ハヤテのごとく!~Image me on the eyes once again~   作:唐笠

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第8話 劣化品

 

道標

 

別れ道に立つそれは人々を導いた。

 

しかし、それが正しい道へと導くとも限らない。

 

そして一人の少年が別れ道に立った。

 

このままいけば、彼は道を誤るだろう…

 

その手を掴む者がいない限り…

 

 

 

 

 

 

ハヤテSIDE

 

廊下の窓から陽光が射し込む。

そこから下を見下ろせば、そこには様々な人が見えた。

じゃれあう人、部活に向かう生徒や先生、そそくさと帰る人など実に雑多だ。

 

しかし、その誰もが僕の探している人ではない。結局、今日は君に会えずじまいだったのだ…

もしかして、家に引きこもってしまっているのだろうか?

そんな事を考え、少しでも気を紛らわせようとするが、やはり無理だ…

 

心臓が高鳴っているのが嫌でもわかる。

今、僕の手にはお嬢様の手がかりが握られているのだ。

 

だが、すぐに確認するわけにはいかない。

ワタル君のいった事が正しければ、これは人目のつかない場所で確認しないといけないのだ。

みんなを疑うわけではないが、リスクの方が遥かに大きい…

せっかく掴んだ、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

 

「あら、ハヤテ君。そんなに深刻そうな顔してどうしたのかしら?」

 

「あっ、ヒナギクさん…」

 

急に声がかかり内心焦るが、表情に出さないように微笑む。

一瞬、ヒナギクさんに相談しようかという考えも浮かんだが、もしかしたらという可能性もある。

ここは秘密にしておく方が得策であろう。

 

「こんな放課後にどうしたんですか?」

 

「別に。

ただ、生徒会の資料を運ぶ途中で偶然通りかかっただけよ?」

 

そう言うヒナギクさんも僕と並んで窓から外を眺め始める。

その姿は誰かを探しているように見えなくもない。

だけど、ヒナギクさんが学校で探す人なんて………………いた…

桂先生がいるじゃないか…

 

「はは…

もしかして、また桂先生を探してるんですか?」

 

「違うわよ。

ただ、ハヤテ君が何を見てるのか気になっただけ」

 

「僕は………ただ外を眺めていただけですよ?」

 

「ふーん…

なら、いいわ。だけど、隠し事はもう少し上手にね」

 

それだけを言い残すと、ヒナギクさんは歩いていってしまった。

それに対して僕は何も言えないでいた…

 

いったい、どこまでバレているのだろう…

その懸念と焦りが僕を急かした。

 

早くしなければ…

 

取り返しがつかなくなってしまう前に…

 

あるはずもない手掛かりを見つけようと、四方を見渡す。

しかし、そこにあるのは、いつもと変わらない学校の風景だけだ。

だけど、そこになくてはならないものが欠けているのも、また事実…

 

それでも僕は必死に辺りを見渡す。

窓から見える景色の一つも見逃さぬようにと…

 

「っ!?」

 

そして、気付いた時には走っていた。

お嬢様がいたわけではない。だが、ここにいるはずのない人物がいたのだ。

昨晩のあの少女が…

 

走った。

誰よりも速く。

 

走った。

少女に追い付くように。

 

走った。

先に行っていたヒナギクさんを追い越して。

 

走った。

そして、追い付いたのだ…

 

だけど、少女は車の後部座席に乗り込むところだった。

 

「待って!」

 

「……………………………」

 

少女はいつもの通り無言。

だけど、たしかに僕と目をあわせ悲しそうな顔をしていた。

伏し目がちで底知れぬ寂しさをたたえたそれは余りにも似通っている…

余りにも似通っていたから……

 

「お嬢様ーーー!」

 

僕は何度目か解らない間違いをおかした…

 

なぜなら、僕はあの顔を知っているから…

もう逢うことのできない……叶うことのない願いを実感している顔だ…

叫ぼうと、吠えようと、泣き叫ぼうと、決してその声が届かないことを知っている顔なのだ…

 

少女を乗せた車が走っていく。

まるで、僕とお嬢様の出逢いの日のように…

なら、僕にできることは一つだけ……

 

「必ず追い付いてみせる!」

 

脇に置いてある誰のものとも判らない自転車に跨がると、僕は全速力でこいだ。

僕のやっていることが少女のためになるかなんて解らない…

だけど、あの悲しそうな顔をした人を見捨てるなんて僕にはできなかった。

自己満足でいい。それでもお嬢様と同じ顔をした少女を助けたかったのだ。

 

徐々に自転車と車の距離が詰まっていく。

あともう少しで自転車をジャンプさせ、前に回り込むことができる。

あと、少し…………………

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

自転車はあの日を再現するかのように宙を舞った。

後は車の前に着地するだ―――――――

 

「ぐわぁ!?」

 

ズシャァァァァァァァ!!

 

だが、それは一蹴りで叶わぬ未来となった…

宙を舞う自転車を蹴り落とすなんて芸当ができるのは僕が知りうる限り二人…

そして、その内の一人は日本にいないのだから、自ずと答えが出るのだ。

 

「また……お前か…」

 

自転車と共に倒れている僕は顔だけをあげて敵を見据える。

僕の予想にたがわず、そいつは僕と同じ顔をしていた…

 

「久し振りの再会なのに随分と滑稽な格好ですね」

 

「はは…

たしかに自分と同じ顔をしたやつに二度も邪魔されるなんて滑稽だね…」

 

そう言いながら、僕は膝を着きながら立ち上がる。

あいつは前会った時と同じで僕の執事服を着ていた。

 

「困るんですよね。

あなたがいるとお嬢様が迷惑するんですよ」

 

「その様子だと、まだお嬢様はお前を執事と認めた訳じゃなさそうですね」

 

だからこそ僕が邪魔なのだろう。

それをお嬢様が迷惑しているという名目のもと正当化している。

ずる賢いと言うか、賢しいと言うか、どっちにしろ気に入らなかった…

 

「お嬢様はお前の道具じゃないんだよ!」

 

一気に間合いを詰めると、鳩尾に向けて蹴りを繰り出す。

 

「何を言っているんですか?

あなたがいるだけで、いや、生きているだけでお嬢様は苦しむのですよ」

 

それをあいつは余裕の顔でかわしていく。

だが、僕はすかさず追撃を繰り返す。

 

「そんなはずはない!

僕とお嬢様はずっと一緒だって約束したんだ!」

 

そう、お嬢様と指切りを交わしたあの約束。

お嬢様と僕を繋ぐ一つの証。それを失うわけにはいかないんだ!

 

「その約束はお嬢様の枷となっているんですよ。

あなたが生きている限り、お嬢様の枷が外れることはありません」

 

「なら、その枷も僕が取り払う!

それがお嬢様の執事である僕の役目だから!」

 

「うるさい方ですね。お嬢様の執事は僕です。

お嬢様を苦しめるだけの劣化品である、あなたなどお呼びではないのですよ。

だから……………死んでください!」

 

突如繰り出されるあいつの蹴り。

それは適格に僕の鳩尾を捉えていた。だけど―――――――――

 

「その程度なら!」

 

僕は素早くバックステップをするとそれをかわす。

 

「へぇ…

あのタイミングでかわすなんて、劣化品と言えども流石僕ですね」

 

「生憎、お前よりも数倍強い蹴りをするやつを知ってるからね」

 

憎まれ口の叩きあい。

言葉だけ聞けばお互いに余裕に聞こえるが、あいつの額にはうっすらと汗が見えた。

いや…………それは僕も同じことか…

 

「ちっ…

やっぱり、コピーにも限界があるか…」

 

あいつが何か舌打ちをするが、一瞬でも気がそれた今がチャンスだ!

そう考え、僕は足のバネを最大限に使うと再度懐に潜り込む。

 

「くらぇぇぇぇ!」

 

「うるさいんだよ劣化品が!

『Product Cord桂ヒナギク』」

 

後ろに振りかぶった足に合わせてあいつは受け流すように手を構える。

狙い通りだ。そう内心で笑うと、僕は片足という不安定な体勢のまま正拳突きを繰り出す。

 

「なっ…」

 

流石に対処しきれなかったのであろうあいつは見事に宙を舞う。

 

「ちっ…

やってくれるじゃないか。『Product Cord綾崎ハヤテ』」

 

しかし、あいつは悪態をつくと共に見事に着地した。

 

くそっ…

やはり、ヒナギクさんの言う通り、かなりの強敵ということか…

 

「いやぁ、驚きましたよ。

まさか、この僕が劣化品に遅れをとるなんてね…」

 

「その劣化品にあなたは負けるんですよ!」

 

畳み掛けるなら今とふんだ僕は、あいつが体勢を立て直す前に突進をする。

そのまま、あいつを押し倒して畳み掛けてやる!

 

「使いたくなかったが仕方ねぇ!

『Product Cord鷺ノ宮伊澄』」

 

「えっ…ってうわぁ!?」

 

いなくなったのだ…

さっきまで目の前にいたあいつが突如消えたのだ…

 

そして、僕は勢いを殺しきれずに倒れ込んでしまう。

頬が地面に擦れてヒリヒリする……

 

あいつがどこに消えたかは解らない…

だけど、僕があいつに対抗できることはわかった。

そして、僕の手にはお嬢様への手掛かりがある。

 

「決着をつけようじゃないか…」

 

今はいないあいつに向けて言うと、僕は立ち上がる。

そして、ポケットからワタル君から貰ったラップを取り出し、そこに包まれた紙を取り出す。

 

●これを見たらすぐに処分するように

 

●ナギは学校に来ている

 

●ナギを含めた数人は別クラスにいる

 

●ナギもお前に会いたがっている

 

●マリアを含めた三千院家の者はお前とナギが会うのに反対している

 

●携帯を含め、ナギへの連絡手段は一切存在しない

 

とのことらしい…

って、マリアさんが敵…?

お嬢様への連絡手段がない…?

 

となると、学校でコンタクトをとるべきなのだろうか?

しかし、それもSPやあいつに防がれるのも関の山の気がする…

 

どこか二人で落ち合うことさえできれば…

だが、それにはコンタクトをとる必要があるのだ。

 

いったい、僕はどうすれば…

 

 

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