、一歩間違えればそのまま十代が催眠術で前後不覚になり、明日香の身柄もどうなっていたか分からない。
「……おいおーい、アカデミアも倫理委員会も、なにやってんの」
色々とツッコミたいことが山ほど出てきたので、理有は呆れと頭痛を覚えた。コレ、アカデミアとその上位組織の管理能力が疑われる事案ではなかろうか。
「けど、証拠がねーからなー。俺ら二人が廃寮にはいったのは事実だし」
「不審者については、明日香さんや藤原さんが証言してくれるかどうかだねー……後でそのあたりは、明日香さんや藤原さんと相談しようか。二人には被害が出ないようにする方針で」
処分撤回できるかは怪しいが、少なくとも痛み分けには、再度の交渉次第で持っていけるかもしれない。
それに二人も同意して、それから十代が何かを思いいたったらしく、あ、と声を上げる。
「そういや二人とも、タッグの組み合わせはどうするんだ? 今回はタッグデュエル1回にシングルデュエル1回だろ?」
「あー、その話なんだけど、十代君。シングルはボクがやるよ。っていうか、ボクがやるしかないんだ」
「へ? なんでだ?」
「理由は簡単だよ。僕は20ターン耐えるデッキ。二人はビートダウンで相手のライフポイントを0にするデッキ。おまけに僕のデッキはロックして時間を稼ぐタイプだから、十代君と翔君の動きまで抑制しちゃう。そうなると、ボクと組んだ相方は、まったく戦えなくなるんだ」
それを言われて、十代は、あー……と何やら納得した様子で、
「そっか。それだったら、最初っから俺と翔で組んだほうが勝ち目あるよなー」
「え? どういうこと?」
「翔君。ボクのデッキって、《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》とか《平和の使者》とか、ひたすらにロックをかけるカードばっかりでしょ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》
永続罠
フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《平和の使者》
永続魔法
フィールド上に表側表示で存在する攻撃力1500以上のモンスターは攻撃宣言をする事ができない。
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に100ライフポイントを払う。
または、100ライフポイント払わずにこのカードを破壊する
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そして十代君と翔君のデッキのモンスターは?」
「……あ! ほとんどレベル4以上だ」
「きっと攻撃力も1500を超えるモンスターが主力だね。二人の勝利条件は相手のライフポイントを0にすることだけど、ボクと組むと、二人のデッキの大半のカードが使い物にならなくなっちゃう。タッグデュエルは二人分の手札をフルに使ってた買うから、片方のプレイヤーのカードがほとんど使いものにならない致命的。だから、最初から攻撃型デッキの二人が組んだほうが相性はいいんだよ」
「そうっスね……」
「オッケー、わかったぜ。じゃあ俺と翔でタッグだ! よろしくな、翔!」
「う、うん、わかったよアニキ」
話はまとまったようで、十代と翔はさっそく、互いのデッキを把握するための決闘をするらしく、オシリスレッド寮近くの海岸へと向かう。。
その後ろをついていくように歩きながら、理有は思考の海に潜り込む。
倫理委員会に車に乗せられ、連行された時から、気になることがあった。
――なぜ倫理委員会は、十代、翔、理有の三人を制裁デュエルの対象にして、明日香、雪乃、隼人の三人を対象にしなかったのか。
寮に入ったという事実だけなら、明日香も連れ去られているとはいえ、寮の中に入ったことになる。
逆に自分に関しては、寮の中には足を踏み入れていない。夜間に出歩いたという事実はほめられたことではないが、それでも退学レベルの話になることはしていない。そして、自分が懲罰の対象になるのあら、同じ場所にいた雪乃にお咎めがないのはどういうことだ。
二人はオベリスクブルーだが、それでも制裁を逃れられる条件が寮の格付けだけとは思えない。
鮫島校長や倫理委員会の口ぶりでは、明日香と雪乃が廃寮の中、ないし近辺にいたことは一切知らないようだ。まあ、下手に被害者を増やすわけにもいかなかったので言わなかったが。
また、倫理委員会は明日香が連れ去られた事案、そして自分と雪乃が襲われた事実を把握していないし、誰が廃寮に入ったかも明確に把握していない。
ならば、導き出される結論は、一つ。
……何者かが、十代と翔、そして自分を密告したということになる。明らかな悪意をもって。
いったい誰が、何の目的で。
理有は、この一連の騒動の影に、不穏な気配を感じた。
◆
海辺、岩肌の海岸で、十代と翔はタッグデュエルのための訓練として、互いの戦略を知るための決闘を始めた。
理有は、近くの高台――二人の近く、10メートルほど崖の上に座りながら、二人の様子を眺めていた。これは理有が志願したことで、二人の戦いでミスや妙な癖があったら指摘できるようにするための観戦だ。
二人の戦いを見ていると、さっそく翔が調子に乗った挙句、凡ミスをやらかしていた。
「……翔君、ボクとは別の意味で、本番ダメだねー」
翔は、自分に有利なことがあると、すぐに調子に乗る。だから、自分にちょっと有利な場面になったら、すぐに勝った気になってうぬぼれたところで足をすくわれる。理有も何回か翔と決闘したが、たびたびその傾向がみられ、そのたびに理有のロックを切り抜けられずに敗北していた。
この調子だと、十代君の圧勝だろうなー、と考えたところで、
「ん?」
足音が聞こえてきたので振り返ると、隼人と明日香、そして雪乃がこちらへと歩いてきていた。
真っ先に明日香が声をかける。
「元気そうね、理有君。制裁タッグデュエルになって、落ち込んでるかと思ったけど」
「まあ、なるようにしかならないかなー、と。……もしかして、ボクたちの様子を見に来たんですか?」
「ええ。その様子だと、理有君はまだ大丈夫なようね」
明日香は理有の隣に立ち、彼が先ほどまで見ていたのと同様、眼下で行われているデュエルを眺める。
隼人と雪乃も近くにやってきた。
「……ごめんなさいね」
「?」
明日香の言葉の意味が一瞬わからず首をかしげる。
「校長に、今回の件を直訴しに行ったのよ。私も廃寮の中に入ったのなら、制裁デュエルを受けるべきだ、ってね」
「でも、明日香さんの場合は、誰かにさらわれて廃寮の中に身柄を移されたんでしょ? そこに明日香さんの意思なんてないんですから、明日香さんが制裁デュエルを受ける必要は、元々ないと思いますよ?」
理有は、本心からそう思っている。実際問題、明日香は廃寮の近くに行っただけ。夜間というのは褒められたことではないけど、行方不明の兄を思っての行動だというなら、制裁を受けるほどの問題でもない。というか、アカデミア側もそのあたりは配慮してしかるべきだ。
「そういう意味では、藤原さんも同じ。廃寮の中に入っていない上に、昨日の件の被害者だしね」
理有は、雪乃に話を振る。
「ええ……でも、私が襲われたことを話して、校長が上に報告しても、『不審者が侵入した事実はない』の一点張りだったのよ」
「……腐ってるなー」
腐敗している。自分たちの権力にたてつくものは一切受け付けないらしい。
「やっぱり、やるしかないのかな、制裁デュエルは」
「今のところ、状況をひっくりかえせる手段がないわ。証拠もないから、どこかに訴えることも難しい」
「そっか……なら、ボクも帰ったらデッキ調整をしっかりやっておかないと」
「手抜かりはないようにね?……そういえば、ボウヤは徹底的に女を束縛する戦術が得意だったわね」
「その”女を”の一言が余計過ぎるよ藤原さん。まあ、ガチガチのロックを仕掛けて相手の意欲を奪うデッキでは、あるけどね」
毎度のごとく、男という男をからかってくる雪乃。
理有は、呆れ笑いしか返せない。ほら見ろ、隼人君も困った笑みじゃないか。
「でも、理有も今回は大変なんだなー。だって、負けたら退学って、とってもプレッシャーがかかるんだな」
「そうだねー。退学するつもりはないけど、しちゃったら行く当てがないからね」
「え?」
明日香と隼人が、気軽な理有の言葉に引っ掛かりを覚えたらしい。
遅れて理有は、あ、しまった、と後悔した。そんなことを言ったら二人の興味というか、関心を惹いてしまうじゃないか。
「理有君、行くところがないってどういうことかしら?」
案の定、明日香が訊いてくるので、理有は答えるしかない。誤魔化すにしても、すぐにネタが思いつかない。数秒考えてから、理有は仕方なしに、本当のことを話す殊にした。
「小学生になった直後くらいかな。詳細は覚えてないけど、一家で事件に巻き込まれて、両親どっちも鬼籍に入ってるんだ。財産の類も、ほとんど性質の悪い親戚に持っていかれて、施設に入れられたんだよ。当時、ボクに意思も選択肢もなかったからね。残ったのは、ほんの少しのはした金と、父さんと母さんが遺したカードぐらいなんだ」
「……思っていたより、重い過去ね」
「まあね。その事件で何らかのトラウマを背負ったらしくて、デュエルモンスターズで、モンスターに攻撃させることができないんだ。だから、攻撃しなくても済む、ロックデッキを使ってるの」
「大変なんだな、理有……」
背中を向ける格好だから見えていないが、それでもわかる。明日香と隼人はしんみりした雰囲気になってしまったようだ。雪乃も、さすがに同じ雰囲気に呑まれているらしい。
……うん、やっぱり過去をひけらかすと、こうなっちゃうよね。
失敗したなー、と理有は反省する。
「まあ、気にしないで。制裁デュエルを勝ちさえすれば、なんとかなるんだから。……そういえば藤原さん。あの夜、気絶したボクをどうやってレッド寮のベッドまで運んだの?」
「たまたま近くを通りかかった十代のボウヤたちを見つけてね。隼人君に頼んで運んでもらったのよ」
「……なるほど。ま、そりゃそうか。藤原さんの細腕で男を運ぶのは無理だしね」
「あら、女は力がないって言いたいの? これでも護身術ぐらいは習ってるわよ?」
「あー、だから男に対しても余裕あるのか。それでも人一人を運ぶのは重労働だから、きっと違うと思ってたけど。ま、なんかいろいろ納得」
得心が行った理有は、さーて、地上ではどうなってるかなー、と崖下を見下ろす。
◆
理有はあっさり過去について語ったが、彼の言葉は、雪乃にとって苦悶の一言だった。
十代と翔に関しては、確かに廃寮に忍び込んだのは事実だから、制裁デュエルを受けるのは当然だ。
だが、理有に関しては、完全にとばっちりだ。しかも、そのきっかけは自分が作った。
もしも理有が決闘に負ければ、自分が廃寮の近くへ連れて行ったせいで、彼一人に責任を負わせ、退学という苦境に追いやることになるのだ。
雪乃としては、それだけはなんとしても避けたい。
……なら、なんとかしてボウヤが廃寮の中に入っていない証拠を手に入れないといけないわね。
加えて、理有の将来が今回の一件で閉ざされるようなことにならないよう、手を回す必要がある。
もし理有の身に何かあった時は、自分の責任だ。
だが、今の自分には、その責任を負えるだけの土台がない。
親に迷惑をかけることになるが、この際仕方ない。いざという時は、法律の力でも、親の力でも何でも使って、理有を助けなければ。
そう思ったところで、雪乃は思う。
……まさかこの私が、こんなボウヤのために世話を焼くことになるなんて、ね。
◆
一方、崖下では、翔が《強欲な壺》でドローしたカードを見て、固まっていた。
……これは、《パワー・ボンド》!?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《パワー・ボンド》
通常魔法
自分の手札・フィールド上から、
融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
機械族のその融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。
このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、
自分はこのカードの効果でアップした数値分のダメージを受ける。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今、自分の手札には、融合素材になる機械族モンスターカードが2枚揃っている。これなら、パワーボンドを出せば、高い攻撃力のモンスターを特殊召喚できる。そうなれば、形勢は一発でこちらに傾く。
しかし、そうもいかない。なぜならこのカードは、自分が尊敬する兄から使用が禁止され、封印しているカードだ。
目の焦点が定まらず、手の指に痺れが走り始めた。と、
「おーい、大丈夫かー?」
十代の声で、反らしていた意識を十代との決闘に戻した。
その際、翔は大きな呼吸と、自分の型の揺れ具合で、過去急になっていたことに気づいた。
こんな状態では《パワー・ボンド》は使えない。
使っただけで精神に失調をきたすし、使った時のライフダメージリスクが高すぎる。ならば、
「手札から魔法カード《融合》を発動! 手札の《ジャイロイド》と《スチームロイド》を融合! 《スチームジャイロイド》を攻撃表示で融合召喚!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《スチームロイド》
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1800/守1800
このカードは相手モンスターに攻撃する場合、
ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。
このカードは相手モンスターに攻撃された場合、
ダメージステップの間攻撃力が500ポイントダウンする。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ジャイロイド》
効果モンスター
星3/風属性/機械族/攻1000/守1000
このカードは1ターンに1度だけ、戦闘によっては破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《融合》
通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、
融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《スチームジャイロイド》
融合モンスター
星6/地属性/機械族/攻2200/守1600
「ジャイロイド」+「スチームロイド」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「バトルだ! 《スチームジャイロイド》で《E・HERO フェザーマン》を攻撃!」
《スチームジャイロイド》の竜巻突進攻撃が、フェザーマンに直撃し、撃破される。
「ぐうっ!」
十代
LP:4000-(2200-1000)=2800
「どうだアニキ! まいったか!」
少し威張るように言う翔だが、その内心は喜んでいた。アニキ――十代に一矢報いることができた。《パワー・ボンド》なしでも戦うことはできる、と。
と、ダメージを食らった十代の方が、上下に揺れている。いや、これは。
……笑ってるの、アニキ?
「……ふふふ、あはははは! そうだよ、やっぱ決闘はこうでなくちゃ!」
ますます十代のやる気回路にエネルギーが充填されたらしい。
こうなると、もはや十代を止められるものはいない。
「え、えっと、僕はこれで、ターン終了」
「なら行くぜ! 俺のターン、ドロー!……よし! こっちも魔法カード《融合》を発動! 手札の《E・HERO クレイマン》と場の《E・HERO スパークマン》を融合して、《E・HERO サンダー・ジャイアント》を融合召喚だ! 頼むぜ、俺のヒーロー達!」
出現した雷をつかさどる巨人のヒーローに、翔は見覚えがあった。
……これ、明日香さんとの決闘で使った、アニキの切り札!
◆
理有は、十代が融合召喚したモンスターを見て、確信する。
「これは終わりだねー」
「ええ、終わったわね」
明日香も、この状況を見て翔の負けを悟った。雪乃も反論はないらしく、無言で頷く。
「どうしてなんだな? まだ翔のモンスターを攻撃されても、ライフポイントは残るんじゃ……」
そういえば、と理有は思い出した。以前、十代が《E・HERO サンダー・ジャイアント》を融合召喚したとき、隼人はその場にいなかったな、と。
明日香もそれを思い出したらしく、隼人に《E・HERO サンダー・ジャイアント》の効果を説明する。
「《E・HERO サンダー・ジャイアント》は、元々の攻撃力が自分より低いモンスターを破壊できるのよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《E・HERO サンダー・ジャイアント》
融合・効果モンスター
星6/光属性/戦士族/攻2400/守1500
「E・HERO スパークマン」+「E・HERO クレイマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
自分の手札を1枚捨てる事で、フィールド上に表側表示で存在する。
元々の攻撃力がこのカードの攻撃力よりも低いモンスター1体を選択して破壊する。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「え。それじゃあ……」
「そうだよ。翔君の《スチームジャイロイド》の攻撃力は《E・HERO サンダー・ジャイアント》よりも下。破壊されてダイレクトアタックを受ければライフは危険域。もう1体モンスターを召還されれば、その時点で翔君のライフポイントは0になる」
事実、十代は手札を捨てて《E・HERO サンダー・ジャイアント》の効果を発動。《スチームジャイロイド》を雷の雨で破壊した後、《E・HERO バーストレディ》レディダイレクトアタックを決めた。
「あ、あれ?」
翔君が、何かを叫びながら、十代から自分のカードをひったくるようにして取り、そのままどこかへと走り去ってしまった。
後に沈黙が残るこの状況。十代もどうしていいかわからず固まっている。
皆が言葉を発しない中、代表して理有がつぶやく。
「……え、えーっと、どうしよ、この状況」
お久しぶりです。
ここ最近、仕事に余裕が出てきたので、ちょくちょく書き連ねています。
もう細かい設定まで決めている余裕はないので、ノリで適当に書いていくことにしましたが。
暇が見つかり次第、投稿していくので、気長に待っていていただければ幸いです。
一応、カイザーが出てくる次の決闘までは、おおよそ書き上げているので、推敲後に折を見て投稿します。
では、次回まで、しばしお待ちください。