ハヤテのごとく!~Image me on the eyes once again~ 作:唐笠
ほーき雲さん、感想ありがとうございました
普通
日常
それらは手を伸ばせばすぐに触れられる。
しかし、それを失ってから大切さに気付くことも少なくはない。
それは取り返しのつかないことが大半だ。
なら、失う直前に気付いたのならば…
届かないと決めつけてしまう前に気付いたのならば……
その想いはどこまで羽ばたくことができるのだろうか…?
ハヤテSIDE
「おはようございます、ヒナギクさん」
「おはよう、ハヤテ君♪」
僕がヒナギクさんの家に厄介になってから三度目の朝を迎えた。
僕にあてがわれたのは二階の使われていない一室。
本当ならば、屋敷から色々な私物を持ってきたかったのだが、それは叶わない。
それを知ったのはたった三日前のこと。
だけど、その三日間、僕は生きていなかったに等しいだろう。
目を瞑れば、その情景は容易に浮かんでくる。なにもない三日間が……
僕の意識が回復した時には、この部屋の布団で寝ていたのだ。
そして、しばらくして入室してきたヒナギクさんに僕は色々聞いた。
いわく、今はミコノスから帰ってきてちょうど一週間なのだと。
いわく、お屋敷の前で倒れていた僕をヒナギクさんが背負ってきたのだと。
いわく、僕はお屋敷に近付くことさえ禁じられてしまったのだと…
その話を聞いた時、僕の頭の中が真っ白になった。
お嬢様が迎えに来てくれないことからも、僕が不必要となったことが解ったから…
あの時、僕が抱いたのはただの利己的な希望に過ぎないのだと思い知らされたかのように……
僕に似たあいつは僕の代わりをやっているのだ…
僕が不必要になるくらいに……
そんな事を延々と考えており、気付いた時には真夜中だった。
ヒナギクさんも僕の心中を察してほっといてくれたのだろう。
その翌日、僕は遅らせばせながら家族の方に挨拶を済ませた。
ヒナギクさんの両親は僕を快く迎え入れてくれると共に料理を振る舞ってくれた。
だけど、その時の僕はとてもそんな気分ではなかったため、部屋に戻るとぼんやりと空を眺めているという意味をもたない事をし続けていた。
途中で声がかかった気がする。どうでもよかった…
空きっ腹と鼻腔をくすぐるいいにおいがする。必要なかった……
夜が訪れ眠気が襲ってくる。星を見ていたかった……
そうしてる内にまた朝がやってくる。星が見えなくなったことが悲しかった…
昨日と同じように誰かが話しかけてくる。反応する意味を見出だせなかった。
なにも食べなくて三日目になる。だからどうしたというのだろうか…?
また星が夜空に散りばめられる。それだけに僕は笑った。まるで、そこに誰かがいるかのように……
端から見たら不気味だろう。だけど、大切な何かが抜け落ちた僕は疑問をもたない。
いつかは死んでしまうだろう。生に執着を感じられなくなっていた…
ヒナギクさん達に迷惑をかけているのだろう。その罪悪感だけが僕の心に浅く突き刺さった。
チクリと痛い。だけど、だからといってなにかをする気にはなれなかった…
「いい加減にしなさい!」
パチンッ!
突如、乾いた音と共に僕はその場に倒れ込む。
そして、遅れて痛みがやってきた。誰かが僕の頬をはたいたようだ。
起き上がらず、頬をおさえながら顔だけをそちらに向ける。
やはりというべきか、そこには腕を組んで、こちらを睨んでいるヒナギクさんがいた。
大方、僕が反応しないのに我慢の限界がきたのだろう。
誰でも無視されれば怒るものだ。それが居候相手ならなおさら…
「ごめんなさい、ヒナギクさん…」
だから謝る。
それは人間として当然で最低限のこと。
「なにが?」
「ヒナギクさんの気分を害しててです」
これであっているだろう。
なんで害したのかって?
そんなことはさっき説明したばかりだ。
「なによそれ…
それじゃ、私がハヤテ君をいじめてるみたいじゃない」
「ごめんなさい…」
謝っておけばいい。
そうすれば、いつかは相手も諦めるだろう。
端的に言えば関わってほしくなかった。
ただ、それしか僕の中にはなかったのだ。
「あのねぇ…
ハヤテ君が辛いのは解るけど、そんなことじゃいつまで経っても解決しないわよ?」
今さら何を変えるというのだ。
僕がお嬢様に捨てられたという事実でも変えてくれるというのだろうか?
「無理だと思える事にも、どんな逆境にもハヤテ君は立ち向かってきたじゃない」
あぁ…
たしかにそうだ。
それは生きるために必要だったから。
でも、あの出逢いの日を境にそれは変わった。ただ、一人の笑顔を護るために…
気付くべきだったのだ…
もっと早くに、その大切さに…
直視すべきだったのだ…
『執事』ではなく『綾崎ハヤテ』として……
認めるべきだったのだ…
君といる時間が何よりも大切だと……
全てが少し遅すぎた。
失う直前では、失ってから気付くのとなにも変わらない。
10年前と僕は変わっていない。相手は違えど、全て僕が悪かったのだから…
「だけど、今のハヤテ君じゃなにもできないのよ?
それで、どこかで苦しんでいる誰かを救うなんてできるはずがないわ!」
「っ!?」
ヒナギクさんがなにを意図して言ったのかは解らない。
だけど、それはたしかに僕の心の奥底にまで届いたのだ。なにより…
―――――ハヤテーーー!
聞こえたのだ…
聞き慣れた。だけれども、今一番聞きたい声が聞こえた気がした…
暗闇の中……底知れぬ闇の中にまで届くあの声が……
幻聴だ。解りきっている。
ありえるはずない。その通りだ。
お前は捨てられたんだ。必要ないと烙印を押されたのだ。
だけど、もし…
もし…………本当に僕を呼んでくれていたのだとしたら…
意味はない。それを決めるのは僕だ。
無駄なことだ。そうじゃない。
行かなくていい。呼んでいるんだ…
恥を晒すだけだ。それでも取り戻したいんだ…
死にに行くようなものだ。もともと救われた命だから…
いや、違う。命をかけてもいいんだ。例え、勘違いでも、何度躓いてでも……僕が護ると約束したから…
カチッ
その時、僕の中で何かの歯車が噛み合った。
『綾崎ハヤテ』はここにいるのだと実感できる…
「ヒナギクさん…
僕に力を貸してください」
まっすぐにヒナギクさんを見つめ、僕は言う。
先ほどの無気力な声とは違う、決意を固めた声で。
それに対してヒナギクさんは満足といったようににっこりと笑ってくれた。
ヒナギクさんを巻き込むのはお門違いだというのに、引き受けてくれたのだ…
「ハヤテ君…
無理よ」
「ヴェ…?」
思わず変な声を出してしまった。
って、今ヒナギクさんは無理と言わなかっただろうか…?
あんな笑顔でいかにもな状況で無理と言ったのは僕の聞き間違いだろうか?
「だから、無理だと言ってるのよ」
「なんでですか!」
「ハヤテ君も知ってるでしょ?
あのハヤテ君にそっくりなやつ…」
ヒナギクさんがあいつのことを言っているのはすぐにわかった。
圧倒的な力で僕を倒したあいつ…
僕に成り代わろうとしているあいつのことだ。
「正直に言うと、私でも……いいえ、ハヤテ君と私が力を合わせても勝てないわ…」
「そんなに…」
負けず嫌いのヒナギクさんだからこそ説得力のある言葉。
経験から、相手の力量を見極めることもできるのだろう。
「でも、僕の体調が万全でヒナギクさんと協力すれば可能性は!」
そうだ。僕はあの時、万全ではなかった。
それに1+1=2とは限らないのだ…
なのにヒナギクさんは俯きながら首を横にふった。
「無理なのよ…
まだあいつは手の内の三割も見せていない…
対峙した時に解ったの……こいつには絶対に勝てないって……」
「でも!」
「でもも何もないの!
どうやっても、何人でいっても勝てない…」
俯いたヒナギクさんから滴が床に落ちる。
不謹慎だが、月明かりに照らされたそれはまるで王玉を思わせた。
「認めたくないわよ…
でも……私じゃどうしようも……どうしようもできない…救うどころか………立ち向かうこともできないの……」
段々と声が途切れていく…
それだけ真剣に考えていてくれていたのだろう。
「ありがとうございます、ヒナギクさん…
でも、僕は行かなきゃいけないんです。
一人でも………僕を呼んでる人がいるから……」
「ダメよ!!
次行ったら、あいつは必ずハヤテを殺しにかかるわ!」
不意にあげたヒナギクさんの顔は涙で濡れていた。
それは悔しさからなのか、悲しさからなのか、はたまた別のものなのか僕には解らないけど、僕は僕が『僕』であるために進まなくてはならないのだ。
「ごめんなさい、ヒナギクさん…」
少し前と同じ言葉。
だけど、今度は意味をもった言葉。
それを残して僕は部屋を出ていった…
次回、たぶんまだ白皇には行けない!
行くのは次々回かな…?
勝手に頭の中でキャラが動くのでこちらの敷いたレールを無視するんですよね…←オイ
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