ハヤテのごとく!~Image me on the eyes once again~ 作:唐笠
偽りの関係
足りないものを埋め合うだけのそれは儚い。
求めたものが手に入らないから代わりをつくる。
自己満足にすらならないそれを人は求めた。
求めたものを見失わないようにと…
ハヤテSIDE
僕は夜道を走る。
向かう先は三千院家のお屋敷……いや、お嬢様の元だ。
消えかかっている街灯だけが夜道を照らしている。
今晩は星も月も出ていないのだ…
それがほんの少しだけ寂しかった……
お嬢様との誓いが消えてしまいそうで…
共に星を見上げ、誓ったあの日がなくなってしまいそうで……
いや、そんなことはさせない!
お嬢様に二度目の嘘はつきたくないんだ!
正確に言えば嘘ではないだろう…
だけど、彼女の中では過去でした約束は果たされていないことになっている。
僕とした約束。だけど、幼い彼女はその約束をした相手を覚えてない。
だけど、約束の内容も果たされなかったことも覚えているのだ。
だから、僕は僕から約束という名のバトンを受け継いだ。
それを失うわけにはいかないんだ………絶対に…
「って、ここはどこだ…?」
決意を固めたのはいいが、辺りを見回すと、いつの間にか知らない場所にいたのだ。
たしかにお屋敷に向けて走っていたのだが、まさか迷ってしまったというのだろうか?
左右を見渡せば民家があるし、前後も同じような風景が続いている。
しかし、それらは僕の知らない景色であり、知らない場所だった…
住み慣れた土地で迷うなどにわかに信じがたいが、たしかに僕は迷っているようである…
タッタッタッタッ
「っ!?」
途方にくれているさなか、僕から見て右端にある脇道から誰かが走ってくる足音が聞こえた。
誰かはわからないが、こんな真夜中に出歩いているなどただならぬ理由があるのだろう。
そう考えると、僕はすばやく側の電柱へと身を隠す。
最悪の可能性だが、もしこちらに向かってきている人物が僕とそっくりなあいつならば、戦わねばならない…
正直、勝てる気はしないが、奇襲をかければ、もしもの可能性があるのだ。
息を殺して待つこと数秒…
緊張で、それは何分にも、何時間にも感じられた。
タッタッタッタッ
くるっ!
そう感じると共に僕は身構えた。
しかし、それが必要ないと気付くのにコンマ一秒。
流れるような長い髪が見えたからだ。
そして、僕がその場から飛び出してしまうまでが約1秒といったところだろう…
飛び出さずにはいられなかったのだ……
その流れるような髪が金色に輝いていたのだから………
「お嬢様!?」
そう、見間違えるはずがない。
あの鮮やかな金はお嬢様のものに違いない。
走ってきた人物も僕の声に一瞬ビクッとしたが、僕の方に振り向くと目一杯の笑顔で走ってきた。
僕は膝をついてそれを受け止めると、しっかりと抱き締めた。
もう……放すことのないように…
もう……離れてしまうことのないように…
「お嬢様!お嬢様!お嬢様!」
何度も呼び続ける。それに意味はない。
何度も呼び続ける。届かなかった分だけ…
何度も呼び続ける。想いの数だけ…
何度も呼び続ける。言葉で繋ぎ止めるように…
お嬢様を抱き締めている僕の胸が段々と湿り気を帯びてくる。
お嬢様も僕と再会できたことを喜んでくれているのだ…
その事に僕の胸の内が温かくなった。そして、次第に熱くなっていく…
だから、強く強く抱き締めた。
もしかしたら、お嬢様から文句が出るかもしれないほどに強く…
なぜ…………お嬢様は何も言わないんだ…?
いつもなら、何かしら言うだろう。
なのに、僕の名前すら呼んでくれていない…
その事に気付いた瞬間、血の気がひいていくようだった…
ゆっくりと、抱き締めている人物へと視線を移す。
小柄な体躯こそお嬢様にそっくりだが、その髪の色は黒…
ただ、月明かりに照らせれて金色に輝いて見えただけなのだ…
更に言えば、お嬢様は普段からツインテールで結んでいるのだから、髪があんな風に流れることなどないだろう。
そう、僕は抱き締めている人物はストレートロングなのだ…
お嬢様じゃない…
知らない人物が恐かった…
お嬢様じゃない…
間違えた自分が憎らしかった…
お嬢様じゃない…
僕はバカだったんだ…
そう、お嬢様がこんな夜中に出歩くはずがないのだから。
せいぜい、ネトゲかアニメ視聴をしているのが関の山だろう。
こいつはお嬢様じゃない…
バタッ!
人がコンクリートに倒れる音が聞こえる。
気付いた時には、僕は少女を突き放すように投げ出していたのだ。
流石に悪いことをした。
それを認識したのは行動した後だった…
少女が起き上がる…
手を地面につきながらも、笑って…
まるで、僕がなにもしていないかのように……
だけど、少女の頬から流れる一筋の赤い線が僕のしたことを物語っていた………
「ご……ごめん…」
「……………………………」
僕の謝罪に対して少女は何も言わなかった。
ただ、にっこりと笑うだけである…
いや、そっと口を動かして、声にならぬ声を伝えるように微笑んでいるのだ…
月明かりに照らされたその少女を、不覚にもお嬢様と見間違えてしまいそうになる。これで二度目だ…
微笑む姿も、その笑みから感じられる悲しさも、なぜだかお嬢様のそれに見える…
僕は相当、精神的に疲弊しているのだろう…
だから、こんな見ず知らずの少女に対してもお嬢様との共通点を見つけようとしているんだ……
バカで滑稽で愚かしい…
それがこの僕、『綾崎ハヤテ』なのだろう…
「……………………………」
そんな自嘲を繰り返していると、少女がこちらに歩いてきた。
月明かりをバックに歩いてくる姿は、より一層お嬢様を思わせる。
そして、同時に気付く。僕はこの少女に会ったことがあると…
そう、僕は病院の廊下でこの少女に会っているのだ。
たしか、あの時も少女は喋らずに笑っていた。
途中から不機嫌そうな顔になってしまって困ったが、たしかにあの時と同じ笑みだ…
だと言うのに、その笑みに隠れる悲しみの量が増しているように思えた。
「……………………………」
僕の傍まできた少女がそっと僕に手を差し伸べてくる。
僕はそれに対して、何もできないでいた…
その手を掴むべきなのか、払うべきなのかわからないのだ……
本心から言おう。掴みたかった…
偽りなく言おう。僕の中からお嬢様が消えてしまいそうで恐かった…
どちらも僕の偽りのない本心。
その手を掴み、慰めてほしかった…
温もりがほしかったのだ……
だけど僕に差し出される手。
それは、全てに絶望したあの日、お嬢様が僕にしてくれたことだ。
この手を掴むことで、それが上書きされてしまうのではないかという言い表しようもない恐怖があった…
そんな二律背反が僕を苦しめている…
どうしようもなくなっていた僕は、ただその場から動けずに固まっているだけだ…
「……………………………」
やがて、少女の方も何かを察したのかそっと手をひいていった。
本当に僕はその手を掴まなくて良かったのだろうか…?
そんな後悔にも似た感情が僕の中に生まれた。
そうしてる内に少女はもと来た道に歩き出そうとしていた。
ここで止めないと最後になるかもしれない…
「待って!」
頭で答えを出すよりも早く、少女を呼び止めていた。
僕のその声に少女ははっとしたように振り向く。
やはり、その姿はお嬢様に似ていた…
「また………逢えますよね…?」
「……………………………」
僕の問い掛けにやはり少女は無言だ。
だけど一度だけ。でも、今日一番の笑顔で少女は頷いた。僕もそれに微笑み返す。
「……………………………」
ただそれだけを交わした僕らは互いの来た道を歩き始めた。
なぜだか、今日はそれで満足だったから…
決してお嬢様を軽んじてるわけじゃない。
だけど、会えた気がしたのだ。
それは僕の勝手な思い違いだろう。
それでも会えた気がしたのだ。僕の会いたかった君に…
だから、約束した。またいつか会えるようにと……
どうやら僕の手には、まだバトンが握られているようだ
次回からは、いよいよ白皇学院編。
物語の範囲も登場キャラもグンと広がりますよ←
では、次回もお付き合いいただけれれば幸いです