私はその日、運命に出会った。闇の中に輝く光を見つけたときのような、大恋愛の末に婚姻を結んでしまうような、物語を始めるには十分な運命だ。
出会いこそ運命と呼ぶのなら、彼女との日々はまさに運命の物語になると、私は断言できる。
それほどまでに圧倒的な運命を、彼女だから感じることができたのだと、大袈裟にも言える。実際に大袈裟なのだろう。誰かに伝えたら、誇大にものを語るやつだと、はっきり言われる。そんなことはわかっている。それでもこの衝撃を、天使か女神を見つけた村民のような感動を、一体誰に否定できようものか。
ああ、ああ。なんて、なんて。
私は、求める。手を伸ばしたくなる。抱きしめたくなる。そんな衝動を、明らかに持っていた。
焦げつくようにチリチリとする指先が求める。
ごおごおと耳鳴りが響く。
ぐるぐると情報が頭の中をを駆け巡る。
彼女の姿を正確に、間違いなく捉えるために、すべての感覚が研ぎ澄まされていく。
透き通るような紫水晶《アメジスト》の瞳。
しっとりと濡れた栗色の髪。
しなやかな体躯。一見すると細いだけの身体だけど、引き締まった筋肉と、思わず触れたくなるような瑞々しい肌は、どんな芸術よりも優れている。
小ぶりな胸は、ツンと主張をするように小さいながらも形を成している。未成熟でこそあるがーーいや、そうじゃない。むしろ、そこだ。未成熟であるからこそ、成熟したものよりも魅力を感じる。
完成されていないからこそこんなにも魅入る。
完成されたものとは違う価値であり、美だ。
ただ美しいと、見惚れてしまう。
綺麗だと、私は、掛け値なくそう思った。
女神と言うものがもしも人の姿をして現れたと言われても、今の私なら信じていただろう。
私は誓って言うが、けっして女の子が好きな人間ではない。同性愛に理解はあるけれど、それを自分がしたいとは思っていないし、それは今だって変わることはないのだけれど、それでも目の前に現れた少女に、私はガッツリとやられてしまった。
衝撃的に、乱暴に、彼女の魅力をこの心に叩き込まれてしまった。
……とはいえ。このときの私は本当に頭がどうにかしていたのだろう。少し冷静になるべきだった。
ーー一糸まとわぬ裸の少女を舐めるように見回しているなんて、変態そのものだよ!?
ω
「どっぼーん!」
と、勢いよく、少しばかり気分を良くしてわたしは浴槽に飛び込んだ、はずだったのだけれど。
わたしは暖かいお湯に包まれることもなく、見たこともない場所にいた。いや、本当にどこなの?
天井は重く暗い、石灰色だ。下は床として整備されていないのか、硬い地面が剥き出しだ。どうにも薄暗い、土蔵のような場所だ。土埃が粉塵のようにして舞っている。この場所へ現れたとき、飛び込んだ勢いで硬い地面にべチーンとお尻を打ったのでじんじんと痛む。腫れてなければいいけれど。
いや、気にするところはそこじゃない。
確かにお尻は痛いし、青あざでもできていようものなら、誰かに見られて蒙古斑だとまたさらに子供扱いされかねないので、個人的にはすごく気になりはするけれど、だからってそんな場合ではない。
状況を整理するためにも、周りを観察する。警戒心を持って行動をしなければならない。
……ただ広い、何もない倉庫のような場所か。
そして、目の前には。
何故かわたしの身体を凝視する、ローブ姿の女の子が一人。時代錯誤というか、まるでファンタジー世界から出てきた、魔道士のようなローブ姿も気にならないぐらいに、彼女はわたしを見ていた。
……すごい見られてる。すっごい見られてる!
いくら同姓と言っても、さすがに恥ずかしいよ!
わたしは慌てて、咄嗟に大事な場所だけ手で隠す。未だ薄っすらとも生えてこない場所を見られるなんて、恥ずかしいなんてものじゃない。
「あーーう、うわああああああっ! ごごご、ごめんなさいっ! そんな、別に視姦してやろうとかそういうつもりはなかったの! 信じて、ね!?」
と、まるで我に帰ったように、彼女は慌てて弁解をした。
「う、うん。信じる……女の子同士だもんね」
「そ、そうだよっ。女の子が女の子を見て興奮するなんて、まさかそんなバカなことはないよ!」
「あはは、好きな男の子とかいるの?」
「これが不思議に、とんといないんだよね。男の子を好きになったこともないんだよね。男の子を格好良いなって思うよりも、女の子を可愛いなって思うことのほうが多いかもしれないなぁ」
「あれ、わたし本当に信じていいのかな!?」
「ご、誤解、誤解だよ! これはそう、たとえるなら、犬派か猫派かぐらいの些細なものだよ!」
「な、なるほど……?」
わかったような、わからないような。とにかく必死に誤解であることを伝えたいということだけはわかったので、信じることにしておこう。
現状、信じるしかないというのもあるけれど。
状況が読めないなか、唯一事情を何とか説明してくれそうな彼女の言うことを指針にしなければならないのだから、それを疑っていては何も動けない。
どうしようもない。
それに、彼女はどうにもわたしには悪い人には見えない。澄んだ、まっすぐな瞳をしている。綺麗な紅色をしていて、まるで宝石のルビーのようだ。
年齢は、たぶん、わたしと同じぐらいだ。差があるとしても、ひとつかふたつ、上下するぐらいか。いわゆる思春期、青春期。あどけない子供から大人への過渡期だ。
ゆったりとしたローブから体格は読めないが、身長はわたしよりも高い。身長差が五センチ以上はある。と言っても、けっして平均よりも身長が高いというわけではない。単にわたしが小さいだけだ。
…………。
ま、まあ、身長が小さいなんて、まだ成長期にあるはずだから、そんな気にすることじゃないけど?
「あっ、そ、そうだ。裸のままじゃ寒いよね。このローブでよかったら、どうぞ」
裸のまま、しかも身体は濡れている。陽の当たらない場所というのもあって、少し寒い。確かにその申し出は、この状況ではありがたかった。
いそいそと彼女はローブを脱ぐーー曝け出される肩、脚、太もも、脇。ローブの下に着ていた服は少し露出が多い。肩紐がない。ベアトップワンピースのようだ。色合いは白を基調としている。紅のロンググローブと肩までの間が、妙に色っぽい。男子が話す絶対領域と、或いは似たようなものか。
革製のブーツは少しくたびれている。素足で履いているようだが、靴擦れは大丈夫なんだろうか。
ワンピースの丈が短いせいで、脚の露出面積が大きい。
そしてーー胸だ。完全に覆われておらず、谷間が覗いている。谷間、谷間なのだ。大きすぎず小さ過ぎない、谷間ができる程度にはちゃんとある。
おそらくCカップ。Dはぎりぎりないぐらいか。
…………。
「え、え、なんで私、ポカポカ叩かれてるの!?」
その胸に訊け。
女性の胸部はどんなものでも素晴らしく尊いというのは当たり前ですね。友人の名言を借りると、『おっぱいに貴賎はない、すべてが愛おしくすべてが美しい』。……あいつとは縁切ったほうがいいかもしれない