ハヤテのごとく!~Image me on the eyes once again~ 作:唐笠
失うだけ
空虚で儚き連鎖。
手からこぼれだした水が止まることはない。
器に相応しい量まで減るのみだ。
決して増えはしない。
なぜなら、水はもともと器のものではないのだから…
ハヤテSIDE
部屋に射し込む朝日。
小鳥のさえずり。
朝の静かながらも独特の喧騒。
そのどれで目が覚めたかはわからないが、僕はたしかに起きていた。
要するにはさっきまでは寝ていたということ…
3日ぶりの睡眠であった。
朝の澄んだ空気を吸い込むように目を瞑り深呼吸をする。
新鮮な空気が僕の中を満たし、晴れ晴れとした気分だった。
たった3日なのに、随分とこの感覚を味わっていないように思える。
「やっと復活ってところかな…」
苦笑いしながらも、僕は自分に言い聞かせるように呟く。
思い返せば、ヒナギクさん達の家族には随分と迷惑をかけていたのだろう…
そこまで気が回らなかったのではない。
そんなことなど、取るに足らないと思っていたのだ…
謝罪が必要なのは明白。
だけど、僕はその言葉を持ち合わせていなかった…
ふと、掛け時計に目を移せば時刻は6:30を示している。
一般人ならとっくに行動している時間だ。
「そうだよ……ね…
いつまでも………立ち止まっていちゃいけないんだ…」
そう、僕には約束した相手がいるから…
歩みだそう。自分の足で一歩ずつ……
待っている、あの人のために。
そう決意した僕の中には一人の少女が微笑んでいた。
月明かりの下、僕を救い出してくれた少女が…
~桂家・一階~
「おはようございます、ヒナギクさん」
階下に降りた僕は玄関で靴を履いているヒナギクさんを見付け、声をかける。
制服を着てる辺り、これから登校なのだろう。
「あっ、ハヤテ君…」
昨日までとは打って変わって元気な僕にヒナギクさんは僅かながら戸惑っているようである。
まぁ、昨日までは実質的に死人と言っても過言ではなかったため、当然の反応だろう。
むしろ、僕を傷付けまいと、最小限の反応に抑えてくれている、ヒナギクさんの優しさが嬉しかった。
「僕、今日から白皇に復帰しようと思うんです」
「別にいいんじゃないかしら?」
「あれ…
意外な反応ですね…」
正直な話、止められると思っていたのだ。
白皇と言えば、当然お嬢様も通っている学校。
それは必然的に僕にそっくりなあいつもいることとなる。
そんな中で僕が通えば、喧嘩なんて範囲では収まりきらないほどの騒ぎが起きるに違いない。
なのに、ヒナギクさんは僕を止めようとしなかった。
まぁ、仮に止められても押しきる気でいたし、僕自身ももう退けも止まれもしない場所まで来てしまっているのだ…
「だって、私が止める必要性なんてないもの。それに……」
「それに…?」
「ふふ、なんでもないわよ。
じゃっ、私は生徒会の仕事があるから先に行ってるわね♪」
そう言うや、ヒナギクさんは颯爽と出掛けていってしまった…
「あっ……」
そこで僕はようやく気付く。
まだヒナギクさんに何も謝っていないことに…
しかし、今からヒナギクさんを追いかけるよりは、まずはヒナギクさんの両親に謝罪した方がよいだろう。
そう考えると、僕はいい匂いの漂う台所へと向かっていった。
~白皇学院前~
意外な程にあっさりと終わってしまったヒナギクさんの両親への謝罪後、朝食をいただいた僕は白皇学院へ向けて歩いていた。
敷地が規格外に大きいので、側面に着いてからもかなり歩き続けなければならない。
幸いも、今のところはあいつにも会っていないし、厄介事にも巻き込まれていないのが救いではあるが…
「おっ、借金執事じゃねぇか!」
元気な聞きなれた声と共に後方から誰かが走ってくる。
「よっ、相変わらず冴えない面してんなぁ」
「あっ、ワタル君。おはようございます」
小突いてきた事は彼なりの挨拶と受け取り、僕は挨拶を返す。
橘ワタル。
原作初登場時の台詞は『はぁ…地球滅びねぇかなぁ…』。
13歳にしてレンタルビデオ橘の社長でありお嬢様の許嫁でもある。
と言っても、親族が勝手に決めた許嫁であり、両者共に互いを異性としては好きではないらしい。
そう言えば、ワタル君が好きな人は伊澄さんなのだが、お嬢様の好きな人は誰なのだろう?
さすがに13歳という多感な年頃なら大小はあれど、好きな相手くらいはいるはずだ…
そして、いつかは運命の相手が現れ、結婚をする。
………………………………
………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………
………………………あれ…?
なんか……悲しくなってきたなぁ…
たしかにお嬢様は僕にとって大切だけど、お嬢様の幸せを祝ってあげるのが『執事』として当然じゃないか…
それなのに、悲しいなんておかしいじゃないか……
……………きっと疲れてるんだ…
だから、自分の中で感情がごちゃごちゃになってしまっているのだろう。
「おーい、つっこみたいことは多々あるが、俺を無視するなー!」
「あははは…
すっ、すみません。少し考え事を…」
ワタル君がなににつっこみたかったは置いとくとして、置き去りにしてしまったことに謝る。
「っと、やっと着いたな。
じゃっ、俺は委員会行ってくっからまたな!」
「はい、ではまた教室で」
いつの間にか白皇学院の校門に着いていたらしく、ワタル君は先に走っていってしまった。
そう言えばワタル君が委員会に入ってるなんて今、初めて知ったけど、なにに入っているのだろうか?
そんなことをぼんやりと考えながら、僕は教室へと歩みを進めていった。
~教室~
ガラガラ
教室の扉を開け、僕は入室する。
見渡した限り、お嬢様はまだいないようである。
「にははは、ハヤ太君おはよ~」
「久しぶりだなハヤ太君!」
「ちなみにナギちゃんは、この教室にいないぞ」
「みなさん、おはようございます」
上から順番に瀬川さん、朝風さん、花菱さんである。
と言うか、地の文でやったことを言わないでほしいものだ。
しかし、それを指摘したらまた話が拗れそうなので触れないでおこう…
「ハヤ太君、具合は大丈夫なのかな?」
「はい、おかげさまでこの通り元気ですよ」
おそらく、ヒナギクさん辺りが僕の状態について話してくれていたのだろう。
十中八九、体裁のいいように捏造して…
あくまで憶測だが、僕は病欠扱いになっているはずである。
なら、僕はせっかく敷いてもらった――――――「あぁ、思案中に悪いが我々はハヤ太君の置かれている状況を知っているから、隠さなくていいのだよ?」
「あっ、そうなんですか…」
そう言いながら僕は複雑な気分になる…
隠す必要がなくなったのは過ごしやすくていいのだが、誰がいつどのような説明をしたのかが気になるのだ…
「まぁ、そんなハヤテ君は置いといて、我々は本日発売の新作ゲームの話でもしようじゃないか」
「おぉ、そう言えば今日はあれの発売日だったな!」
「にははは、楽しみだね~」
「家に帰ったら、さっそく皆でやろうではないか」
「もちろんだとも!」
「じゃあ、町の入口で待ち合わせしようね~」
そんな僕の心中を知ってか知らずか、三人はゲームの話で盛り上がってしまっているようだ。
どうやら、僕のおかれた状況は彼女たちにしてみれば、そのような認識のようである…
新作のゲーム……か…
きっと………お嬢様も今日やるんだろうな…
そんなことを考え、どうにも会話に入れそうにない僕は席につく。
窓から見える景色。そこには二匹の小鳥が仲良く蒼空を飛んでいた…
~昼休み~
キンコンカンコーン
「やっと昼休みだな…」
昼休みを告げるチャイムにワタル君が欠伸をしながら呟く。
対する僕の方と言えば、朝から特に何かおきるでもなく、特記すべきこともない学園生活を送っていた。
いつもなら、イヤというほどやることがあるのに今日に限ってやることがないのだ…
それは、より僕の寂しさを増幅させていく。
やることがあれば、少しは気が紛れるのに、何もないから隣の寂しさを余計に感じた…
いつもなら、空くことのないこの空間が……
「ったく、いつまでもしけた面してんじゃねぇよ」
「わ、ワタル君…」
いつの間にだろうか?
気付いたら、ワタル君は机で項垂れる僕を見下ろすように前にいた。
「そんな面晒してねぇで飯でも食いにいくぞ」
そう言ってワタル君は強引に僕の手を引っ張る。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!」
「(ナギのこと……知りたいんだろ…)」
「えっ…」
一瞬、僕の中の世界が止まった…
たぶん僕にしか聞こえていな程、小声で言ったワタル君の言葉が信じられなかった…
ワタル君の言っていることが聞き違いではなければ、ワタル君は今のお嬢様と僕、2人の状況を知っていることになる。
「なんなら、屋上で弁当でも食おうぜ」
僕の考えていることが解ったのか、ワタル君はウィンクで合図してくる。
「そうですね」
今、僕の世界が大きく動き始めようとしている…
果たしてワタルはなにを知っているのか!?
次回もよろしくお願いいたします